ツンデレってこういうのでしたっけ
火の始末を終え領都に戻った頃には、街の中央に立つ時計塔の針が十三時を指しておりました。
どうりでお腹が空くはずです。
皆と一緒に昼食をと思ったのですが、身体が少々――いえ、だいぶ生臭い。
なので皆さんには昼食代だけお渡しして、私とリーフさん、ネイサンさんの三人は領主の屋敷へと戻りました。
乗って来た馬を厩舎に預けて屋敷の前まで行くと、そこにはリーフさんが手配していた馬車の準備が出来ていました。
馬は待ちくたびれたのか、ぽかぽか陽気に照らされて、ちょっとだけ眠そうにしています。
「うちで一番体力と力があって速い馬だ。夜にならない内にはセッピア領へ到着出来るだろう」
リーフさんがネイサンさんにそう言うと、
「そうか。感謝する、リーフ」
彼から素直なお礼の言葉が返ってきました。
とたんにリーフさんが固まります。
目を丸くして、ポカンと口を開けたリーフさんを見てネイサンさんが首を傾げました。
「おい。何だ、その反応は」
「いや、ネイサンからお礼を言われるとは思わなかったから……。もしかしてだが、初めてなんじゃないか?」
「うっ」
するとネイサンさんはバツが悪そうな顔になりました。
特に言い訳をしないところから察するに、実際にお礼を言ったのは初めてだったのでしょうね。
まぁ、これまでのやり取りを聞いていると、その光景がすーっと想像出来ますけれど。
以前にも言いましたが二人は同い年で同じ立場です。
さらにネイサンさんの領地がリーフさんの領地をライバル視しているとなれば、それはそれは関係がこじれる事でしょう。
もしも最初は本人が何とも思っていなかったとしても、親や周囲の大人達が抱く感情は良くも悪くも子供に伝染します。
ネイサンさんのご両親や側近達が、ヴェルデ領に対してきっとそういう感じだったのでしょう。
「くそっ、言うのではなかったよ!」
「ふふ。すまない。……こちらこそありがとう、ネイサン。浄化を手伝ってくれて」
そんなネイサンさんに向かって、リーフさんは柔らかい笑顔を浮かべてお礼を言いました。
「は……」
今度はネイサンさんがポカンと口を開けます。
それからわなわなと震えると、
「――――っ、べ、別に! お前達のためじゃないからな! キルシュ様にご報告するためだ!」
顔を真っ赤にして、指をつきつけ、そう絶叫しました。
「ああ、そう言えばそんな理由でしたねぇ」
確か、私の頑張りをお兄様に報告すれば喜んでもらえる、だったでしょうか。
「そうですね。あなたが感じた事を素直に伝えれば、ちょっとは機嫌が良くなるかもしれませんよ」
何となく微笑ましさを感じたので、今度は本当の意味で、ちょっとだけアドバイスをしました。
キルシュお兄様は真面目で誠実な人を好みます。
腹芸だの、言葉の裏だのを読まなければならない相手と接する機会が多いので、そういう部分を疑わなくて良い人はホッとするのだそうです。
その気持ちは私もちょっと分かります。
何と言っても私、浄化の力が弱い落ちこぼれだと陰口を叩かれておりますからね!
なーんて、ちょっと自慢っぽく言いましたけど。
慣れたから平気になっただけで、昔は結構落ち込んだんですよ、これでもね。
顔を合わせれば笑顔で褒められて、でも見えないところではこそこそと悪く言われている。
褒められて喜んでいたところでそれを知るのは、これが結構傷付くんです。
言った本人はその言葉を直ぐに忘れてしまうんですけどね。
そんな事を思い出していると、不意にネイサンさんの方から、ぐう、とお腹の虫が鳴く音が聞こえました。
「っ!!!」
ネイサンさんは両手でバッとお腹を押さえました。
先ほどよりも顔がさらに赤くなります。
働いたのでお腹が空いたんでしょう、分かります。
ふは、と私とリーフさんが同時に吹き出しました。
「~~~~っ! ち、ちが! 違います! これは、別に!」
「ミモザ様。ひとまずは着替えてから昼食にしましょうか」
「そうですね。私もお腹がぺこぺこです」
「ですから! ねぇ! 僕の話を聞いています!?」
「聞いていますよ~。今日のお昼ご飯は何でしょう」
「山菜のパスタだと聞いています」
「えっ、山菜……!」
ネイサンさんの目が輝きました。
山菜、お好きなようです。
わいわいとそんな話をしながら私達は屋敷の中へ入ります。
すると美味しそうな料理の香りが漂ってきました。私のお腹の虫も鳴きそうです。
――そうして、昼食を食べ終えた後。
ネイサンさんは馬車に乗ってセッピア領へ帰って行きました。
「……お世話になりました」
先ほどよりも素直な言葉を、少し照れた表情で言いながら。




