時と場合によりまして
朝食後、一抹の不安を感じつつ、身支度を整えた私はリーフさんと一緒に浄化の仕事へ出発しました。
まず向かう先はヴェルデ領の北です。
その辺りには牧草やトウモロコシなど、家畜の餌となる植物を栽培している農場があるそうです。
ヴェルデ領へ来た時と同じく、リーフさんの騎竜に乗せてもらってひとっ飛び。
やっぱり騎竜は速いですねぇ。
王家でも騎竜は飼育しているのですが相性的なものがありまして、私にはまだ相棒となってくれる騎竜がいないんですよ。
時折、リーフさんが騎竜の身体を撫でると「クルル」とご機嫌な声が聞こえてきます。
二人の間の信頼関係が伝わってきますね。
いいなぁ、私もいつか騎竜とこうなりたいものです。
「ミモザ様、あそこです」
そんな事を考えている間に目的地に到着しました。
見ると、広大な畑の大半を瘴気が覆っているのが見えます。
「なかなか色が濃いですね」
星の源泉を覆っていた瘴気と、同じくらいの濃さを感じます。
早急に浄化をしようと思いますが……侵入ルートはどこが良いかな。
「リーフさん、上からぐるりと一周してもらっても良いですか?」
「おまかせください」
私が頼むとリーフさんは快諾してくれました。
そのまま騎竜を操り瘴気の上空をゆっくりめに飛んでくれます。
「うーん、そうですねぇ。この感じだと……西側からの方が安全でしょうかね。……うん、よし。リーフさん、あそこに着地してもらえますか?」
「承知いたしました」
目星をつけた場所を指さすと、リーフさんは直ぐに進路を変えて、そちらへ向かってくれました。
狂犬とか暴走とか不安な要素はありますが、サッと応えてくれるのでありがたいですね。
そうして騎竜はゆっくりと地面に着地します。
降り立った時にほとんど振動を感じなかったので、だいぶ丁寧に着地してくれたみたいです。ありがたい事です。
リーフさんと騎竜に感謝しつつ私も地面に降りました。
「さて、それでは行ってきますので、こちらで少々お待ちくださいね」
「私も一緒に」
「ダメです。危ないので」
リーフさんがついて来てくれようとしたので即座に止めます。
するとリーフさんがショックを受けた顔になりました。
微妙に罪悪感を覚えますが、基本的に浄化の力を持たない者が近付くのはダメなのです。
「星の源泉の時はご一緒出来たのに……」
「あそこの場合は領主の許可がいるからですねぇ」
星の源泉は国が各地の領主に守りを託した場所です。その守り方は領地によって違うため、王族と言えど勝手に入るわけにはいかないんですよね。
だから昨日はリーフさんに案内していただきました。
ちなみに道中の瘴気は、本来であれば浄化した方が早いのですが、発生地点を浄化しない限りはずっと出てきますし。
そこの浄化でどれだけ体力を消費するか分からなかったので、抜け道を見抜いて進む方を選んだんですよね。
リーフさんにそう説明すると、
「ミモザ様の浄化を、すぐ傍で見守らせていただく事は出来ないのですね……」
酷くがっかりした様子で肩を落としました。ざ、罪悪感……!
「では上空から見守らせていただきますね」
しかしリーフさんは直ぐにキリッとした顔でそんな事を言いました。
へこたれませんね、この人。ひとまず瘴気に触れないなら良いでしょう。
お互いに納得(?)したので、いったんそこで別れて、私はゴーグルを装着して瘴気の中へ侵入開始しました。
そう言えば、何故ゴーグルをするのか説明していませんでしたね。
ゴーグルの役割からお察しの通り目を守るためと、もう一つは視界を確保するためです。
有毒な瘴気でなくても、色がついている靄があると周囲の様子が見え辛い。
瘴気の抜け道を見つける事は得意ですが、そのためには視界の確保が大事なんです。
さて、そんな事を考えている間に、まもなく瘴気の発生地点と思わしき場所が近付いてきました。
瘴気の発生地点を探す場合、基本的に色が濃い方へ進めば良いので見つけるのは案外簡単です。
逆に瘴気から逃げる場合は色が薄い方へ向かうのがベスト。
この辺りは浄化の訓練をしながら受けるテストに出ます。
「あ! あったあった、あそこですね」
濃い紫色の靄の中、地面から瘴気がゆっくり噴き出している場所がありました。
ビンゴ、あれが瘴気の発生地点です。どうやら今回は土の中にあるみたいですね。
瘴気が何から発生するかは完全にランダムなんですよ。
たまたま瘴気と相性の良い何かがあって、そこが瘴気に変質して発生する。
そういう感じです。
ちなみに昨日の星の源泉の場合は精霊結晶の真下の湖底でした。
「それでは浄化しましょうかね」
範囲が結構広いので、これは昨日より時間がかかりそう。気合いを入れて挑まねば。
よし、と小さく呟いて指先に浄化の力を纏わせ空中を軽く凪ぐと、キラキラとした光の粒が生まれます。
昨日結構使いましたけれど、今日も浄化の力は安定していますね。
酷使した翌日は不安定になったりするので、浄化の力を使う際はこの辺りも気を付けないといけない部分なのです。
私は、ふう、と一拍置いてから瘴気の穴を探し、光の粒こと浄化の力をそこへ注ぎ始めたのでした。