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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

前のめり

作者: 壱原 一

朝ラッシュの満員の地下鉄。


車両なかほどの座席前に吊り革を掴み立っていると、同じように数多の腕が並ぶ視界の右端の方で、誰かがくしゃみでも堪えたのか、びくっと前のめりになる影が見えた。


その影がいつまでも元に戻らず、進む車両が揺れるままゆらりゆらりと揺れている。


吊り革を掴む腕に体重を掛け、だらしなく背や腰を丸め、前の席に座る人の頭上を低く旋回する姿勢だ。


ちらりと視線を泳がせる。


くねっと頭をひねり倒して前のめりにこちらを見る人の顔と衝突した。


細く薄い眉を難しげに潜め、弛緩した風に目を見開き、線のような唇をぎゅっと噤んでほんのり突き出している。


どきっとしてただちに目を戻す。


他者の身じろぎや視線の動きに敏感な人は少なくない。まして今いる地下鉄のように閉ざされて不自由な空間では、危機察知の観点から否が応にも過敏になろう。


こちらの無遠慮な視線を牽制されたに違いない。


居住いを正した頭上からアナウンスが降り注ぐ。次が降車予定の駅なので、混雑しきりの車内から降りる算段を付けるべく、暗い地下鉄の只中で鏡と化した窓越しに右の乗降口へ目を流す。


くねっと胴をひねり倒して前のめりにこちらを向いている人の頭頂が映っている。


反射が鈍くて曖昧だが、位置からして同じ人のように見える。


じわあと不快感が広がって、同時に窓がぱっと白くなり、車両が駅へ滑り込んで乗降口のドアが開き降りる人達が降車する。


振り切る心地で左へ向かい、降りる人達に遅れないよう流れに紛れて車両を降りる。


真後ろに張り付く感じに続けて降りてくる人が居て、思わずスマホを見る振りをして壁に寄りその人を見定めた。


完全に普通の人で、ついて来た訳ではなさそうだ。


いや「ついて来た」ってなんだよとむず痒い唇を噛みしだき、スマホを仕舞って、発車して遠退く車両を横目に改札口へ顔を向ける。


すぐ右隣で


前のめりに



終.

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