星の源泉と浄化方法
星の源泉とは精霊が生まれる場所の事で、コローレ王国の各領地それぞれの地下に存在しています。
実のところ各領地は星の源泉を守るために作られていたりします。
もちろん王城の地下にもありますよ。
星の源泉がどんなものかと言うと、地底湖みたいなものを想像してもらえれば分かりやすいと思います。
小さめの規模の地底湖。その中心に『精霊結晶』と呼ばれるキラキラと輝く大きな水晶が浮かんでいるというのが星の源泉の見た目ですね。
さて、それでヴェルデの星の源泉はどこにあるかと言うと、こちらも屋敷の地下でした。
屋敷の奥に分厚い扉があり、そこを開けると地下へと続く階段が現れます。この扉は瘴気を防ぐ魔術具ですね。開いたとたんに薄っすらと紫色の靄が漂ってきました。
人間であればこの靄に長時間触れると体調を崩してしまいます。
濃度にもよりますが、このくらいの靄なら三十分というところでしょうか。
「リーフさん。私が歩いた通りに進んでください」
「え?」
私はそう言うとゴーグルをかけて、リーフさんの返事を待たずに靄の中を歩き出します。
危なくないのかって思います?
実は瘴気ってね、毒のあるところと色だけのところの二種類が存在するんです。ぱっと見ただけでは見分けがつきにくいんですけどね。
私はその見分けが得意なんです。
「…………これは」
歩きながらリーフさんは不思議そうに呟きました。
「苦しさは大丈夫ですか?」
「まったくありません。瘴気の中を歩いているのに、どうして……」
「瘴気も全部が毒を持っているわけじゃないんです。基本的に風に乗って漂うような軽いものには毒がない、と考えてもらえば大丈夫ですよ」
私はリーフさんにそう答えます。
毒を含めば含むほど瘴気は動かなくなる。だからもしも瘴気に覆われても、落ち着いてそれを見極めなさい――今は亡きおばあ様から私はそう教えてもらいました。
「私ね、そういう瘴気の抜け道を見つけるのは、兄弟の中では一番得意なんですよ」
浄化の力の訓練を人より長くしていたから、瘴気と向き合う時間も増えました。
だからこそ分かるようになったんです……なんて言ったらちょっとかっこいいですかね?
そんな事を心の中で呟きながら前へ進み、やがて私達は星の源泉へと辿り着きました。
淡く光る、地底湖のような湖。その中央に宝石のように透明に輝く精霊結晶が浮かんでいます。
あそこから精霊が生まれます。
精霊結晶からは水のようなものが滴り、ポチャンと一定の感覚で湖に落ちていますが、あれにも精霊の力が籠っています。
この湖の水に見えるものはすべて精霊結晶から生まれたもの。それがここから大地に染み渡って、土地を豊かにするのです。
……それにしても瘴気が濃いですね。精霊結晶周りが特に酷い。
ちょっと神話の話をしますが、精霊と瘴気って相性が悪いらしいんですよ。
今でこそ瘴気ってただの靄に見えますけれど、昔は同じように形があって、精霊と大喧嘩をしていたそうです。
自然を司り守る精霊と、自然の悪い部分を枯らし取り除く瘴気は、考え方の違いで仲が悪かったのです。
それが悪化して、私達の言葉で言うところの戦争が起き、結果的に精霊が勝利したため瘴気は形を失いました。
しかし消滅はしておらず、今もこうしてその続きをしているのですーーというのがこの世界に伝わる神話の一つ。
実際にどうだったかは分かりませんが、精霊結晶周りは特に、精霊の年がくるたびに結構酷い状態となるのですよね。
「それでは早速浄化を始めます」
「よろしくお願いいたします」
リーフさんに宣言して、私は湖に一歩足を踏み入れます。
春先だとやっぱり寒いですね。もしも冬に星の源泉の浄化に来る時は、小船などを持ってこないと無理かもしれません。
そんな事を考えながら私は精霊結晶へ近付いて行きます。
そうして湖の真ん中くらい――ちょうど腰まで水に沈んだ辺りで足を止め、私は浄化の力を使い始めました。
指先に浄化の力を纏わせて軽く凪ぐ。するとキラキラした光の粒がたくさん生まれ、空中に浮かび上がります。
その様子はまるで星のように見えます。浄化の力を星屑のようだと昔の人は言ったそうですが、その表現は的確だったなと思いますね。
それでは瘴気の浄化をして行きましょう。
まずは瘴気の穴を見つけます。
先ほども言いましたが、瘴気には毒を持つ部分と持たない部分があります。
最優先で浄化するのは毒のある部分ですが、そこにも違いがありまして。
実は瘴気には、浄化が効きやすい弱点とも言える穴が幾つか存在しているのです。
私の浄化方法は、その穴に浄化の力を注いで、瘴気の内側から瘴気を浄化するというもの。
瘴気の内側には目に見えない血管のようなものが張り巡らされているんですよ。なので穴から浄化の力を注いで、血管を通して全体へと送る。それが私が取っている浄化の方法です。
ま、浄化の力が強ければ、そんな事をしなくても一気に出来るんですけどね。
でも、私にはこの方法が一番合っていました。力の弱い私でもこれならば浄化の仕事が出来るのです。
穴を見つける事と、そこへ浄化の力を注ぐ訓練はなかなか難しくて、それで時間がかかりましたけれど、おかげで瘴気の抜け道を見つける目も鍛えられました。何事にも無駄な事なんて一つもありませんね。
さて、そんな事を思い出しながら浄化を続けます。
瘴気の穴に浄化の力を注いでいくと、瘴気はゆっくりと消え始めました。
うん、良い感じですね。
精霊結晶の方へも浄化の力を送っていけば、特に抵抗なくするりと中へ入り、浄化を進める事が出来ました。
そんなこんなで、完全に瘴気を浄化し終えるまでには三十分ほどかかりました。
家族ならもう少し早いのですが、私の場合はこの規模だとこれが最速です。
「……すごい」
リーフさんが呟く小さな声が耳に届きました。
褒められてちょっと気分が良くなります。自分がこれまで必死にやって来た事が報われた気分になりますから。
「ありがとうございます、ミモザ様!」
湖の岸まで辿り着くと少し興奮した様子のリーフさんからお礼を言われました。
喜んでいただけたようで何よりです。
「上手く行ったでしょう?」
「はい! ……これまでに何度か浄化に同行した事があるのですが、こんなに穏やかで美しい浄化は初めて見ました」
「んっふふ。私は浄化の力が弱いので、パッと使ってパッと消し去る事はどう頑張っても出来ないんです。その代わりに丁寧さを磨いたんですよ」
「丁寧さですか?」
「ええ。こんがらがった糸を解くというか、針の穴に糸を通すというか……そんな感じ」
力が弱いなら技術を磨けば良い。
そうアドバイスしてくれたのも私のおばあ様でした。
今でこそ浄化の力が強い王族が多いけれど、昔は私のように力の弱い人がほとんどだったそうです。
浄化の力の訓練をしながら、私はご先祖様の残した本を読み漁って、技術を磨く事を選びました。
その成果がこの浄化なんですよ。
「…………」
そんな事を説明してたら、リーフさんが少し呆けた顔になりました。
どうしたんでしょうか。私が首を傾げていると、
「もしかして、ミモザ様の浄化は……人の身体の浄化も可能なのでしょうか?」
リーフさんからそう訊かれました。
……なるほど?
何となくリーフさんの言わんとしている事が分かった気がします。
「どなたか瘴気に侵された方がいるのですか?」
「はい。――私の両親です」