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瘴気の沙汰も浄化次第  作者: 石動なつめ
第一章 ヴェルデ領の領主代理
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先手を打った方が良い


 ヴェルデ領に滞在中は、私は領主のお屋敷でお世話になる事になります。

 用意してもらった部屋に荷物を置くと、私はまるで探検家のような服に着替え、対瘴気用ゴーグルを身に着けてリーフさんのところへ向かいます。


「ミモザ様、その恰好はどうされたのですか?」

「はい、浄化用の装いです。夜までまだ時間があるので、早速始めようかなと思いまして。場所を教えていただけますか?」 


 私がそう頼むとリーフさんは目を見開きました。

  

「それは……大変助かりますが、移動でお疲れではないですか?」

「いえいえ、全然! 馬車よりずっと乗り心地が良かったです!」


 揺れないし、座り心地も良かったし。恐らく身体に負担がないように良い感じにしてくれていたのだと思います。

 まぁ、普段お休みしている筋肉を使った気がするので、明日辺りは筋肉痛がやって来るかもですけれど。


「なので全然行けますよ。これは別に無理をしているわけではありません。思惑はちょっとありますけれど」

「思惑ですか?」

「信用してもらうなら早めに動いた方が良いと思いまして」


 私は人差し指をピンと立ててそう言いました。

 

 リーフさんがどんな理由で私を希望してくれたのかは分かりません。

 それが良いものか、悪いものかすら知りません。

 けれども一つだけはっきりしている事があります。

 それは私の評判。


 何度も言っていますが、私の世間の評価は浄化の力が弱い落ちこぼれの王族。

 それは別に領主とか、その周りの方々だけが(・・・)言っているわけじゃないんですよ。

 ミモザ・コローレは浄化の力が弱い。

 それはコローレ王国の国民ならば知らない者はいないお話。

 だからもちろんヴェルデ領の人達だって当然知っているはず。

 

 精霊の年を迎えるにあたって、リーフさんが王族の誰を希望するかは、恐らく側近や家族と相談はしているでしょう。

 しかし、それを領民に伝える事はたぶんしていない。


 その事で領民と揉めると厄介ですからね。

 瘴気を浄化するなら力の強い人が良いと考えるのは当たり前の事ですから。

 私だって一般市民だったらそう思いますよ。


「誰が来るかとワクワクしながら待っていたら、やって来たのは落ちこぼれ。それはそれはガッカリする事でしょう」

「そんな事は……」

「正直に」

「……はい」


 リーフさんは頷きました。でしょうね、と私は苦笑します。

 

「自分の事は自分が一番良く分かっておりますので、先ほどお話した通り、気を遣っていただかなくて大丈夫ですよ」

「いいえ。私が望んで来ていただいたミモザ様に、そんな失礼な事は出来ません」


 そう言って彼は首を横に振ります。本当に真面目な人です。


「話を戻しますが、そうなるとリーフさんがどれだけ慕われていたとしても不満は出ます。なのでその前に手を打っておきたいんですよ」

「瘴気を浄化して、問題なく行える事を示す……という事ですね」

「そういう事です。皆さんからどう思われようが私は浄化の仕事を完遂するつもりでいますけれど……ほら、やっぱりね。しばらくご厄介になるなら居心地の良い方がいいですからね!」 


 冗談を混ぜつつ胸を張ります。

 するとリーフさんはくすくすと微笑みました。


「……承知いたしました。では直ぐにご案内いたします」


 リーフさんはどうやら納得してくれたようです。良かった良かった。

 そう思っていると、


「リーフ様ー! リーフ様ここですかー!? 失礼します!」

「リーフ様、姫様が来たんですよね!? なら早く早く、打ち合わせしましょー!」

「坊っちゃん。歓迎会の確認をお願いいたします」


 使用人らしき服装の数人が、元気に部屋へ飛び込んできました。

 大変賑やかです。砕けた口調の雰囲気から仲の良さが伝わってきます。

 

「ま、待て、お前達! 落ち着け!」

「これが落ち着いていられますか! だって、姫様なんですよ? 見たい!」

「見たいじゃなくて、見られている!」

「……え?」


 リーフさんが大慌てで私の事を教えると、使用人達はこちらを見てポカンと口を開けて固まりました。

 そしてみるみる顔を真っ赤にして、


「し、失礼、しました……」


 小声で、すすす、と部屋を出て行ってしまいました。

 別にいいのになと思いながら見送っていると、


「ミモザ様、その……大変失礼いたしました」


 リーフさんが申し訳なさそうに言いました。


「いえいえ、仲が良いのは何よりです。大好きですよ、そういう雰囲気って」


 これは本心です。私自身、仲良しな家族の中で育ちましたから、そういう温かさを感じられる関係は大変好ましく思います。

 その反対は苦手ですね。ギスギスした雰囲気って、心臓がキュッとなりますから。

 

「ところで歓迎会ですか?」

「はい。夕食の時に……」

「んっふふ。それは楽しみです」


 本当はサプライズとかにしたかったんですかね?

 何となく、そんな雰囲気が感じられました。

 ひんやりした視線を向けられる事を覚悟して来たので、初日から歓迎モードだと逆に緊張しますね。頑張らねば。


「それではミモザ様、私の準備が出来次第ご案内させていただきます」

「よろしくお願いいたします。それで、まずはどちらに?」

「はい。『星の源泉』の浄化をお願いしたく存じます」


 私が質問するとリーフさんはそう答えてくれたのでした。

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