平等を与えた神様へ
初めて書いた小説です。
初めて書いた小説なので、あれかもしれませんが、ご理解いただけると嬉しいです。
ああ、眠れなくなったのはいつからだったのだろうか………忘れてしまった
前に、少しだけ眠れた日があった…。けれど、そんな日はもう2度と来ないだろう。あの子は、もう、いないのだから……………………………………。
僕はいつも通り、朝6時に起き、7時半に家を出た。6月の終わり頃だから、少し蒸し暑い。だが、いつも通り、眠たい朝だ。学校に着き、席について、机に突っ伏した。僕は、いわゆる陰キャというやつである。陰キャは陰キャでも、オタクでもなく読書家でもない。ただ、見た目が暗く、いつも寝ているだけの陰キャである。僕の見た目はというと、伊達メガネにボサボサ頭である。だから、本当に用事がない限り、誰も僕には話しかけてこない。僕は、それがとても助かっている。人を相手にするととても疲れるからだ。
今日は、いつも通りではないらしい。なぜかクラスメイト達がいつもより騒がしい。耳を澄ませて聞いてみると、「今日、転校生が来るらしいよ!女の子らしい」という声が聞こえてきた。だからか、女子よりも男子の方が騒いでいる。どうせ、可愛い子だといいなとか、考えているんだろう。まあ、僕には関係ないけれど。転校生、か…。おっといけない、昔のことを思い出してしまった。チャイムが鳴り、先生が入ってきた。それと同時に転校生も入ってきたみたいだ。男子達がうるさくなった。何か色々と話しているが、僕には関係ないので、聞かないことにした。そうやって、机に突っ伏していると、左から誰かが座る音がした。僕はクラスの席の端っこであり、左側は、机も置いてなかったはずだが、。ああ、転校生の席か、どうりで男子からの痛い嫉妬の目線がくると思った。
「初めまして、私は氷野 雪㮈(ひの せつな)。よろしく」
急に転校生と思われる人が話しかけてきた。一瞬、びっくりしすぎて、混乱した。だって、こんなthe陰キャに話しかけると思わなかったからだ。クラスの一軍男子が
「そいつ、いつも寝てるから、話しかけなくていいよ、氷野さん」
とか言った。それに釣られて、他のクラスメイトたちもそうだよ、とか、うんうん、とか言った。失礼だな。まあ、そのおかげで、冷静になれた。少しだけ感謝しよう。人と関わるのはめんどくさいが、話しかけてもらったから、せめて自己紹介だけはしよう。僕にも一応礼儀というものはある。中学2年になっても礼儀がないのはやばいからな。顔を上げて、
「僕は速水 流唯。よろしく」
それだけ言って、また机に突っ伏した。僕が喋ったのが珍しかったのか、クラスメイト達が静かになった。ただ、転校生が小さな声で「よろしく」とだけ、言った。少したって、クラスメイト達がうるさくなった。それでも、僕は机に突っ伏したままだった。
今日は、いつも通りではなくなった。転校生という新たなクラスメイトが増えた。その転校生は、見た目は黒髪ロングで美人ですらっとしていて、印象は、おとなしそうな真面目そうな雰囲気だった。いつも通りの生活に情報がプラスされた。無駄だが、眠ろう。そして、僕は堂々と授業中に寝たのだ。
それからというもの、いつも通りであった。テスト範囲発表週間に入って、勉強をしているものもいれば、諦めて遊んでいるものもいる。転校生は勉強をしているようだ。ほとんどの時間、シャーペンの音が聞こえる。真面目な部類か。印象どうりだな。まあ、関係ない。
そうして、いつも通りに過ごして、1週間後、テストの始まりだ。僕は提出物や授業態度がとても悪いから、テストでいい点を取らなければならない。けれど、勉強はしない。全てわかるから勉強をする必要がない。
僕は生まれた時から頭が良かった。基本知識を学ぶだけで、ほとんどのことはできた。親にも気味悪がられないように振る舞った。これだけ聞くと、神様は不平等みたいだ。けれど、僕は頭が良すぎる代わりに、ずっと眠い感じがする。眠れるが、眠れた感じが全くしない。生まれたばかりは良かった。けれど、眠いのが堆積していくんだ。一生逃れられない呪いみたいに…。だんだん眠いのが酷くなっていく。中2にもなると、本当にずっと寝てたくなる。寝ても眠いのは治らないのに…。だから、神様という存在は信じないけど、神様は平等だと思う。なんで神様は僕にこんな能力を与えたのだろう。こんなに苦しむなら、こんな能力、いらないのに。
ついに、テストが始まった。けれど、全てわかってしまうからつまらないし、面白くもない。まあ、面白さなんて感じたことないけれども。そうして、テスト期間の5日は過ぎ去っていった。
週の初めにテスト返しがあった。もちろん僕は全教科で満点をとった。転校生が何かしら震えているが、面倒なことになりそうなので無視した。なんで震えているかもわからないし。点数だけ確認してから、机に突っ伏した。
次の日、僕はなぜか転校生に放課後空き教室に来るように呼び出された。偽告や告白ではないとわかっているからこそ、何かと思った。
放課後、空き教室に行くと、睨み顔で転校生が待っていた。世間で言う美形の転校生が般若のような顔をして待っていたのだ。すごく怖い。けれど、行かない限りはわからない。僕はミジンコ並みの勇気を振り絞って空き教室に入った。
空き教室に入ると、転校生と僕との間に沈黙が生まれた。めっちゃ気まずい。どうしよう、僕から話すべきか?でも、呼び出したのは転校生だし。とか考えていると、
「ねえ、速水くん。君、テスト勉強した?」
急に転校生が聞いてきた。なんでテスト勉強の話なのかよくわからないまま
「し、してません、」
と答えた。転校生は、わなわなと震えて、
「じゃあなんで、全教科満点なのよ!」
とか言ってきた。おとなしいイメージだったから、びっくりした。それも含めて、僕はきょとんとして、ついうっかり
「え、そんなことで怒ってたんですか?」
と言ってしまった。しまった!絶対怒られることはわかっていたのに言ってしまった。
「そんなこと…?そんなことなんかじゃない!」
予想通りに転校生は怒った。どうしよう、なんで怒っているかもわからないし、なんて言おう。僕は焦った。転校生が話しだした。
「私は、いつもテストなどさまざまな分野で1番上をとってきたの。1番をとるために努力してきたの。それなのに、全く勉強していない奴がテストで満点をとった。努力もしてなさそうなド陰キャが私よりも上だったのよ!ショックだった。どうやったら、そんなに簡単に満点を取れるのよ」
僕はやっとわかった。転校生はテストで勉強もしていなさそうな僕に負けたことに怒っているのだ。僕は人生でこんなことで怒られたことなんてなかったから、わからなかったのだ。テストでなんで勉強もせずに満点をとれるかなんて、授業や教科書とか見ればすぐにわかるからな、なんて答えよう。そうだ、家で勉強したことにしよう。
「家で勉強してたから、です……」
「は?さっき自分で勉強してないとか言ってたよね?どう言うこと?」
あ、そういえば、勉強してないって言っちゃてたな。しくったな。
「えーっと、勉強、してないって、言うのは学校ではってことで…」
うわ、自分で言っててめっちゃ嘘っぽいな。ここ最近、人と話してなかったからかな。
「嘘でしょ」
ああ、やっぱバレた。
「本当のことを言いなさい。」
あ、圧がすごい…。帰りたい。考えると眠くなるから考えたくなかったけど、めんどくさいのを避けるには考えるしかないか…。仕方ない。
「転校生さん、僕はね、かっこつけたいだけなんです。」
「かっこつける?」
「そう、学校では全くやる気のないクソダサ陰キャがテストで満点をとる。かっこいいと僕は思うんですよ。」
これで、呆れてもう何も聞いてこないだろう。ただの陰キャがかっこよくないことをかっこいいと思っている可哀想なやつと思わせるのだ。
「そう、そんなにかっこよくなりたいのね。」
「そうです!」
自信満々に言うことでもっと思いこみの激しい可哀想な陰キャに見えるだろう。転校生が悪いことを思いついたような不気味な笑みを浮かべた。
「かっこよくするなら、見た目もどうにかしなきゃね。あと、私は転校生さんじゃないわ。氷野 雪㮈よ」
え、考えていた反応と違う。予想の斜め上を行った。
「あ、はい。氷野さん」
こんな回答がくるとは思わなくて、ついつい返事してしまった。そこからは、氷野さんのペースに流されてしまった。
「まずはその髪の毛をどうにかしなきゃね。明日、予定あけといて。どうせ予定はないでしょうけど。私があなたの髪型を決めてあげるわ。明日の放課後、美容院に行くわよ。いい?わかったなら返事!」
「は、はい!」
僕は何が何だかわからなかった。氷野さんのスペースに流されていった。
「そうだ、連絡先を交換しましょ。スマホはあるわよね。」
連絡先…?まさか、中学生になって初めて連絡先を交換する人が氷野さんとは、人生とはわからないな。そして、これが非日常の始まりであった。
急に決められた予定の日。僕はどうやって逃げようか考えていた。街中で倒れてもいけないので、一割ほど頭を使った。けれど、逃げる方法が見つからなかった。昨日、連絡先を交換した日の夜、氷野さんから
「明日は逃げずにきなさい。でなければ、全校生徒の前であなたに決闘を申し込むわ」
という連絡がきた。決闘とは、テストのことだろう。これ以上めんどくさいことにしたくなかったので、仕方なくきたわけだ。放課後、待ち合わせの駅に着いた。一応、私服に着替えてきた。すると、駅の入り口付近にどっからどうみてもイラついている氷野さんが見えた。けれど、美形なため、そんなことも気にせずに周りの民衆は見惚れていた。氷野さんって、何も喋らなければ絶世の美女だもんな。喋らなければ。とか思っていたら、氷野さんがずんずんと歩いてきた。ものすごく怖かった。そして、周りの目線が痛かった。
駅から少し歩いた。数分後、あからさまにおしゃれな美容院に着いた。僕は場違いな気がしてならなかった。けれど、そんなことも構わずに氷野さんが僕を引っ張って美容院に入った。
美容院に入ると、おしゃれな人ばかりだった。氷野さんは綺麗な女の人と話している。とても親しいような雰囲気だな。知り合いなのだろう。氷野さんと綺麗な女の人が話し終わると、こっちに向かってきた。そして、強制的に椅子に座らされ、メガネを外され、髪を洗われ、切られた。コンタクトもつけられた。気づいた頃にはピカピカになっていた。髪の毛が短いのなんていつぶりだろう。なぜか、ソワソワする。そもそも、わざとだろうけれど、鏡が見えないようになっている。だから、自分の見た目が今どうなっているかもわからない。そういえば、氷野さんが何も言ってこない。
「まあまあね」
とか皮肉を言ってきそうなのに。氷野さんの方を見ると、なぜか驚いた顔のまま固まっていた。大丈夫かなと思い、話しかけた。
「えーっと、大丈夫ですか?」
すると、氷野さんが硬直から溶けたようではっとした。
「だ、大丈夫よ。ていうか、速水くん。」
「は、はい。なんでしょうか。」
「なんで今まで髪を切らなかったのよ。」
「へ?」
「そもそも、昔っからこの髪型だったの?」
急に、氷野さんが質問してきた。昔か…。どんな髪型だったっけな。思い出せなくて、
「小学生の時の髪型は思い出せませんが、中学はずっとこの髪型です。、それがどうかしたんですか?」
「そう。」
氷野さんは少し考え込んで、すぐに、
「明日、その髪型で学校にきなさい。自分の姿は学校について、私が許可しない限り見ないこと。いいわね。」
とか言ってきた。なんでだろう。まあ、逆らったら、めんどくさそうなのでわかりましたとだけ返事した。
次の日、学校にいつも通りに学校に行こうとして、家を出て、学校に向かっていると、なぜか他の人の視線がすごく集まってきた。そんなに不細工なのだろうか。氷野さんなら、イタズラで何かしてきそうだし、ありうる。とか思いながら、教室に入ったら、クラス内がざわついた。入るクラスを間違えたかと思ったが、間違っていないようだ。氷野さんがいるし。視線がグサグサと刺さりながら自分の席に着いた。いつも通りに机に突っ伏して寝ようと思ったら、一軍男子のトップのような人が話かけてきた。
「ねえ、君、クラス、間違えてない?もしかして転校生?」
流石の僕でも質問されて無視するほど非常識じゃないので返事をすることにした。ただ、僕はなぜそんな質問をするのだろうかと不思議に思いながら、返事した。
「クラス、あってます。転校生でもないです」
一軍男子の1人が、はっとしたようで
「まさか、お前、あのド陰キャの速水か…?」
と言ってきた。この一軍男子は何当たり前のことを言っているのだろう。
「そうですけど、何か?」
そういうと、一軍男子は言葉を詰まらせた。僕は、氷野さんが何かしたのかと思って、氷野さんの方を見てみた。すると、面白そうな顔をしてこちらをみていた。嫌な予感がした。自分で考えても答えが出てこなかった。なので、ちょうどそこにいる一軍男子に聞いてみることにした。
「あの、僕がどうかしましたか?」
すると、若干怒ったような驚いているような不思議なような感じで言ってきた。「お前、そんなに垢抜けてんのに、知らないを貫き通す気か!てか、どうやったら、あのクソダサ陰キャがこんなのになれるんだよ」
は、垢抜けた…?まさか!僕はダッシュで近くにある大鏡まで行った。鏡を見ると、あからさまにイケメンの顔が映っていた。だから、学校に行く時も視線が集まっていたのか。ああ、うそだ、僕は中学で平穏に過ごしたかっただけなのに…。そう思っていると、氷野さんがいつの間にか隣にいた。
「どう?かっこよくなれたわよ。よかったじゃない。勉強でかっこいいと思わせるより、外見がかっこいい方が絶対いいに決まっているわ。」
やってやったわとか言いそうな顔で氷野さんは言った。なんて事するんだと僕は思った。だって、学校での平穏をぶち壊されたのだから、そんなことも思っても仕方ない。けれど、本当に大変なのはここからだ。平穏をどうやって取り戻すか、だ。考えていたら、他の生徒からの視線が集まってきた。だから、仕方なく、そのまま教室に戻った。丁度、席についた時チャイムが鳴り、先生が入ってきた。出席を先生がとっていると、僕を見た瞬間、すごく驚いたようで、ペンを落としていた。
「速水、お前、どうした…。なんというか、すごく、垢抜けたな。先生はそっちの方がいいと思うぞ… まあ、何か悩みがあるなら、先生に相談しろよ」
とか言われた。先生は僕の変化が悩みによるものだと憶測したようだ。まあ、前まで陰キャだったやつがこんなにも垢抜けたんだ。そう思うのも無理はない。だが、少し失礼ではなかろうか。まあ、それは置いといて、僕が考えないといけないのはどうしたらこれから静かに平穏に学校生活を送れるのか、だ。
朝のSHLが終わると、突如、陽キャ女子と一軍男子に囲まれた。この約2年間、ほとんどの人と話していなかったため、コミュ力が大幅に減少されている僕は焦った。全員で僕に話しかけてくるけど、僕は聖徳太子じゃないぞ。けれど、陰キャの僕が陽キャ民に話かけられて断れるわけもなく、一限目が始まるまで僕は質問攻めにあった。まあ、ずっと話しかけられていたから、返事は一つもできなかったが、仕方がない。そうだ、学校生活を平穏なものに戻すためにどうするかを考えなければ。けれど、髪の毛は切ってしまった。一ヶ月はたたないとあのボサボサ頭を表現できない。そもそも、一度でもこのような姿を見せてしまっては、元に戻しても、おかしく思われる。最善の方法がないのか…。
悩み始めて、約3日。何も思いつかない。ああ、どうしよう。僕の平穏な学校生活が完全に失われていく…。これからは、あの陽キャ集団と連まないといけないのか…?そんなの最悪だ!どんな方法でもいい、僕の平穏な学校生活が守られればそれでいい。この3日間、自分だけで考えてみたけれど、答えは見つからなかった。誰かに相談してみよう。相談しても、平穏な学校生活が邪魔されないような人物…。そうだ、先生に相談してみよう。先生が前に悩みがあるなら相談しろよ、とか言ってくれてたからな。先生なら、相談しても誰にも言わないでくれるだろう。
僕は、先生に相談するために職員室に行った。職員室に入り、先生に相談がしたいからと、空き教室で先生に相談した。
「僕は、この前から垢抜けたじゃないですか。けれど、あれ、僕の意思ではないんですよ。僕は学校生活を平穏に過ごしたいだけなんです。だから、平穏な学校生活を取り戻す方法を探してたんですけれど、なかなか見つからなくて、悩んでいるんですよ。どうしたらいいと思いますか?先生」
先生は、少しの間黙って、悩んで、聞いてきた。
「速水、そもそもお前の望む平穏な学校生活とはなんだ?それを聞いてからじゃないと相談も何もできない。」
確かに僕の思う平穏な学校生活の話は一切してなかったな。
「僕が思う、平穏な学校生活は、静かで、なるべく人と関わらず、ずっと寝ていたい。それが僕の思う平穏な学校生活です。」
と言った。すると先生が関心したような口ぶりで言った。
「速水、お前、独特な感性を持っているんだな。」
不思議に思った。どこが独特なのだろうか、人と関わることか?それともずっと寝ていたいと思うことか?よくわからない。
「すいません。先生の言う独特の意味がよくわかりません」
「う〜ん、お前が独特な部分はな、普通の中学生の悩みが全くないところだな」「普通の中学生の悩みってなんですか?」
「そうだなぁ、勉強とか、友達作り、見た目、とかかな」
僕はそのような悩みを一度も持ったことがないので正直に言った。
「確かにそのような悩みはないですね」
「だろうな」
なんで先生がこのようなことを言ったのかがわからなかった。
「どうして、そんなことを聞くんですか?」
「まあ、いつも生徒から相談されることと全然違うことだったから、かな…。」
先生は話を戻すように言った。
「そういえば、相談は平穏に学校生活を過ごしたい。だったな。」
「はい、そうです」
「そうだなあ、もう一度見た目を戻すとか?」
「それは、無理ですね。」
僕は即答した。
「なんでだ?」
「それは、髪の毛が短いし、戻したとしても、今の姿を見た人がたくさんいるから、無駄ですね」
先生は困った顔をして、頭を掻いた。
「困ったなあ。」
すると、突然ドアが開いた。僕は誰だろうと思い、見ると、氷野さんだった。この相談を1番聞かれたくない人だったので、多分僕は今、嫌な顔をしていただろう。
「先生、その相談、私が解決するので、先生が手を煩わせなくてもいいですよ。」急に氷野さんが言った。何を言い出すんだ、僕の平穏な学校生活を壊したのは氷野さんなのに。と、思っていたら、いつの間にか、先生が納得して教室からでるところだった。ああ、僕の希望が…。氷野さんの方を見ると、怒っていた。笑っているが、目が笑っていない。ああ、やばいな、と思い、僕は逃げようとした。が、首根っこを掴まれて、正座をさせられた。そして、氷野さんが説教みたいなものを始めた。
「速水君、君、かっこよくなりたいってのは嘘だったんだね?」
うっ、先生との話を聞かれたなら、もう嘘を突き通す訳にはいかないな。仕方ない。
「う、うん。すみません。」
氷野さんからの圧が強くなった。
「なら、本当はテスト勉強したの?してないの?どうなの?」
あ、やべ。でも、言い訳はもう通じなさそうだな。
「あ、えーっと、し、してません」
僕は下を向きながら言った。
「そう、あと、わざわざ、姿を陰キャにしてたの?」
え、それは、そうだけど、言いたくないな。と渋ってると、
「返事は」
氷野さんの視線が鋭い棘のようにギラリと刺さって、つい返事してしまった。「そ、そうです」
「なら、なんで勉強しないでもテストで満点取れるのか、なんでわざわざ陰キャのふりをしていたのかを聞かせてもらえるかしら。」
ああ、僕の平穏な学校生活が…。僕は、諦めて話すことにした。だが、話すと時間がかかるので、
「話すとすごく長くなるので、休日でもいいですか?」
と言った。氷野さんは了承してくれた。話すのは、今週の土曜日で僕の家となった。なんで僕の家なんだろうと思ったけど、誰にも聞かれたくはないので、都合はいいと思った。
土曜日。僕の家の場所を氷野さんに送った。待ち合わせの時間、丁度にインターホンが鳴った。氷野さんがきた。相変わらず、絶世の美女だな、と思いつつ、家に入れた。
「お邪魔します。」
「どうぞ」
「あら?家族はいないの?」
まあ、家に1人しかいないと、聞かれるよな。
「ああ、僕、一人暮らしなんですよ」
氷野さんは驚いた顔で
「中2で!?」
「は、はい。一応、お金は送られているので、月に10万ほどは」
まあ、親戚からの哀れみのお金なんだけどね。とは言わないでおこう。
「そうなの、まあ、それも含めて話を聞かせてもらうわ」
ああ、話したくない。後で、口止めでもしとこう。
「あの、氷野さん、飲み物、何がいいですか?」
「そうね、紅茶はあるかしら?」
「ありますよ。何がいいですか?」
「おすすめでお願いできる?」
「わかりました。少しお待ちください」
僕は、紅茶を注ぐためにキッチンに向かった。紅茶を注いで、氷野さんのもとに行った。どうやら氷野さんはソファに座ったようだ。
「どうぞ、ブレンドティーです。熱いので気をつけてください」
「ありがとう」
僕はびっくりした。氷野さんって、お礼が言えるんだな。そう言って関心していたら、氷野さんが紅茶を飲んで、びっくりして、
「すごい美味しいわ。このブレンドティー、どこで買ったの?」
と言ってきた。僕は何を言っているんだろうと思った。
「買ってませんよ」
「?なら、このブレンドティーは何?」
「え、僕がブレンドしたものですけど…」
氷野さんは再び、びっくりしたようで、
「え?あなたが?」
と言った。本当に失礼だと思う。
「あなた、将来はカフェでも開くつもり?」
「え、開きませんけど」
まあ、将来なんて、考えたくもないから、目標も何もないけど。そういえば、今日の本題を忘れているな。
「氷野さん。今日の本題なんだけど…」
そういったところで、氷野さんが急に話に割り込んできた。
「そうだったわね…紅茶が美味しいから、つい忘れてしまってたわ。さてと、速水君、君が勉強しなくてもテストで満点が取れる理由とわざわざ陰キャのふりをしていた理由を教えてくれるわね」
氷野さんは少し圧をかけて話した。
「は、はい。」
僕は、話すのは嫌だが、逃れられないなと思った。
「氷野さん。一つだけ約束してくれませんか?」
「何?内容によるわ」
「そのですね、これから僕が話すことは、誰にも話さないでください。紙に書いたりするのもダメです。つまり、誰にも伝えないでください。家族であっても。」
「どうしてかしら?」
「それは…、僕が嫌だからです…」
「そう…。まあ、いいわ。伝えないであげる」
あれ?すんなり納得してくれた。てっきり、理由を聞かれるかと思ったのにな。まあ、お礼を言っとこう。
「ありがとうございます」
「まずは、なんで勉強をしなくてもテストで満点を取れるかの理由ね」
「はい」
あぁ、話したくないな。
「特に理由はないんですが、地頭がいいと言いますか、基礎がわかれば全てわかってしまったり、一度見たものは忘れないようなんです」
「は?だからテストで満点を取れたっていうの?」
「そうです…」
「何そのチート能力!?ずるいわよ!」
氷野さんが目をカッと見開いて驚いたように言った。
「ずるいと言われても、生まれつきなので…。あっ、でも、この能力は代償みたいなものもあるので、決してずるくはないと、思います」
僕はビクビクしながら言った。
「で、その代償って?」
「えっと、それって言わないとダメですか?」
「できれば言って欲しいわね」
「できれば、なら、いいたくはないです。これで、僕がテストで満点を取れる理由の説明ができたでしょうか?」
「そうね、その能力、今使ってみてくれないかしら?」
「えっ」
「嘘じゃないんでしょう?なら大丈夫よね」
と言って氷野さんは紙に何か書き出した。能力を使うと疲れるから使いたくないな。でも、やらなければ信じてくれないだろう。やるしかないか。
「よし、じゃあ、これを10秒間見せるわ。10秒後に全てを答えてもらうわ。わかったわね」
「はい」
「よし、では開始!」
これは1秒で覚えれるな。よし、見てるふりをしよう。
ー10秒後ー
「終了よ。さて、答えてもらうわよ」
氷野さんが紙に書いたのは、漢文である。なんでわざわざ漢文なんだろうか。まあいい。覚えていればいいのだから。その漢文を全て読んで、書いた。これで信じてくれるだろう。はあ、もう頭を使うことがなければいいのだが…。
「これで信じてくれましたか?」
「え、ええ。いいわ」
氷野さんは本当に答えれると思っていなかったのか、少しだけ顔が引き攣っていた。さて、次の話に進めよう。
「では、次になんでわざわざ陰キャのふりをしているのか、でしたね」
「ええ、そうよ」
頭を縦に少し動かしてから氷野さんは言った。
「それは、なるべく人付き合いがないようにするために、ですかね」
これは本当だ。嘘もついてない。
「それだけ?」
僕の返事に納得いかなかったのか、氷野さんは聞き返してきた。
「はい。それだけです」
「いくつか聞いてもいいかしら?」
もうこれ以上追求しても僕が答えないと悟ったからか、話を切り替えた。
「なんでしょう」
氷野さんに変な質問をされると困るから、質問は聞くけれど、答えるかはわからないという感じを出した。
「あなたの髪型は昔からそのボサボサだったの?言いたくないのなら、アルバムでも見せて」
そこまでではないけれど、あまり言いたくなかった内容だったから、アルバムを持ってくることにした。
「えーっと、アルバム持ってきます」
僕は小学校のアルバムをとってきた。押入れの奥にしまったから、少しばかり時間がかかった。
「お待たせしました。これ、小学校の時のアルバムです」
「ご苦労様」
ちょっとイラつくような返事が帰ってきた。氷野さんがアルバムを開いた。僕は見ないようにした。そしたら、氷野さんが聞いてきた。
「誰があなたなのよ。あなたらしい人がいないわよ」
はあ、僕はアルバムなんて見たくなかったのに…。
「ここです」
僕はアルバムの写真の真ん中をイヤイヤ指差した。すると氷野さんが
「は!?嘘でしょ!あんたがこんなザ陽キャなわけないじゃない!」
嘘つきを見るような目で氷野さんが僕を見てきた。
「そんなこと言われても、事実ですし、。信じれないのなら、1番前のページの名前と顔写真が写っているとこを見てください。」
氷野さんが1番最初のページを見て
「本当だわ。」
ものすごく驚いたようで、目を見開いていた。
「信じてくれたようで何よりです。」
「なんでこんな陰キャになってしまったのよ。」
なぜか悲しそうに氷野さんが言った。
「なんでと言われても、時間の流れとかしか言いようがないですね」
「そう。あれ…?」
氷野さんが何かを見つけたのか、アルバムを良く見た。僕はなんだろうと思い、聞いてみた。
「どうしましたか?」
「もしかして、あなたが通っていた小学校って、南小?」
なぜわかったのだろう。表紙も見てないし、どこにも小学校の名前なんて書いてなかったのに。
「?はい、そうですけど…、それがどうかしました?」
「あなたの学年に柊 雪って子がその学校にいなかった?」
!?僕は驚いた。まさか氷野さんからその名前が出て来るなんて思いもしなかったからだ。
「…いました。」
僕は少し俯いて言った。
「そう…。」
氷野さんは少し懐かしげにアルバムを見ながら言った。僕はその2人の関係性がわからなかった。
「氷野さんと柊さんはどんな関係だったんですか?」
「関係も何も、雪と私は双子の姉妹だったの。まあ、苗字が違うからわからなかったのだろうけれど…。私が5歳ぐらいの時に親が離婚して、母に私が、父に雪がというふうになったから、苗字がそれぞれ分かれたのよ」
「そうだったんですか。なんか、すみません」
辛い記憶を思い出させてしまったのではないかと思い、謝った。
「なんで謝るのよ」
「なんか聞いてはいけないことを聞いてしまったと思って」
「気にしてないから大丈夫よ」
この辛気臭い雰囲気を消すために、話を切り替えた。
「ところで、もう僕は聞かれた理由を話したのでもういいですか?」
「まあ、今日のところはいいわ。今度、雪について聞くこともあるかもしれない
わね、。」
「柊さんとはあまり話さなかったのでわからないですよ」
これは嘘だ。けれど、嘘をつかなければ、氷野さんは色々と聞いてくるだろう。仕方ないのだ。
「そうなのね」
「ごめんなさい」
僕は最後にそれだけ言って、氷野さんを少し見送った。1人暮らしの件は話さなくても良かったのが一つの救いだな。
僕は氷野さんのせいで記憶を掘り出されたので、夜に小学校の頃を思い出していた。
ー小学6年生ー
僕はその頃、クラスの中でもカースト上位にいたと思う。友達も多くて、明るい陽キャだった。だが、陽キャとして振る舞っているのには、色々と考える必要があったため、ものすごく疲れが溜まっていった。けれど、陽キャというキャラを作ってしまったからには、やり切らなければならない。そう思って、毎日を過ごしていた。
二学期の初日、いつも通りに陽キャを演じていると、立ちくらみがした。気づいたら、目の前が床で、すぐに視界が暗くなった。どうやら倒れたようだ。
起きたら、白い天井が見えた。どうやら、ベットの上のようだ。保健室だろうか。
「大丈夫?速水くん」
隣から声がしたので横を向くと、柊さんがいた。柊さんとは、これまで、話したことはあるが、転校してきたばっかりなので、仲がいいと言われれば、普通だろう。僕は返事をしなければと思い、返事をした。
「大丈夫だよ。柊さん、だったよね?」
いつも通り、明るく振る舞った。
「そうだよ。私、クラスの保健委員だから、ついてきたの」
柊さんはニコリと笑って言った。
「ありがとう、柊さん。もう大丈夫だよ。調子もいいし、授業にも出れると思う」
そう言うと、柊さんは少し怖い顔で言ってきた。
「速水君。君は、調子のいい時なんてあったのかな?私が見ている限りはずっと調子悪そうに見えるよ。もちろん今も。だから、ちゃんと休んでなさい!」
なんでバレた?バレないようにしてきたのに、バレたことなんてなかったのに。すると、僕の頬に何かが流れた。
「あれ?なんで?目にごみが入ったのかな。」
なんでだろう、小学生になって、涙なんて流したことなかったのに。自分の意思関係なく涙なんて流したことなかったのに。
数分後
「ごめんね。柊さん。見苦しいとこを見せたね。」
本当になんでだろう。
「ううん。謝らないで。速水君、今は少し体調が良さそうだし、てか、私が泣かせちゃったみたいだしね」
柊さんは悪いことしたなみたいな顔で言ってきた。何もそんな顔しなくても、と思った。
「柊さん、心配してくれてありがとう。もう大丈夫だよ。ありがとう」
「そんな、お礼を言われるほどのことなんてしてないよ。まあ、でも、一応受け取っとくね」
照れくさそうに言った。そうして、柊さんは教室に帰って行った。これが僕と雪との話の始まりであった。
翌日、起きると、いつもよりも眠くない気がした。なぜだろう。倒れたからかな。そう思いながら、学校に行った。教室に着くと、みんながなぜかすごく盛り上がっていた。特に男子たちが。話を聞いてみると、柊さんが僕が倒れて、ベットで寝ている時に横で寝てしまったらしく、柊さんが僕のことを好きなのではと言うことらしい。それがこの盛り上がりの正体だった。はあ、くだらない。けれど、そんなことは言えない。だから、どうにかして、この場を乗り切ろうと考えた。
「お前ら〜、そんなこと言って、実は羨ましいだけだろ〜」
と言って、話を切り替えて、柊さんに注目が集まらないようにした。
「んなわけあるかよ!」
そう笑って、この話は終わった。
二学期の初め頃、僕はクラスの委員長になった。副委員長はなぜか柊さんになった。それからというもの、委員の仕事をするから、柊さんと話すことが多くなった。だが、話と言っても、日常の話や、友達の話が多かった。
二学期の終わり頃に、突然柊さんから遊びの誘いを受けた。突然のことで、驚いた。そして、僕は遊びを了承した。もし陽キャなら、断らないと思ったからだ。遊ぶのは夏休みの初めらへんとなった。連絡が取れるように、スマホでラインを繋げた。この頃、ほとんどの小学生高学年はスマホを持っていたのだ。
夏休みに入り、本格的に蝉の鳴き声がとてもうるさい時期になってきた。そして、とうとう柊さんと遊ぶ日になった。遊ぶのは水族館になった。水族館は学区内なので、先生や親に見つかっても問題はないだろう。僕が女の子と2人きりで出かけるのは初めてなので、少しばかり緊張している。緊張している理由はそれだけでなく、クラスの中でもダントツに可愛いと言われている柊さんと行くからだ。僕は可愛いとかはわからないのだが、クラスの仲のいい男子がそう言っていた。はたして、僕は柊さんと釣り合うのだろうか。そこが心配だ。
午前9時30分
僕は、集合時間よりも30分も早く集合場所についた。早めについていた方がいいと聞いたことがあったのでそうした。
15分後
柊さんがやってきた。綺麗なワンピースを着ていた。
「お待たせ!もしかしてまたしちゃったかな?」
「ううん、全然!俺も今さっききたとこだから」
僕は陽キャらしく、表向きには一人称を「俺」にしている。
「それならよかった。今日は快晴だね。気持ちのいい日になりそうだね。」
「そうだね。それじゃあ、予定より少し早いけど、水族館に行こうか」
そして、僕と柊さんは少し早めに水族館に向かった。
水族館には歩いて10分ほどでついた。僕はこの水族館に来るのは初めてだったから、全て初めてみるものだった。感動、などはしなかったが、様々な生き物を見れるのはとても興味深かった。一応ネットで調べてきたが、場所などしかわからなかったので、中の風景はわからなかった。改めて水族館に来てみると、とても広くて、美しい内装だった。
「わ〜!なんか、久しぶりにきた気がする!」
「そうなんだ。俺は初めてきたから、すごく楽しみだ。誘ってくれてありがとう、柊さん」
「全然だよ!知り合いから2枚チケットをもらったから、誘っただけだし…。」
そうなのか、でも、柊さんは友達が多いから、友達を誘いたかったんじゃないのか?もしかして、前の変な仮説を消したから、そのお礼とか?
「でも、友達とか誘いたかったんじゃない?」
「それは、私が速水くんを誘いたかったから…」
柊さんが少しもじもじして、言いにくそうな感じを出した。
「そうなの?でも、誘ってくれてありがとう!」
僕は笑顔でお礼を言った。
「あの、速水くん、私のこと、柊さんじゃなくて、雪って呼んでもらえないかな?あ、嫌だったなら全然大丈夫だよ!」
柊さんが再びもじもじしていながら、言った。なぜだろうと思ったけれど、呼び捨てで言わないとなんか失礼だと思った。
「わかった!雪、俺のことは流唯でいいよ!」
僕がそういうと、雪がパアと笑顔になった。
「うん!流唯くん!」
そして、僕と雪は一日中水族館で楽しく過ごした。
ー三学期ー
いつも通りに学校を過ごしていた。だが、2月が半分過ぎた頃に僕は再び倒れて気絶してしまった。
今回も起きると、保健室であった。そして、隣に雪がいた。今は寝ている。雪の気持ちよさそうな寝顔を見ていると、僕も寝たくなった。だから、僕も寝ることにした。
ー放課後ー
先生に起こされた。雪も今起こされたようだ。
「あらあら、とても仲良しね」
と先生が頬に手を当てながら言った。僕はそばで雪が寝ていたからだと思ったが、そうではなかった。僕と雪が手を繋いで寝ていたからのようだ。ふと思った。僕は、今、眠くなっていない。いつも眠くて敵わないのに、重い鉛がぶら下がっているように眠いのに、どれだけ寝ても眠いのに、なんで、…。少し考え込んで僕は、ハッとした。二学期に倒れた時も少し疲れが取れていた。保健室のおかげかと思ったが、前に熱を出して保健室で寝た時は何もなかった。なら、共通点は、…雪、か…?非科学的だが、どうなのだろうか。でも、そうなると、謎に疲れが取れることに納得がいく。なんでかは知らないが、雪のおかげで疲れが取れて、あまり眠くない。
「雪、ありがとう」
僕は雪にお礼を言った。雪は寝起きだからか、曖昧に返事した。
4月の初め、僕は雪と遊ぶ約束をしていた。今回は、近くの駅のショッピングモールに来た。僕と雪は定期的に遊んでいた。けれど、今回は特別である。雪の誕生日だから、誕生日プレゼントをあげようと思ったのだ。雪が遊ぶのを許可してくれてよかった。僕は待ち合わせの駅前で待っていた。スマホで雪に着いたよ、とメッセージを送った。だが、既読もつかないし、返信も来ない。試しに電話してみたが、出なかった。僕は、待ち合わせの時間から4時間ほど待った。だが、雪は来なかった。仕方なく、家に帰った。
次の日、学校に行った。チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。なぜか先生の様子がおかしい。暗いというか、悲しそうというか、まあ、そんな様子だった。先生が話し出した。
「皆さん、残念なお知らせがあります。昨日、柊 雪さんがなくなりました。」
それを聞いて僕は、頭の中が真っ白になった。人生で初めてかもしれない。こんなに感情が溢れ出たのは…。とても悲しい、苦しい。
あれ?僕は、いつの間に家にいるんだ?ああ、そうか、学校を早退して家に帰ってきたんだった。僕は、たくさん泣いた、もう、時間がわからないほどにたくさん泣いた。その時気づいた。僕は、これほどまでに雪のことを大切に思っていたのだ、と。
翌日、学校を休んだ。親は、気が済むまで休んでいいと言ってくれた。とてもありがたかった。
僕は、雪が亡くなったと言われた日から4日ほど休んだ。今日は、その4日目である。親が2人とも買い出しに行ってくると言ってたので、今日は家に1人だ。とてもダラダラしてくつろいだ。だが、まだ心の傷は消えない。まだ、感情を整理できていないのだ。まあ、明日には学校に行けるだろう。
その日、両親は夜になっても帰ってこなかった。とても心配だった。だが、自分にできることは無く、おとなしく家にいた。
次の日、家の電話に警察から連絡がきた。両親がなくなったと…。どうやら、買い物をした帰りに事故にあったという。僕は、絶望した。そして、両親や雪がなくなってしまったのは、神様が世界を平等にするためだと思った。特殊な能力を持っている僕という存在がいるから両親も雪もなくなってしまったんだ。僕が、両親と、雪と関わったせいで…。
数日後、雪の葬式があった。僕は、雪の誕生日に渡す予定だったプレゼントを持って行った。そして、そのプレゼントを置いて、すぐに家に帰った。
その次の日、両親の葬式が行われた。親戚がたくさん集まった。親戚がコソコソと僕をどうするかを話している。勝手に決められたら迷惑なので、自分から言うことにした。
「皆様、僕の親のために来てくださり、誠にありがとうございます。葬式も用意していただいて、感謝してもしきれません。俺のことですが、誠に勝手ながら、今の家に住んでいたいのです。幸い、両親が働いて稼いでくれたお金もありますし、もうすぐ中学生になりますので、アルバイトもできます。なので、皆様のお手を煩わせることはほとんどないと思います。なので、今の家に住み続けてもよろしいでしょうか」
僕は、親戚の家などには行きたくなかったので、今の家にいたいと言う提案をした。親戚はそれを許可してくれた。どうやら親戚は、自分のところに僕を置くことが嫌だった人や、僕のことを可哀想だと思って僕の考えを尊重してくれる人などがいたようだ。その親戚の中でも、優しい人は、月に何万か送ってくれるそうだ。それはすごく助かる。そうして、僕の1人生活が始まったのだ。
僕は中学を、知り合いが1人もいないところを選んだ。
そうして、小学を卒業し、中学校生活が始まったのだった。だが、僕はどうやら小6の時点で色々と限界だったみたいで、中学生活でも陽キャの振りは無理であると判断した。なので、髪の毛をボサボサにセットし、伊達メガネを使った。
僕は、この過去を思い出していたら、もう夜であった。
次の日、僕は、せめてと思って、伊達メガネをかけて学校に行った。伊達メガネをかけても無駄だったみたいで、休憩時間はほとんど追いかけられた。女子がいなくなっても、男子が寄ってくるわで、大変だった。全くもって休めなかった。それを見ている氷野さんの顔は楽しそうだった。
僕は、この生活を続けると、いつか倒れるだろう。いつもなら、倒れそうになっても机に突っ伏しているから大丈夫だったが、今は無理だ。どうしようか。この最近、とても頭が痛い。どうにかしなければ…
僕は考えた。氷野さんに相談してみようと、僕のことを知っている数少ない人であるからだ。
「氷野さん、ちょっといい?」
「何?」
「僕、この生活に耐えれないから、どうにかして、僕が学校でも休んでいられるようにしてくれないかな?」
「ふーん…。まあ、いいわ。本当に困っていそうだからね。けれど、条件があるわ。」
「条件?」
「そうよ。私と、テストや実技で勝負しなさい!!そうしたら、元の生活に戻してあげる」
「え、…」
僕は悩んだ、悩んだ末に勝負する方を選んだ。
「わかった。その条件をのもう」
そうして、氷野さんと僕との勝負が始まったのだった。
まずは、勝負内容を決めた。内容は、実技、テスト点、総合点で、勝った方が多い方が勝ちというシンプルな勝負だった。丁度、期末テストが近かったので、期末で勝負することにした。
翌日、期末の実技点に入る授業が始まった。今日の教科は、英語に音楽、体育、数学、美術、理科、技術らしい。実技点に入るのは、音楽と体育と美術と技術みたいだ。まず音楽は、歌で満点を取った。氷野さんも満点みたいだ。音楽は大体のことを覚えればできないことはないと思う。次に体育で、50m走で6秒丁度を取った。先生によれば、6秒で満点とのことだったので、丁度ピッタリにした。女子は7秒未満だと、満点らしい。氷野さんは6秒3だったようだ。そして美術は、自由画で、一本の大きな木を幻想的に描いた。美術もやり方さえわかればなんとかなる。氷野さんは蝶を描いたようだ。美術の実技点は後にならないとわからない。最後に技術だ。パソコンで正しく広告を作るやり方を上手くできるかというものだった。これは、やり方を知っていればすぐにわかる。
さて、実技は全て終わったわけだが、僕がちゃんとしているとこを先生が目撃して、とても驚いていたな。まあ、中学に入ってから何もやってこなかった僕が急にやり始めたのだ。そういう反応になるだろう。実技はまあまあだろう。すると、氷野さんがやってきた。僕はなんだろうと思い、
「どうしたの?氷野さん」
「どうしたもこうしたもないわよ!なんなのよ!授業もまともに受けてないくせに、運動もできなさそうなのに、なんで…なんで、あそこまでできるのよ!」
氷野さんが怒ったような声で言った。
「なんでと言われても、授業の話は大体聞いてるし、教科書とかを見ればわかるし、運動は最低限してるから…」
僕はよくわからないなと思いつつ、氷野さんを見た。すると、氷野さんがわなわなと震え始め、
「それがおかしいのよ!なんでそんな当たり前みたいにいうのよ!私がどれだけ頑張って、どれだけ練習したかもわからないくせに!しかも最低限しか運動してないって…、なんで、そんな奴に私が負けるのよ…」
突如、涙を流した。僕は、少しイラついたが、突如涙を流した氷野さんを見て、慌てた。どうしたんだろうか、悔しかったのだろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないでしょ!テストでは勝つんだから!」
そう言って、氷野さんは走って、行ってしまった。僕は、ポカンとした。急な出来事すぎて、思考があまり追いつかない。
テスト期間前の1週間はそこまでの問題はなく終わった。
そして、テスト期間に入った。僕は、教科書を見ればなんとかなるので、何も勉強をしなかった。初日は余裕だなと思いながらテストを受けた。だが、その余裕が打ち壊されることになるとはこの時の僕は知らなかった。
テストは2日目も何もなく終わり、次の日になった。ああ、面白くもなんともないな。勝負だからといって、テストはそこまで頑張る必要もないし…。そう思って、テストの問題を解いている時だった。急に頭が痛みだし、目の前が暗くなった。そして、大きな音と共に僕の意識は途絶えた。
起きると白い天井が見えた。どうやら保健室のようだ。僕は、なんでここにいるんだ?そういえば、テストを受けてたな。それから、急に目の前が暗くなって、…。そうか、倒れたのか。時計を見ると4時ぐらいだった。
「起きた?」
急に保健室のベットの周りのカーテンを開いて、氷野さんが現れた。
「急に倒れたからおどいたわよ」
「迷惑かけてすいません」
「謝れとは言ってないわ。それより、何で倒れたの?保健室の先生は疲労って言ってたけど…」
今回僕が倒れた原因は頭を使いすぎて疲れが溜まったから何だろう。けれど、これを氷野さんには言えない。僕にあまり関わらないようにしないとだから。
「多分、久しぶりに人と話したり出かけたりしたから疲れたんだと思います。それが倒れた原因かと…」
嘘は言ってない。
「は…?あんなに運動神経がよかったのに、そんなことだけで倒れたの?病弱な設定でも作っているの?」
「病弱、ではないですね」
僕はイラっとした感情を抑えながら言った。
「そう。でも、困ったわね、あなたが今日のテストを受けなかったことで点数に差が出るわ」
「それなら、今日のテストの点数だけを引けばいいんじゃないでしょうか?」
「それもそうね」
「そういえば、もうテストはとっくに終わっている時間ですよね?わざわざ待っててくれたんですか?」
「そ、…そうよ!突然倒れたから理由が知りたかったのよ!」
「あ、そうだったんですか。わざわざありがとうございます。もう体調は回復したので大丈夫です。」
そして、僕は家に帰ったのだ。
テストは倒れた日から、何の問題もなく終わった。
テストが終わって、近くの公園で氷野さんと点数を見比べた。僕はどうせ満点を取るのだから、勝てるだろうと思った。勝てなくとも、最悪引き分けだろうと思った。見比べた結果は、まあ、予想通り、僕の勝ちであった。
「何となく分かってたことだけど、実際にわかると悔しいわね。でも、これで自分に踏ん切りがついたわ」
氷野さんが少し泣きそうな表情をして、言った。だが、それも少しの間で、すぐに切り替えたようだ。
「そうですか」
「約束通り、学校で静かに1人で暮らしたい、の願いを叶えるために手伝うわ」
「お願いします」
氷野さんが少し、考えるような素ぶりを見せて、
「その前に、少し聞いていいかしら」
僕は、手伝ってもらうのだから、一つくらい、質問は答えようと思った。
「はい、何でしょう」
「あなたが、学校で1人で静かに暮らしたいのって、何でかしら」
僕は、1番聞かれたくないことを聞かれて、すぐに答えを出そうと頭を働かせようとした。その瞬間、目の前がぐらつき、大きな音と氷野さんの声と共に意識を失った。
目が覚めると、真っ白い天井が見えた。起き上がると、保健室ではなかった。周りを見るに、病院だろう。丁度窓側にベットがあるみたいで、朝だということがわかった。僕が起きたことに気がついたのか、看護師がやってきた。体温を測ったりとしている時に、色々と話してくれた。看護師の話によると、僕と一緒にいた女の子が救急車を呼んでくれて、今、病院にいるそうだ。僕と一緒にいた女の子というのは氷野さんだろう。後でお礼を言わなければな。病院の先生の診察によると、過労らしい。
僕の目が覚めて、少し経って、氷野さんがお見舞いに来てくれた。
「お見舞いに来たわよ」
「わざわざ来てくれたんですね、ありがとうございます。救急車を呼んでくれたのも氷野さんだったんですね、改めてありがとうございます」
「そんなことより、あなた、倒れる回数が多くなってきてるわよ、何でかしら。教えてくれるわよね」
氷野さんが圧をかけて言ってきた。理由は言いたくないから、誤魔化そうとした。
「この前と同じ理由です」
「この前といえば、疲労、だったかしら」
「はい」
すると、氷野さんがため息をついた。
「ふざけないで」
氷野さんは僕が見てきた中で1番怒っていた。何でだろうと思いながら、
「ふざけてないですよ」
「あなたはふざけているわ、いえ、嘘をついている、と言った方がいいわね」
僕は、真剣な眼差しになった。
「嘘、ですか、」
「そうよ。例えば、あなたが雪と関係がないこと、あれは嘘よね。それに、倒れた理由は疲労だけじゃないでしょう?」
さすが頭いい人は感がいいな。だからこそ頭がいい人とは関わりたくないんだ…。
「何で嘘だと思うんですか?」
「あなたが雪と関係があることは、雪のスマホを見たらわかったわ。そして、こんなに何回も倒れるなら、疲労はありえないわ。あと…雪の日記に色々と書いてあったから、かしら」
雪が?僕のことを?それは想定外だったな。
「そうなんですか、なら、どうして僕の家にきた時に言わなかったんですか?」
「あなたがどういう人物かを見き分けたかったのよ」
「そうですか」
「まあ、あなたはすごく上っ面ができている人だと思ったわ」
「これが僕の素ですよ」
「そんなわけがないでしょ」
即答されてなんでだろうと思い、
「どこが上っ面だと思うんですか?」
「そうね、表情…かしら」
氷野さんは少し考えてから言った。
「表情、ですか」
「そうよ、あとは、喋り方ね。なぜかはわからないけど、親戚にいる胡散臭い伯父に似てるのよ」
僕がその伯父と一緒、か。失礼するな。
「そうですか」
「てことで、素で話してもらえるかしら?」
「まあ、バレてるなら仕方ないですよね。わかった」
「そう、それでいいのよ」
なぜか満足そうに言う氷野さん。
「それで、今回わざわざそれだけを言いにきたのか?」
氷野さんがピクッと反応した。そしてため息を吐いて、
「いいえ、他にも聞きたいことがあるからここに来たのよ」
「そうか、なら、ここで話すのはあまり良くないな」
「そうね。公園にでも行きましょうか」
そう言ってすぐに氷野さんがハッとしたような顔をして、
「体調は大丈夫なの?」
「問題ない」
そうして、僕と氷野さんは近くの公園に行った。
公園につき、人があまりこないベンチに座った。
「それで、聞きたいことってなんだ?」
「あなたに聞きたいことは色々あるけれど、まずは1番気になってたことを聞こうかしら。」
氷野さんは少し黙ってから言った。
「なぜ、あなたは1日のほとんどを睡眠に捧げているの?」
あまり聞かれたくはないことを聞かれたが、まあ、なんとかなる。
「楽だからだ」
「そう?あれだけ睡眠をとってないと倒れるから、ではないの?」
僕は驚いた。氷野さんが僕の体質をほとんど当てたからだ。
「そんなことは…」
そんなことはない、と言おうとしたら、氷野さんが急に言葉に被せるように言った。
「そんなことあるでしょう。嘘はつかないで」
「嘘なんかじゃ…」
氷野さんは僕の話していることなどお構いなしに話し始めた。
「確かに陰キャがあれだけの人にずっと囲まれたら疲れるでしょうね。けれど、あなたは小学生の時、たくさんの人と接していたはずよ。だからこそ、あり得ない。なら、理由は何なのか…。私が思ったのは、睡眠時間が減ったから」
僕は驚いた。本当にそうだったからだ。
「けれど、私がわかるのはそこまでだった。なぜなら、倒れる程にまで睡眠時間を減らしてはいないはずだから…。もう一度聞くわ。なぜ、あなたは1日のほとんどを睡眠に捧げているの?」
僕は少し慌てた。どう答えようか、迷ったからだ。だが、ここで本当のことを言うわけにはいかない。
「それは…答えられない」
「なんでよ!」
ものすごく疑問が残るようなわからないというような感情で言った。
「人には答えたくないことというのもあるんだ」
氷野さんは言いたいことをグッと我慢するような顔をしてだまった。少ししてから、
「わかったわ。後、もう一つ聞きたいことがあるの」
「内容による」
「っ……雪の、姉の亡くなった原因は、あなたも関係のあること?」
あまり言いたくはないが、氷野さんは雪の家族なのだ。それだけは答えよう。
「………あぁ」
それだけ言って、僕は公園を出た。
その日の夜、僕はスマホを使って、氷野さんに連絡した。内容は、勝負で僕が勝ったから元の生活に戻す手伝いをしてほしいことはもうしなくてもいいということと、僕とはもう関わらないでくれ、というものだ。その後に、氷野さんの連絡先をブロックした。これで氷野さんとしばらくは距離を置けるだろう。
翌日、僕は目立たないために朝早くに学校に向かった。学校につき、すぐに机に突っ伏した。そして、僕は必要最低限の会話しかしないようにした。学校生活を静かで平和なものにするために色んなこと考えて行動に移した。
学校からの帰り道、家までもう少しというところで、氷野さんが現れた。
「速水流唯。話をしましょ」
氷野さんは真剣な顔で僕の目の前に立っていた。もう関わらないでと連絡したはずなのに、…。あぁ、めんどくさいな。
「いやだね。そこをどいてくれ」
僕は氷野さんの話をしようという問いかけを即答で断った。
「いやよ。話をしてくれない限りどかないわ」
「今少し話しただろ」
「そういうことではないわ。あなたは私が出した質問を答えてくれてないもの」
僕はすぐに諦めて帰るだろうと思い、遠回りをして裏口から家に入った。
ー夜の12時ー
流石に帰っただろうと思って外を見たら、玄関の近くに座っていたのだ。夏とはいえ、夜は寒い。僕のせいで氷野さんが風邪ひいたら困る。
「氷野さん、流石に家に帰ってよ」
僕は玄関を少し開けてそう言った。すると、氷野さんが急に近づいてきて、玄関の扉の少し開いたところに手を滑らせてきた。僕は咄嗟に扉を閉じようとしたが、その前に氷野さんの手が扉の間に滑り込んできたので閉めれなかった。
「ようやく出てきたわね…」
氷野さんがイラついていながら、疲れたような声で言った。僕はその行動力に驚いた。
「ちょ……っと、離してくれるかっ…なっ……」
僕は玄関の扉を開けようとする氷野さんの力を抑えながら言った。力が意外にも強くて、力をキープさせながら話すのが少しばかりきつかった。
「いやよっ…意地でも離さないわ」
その言葉通りにはや20分ほどこの状態が続いた。これ以上粘っても氷野さんはどかないだろう。致し方ない。僕は、そっと手を扉から離した。
「はぁ」
「!やっと観念したわね」
「観念…なのか?これ以上粘っても無駄な時間が続くだけだと判断したんだが…」
僕は小さな声で言った。僕は仕方なくだが氷野さんを家の中に入れた。
「どうぞ。麦茶だけど」
麦茶をあげると、喉が渇いていたのかすぐに飲み干してしまった。なので、麦茶を追加でついだ。
「それで、何を話せばいいんだ?」
急にシリアスな雰囲気になった。
「いくつかあるけど、やっぱり、あなたが睡眠時間を1日のほとんどに捧げている理由を話してくれる?」
「それは答えられないと言ったはずだが…」
「これは強制よ」
腕を組んで偉そうな態度で言い放った。
「強制的にされる筋合いはない」
「それは、雪が死んだ理由に関係あるから、かしら…」
!!!?なぜ、氷野さんがそのことを知っているんだ…。驚きすぎて、つい立ってしまった。
「図星のようね」
「なんで知ってる」
氷野さんを睨みながら言った。
「私が考えてもしかしたらと思ったから鎌をかけてみたのよ」
「っ、卑怯だ」
「卑怯もクソもないわよ。あなたが話さないからでしょ」
「それでもっ!それでも…言えない」
これ以上、僕に関わっては氷野さんが危ない。だからこそ、言えない、言えないのだ。
「言ったはずよ、強制だと。それに、私には知る権利はあると思うわ。違う?」
それはそうだ、知る理由はあるはずだ。けど、…
「あ〜もう!うざったい!早く言いなさいよ!」
氷野さんが急にキレた。
「…言わない」
「どうやっても言わないを貫くの!?」
「そうだ…」
氷野さんはため息をついて、感情を抑え、
「雪が知りたがってたことだとしても、あなたは言わないの?」
え、雪が知りたがっていた?でも、雪の前ではちゃんとしていた…。じゃあ、何を知りたがっていたんだ?
「雪は、何を知りたかったんだ…」
「私が聞いてることと求める答えは一緒だわ。けれど…そうね、雪が知りたかったのはなぜいつも顔色が悪いのか、かしら」
少し呆れたように氷野さんが言った。そういえば、雪は僕と会うたびに体調のこと聞いてたような…。
「そうなんだ…」
「これを聞いても、あなたは何も言わないというの…?」
氷野さんはこちらをじっとみている。けれど、ここで言ってしまえば、氷野さんに迷惑をかけてしまう。それだけは2度とごめんだ。過去の過ちは決して繰り返したくない。僕は、コクリと頭を縦に動かした。
「は?なんでそんなに頑なに言わないのよ。雪の知りたかったことでもあるのに、私には聞く権利もあるのに、どうしてよ…」
色んな感情が混じった顔をして氷野さんが言った。
「…………」
僕は返せる言葉が無く、黙った。
「…何で、あなたが辛そうな顔をしているの?」
「え…?辛そうな、顔?」
僕が辛そうな顔をしていたのか?何でだ?
「自覚がないの?あなた、辛そうだし、泣きたいのを我慢しているような顔をしてるわよ」
泣きそう…?僕が?けれど、僕は、どんなに辛くても我慢しなければならない。
「ほっといてくれ………」
氷野さんを追い出す前に僕はこれだけ言おうと無性に思った。
「……ひとつだけ、…覚えておいて。神様は人に平等なんだよ」
それだけ言って、僕は氷野さんを家の外に追い出した。その時、氷野さんが何か言っていたが、よくわからなかった。
次の日、学校に行きたくはないが、授業費などがもったいないので、仕方なく学校に行った。学校に行くと、氷野さんがいた。何かしら話しかけられるだろうと思ったが、放課後まで一言も話さなかった。強いて言えば、一つ、不思議なことがあった。滅多に生徒を呼ばない先生が氷野さんに職員室に来るように言ったのだ。なぜだろう。
氷野さんが家にやってきた日から数日がたった。実に平和なものであった。クラスの奴らは追いかけてくるが、隠れているので問題はなかった。氷野さんはというと、ここ数日は全く話してこなかった。おとなしすぎて逆に不安になるくらいであった。
もうすぐ、夏休みが始まる。補修がある奴らが騒いでいるが、それはいつものことなので無視しよう。やはり、夏はあまり好きではない。暑いから安心して眠れないし、日差しが眩しすぎる。
氷野さんは、夏休み前になっても、夏休みになっても、なにも話してこなかった。諦めたのだろうか。氷野さんに限ってそれは無さそうな気もするが、…。まあ、あれだけ頑固に言わなかったのだ、諦めてもらわないと困ってしまう。人と関わらなかったからか、一度も倒れることは無かった。
夏休みが終わり、二学期も終わり、三学期になった。氷野さんとは、一言、一文字でさえも、話さなかった。だから、僕はもう今後関わることなどないと思っていた。三学期も平穏に終わり、春休みとなった。僕は、家にずっといた。必要なものは、宅配で頼んだ…。
春休みの半ば、家のチャイムが鳴った。宅配だろう。玄関のドアを開けて、荷物を受け取ろうとしたその時、その宅配業者に手を掴まれた。僕は驚いて、泥棒かと思ったその瞬間、知っている声がした。
「やっと、話せる…」
氷野さんであった。僕は、すぐさま家の中に入ろうと玄関を閉めようとした。だが、氷野さんが手で玄関を閉めるのを阻止した。
「前にもこんなことがあったわね。今度こそ、ちゃんと話してもらうわよ」
僕はそんな氷野さんの言葉を無視した。限界が近いこんな時に、なんでくるんだよ。タイミングが悪い。早く玄関を閉めなければ…。ん?閉めれない?何でだ?そんなことを考えていると、
「閉めれないでしょ、どう?悔しい…?」
氷野さんが煽ってきた。悔しくは、ないが、。それよりも、こんなにも筋力が衰えている。もう猶予がないのかもしれない。
「悔しくはないが、何で今更…」
本当に何で今更こんな時にきたんだ。はた迷惑だ。
「それは、私があなたにたくさん聞けるタイミングを測ったまでよ!」
なぜか自信満々に言う氷野さん。僕に聞ける、タイミング…。そうか、今月は雪の命日だったな。それでも、氷野さんには出ていってもらわなければならない。これ以上、僕に関わってはいけない。氷野さんの手を無理矢理にでも剥がし、玄関を閉めた。
氷野さんは、あれからと言うもの、毎日僕の家に訪れてきた。無論、僕は完全に無視した。
雪の命日まで、1週間がきった。今日も氷野さんがくるだろうと、家中の窓の鍵が閉まっているかを確認しようと、ベットから立ちあがろうとした。視界がぐらりと傾いた。どこかに捕まろうと手を伸ばしたが、手にあまり力が入らず、頭部に鈍い痛みを感じた。そして、僕の意識は途切れた。
起きると、白い天井が見えた。この天井も何度目か、…。起きあがろうとすると、頭に酷い痛みを覚えた。倒れた時に頭を強く打ったのだろうか、。頭を触ってみると、タンコブができていた。けれど、この痛みはタンコブにして痛すぎる。あぁ、そうか、もうすぐ……。そして、診察などを終えて、1時間ほど経ったころ、ガラガラっと病室のドアを開けて誰かが入ってきた。氷野さんだ。
「大丈夫?あなた、一日中眠っていたのよ」
一日中…?そんなにも眠っていたのか、。そういえば、僕は家の中で倒れたはず、。
「痛っ」
またしても頭に酷い痛みがはしった。本格的にやばい。
「どうしたのっ!?」
このことは氷野さんに知られてはならない。
「大丈夫、ちょっとたんこぶが痛いだけだ」
「そう…」
氷野さんが安心したように椅子に座った。そういえば、僕は家の中にいたはず、…。もしかして、氷野さんが…?でも、そうしか考えられない。
「氷野さん、ありがとう」
「急に何よ気持ち悪い」
「だって、僕が今病院にいるのって氷野さんのおかげでしょ」
「そうよ」
なぜか氷野さんは悲しそうな気分の悪いような顔をした。
「どうかした?」
「いえ、そんな、どうもしてないわ」
氷野さんがすごく嘘っぽく言った。なので、僕は怪しいと思いながら、氷野さんをジーっとみた。少し時間が経って、氷野さんが諦めたようで、
「うぅ、わかったわよ。話すわよ」
ー氷野さんの話ー
私が、速水流唯のお見舞いに病院に来た時だった。速水君を診察した医者が看護師と話していたのを偶然聞いてしまった。
「あの103号室(速水流唯のいる病室)の子、診断したんだけど、すごく変だったんだよ」
「変?何が?」
「何というか、まるで、過労死寸前の患者を診察しているみたいだったんだ」
「え、でも、あの子、学生だし…。まさか、虐待とか?」
「そう思うよね、けど、その子の親亡くなってて、1人で暮らしてるらしいんだよ。」
「なら、バイトのしすぎとか?」
「それが、親戚からとか、親の残したお金とかでお金には困っていないらしい。あと、バイトもしてないらしい」
「なら、何で?」
「それがわからないから変なんだよ。あ、でも、頭の痛みがすごいって言ってたな。」
「でも、学生で、頭の働きすぎはないでしょ」
「だよな。そもそも、頭の働きすぎで過労死とか前例がないしな」
過労死…。速水君は、いつも寝ている。だからこそ、過労死はあり得ない。だけど、過労死なんて言葉、聞いてしまったら、なぜか悲しい気持ちになってしまった。
「だから、何で過労死前のような状態になっているか心配してたのよ…」
氷野さんがものすごく悲しそうな顔で言った。
「大丈夫、大丈夫だ」
僕は氷野さんに向かって言った。そうだ、氷野さん、君は僕と一緒にいては危ない。だからこそ、もう大丈夫だ。
次の日、僕は退院しようと思った。だが、医者に認められないと言われた。僕は元気だとたくさん動いてみた。それでも、ダメだと言われた。何でだろうか。
入院してから3日ほどたったころ、氷野さんがお見舞いにやってきた。
「まだ退院できないの?」
「うん。ものすごく元気だから、退院させてって言ってるんだけど…」
僕は何でだろうと思うようなそぶりを見せながら言った。
「そう、元気なの…」
「?そうだ」
「なら、話はできるわよね」
あれ?なんか、嫌な予感がする…
「今度こそ質問に答えてもらうわよ!」
あぁ、少し前まですごくおとなしかった氷野さんは何処へ…。
「だから、何回も言ってるだろ。言わないって」
「へぇ、もうすぐ雪の命日なのに、すごく元気なのね」
氷野さんが少しばかり真面目な顔をして言った。そうか、もう雪の命日が近いのか、…。僕は、雪のことを考えるたびに自分自身の軽率さがとても嫌になる。
「元気、…か。体はもう完全に元気だよ」
僕は一瞬悲しい気持ちになったが、すぐに外面の笑顔を見せて言った。
「うわっ、何その笑顔。気持ち悪すぎるわよ」
氷野さんがこれまでにないほど、すごく引いていた。
「え、そんなに?ちょっと傷つくんだけど」
僕はこれまでにないほど氷野さんに引かれ、ほんの少し傷ついて言葉に出してしまった。
「私以外には効果覿面かもだけど、あなたの本性を知ってるから余計に気持ち悪いわ」
なるほど、。気をつけよう。
「今回は質問に答えてもらうわよ!ほら、話しなさい!」
はぁ、これはもう一回話したほうが楽なのでは?でもな、話して氷野さんにどんな危険が迫るかわからない。だからこそ、あまり話したくない。そんなことを考えてると、数分ほど沈黙が続いた。
「いや、何か反応しなさいよ!」
氷野さんが我慢できなかったようで言ってきた。
「あれ、そんなに考え込んでた…?」
「えぇ、5分ほど」
僕は、こんなにも知力が落ちていることに驚いた。
「そう、」
「はぁ、話さないのね…。でもね、私とて何もせずに待っていたわけでもないのよ」
氷野さんが花のイラストの描かれたメモ帳と思われるものを取り出した。
「速水流唯。20⚪︎⚪︎年生まれ、誕生日6月16日。小学6年生の二学期と三学期に疲労で倒れる。4月2日、柊 雪と遊ぶ約束をするも叶わず、雪は死亡。そのすぐ後に両親が交通事故で死亡。その後、親戚に支えられ一人暮らしを始める」
氷野さんが流暢に話した。こんな情報、一体どこから…。
「何でそんなに知ってるんだ?」
「雪の日記やスマホ、後はある知り合いから、かしらね」
氷野さんがちょっと得意げに言った。
「ある知り合い…?」
「そうよ、あなたも知っている人よ」
知っている人…?誰だろう。
「それって誰?」
僕は自分の事情などは他人に話したことはない。
「そうね、特別に教えてあげる。……うちのクラスの先生よ」
「先生…?何で先生が?」
僕は学校以外で先生と会ったことはない。なのになぜ先生が僕の事情を知っているんだ?
「あなたは知らないだろうけれど、先生はあなたの家の近くに住んでいるのよ」
氷野さんが呆れたように言った。
「それでか、」
あのころ、両親が亡くなって、少しした騒ぎとなった。僕の家の近くに住んでいるなら、知っていて当然か…。
「それで、話してくれないの?」
「僕は……………」
辛気臭い雰囲気になって、その時、………
「痛っっ」
またもや、頭に鈍い痛みが走った。しかも、今回は前よりも痛くなっている。そのうち、記憶も無くなってしまうかもしれない。そうなると、話したほうがいいのかもしれないな。
「大丈夫!?」
氷野さんはどうしたらいいかわからなようで慌てていた。そして、ナースコールを押そうとしたので氷野さんの手を押さえてから止めた。
「ちょっと待って、僕は大丈夫だから」
「大丈夫って、全然大丈夫に見えないわよ」
氷野さんがか細い声を発した。
「本当に、大丈夫だから」
僕は氷野さんに何度も何度も大丈夫と言った。そうすると、氷野さんが安心したのか、落ち着いた。
僕は考えた。このままでは、話すどころではなくなる。それならば、今のうちに話しておくべきなのかもしれない…。
「氷野さん、質問に答えてあげる」
僕は柔らかな声で言った。
「どうしたの?急に、どうゆう心境の変化?」
氷野さんが疑いの目で聞いてきた。
「あれ?嬉しくないの?ようやく聞きたかったことがわかるんだよ?」
僕は不思議に思った。
「それはそうだけど、なんか、もっと粘るかと…」
氷野さんがなんかあっけないような顔をして言った。
「そうなんだ、まあ、話せるうちに話せばいいかなと思って、」
そうだ、僕は話しておきたい。この、僕のことを…。今まで誰にも話せなかったことを、この最後の春に、悲しい思い出の春に、話しておきたいのだ。
「あらそう。なら、話してくれる?」
何かしら納得のいかない気持ちなんだろうが、その気持ちを抑え込んで氷野さんは言った。
「あぁ、もちろんだ。これは、僕が生まれてからの話、、、、」
そして、僕は話し始めた。
ーこれまでの僕の話ー
僕は、生まれた時から異端児だった。数日で言語を理解し、しゃべることもできた。けれど、周りからは普通の赤ん坊に見えるようにした。なぜなら、僕は0歳でしゃべると気味悪がられることを赤ん坊の時点で理解したからだ。そして、中2の今でさえも、生まれた時からの記憶が残っている。生まれてきてからずっと両親にさえ、演技をして対応した。そう、幼児のころはよかった。僕の全盛期とも言えるだろう。そして、僕はその調子で小学生となった。僕は小学生となって、明るく、誰にでも変わらず対応する、…いわゆる陽キャとしてキャラ付けをした。小学生になったはいいが、問題が出てきた。年を重ねるたびに、日々を過ごすたびに、時間が経つたびに、疲れが溜まっていった。その頃は寝たら治ると思っていた。けれど、どれだけ寝ても眠れも疲れも取れないことに気づいた。しかも、それはリセットできない。溜まっていく一方だった。そう、まるで容器に水を少しづつ注いでるように。僕はどうにかして眠気や疲れを治そうとした。僕はそのためにたくさん試した。アロマや寝具の種類、アイマスクや生活習慣。それに、睡眠薬なども試した。様々な病院に行ったりもした。だが、原因はわからず、寝てはいるものの、眠気や疲れは一切取れなかった。僕のやれることは全て試した。しかし、効果はなかった。だからこそ、全て諦めた。
つまり、代償とは、毎日、疲労と眠気が溜まっていくことである。
そして、僕が一日のほとんどの時間を睡眠に捧げている理由は2つある。1つ目は、なるべく疲労をためないためだ。疲労は、動いたり頭を働かせたり、喋ったりすることによって増加する。普段過ごしていても疲労は溜まるが、何もしないほうが疲労はたまらない。2つ目は、人と関わらないようにするためだ。僕が人と関わると、危険だからだ。
「という理由があったんだ。理解してくれたか?」
僕はふぅと一息ついた。この話をするのにも頭を働かせないといけなかったから、少し疲れた。
「代償と、1日のほとんどを睡眠に捧げている理由の1つ目はわかったわ」
氷野さんはすごく真剣な眼差しで言った。
「1つ目は…?」
僕は一つ目という言い方に引っかかった。
「2つ目の理由がよくわからないのよ…。あなたと関わると危険ってどういう意味…?」
氷野さんが心底不思議そうに言った。
「そうだね、簡潔に述べると、僕に大切な人ができると、その人が危ない目に遭うんだ。最悪、死すら訪れる…」
僕は雪と両親のことを思い出しながら言った。これほどまでに脅しをかけておけば、そのうち氷野さんから離れていくだろう。
「何それ、迷信か何か?」
氷野さんは全く信じてないようだった。僕は予想外すぎる反応で少し驚いた。
「迷信ではないよ。本当のことだ」
僕は少し呆気に取られた後、真剣に言った。
「なんか、厨二病見たいね」
僕が真剣に言っても信じてくれなかったみたいで、僕のことを厨二病と言ってきた。
「まあ、まだ中2だし、そういう時期もあるわよね」
氷野さんは、僕から大きく目を逸らしながら言った。酷いな。
「決して僕は厨二病じゃ…………いっっ」
僕は厨二病を否定しようとしたが、痛い頭痛に襲われた。
「大丈夫!?」
氷野さんがとても心配そうにこちらを向いた。この頭痛、タイミングばっちりだ。痛いのは辛いが、真剣な話をする空気に、おかげで戻った。
「大丈夫だ。それより、僕に質問したいこととかないのか?」
僕は話を大きく逸らした。
「たくさんあるわ。全て答えてくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
「雪と関わった時から今までの話を聞かせて」
「わかった」
そして僕は話した。
小6の時に僕が倒れて、そこから雪と関わり出したこと
雪と手を繋いで眠ると疲れや眠気が少し和らいだこと
雪以外と手を繋いで寝ても何にも起こらないこと
4月2日に雪と遊ぶ約束をしていたが、雪が亡くなってしまったこと
その数日後に両親が交通事故で亡くなったこと
中1になって、残り数年で限界が来ることを悟ったこと
そして、もう自分の命が長くはないこと
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「何よ、それ…」
氷野さんは僕の命がもう長くはないと聞いた時から、事実を受け止めきれないような顔をした。
「話したことは全て事実だよ。しかも、これは病気ではないから、病院で原因を発見すらできない」
「そんな…」
氷野さんが悲しそうな辛そうな顔で言った。
「仕方のないことなんだ。神様は人に平等なんだから_、」
僕は全てを雪や両親が亡くなった時点で諦めていたんだ。だから、悲しくも苦しくもない。ない、はずなんだけど、何かが引っかかってる…。
「…………何が、何が仕方のないこと、よ…。自分の命でしょ!何でそんなに簡単に諦められるの!必死に探せばいいじゃない!誰かに協力して貰えばいいじゃない!」
氷野さんはいつの間にか涙を流していた。そして、涙を流しながら怒っていた。
「小学生の時までは自分の命を諦めてなんていなかったさ、けど、もうしょうがないんだ。必死で可能性を見つけようとした。それでもダメだったんだ。だから、しょうがない」
僕はとっくに自分の命なんて諦めたのに、なぜか心が苦しかった。けれど、苦しくなっても、何にもならない…。
「何でっ、そんなに簡単に諦めれるの!何が神様は人に平等よ!不平等だわ!それに、あなたを大切に思っている人だって少なからずいるのに………」
氷野さんは僕が数分後には死んでしまうと思うように泣いて、怒ってきた。僕にそんなことを言われてもしょうがないじゃないか、…。
「それはもう、しょうがないんだ…」
「何がしょうがないよ、さっきからしょうがないばかり言ってるじゃない!自分をちょっとは大切にしなさいよ!」
氷野さんは必死になって僕を怒った。
「氷野さん、僕は自分を大切にしてきたよ。なるべく死期を早めないために疲れないようにした。時間が経てば治るかとも思った。けど、どうにもならなかった。ただ、死期が少し遠のいただけだった。それに、僕は人を大切に思ってはいけないんだ」
僕は、言っててとても心が苦しくなった。
「何であなたは人を大切に思っちゃいけないの?ただ、文武両道なだけじゃない!それなのに、神様は人に平等ってだけで大切な人を三人も失うことになるの?それだけでは飽き足らずに、自分の命さえも失うの?そんなの、神様は身勝手すぎるわ!」
「仕方ないじゃないか!僕だって普通に過ごしていきたかった、けど、こんな能力をもらってしまった…。普通の人よりも楽に過ごせたんだ、…その見返りがこれだよ。普通じゃないから、普通の人と平等にするために僕に代償を与えたんだ。僕だって、大切な人を作りたかった、親友と呼べる人だって作りたかった。努力だってしたかった。けど、こんなふうに生まれてきてしまったら、仕方ないんだよ!」
僕は、氷野さんの一方的な発言にムカついて、つい、大きな声を出してしまった。
「な、……何が仕方ない、よ!どれだけ賢くて、強くても、1人でできないことだってあるじゃない!なのに何で誰にも相談したり、協力しないのよ!」
氷野さんも大きな声で言ってきた。このやりとりを他の人が見たらどう思うのだろう。なぜか心の中はとても冷静だった。なぜだろう。初めてこんなにも大きな声を出して本音をぶつけたからなのかもしれない。生まれてきてから、本音を全て相手に伝えることなんてなかったからな…。
「確かに1人でできないことはたくさんある。だが、それでも、僕は誰かを大切には思ってはいけない!」
「何でそんなことを言うのよ!雪や両親が亡くなってから、試したこともないでしょう!」
「当たり前じゃないか!人を、大切な人を無くす気持ちを3度も味わえと言うのか!?そんなの、僕の命を無くすよりも辛いことだ!」
頬に何か温かいものが流れた。僕は頬を触ってみた。涙であった。僕が、気が付かないうちに泣いていたのか?生まれた時からそんなことなんて無かったのに。あぁ、今日は初めてのことばかり起きる。
「ほら!あなただって、大切な人を作りたいんでしょ!寂しんでしょ!なら、作ればいいじゃない!」
僕が?寂しい?何、その感情、知らない。でも、……………
「いいのかな、大切な人を最後くらい作っても…。少しでも、自分のために生きても…」
僕は、いつの間にか、心の中の言葉を外に出していた。
「いいのよ。大切な人を作ることは、誰にでも許されていることなのだから」
氷野さんは、いつの間にか泣き終わっていて、柔らかく笑顔を浮かべていた。僕も、氷野さんに釣られたのか、今までにないぐらいの笑顔を浮かべた。
次の日、僕は目を覚ました。泣き疲れたのか、起きると、昼だった。氷野さんは、どうやら帰ったようだ。あんなにも本音をぶつけれて、仮面の笑顔ではなくて、自然な笑顔も浮かべれた。なぜか、心が満たされている。これまでにない感情が浮き上がってくる。そして僕は思った。あぁ、死にたくないな。けれど、僕はもうすぐ命の灯火が消えてしまう。何で神様は僕にこんな能力を与えたのだろうか。別に僕は神様を恨んでいるわけではないが、欲を言えば、もう少し生きていたかった…………。
4月1日
僕は限界が近づいていた。とても頭が痛い。尋常じゃないくらいに痛い。けれど、我慢しなければ…。隣に氷野さんがいるから、心配をさせないように…。あぁ、どうしよう。頭が回らなくなってきた。それに、痛みも我慢できない。僕は頭を抱えた。どうしようもなく痛い。あれ?氷野さんが何か言ってる。何だろう。僕は耳を澄ませた。
「……くん……速水くん!」
「どうかした?氷野さん」
氷野さんが僕の手を握って、切羽詰まったような顔をしていた。けれど、そのおかげで少し冷静になれた。
「どうかした、じゃないわよ!すごく、…すごく痛そうよ」
どうしようって気持ちが手にとってわかるほど氷野さんは焦っている。
「うん。すごく痛い。けど、どうもできないんだよね。もう頭も正常に働いてないから、体のあちこちが変な動きしてるんだよね」
目が見にくいし、耳も聞こえにくい…。あぁ、氷野さんが何か言ってるけど、うまく聞き取れない。遺書とか、伝える相手がいないから書いてないんだよな。なら、今のうちに伝えとこう。氷野さんに…。
「氷野さん、聞いて。僕、もう限界が近いんだ。目もほとんど見えてないし、耳もあまり聞こえない。それに、体がうまく動いてない。だからね、伝えたいこと、伝えるね。明日、雪の命日でしょ。お墓参りとかお願いできるかな?それと、僕にとって、氷野さんは、大切な人になったよ。最後に、大切な人、作れてよかった。ありがとう」
それだけ言って、僕は目を閉じた。もう、体も動かない。耳も全く聞こえない。あぁ、もう少しだけ、生きていたかったな。その瞬間、何も聞こえないはずの耳元で誰かが囁いた。
「神様は人に平等なんだよ…」
そう、誰かがつぶやいたら、だんだんと頭の痛みが引いてきた。それに、氷野さんの声がだんだんと聞こえてきた。僕が恐る恐る目を開けると、氷野さんが僕の手を握って、泣いていた。
「氷野さん?」
「速水くん…?」
僕も氷野さんもキョトンとした顔になった。
「あれ?何で僕、死んでないんだ?痛みもない…」
その瞬間、氷野さんが抱きついてきた。
「ひ、氷野さん!?」
「よかった、本当に、よかった」
氷野さんが嬉しそうに泣きながら言った。
4月2日
僕は無事に退院した。医者は、あんなに疲労しきっていたのにこの回復は奇跡だと驚いていた。そして、今日は雪の命日だ。僕は雪の墓参りにきていた。雪の墓の前に氷野さんがいた。
どうやら、氷野さんは線香と和菓子を持ってきたみたいだ。
「そういえば、体の調子はどう?」
「体の調子はいいよ。強いて言うならば、前のように頭が良くないってことかな」
僕はさらりと特に何でもないように言った。
「本当!?それなら、私が勝てる可能性も…………」
氷野さんがぶつぶつ言い始めた。
僕は雪の墓参りをした。そう言えば、僕が死にそうな時に聞こえた
『神様は人に平等なんだよ』
という言葉の意味は何だったんだろう。良くわからないな。でも、あの声は…君だったんだろうね、雪。ありがとう。その時、風が吹いた。心地よい春の風だ。なぜか、その風に乗って
『どういたしまして』
という声が聞こえてきたような気がした。
「流唯!早く行くよ!帰りのバスに遅れる」
「わかった!今行くよ。雪㮈」
読んでくださりありがとうございました。
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