惨状
煙が立ち昇っていたのは、やはり、ちょうど浄化を予定としていた場所でした。
小麦を栽培している広い農場です。近くには小麦を保管する倉庫もあったはずです。
煙はその小麦畑のちょうど真ん中から出ていました。
小麦畑の中央付近には大きな穴が開いており、そこから瘴気が勢い良く噴出しています。
また、近くの倉庫は半壊。恐らく小麦を入れた袋が破れたのでしょう、もくもくと白い粉が舞っています。
さらに周辺の植物や木々には火がついてパチパチと燃えていました。
「これは……」
その惨状に思わず声が出ました。
これは酷い。唖然としながら周囲を見回していると、穴の近くにジェナさんが倒れているのを見つけました。
「ジェナさん! 大丈夫ですか!?」
馬から降りて、大急ぎで駆け寄り声をかけると、彼女は小さく呻き声を漏らして薄っすらと目を開けます。
顔や身体は土や煤で汚れていますが、ひとまず目視出来る範囲に出血は見られません。
「ミモザ、様……」
「痛みはありますか? お怪我は?」
「だ、大丈夫です……私の方は……」
ジェナさんはよろよろと身体を起こしてそう言いました。
「一体何が起きたんですか? 爆発したような音が聞こえましたが」
「……パメラ様が魔術具を使ったのです」
ぐっ、と苦しげにパメラさんは言いました。
嫌な予感はしていましたが、やはりあの爆発音はそうだったようです。
「どのような魔術具ですか?」
「瘴気を一時的に凝縮させ、それを特殊な炎で一気に燃やす……というものだとパメラ様は仰っていました」
「なるほど」
ジェナさんの質問を聞いて私は軽く頷きます。
瘴気を凝縮、という辺りはエマさんやローウェルさんの魔術のような感じでしょうか。
それを特殊な炎で燃やす……と。
確か強い火には浄化の力があるのではと言われていますが、よほどの高温でないと難しいと聞いたも事があります。
ですが、それでこの規模の爆発となると……魔術具そのものが爆発したのか、それとも何か別の要因があるのでしょうか。
そう考えていた時に、ふと、半壊した倉庫が目に入りました。
……そう言えば粉塵爆発って、ありましたよね。
もしかしたら落ちていた小麦粉ごと瘴気を凝縮して、そこに火が入る事で、粉塵爆発が起こりうる条件が達成されてしまったのではないでしょうか。
ここまで威力が強いと、魔術具自体の爆発も含まれているのかもしれませんね。
心臓が、嫌な音をたてて鳴り出します。
「リーフさんとパメラさんは……まさか」
「いえ、爆発には巻き込まれていませんでした。リーフ様が守ってくれて……。ですが、その後でお二人共、穴の中に落ちてしまって……」
「っ、そうですか……!」
額から汗が流れ落ちるのを感じました。
爆発の直撃を受けなかったのは幸いです。
しかし、この勢いの瘴気が蔓延している穴の中に落ちたとなると、早急に助け出さなければ命に危険が及びます。
……心臓が痛い。
胸に手を当てて一度深呼吸をした後で、私はジェナさんの顔を真っ直ぐに見ます。
「ジェナさん、動けますか?」
「はい、大丈夫です」
「ではお願いがあります。領都へ戻って救援を呼んでください。領主ご夫妻か、領主の弟でソイルさんという方がいますので、彼らに頼めば直ぐに動いてくれるでしょう。私は穴へ降りてリーフさん達の救助と、瘴気の浄化を行います」
私がそう言うとジェナさんは目を見開きました。
「で、ですが、それではミモザ様が危険では……!」
「ジェナさん。こういう時のために私達がいるのですよ」
コローレ王家はコローレ王国の民のためにある。
私達は守られるべき存在ではなく、国民を守る存在だ。
それが私が幼少の頃からずっと、祖父母や両親から教わってきた言葉です。
出来る力があり、やれる事があるなら動く。
それが足手まといとなるなら別ですが、そうでないのならば。
危険であるという理由だけがあるのならば、私達には関係がないのです。
「――っ! 分かりました!」
ジェナさんは、はっとした顔になると立ち上がり走り出します。
少しふらついているのは心配ですが、街道を進んで領都を目指せば誰かしらに出会えると思います。
あの爆発音は大勢に聞こえたでしょうし、様子を見に来る人がいてもおかしくはありません。
ジェナさんにはああ言いましたが、領主ご夫妻やソイルさんがあの音を聞いていれば、すでに動いているでしょう。
救援を呼んで欲しい気持ちはありますが、瘴気が噴き出している現場から、爆発の影響で不調であろう彼女を避難させたいのが本当のところだったりします。
「――さて、それでは行きますか」
ジェナさんを見送った後、私は指先に浄化の力を纏わせて穴へ向かって進みます。
パメラさんの魔術具は、瘴気を一時的に凝縮させられると言っていましたが、やはりエマさん達の魔術と良く似ていますね。
瘴気の穴が見つからない。ぐちゃぐちゃになっています。
「ひとまず下へ降りられるくらいの道を作る事が出来れば……」
そう呟きながら私は穴の周りをぐるりと歩いて様子を見ます。
すると一か所、比較的傾斜の緩めな場所がありました。あそこからならギリギリ降りる事が出来そうです。
降りる前に、近くに落ちていた石で『ここから下へ降ります』とメッセージを残し。
ゴーグルをかけて、私は穴の中へと足を踏み入れました。




