情報共有と海上国家で起きた襲撃事件
「ただいま戻りました。」
アルスとエリスとヘスティアの3人が大部屋の扉を開け入ってきた。白はアルスとエリスに近寄ると、しゃがんで2人を抱き寄せた。
「お”か”え”り”~”。お”ね”え”ちゃ”ん”し”ん”ぱ”い”し”た”ん”だ”よ”~”。」
「それはこっちのセリフな気がしますが…」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。よしよし」
泣きながら言った白に対してアルスは普通に返すと、エリスは白の頭をなでた。そしてその後ろにいたヘスティアは部屋に入り席に着くと、アルスと白も席に着き、エリスは白の膝の上に座った。
「さて、情報を共有しておきたいのだけれど、まずは私たちの方であった事から話すわね。私とアルス、エリスの3人でブリーズの街で起きた窃盗事件の解決に行ってたわ。ま、結局アルスが全部やってくれたのだけれど…」
「確かに直接の解決は僕がやりましたが、ヘスティアさんも僕の狙いに気づいてたじゃないですか。あの場合は子供1人の方が誘い出しやすかったんですから。」
ヘスティアはため息混じりに言うと、アルスがフォローするようにヘスティアの話を遮って話した。
「それはそれとして、どうやら窃盗事件には夜陰教団の末端が関わっていたみたいなの。その組織について何か分からないかしら?」
「ん~、悪魔を崇拝してて、目的のためには使えるモノは何でも使うし、手段も選ばないって組織だよね。」
「俺も白と同じくらいの情報しかないな。」
ヘスティアが再び話を切り出して“夜陰教団”についても話した。白は少し考えながら知っていることを話した。ソイルもあまり有益な情報は持っていなかった。
「そう…分かったわ。私たちの方はこれくらいかしら。」
「あ、あとカフェにも寄ったんだ~。美味しかったし、次はみんなで行きた~い。」
ヘスティアが話を終えると、エリスが言い忘れていたカフェの事を楽しそうに話した。その雰囲気に癒されながらも、今度は白から話始めた。
「え!カフェいいな~。っと、私たちの方はね、シエルと私で無事に竜王の試練に合格しました!!」
「そうだね。どっちかが欠けてたら無理だったし、大変だったよ。」
白はドヤ顔で言った。シエルはやれやれといった感じで翔の元で行った試練を思い出しながら話した。
「どんな試練だったんですか?」
「“百戦錬磨”って試練で、100体の眷属を倒さなきゃいけなかったんだよ。特に最後に戦ったアウストロって奴、めっちゃ強かったんだよ!」
アルスは試練の内容が気になって白に聞いてみると、白は試練について体験したことを話した。
「白さんでも強いって感じるってことは、相当だったんですね。」
「お姉ちゃん達すご~い。」
「でしょでしょ~もっと褒めてもいいんだよ?」
アルスは驚いた様子だった。エリスは白とシエルのことを褒めると、白はまたもやドヤ顔でさらに褒められようとしていた。白は再びエリスに撫でられていた。
「じゃあ次は…って最初から気になってはいたのだけれど。」
「あ~紹介しないとだな。こいつはゼータ。俺がレイネールに行く前に助けた結機族だ。」
「ゼータです、よろしく。」
ヘスティアはソイルの右隣に座っているゼータのことを気にすると、ソイルがゼータの紹介をした。ゼータは一度立ち上がって一礼すると、再びソイルの横に座った。
「俺の方はゼータに頼まれてレイネールでクロス博士と研究所を狙ってた殲誓天を対処した。今そいつは殲誓天を抜けて博士の助手になってる。」
「クロス博士にあったんですか⁉どんな方でしたか?」
ソイルはその時のことを思い出しながら話すと、博士に会ってみたかったアルスは席から立って机に身を乗り出すようにして聞いた。
「見た目は普通のかわいい人間の女の子だな。でも研究に関しては超一級、俺にもよくわからないやつとかもあったしな。」
「え~そうだったんですか、意外でした。ですがやはり研究者としては素晴らしい方だったんですね。」
「兄さんまた女の子と…(小声)」
「?シエル、なんか言ったか?」
「ううん何でもないよ。」
アルスはソイルから話を聞くと、多少驚いた表情で席に座りなおした。ソイルの左隣に座っていたシエルは嫉妬を含んだ小声で呟いた。
「それと、これは俺とシエルたちが帰ってきた後の話になるんだが、白の偽物に襲われた。それも見た目や声、しぐさまで同じ奴だ。白はゼータと街に行ってたのにもかかわらず偽物は1人で来た。それに魔力感知にかかってたから何かしらの魔法だとは思うんだけど、アルス、何か分かるか?」
「う~ん、そこまで高度な偽物を作り出せる魔法はないと思いますが…。」
白の偽物に襲われたとソイルから聞いた賢者たちの間に緊張が走った。ソイルは魔法に詳しいだろうと思いアルスに聞いてみた。アルスは考えてみたが、そのような魔法は分からなかった。
「とりあえず気を付けないといけないってことだよね。対処方法とか分からないけど……あっ、そうだ!賢者の紋章を確認すればいいんじゃないかなぁ。紋章は魂に宿るものだし。」
「白さんの割に珍しくいい意見ですね。」
「これでもリーダーだからね。も~アルスは、素直に褒めてくれればいいのに~。」
「シロサンスゴイデスネー。ってそれより、なんでゼータさんの偽物は作らなかったのでしょうか。」
白が思いついたように対処方法を言うと、アルスもそれに賛同し、他の賢者たちも同じ様だった。その後にアルスが言ったことについて賢者たちは考えていると、一つの仮説を出した。
「…1人しか作れない、とか?」
「確かにその可能性はありそうだな。」
白がそう呟くと、ソイルもそれに同意した。7人がそのような話をしていると、大部屋の扉が開いてイリスが入ってきた。
「よし!お主たち全員揃ってるようじゃな。…ソイル、そこの結機族は……保護したと言っておった者じゃな。それはそうと我から話したいことがある。」
イリスがそう言うと賢者たちは静かになり、イリスの方に目を向け耳を傾けた。イリスは皆が聞く体制に入ったことを察すると、話をし始めた。
「まず本当は夜には戻れると思っていたのじゃが、遅くなってすまなかったのじゃ。実はウォードルス王国で突如モンスターによる襲撃があったのじゃ。そのため我とストルム王国のフェン・ウォルク王がウォードルスに向かったのじゃ。ウォードルスの方は海岸の守備を固めて、国民には出国しないようにしたのじゃ。もちろん他国からの入国も禁止しているのじゃ。」
「ウォードルスって交易が盛んな国だよね。そこが他国と関われないってやばいんじゃないの?」
イリスがエンスタシナ王国から離れていた理由を話すと、白はウォードルス王国の事を懸念していた。
「うむ。そこで我が国とストルム王国はウォードルス王国を支援することにしたのじゃ。一応、長距離転移魔法陣を使用して物資などを支援したいのじゃが、ストルム王国にしかないのじゃ。」
「ここからだとリーフベルクを越えるかハウ王国の方を迂回するかだよな。リーフベルクの方が近いがモンスターに襲われる危険性が高い。迂回すれば多くの物資を安全に運ぶことが出来るが…」
「ハウ王国とは友好な関係ではないのじゃ。ハウ王国の国王であるルフト・ジーフォンはリーフハーバーの領有権を主張しておるのじゃ。リーフハーバー自体、我が国の領地という訳ではないのじゃが、我が国に属したいという希望も受けているのじゃ。」
一応の解決案はあるものの、イリスは非常に悩んでいる様子であった。ソイルはそれを聞き、どのルートがあるかを考えた。イリスはそれに対して問題があることを話した。
「じゃがその解決案も考えてあるのじゃ。これを白に渡しておくのじゃ。」
「これ、手紙?」
「うむ。この手紙は我が国含む3か国の友好関係を築く会議を開くために我が書いた手紙じゃ。これをハウ王国とストルム王国の両国に届けてほしいのじゃ。」
「それはいいけど、急がないといけないんじゃないの?」
「確かに急いでほしいのじゃが、ウォードルス王国はストルム王国からの支援も含めて3,4週間ほどはもつとのことじゃ。それまでにウォードルス王国にでたモンスターを対処してくれればよい。あの後モンスターは現れて居ないそうじゃからな。それにすぐ現れたとしても、今はお主たちと同じマスターランク冒険者が居るから大丈夫だと思うのじゃ。」
イリスは白の元へ近づき、手紙を渡した。白は封を開けずに手紙を見た後イリスの方に目を移し、モンスターの襲撃を懸念していた。しかしイリスは“心配しなくても大丈夫”という事を理由と共に話した。
「じゃあとりあえずこれを届けてからでもいいってことなんだね。分かった、このことは私達に任せといて。」
「白さん、その前にリーフハーバーの道具屋の人にカードを渡しに行きませんか?」
「そういえば、忘れてたよ。じゃあ先にそっちに行こうかな。」
「その辺は諸々任せるのじゃ。ところでソイル……」
白は自信ありげに返すと、イリスもその表情を見て安心して任せられると感じた。それとは別に、イリスは扉の方に戻りつつソイルに対して話しかけた。
「我との婚約の件、考えてくれたか?」
「…婚約はしてもいいが、結婚についてはまだ待ってくれ。」
「「…!?」」
「え!?ほんとじゃな!やったのじゃ~ソイルがついに我の夫となってくれるのじゃ~!!」
イリスが自分との婚約のことを話に出すと、ソイルは少し考えたのち、婚約を受け入れることにした。シエルとゼータはその返答に固まっていたが、イリスはまるで子供のように跳びはねて喜んでいた。しかし、周りに人がいることに気づくと恥ずかしそうにしながら大人しくなった。
「コ、コホン。それでは気を付けていくのじゃ。」
「うん、また会いに来るからね~!」
イリスは嬉しさと恥ずかしさの混じった声で賢者たちに言葉をかけると、白は手を振って部屋から出るイリスを見送った。
「やっぱりイリスちゃん、かわいいよね。っと、それは置いといて~ソイル、婚約おめでとう。でもあれだけ保留にしてたのに決め手は何だったの?。」
「それうざいからやめろ。それに決め手っつっても、元から受け入れるつもりではあったんだから、あとはここでの件が落ち着くまで待っててもらっただけだ。」
白は座っているソイルの後ろに行き煽るようにいじった。ソイルは白にむかつきながらも冷静さを保ったまま返答した。そしてソイルの両サイドではシエルとゼータが下を向いていた。
「(ゼータ。婚約を破棄させる方法とか無いの?)」
「(マスターコアにも情報はなかったから、探してみないと分からない。)」
「(じゃあこれからは協力して何かいい方法がないか探そう。抜け駆けは無しだからね。)」
「(うん、分かった。約束。)」
シエルとゼータは他の皆に気付かれないようにリンクで話し、ソイルに知られないように約束を交わしていた。
「少しだけ待っていただければ、ブリーズの街までは転移魔法で行けますけど、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫~。」
「私も大丈夫よ。」
「俺も大丈夫だ。シエルたちはいいか?」
「うん、いつでも。」
「ゼータも同じく。」
「よし、じゃあ早速まずはブリーズの街に行ってからリーフハーバーに行こう!」
アルスは皆の意見を聞くと床に両手を付け、転移魔法陣を展開し魔力を込め始めた。少しして魔法陣が光り始めると、賢者たちはエンスタシナ王国の城にある部屋からブリーズの街の出入り口付近へと転移した。