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瘴気の沙汰も浄化次第  作者: 石動なつめ
第五章 落ちこぼれ

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思ったよりも長かった


 次に目が覚めると、そこはヴェルデの領主のお屋敷でした。

 私はベッドで寝かされていて、目の前にはお借りしている客室の天井が見えます。

 穴の底で倒れた私を、救助隊の方が助けてくれたのでしょうね。


 後でちゃんとお礼を言わなければ。

 そう思いながら身体を起こそうとした時、思ったよりも自分の身体が重くてだるい事に気が付きました。


 ああ、やっぱりオーバーワークですね。

 これまでにも浄化の力を使い過ぎて、ダウンしてしまった事は何度かあります。

 その時も今のように身体のだるさを感じたのですが、今回が一番しんどいかも。

 瘴気の浄化に力を使い果たしたというのもありますが、瘴気を少々吸ってしまったのがまずかったのだと思います。まだ少し、喉が痛みますし。


 それでも身体にそれ以外の不快感は感じないので、たぶん瘴気は体内から消えているようです。

 けほ、と軽く咽ていると、


「……ミモザ様?」


 部屋の外からリーフさんの声が聞こえました。


 おや、と思ってベッドから立ち上がると、私はドアの方へと近づきます。

 そしてそっと開けると、ドアのすぐ横でリーフさんが、壁に背中をつけて座っている姿が見えました。

 床に膝をついて少し態勢が崩れているのを見ると、動こうとしていたところなのかもしれません。


 目が合うと、彼はほっと息を吐き、表情を和らげました。


「ミモザ様、良かった……。目を覚まされたのですね」

「おはようございます、リーフさん。どうしたんですか、こんな場所に座って」

「長い時間、まったく目を覚ます様子がなかったので心配で……」

「長い時間ですか?」


 目を瞬きながらそう訊くと、彼は小さく笑って「実は今、夕方です」と教えてくれました。

 えっと思って窓の方へ顔を向けると、確かにガラス越しに夕焼けの空が広がっています。


「あれから丸一日経っているんですよ」

「丸一日っ!?」


 続いて聞こえた予想外の言葉に私はぎょっと目を剥きました。

 浄化の力を使い過ぎてダウンした事はありましたが、さすがに丸一日眠っていたのは初めてです。

 はぁー、と息を吐いて、私はリーフさんと視線を合わせるため隣にしゃがみました。


「思ったよりも時間が経っていて驚きました……。とんだ寝坊助さんですね、私。ところで、リーフさんは怪我の具合はどうです?」

「街へ戻って直ぐに治療していただいたので大丈夫です。医師が、応急処置が的確だったと言っていました。ありがとうございます」


 にこっと笑うリーフさん。

 その笑顔を見ると、勉強した事が役に立って良かったなと思います。


「いえいえ。私も助けていただきました側ですのでね! ……あ、パメラさんとジェナさんはどうですか?」

「二人も無事です。負った怪我も擦り傷くらいで、痕にはならないそうです」

「良かった……。嵐は通り過ぎたようですし、もう帰られました?」

「いえ。ミモザ様にお詫びをしたいとまだ滞在しています。それにパメラの今の精神状態で、騎竜に乗せるのは危険だと判断しました」


 なるほど、と私は頷きます。

 騎竜に限らずの話ではありますが、平静でない時に生き物の背に乗るのは危険ですからね。

 それにしても、お詫びですか。私は「うーん」と唸ります。


「私への謝罪は特に不要なのですがね。被害を受けたのはヴェルデ領で、私ではありませんし」

「ミモザ様は力の使い過ぎで倒れたのでしょう?」

「あ、はい」

「その事についても気にしている様子でした」

「なるほど?」


 あれは仕事の一環なので、そんなに気にしないでも良いのですけどねぇ。


「うーん。本当に構わないのですが……謝罪する事でパメラさんの気持ちが落ち着くのなら聞きましょうかね」


 そう言うとリーフさんは小さく笑って「そうしてやってください」と言いました。

 リーフさん、パメラさんの勢いにうんざりしている様子ではありましたが、心から嫌っている風でもなさそうですね。


 そんな事を思っていると、リーフさんは私の真正面に移動し、居住まいを正して頭を下げました。


「ミモザ様。私とパメラ、そしてヴェルデの民の命を助けていただき、本当にありがとうございます」

「いえいえ。お礼を言うのは私の方ですよ。あのまま穴の底に倒れたままだったら、溺死するところでした。ありがとうございます」


 自分で言っておいて何ですが、そう言えばそうなっていたかもしれませんね。

 一人きりで穴の底にいて、雨水で埋まってしまっていたらと考えると、今更ながら身震いがします。

 今度からは同じ状況下で浄化をする場合は、浮力のあるものを身に着けなければ……。


「私も良い勉強になりました。次に生かせそうです」

「…………」


 するとリーフさんがぽかんとした顔をして、直ぐに穏やかな笑みを浮かべます。


「ミモザ様は本当に前向きな方です」

「――――」


 そんな彼の言葉に、穴の底でした会話がふっと蘇って来ました。


「んっふふ。でしょう?」


 何だか嬉しくなって、私はちょっとだけ胸を張ってそう答えたのでした。


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