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 けれど、そのロヒ王国との関係改善が、思いがけない事態を引き起こしていた。

 ミラベルがそれを聞いたのは、ソレーヌとお茶会をしていたときだった。

 さすがにメイドとして働かなくてはと思うのだが、ここ最近、情勢が目まぐるしく変化しているようで、ソレーヌも落ち着かない様子だった。

 妹の傍にいてほしいと、リオにも頼まれている。ミラベルとしても、思い悩んでいる様子の友人を放っておけない。

 だから最近はリオの不在が続いたこともあり、彼女の部屋にいることが多かった。

 今日も、朝から思い悩んでいる様子だったソレーヌは、お茶にも最近お気に入りだという菓子にも手を付けず、溜息をついた。

「少し面倒なことがあったのよ」

「面倒なこと?」

 ソレーヌの話を聞こうと、ミラベルはカップを置いて彼女を見つめた。

「そう。お兄様と、ロヒ王国の王女殿下との縁談の話が出たの」

「えっ?」

 その言葉に、ミラベルは思わず声を上げてしまう。

 ロヒ王国には王子は三人いるが、王女はひとりしかいなかったはずだ。

 その唯一の王女を、他国の公爵家に嫁がせても良いと思うほど、ロヒ国王はリオを評価しているのだろうか。

 実際、リオの尽力で両国の関係は大きく改善されている。

(リオが結婚……)

 ソレーヌのことばかり優先しているが、彼もサザーリア公爵家の当主だ。いずれ、結婚しなくてはならないだろう。

 しかもリオは、自分の妻には間違いなく、妹やロランドにとって有利な相手を選ぶ。

 それならば、ロヒ王国の王女は最高の相手だ。きっと迷うことなく承知したに違いない。

 恋心を自覚したばかりだというのに、もう失恋してしまうかもしれない。

 でも、それも仕方のないことだと自分に言い聞かせるしかない。もともとミラベルは政敵の娘で、今はただのメイドである。

 リオは友人として大切にしてくれるが、それだけだ。

「おめでとう、と言わなくてはならないわね」

 切ない気持ちを堪えて、笑顔でそう言った。

「ああ、違うのよ」

 けれどソレーヌは、慌てたように否定する。

「お兄様は、その話を断っているの」

「断った?」

 リオならば受け入れるだろうと思っていたので、驚く。

「ええ。私はロランドの婚約者だし、お兄様までロヒ王国の王女を娶ってしまえば、ロヒ王国の影響力が強くなってしまう。国王陛下は、それを懸念されていたようなの」

 リオがロヒ王国との関係改善に努めたのも、ロランドの妻となるソレーヌのためだ。必要以上に隣国との関係を深めては、かえってソレーヌのためにならないと、王女との婚約を辞退したという。

「それで、大丈夫だったの?」

「ええ。お兄様にはもう婚約者がいるからと、国王陛下から断りを入れたそうよ」

 実際には、リオに婚約者はいない。

 だが公爵家の当主なのだから、婚約者どころか、結婚していてもおかしくはないほどだ。これから発表するところだと言えば、ロヒ国王も、すでに決まっている婚約者を押しのけてまで、娘を嫁がせようとは思わなかったらしい。

「それで解決したと思っていたの。でも、ロヒ王国の王女殿下が納得できなかったらしくて……」

 リオは、何度もロヒ王国に赴いている。

 そのときに、その王女とも対面していた。

 そこでリオを気に入った王女が、父に婚約を強請ったらしい。

 婚約者がいると聞いても諦められず、リオに会うために、わざわざこの国まで来るという。

「表向きは、外交のためよ。でもお兄様を案内役に指名しているから、諦めきれずに押しかけてきたと考えるのが自然よね」

 ソレーヌはそう言うと、また溜息をついた。

「私もロランドの婚約者として、挨拶をしなければならないわ。……憂鬱よね」

 ロランドの立場を考えると、あまり素っ気なくするわけにもいかない。

 だが、国王がロヒ王国との結びつきが強くなってしまうことを警戒しているのならば、必要以上に親しくするわけにもいかない。

 ソレーヌもリオも、なかなか難しい立場のようだ。

「ごめんなさい。つい愚痴を言ってしまったわ。お兄様が私達のために頑張ってくれているのだから、私も頑張らないと」

 話したことで少し気持ちが落ち着いたのか、ソレーヌはそう言うと、先ほどよりも明るい顔で、お気に入りの菓子を口に運ぶ。

「ごめんなさい。私には何もできなくて」

「ううん。ミラベルがこうして話を聞いてくれるだけで、私は元気になれるわ。むしろ愚痴ばかりでごめんね」

「話くらい、いつでも聞くわ」

 そう言うと、ソレーヌは嬉しそうに、ありがとうと言って笑った。


 そうしているうちにソレーヌが王城に行く時間になり、ミラベルは自分の部屋に戻る。

 リオは最近、また忙しそうだ。

 きっと隣国の王女を迎える準備に追われているのだろう。

(ロヒ王国の王女殿下……)

 リオがソレーヌのためにならないと判断したのなら、彼女と婚約することはないだろう。

 それでも、ミラベルは彼女のことが気になった。

(たしか、私と同い年だったはず)

 ロランドと同じで、ロヒ王国の王族の証である赤色の髪をした、とても華やかで美しい王女らしい。

 そんな王女がリオを慕って、わざわざこの国まで会いに来る。

(どんな女性なのかしら?)

 つい考えてしまうが、ミラベルが王女と会うことはないのだから、無駄なことだ。

 まさかその王女が、リオが不在の間にこのサザーリア公爵邸まで押し掛けて来るなんて、このときはまったく思わなかった。

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