グリッチ
それは一瞬だけの出来事。
でも、絶対に起こった出来事。
どうして断言できるか、それはこの身に起こった出来事だから。
なんの変哲もない朝。
大学へ向かうために、家から出てバス停に向かっていた。
実家通いだったが、片道1時間半もかかって大学に通学している。
そうなると疲れてくるのは自明だ。
だから、それも最初は疲れたせいだと思った。
ただアスファルトの道を歩いていただけだったのに、フワッと何か落ちるような感覚を覚えた途端、そこの地面はコンクリートに変わっていた。
何かと思うまもなく、二歩目を踏み出すとじゃり道に、さらにもう一歩進むと、今度は土の道に変わる。
何が何だかわからない。
ようやく土の道で足を止めることができると、周りを見回す。
遠くの山は、まるでモザイクのように四角くなっている。
近くには誰もいない。
ただ、荒野をひたすらに土の道が一本、ずっと通っているだけだ。
いくつか民家らしき家が見えるだけで、人影はない。
戻ろうとして後退りをすると、踵で何かを踏みつける。
声を上げようとして、結局上げれず、そのまま体は何者かに羽交締めにされ、まるでバク宙でもしているかのように反転した。
気がついたら、バスの中で揺られていた。
何が起きたか、ただの白昼夢だったのかと思って再び眠りにつく。
後日、テレビのバラエティーショーを見て驚いた。
一瞬だけ人が現れては消える、それも同一人物が、という内容の映像。
場所は飛行場の滑走路、アメリカのどこかの農村、そしてヨーロッパの修行の道。
その映像に映っていたその人物こそ、俺に間違いなかった。