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瘴気の沙汰も浄化次第~落ちこぼれ姫君は意外と仕事が出来るんです~  作者: 石動なつめ
第五章 落ちこぼれ

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前向きなのは副産物


「んっふふ。でしょう!」


 褒められて、私はこにこと笑い返します。

 リーフさんは相変わらず私に対する判定がゆるい気がしますが、好意的な言葉や感情をいただくのは嬉しいです。

 そんな事を思いながら私は鞄から救急セットを取り出し、彼の怪我の応急処置を始めました。


「……っ」


 少しだけリーフさんの身体を動かすと、彼の顔が僅かに歪みました。

 ……やっぱり痛むみたいですね。

 これは話をしながらの方が、痛みから気が紛れるかもしれません。


「実はですね、昔の私は結構、後ろ向きだったんですよ」


 先ほどの流れを引き継いで話すと、リーフさんは目をぱちぱちと瞬きました。


「ミモザ様がですか?」

「見えないでしょう?」

「はい」


 お道化た調子で言ったら、リーフさんは真面目な顔で頷きました。

 素直に返されてしまって私はちょっとだけ笑います。


「浄化の力が弱い落ちこぼれ。陰でそう言われているのは知っています。ま、それは実際に事実なのですけれど」


 私はそう前置きして昔話を始めました。


 私の家族は皆それぞれに強い浄化の力を持っています。

 特に父なんて稀代の才能と言われるほど。

 その父の血を引くお兄様達もまた、伸びしろのある強い力を持っていて、いつかはお父様を越えるのではないかと期待されています。

 だから私が生まれた時も、きっと同じように強いと思われていたそうです。


 けれど、蓋を開けてみたらこう(・・)でした。


 力の強い家族の中で、私だけが弱い。

 落ちこぼれだと言われてしまうくらいに、私だけが弱かったのです。


「どうして私は皆と違うの?」


 小さい頃は頭の中にずっと、その言葉が浮かんでいました。

 頑張っても頑張っても力はちっとも強くならない。

 その事実が辛くて、一人でこっそり泣いた事だってありました。


「きっと大丈夫ですよ、いつか強くなります。そうやって励ましてくれていた人達が、陰で私の事を落ちこぼれだと言っていると知った時は、これが結構落ち込みましてね」

「……それはそうでしょう。そんな心無い事を言われれば、辛くなって当然です。その場に私がいたら叩き斬っていたのに……」


 少し怒った口調で、だいぶ物騒な事をリーフさんは言います。

 たぶん、その場にいたら本当にしそうですね、この人。

 叩き斬られたら困りますが――リーフさんの気持ちは素直に嬉しい。


「んっふふ。ありがとうございます。……私の家族もね、そのたびに怒ってくれるんですよ。そして根気強く訓練にも付き合ってくれたんです」


 キルシュお兄様達が私への陰口に過保護なくらい反応をするのはそこが理由です。

 そんな家族の姿を見ていたら、少々やり過ぎになっているのを必死で止めていたら、気付いたら何を言われても、そんなに落ち込まなくなりました。


 家族がずっと傍にいて、私を信じて、励ましてくれた。

 そんな優しい環境にいなかったら、きっと途中で全部を投げ出していたと思います。

 もしかしたらグレていたのかもしれませんね。

 うーん、困りますね、王族がグレたなんて。想像してちょっとおかしくなってしまいました。


「だから頑張れただけなんですよねぇ。前向きになれたのはその副産物なんですよ」

「…………」


 するとリーフさんが困惑した表情になります。


「どうしました?」

「……だけ、じゃないですよ」

「え?」

「どうかご自分の努力を、だけなんて言わないでください。あなたのその努力が、私達を救ってくれたのですから」


 リーフさんは真剣な眼差しでそう言ってくれました。


「――――、え、あ……」


 思わず言葉に詰まってしまいました。

 彼の言葉が、気を遣って言ったものでない事が分かったからです。


「…………」


 どうしましょう。

 そんな風に言ってもらえるとは思わなくて。

 それがあまりにも予想外の言葉だったから。


 ――嬉しくて。


 不意打ちです。とんでもない。

 心構えが出来ていなかったせいで、思ったよりも衝撃を受けて、目の奥がじわりと熱くなります。

 次いで涙がせり上がって来て、じわりと視界がぼやけ始めました。


「ミモザさ……」


 私が急に黙ったものですから、リーフさんは心配そうにこちらを見ました。

 しかし、その目に飛び込むのはボロボロ泣いている私でして。


「わあ!? えっ、あの、えっ、うぐ……」


 ぎょっと目を剥き慌てて起き上がろうとして、リーフさんは傷の痛みに呻き声を上げました。


「だ、大丈夫ですか、リーフさん」

「わ、私は……何とか、それよりもミモザ様、申し訳ありません。泣かせるつもりはなくて……」


 リーフさんはあたふたしながらそう言います。


「急にそんな事を言われたもんですからね、もー!」


 私は泣き笑いを浮かべながら、照れ隠しにそう言って、


「……ありがとうございます、リーフさん」


 そしてちゃんとお礼を言いました。


 何だかリーフさんには嬉しい気持ちをたくさんいただいていますね。

 精霊の年のパーティーで私を希望してもらえた時も嬉しかったですし。


「元気が出ました、頑張れますよ! という事で応急処置完了です!」


 私は服の袖で顔をぐいっと拭くと救急箱を鞄に戻し、瘴気の浄化を再開します。

 そうしていると穴の上の方から人の声が聞こえ始めました。

 ソイルさんっぽい声もしますね。ジェナさんが領都へ向かってからそう時間は経っていないので、途中で合流する事が出来たのでしょう。


 ならば次にやる事は決まりました。彼らがここへ辿り着くための道を作る事です。

 浄化を進める向きを変えると、いつもより多めの配分で力を使います。

 ちょっと無理をする形にはなりますが、救助が長引くのは全力で回避しなければなりませんから。


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