もしやこれがギャップ……?
ヴェルデ領へやって来て二日目の朝。
朝食の時間ですよと呼ばれてダイニングへ行くと、席が四つ用意されていました。
おや、と思いながら座って待っていると、ドアが開いてリーフさんがご両親と一緒にやって来ます。ヴェルデ領の領主アーヴィンさんと奥様のメリダさん。私の両親と同い年くらいのご年齢の方々です。
昨日と比べると顔色も良くなっていますね。目が合うと、三人はにこっと微笑んでくれました。
「おはようございます、ミモザ様」
「おはようございます、皆様。お身体の調子はどうですか?」
「ミモザ様のおかげで、こうして支えてもらえれば歩けるようになりました」
「こんなに身体が軽いのはずいぶん久しぶりです。本当にありがとうございます」
アーヴィンさんとメリダさんはそう言って一緒に頭を下げました。
浄化が効いたようで何よりですね。
こんなにお礼を言われると照れてしまいますけれども!
挨拶を交わすと三人も席につきました。家族で食卓を囲むというのはうちの家族にとっても普通の事なのですが、いつもよりも人数が少ないので不思議な気分になりますね。
和やかに会話をしながら私達は食事を始めました。
本日の朝食はベーコンエッグとふわふわのパンに野菜スープです。
いいですね、こういう『ザ・朝食!』って感じのメニュー。
たまに兄姉に連れられて地方へ視察に出かけると、とんでもなく豪華な朝ご飯とか出していただく事がわりとあるんですが……朝からがっつりとしたお肉はさすがに胃が……しんどくて……。
しかし出されたものを残すなんて真似は出来ません。頑張って食べました。
その結果一日ダウンしていました。悲しい思い出。
そんな記憶をふっと浮かべながら朝食をいただきます。美味しい。
昨日の歓迎会で出していただいた料理も美味しかったんですよね。
こちらのお屋敷の料理人の味付け、とても好きです。最大で一ヶ月ほどの滞在になるので、食事の好みが合うのはとてもありがたい。
「ミモザ様、ベーコンエッグは何でお召し上がりになりますか?」
「あ、ではお塩を……」
「承知いたしました。こちらを」
そう言ってリーフさんは私に塩の小瓶を渡してくれました。
「お飲み物のおかわりはいかがですか?」
「あ、では一杯……」
「承知いたしました」
さらに香茶まで淹れてくれました。
実はリーフさん、昨日からこんな調子なんですよ。
まるで執事のように色々と私に世話を焼いてくれるんです。
さすがに気を遣ってくれているんだろうな、と思いながら見ていると目が合いました。
リーフさんはにこっと微笑んでくれます。
……義務と言うよりは、楽しんでやってくれているっぽさはありますね?
「ミモザ様、本日はどちらへ向かいますか?」
「あ、そうですね。瘴気の被害状況や場所の記録はつけてらっしゃいます?」
「はい、もちろんです」
サッとリーフさんは答えてくれました。
リーフさんやリーフさんのご両親は真面目な方々なので、つけてくれているだろうなと思っておりましたが、やはりそうでした。良かった。
普通は記録すると思うでしょう?
それがね、ずぼらだったり大雑把な性格の領主だと、しっかりと記録していない場合があるんですよ。
そういう領主の場合は部下の方がしっかりしてるので何とかなっているんですが、昔は何も記録していない領地もあったんですよ。お父様が頭を抱えていました。
おっと、少し逸れてしまいました。話を戻しますね。
瘴気の被害状況について記録があると、浄化をする際の参考になるんです。
有毒の瘴気は基本的に自分では移動は出来ませんが、量が増えると押し出されて行くので、そうやって被害は広がって行くんです。
なのでまず瘴気の発生地点を浄化して、新たな瘴気の発生を防いだ上で隣接する場所の瘴気を浄化する――というのが一番確実な流れなのです。
そのため記録をつけていただいていると大変ありがたい……というのが王族側の心情。
「助かります。ではそれをヴェルデ領の地図に記入して、順番に浄化して行きましょう。被害が大きい場所から始めますので、どこからが良いかご意見を聞かせてください」
「承知いたしました。直ぐに準備いたします!」
私が頼むとリーフさんが元気に答えてくれました。
やる気いっぱいで何よりと私が思っていると、
「リーフ。張り切っているのは分かるが、少し落ち着きなさい」
「ミモザ様、先ほどからリーフが申し訳ございません」
ご両親からそう謝罪されてしまいました。
「ええっと……?」
謝罪の理由が分からず首を傾げます。
「リーフからミモザ様に忠誠を誓ったと聞きました」
「あ、はい。昨日……」
「恐らくご迷惑をおかけする事になるかと思います。ですので先に謝罪させていただきます。誠に申し訳ございません」
未来で起こるらしい事を謝罪されてしまいました。
確かに忠誠を誓っていただきましたが、迷惑とは一体。
「リーフは真面目で、親の贔屓目はありますが何でも卒なくこなす優秀な子です。ですが、その……一途というか、狂犬のような部分がありまして……」
「…………」
きょうけん。普段なかなか聞かないお言葉。
「ですので暴走するかと……」
「は、はあ……」
確定なのですか、それは。
返事の仕方が分からず、やっとそれだけ口から出ました。
一番近くで見ているご両親から、そう評されるのですから実際にそうなのでしょうけれど……何となくリーフさんに抱いていたイメージとは違いますね。
「ミモザ様。こうなったら私達でもなかなか止められません。ですがミモザ様の言う事ならば必ず聞きます。ですので……倅を上手く使ってやってください」
「暴走さえしなければ問題なくお役に立てると思います」
ご両親はそうも言いました。なかなかな言い様です。
……い、イマイチ良く分かりませんが、もしかして私は大変な人に忠誠を誓っていただいたのではないでしょうか?
若干、ひやりとしながらリーフさんの方へ顔を向けると、
「何なりとお申し付けください」
なんて、とんでもなく良い笑顔で言われてしまいました。
……だ、大丈夫ですかね?