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第2話 井の中の蛙

ノアとヒロはその眼に、確かに悪魔の姿を捉えた。

燃え盛る家屋の屋上に漆黒の2対の翼を携えた、人とはまるで似通わない文字通り悪魔の姿をした生物がいる。


大きさは、おおよそ人3人分といった所か・・・。


赤黒く光る瞳が、遂にこちらの姿を捉えた。

炎でよく見えないが、悪魔の手には人の足らしき物体が、引っかかっていた。赤い液体が、ポツポツと悪魔の手から滴っている。


ノアは、一つ大きく鼓動が脈打つのを感じた。

抑え切れない怒りに顔を歪ませながら、大きく息を一つ二つと吐いた。


剣を両手で持ち、悪魔に構えた。


「よくも、俺らの街をッ!!」


「いくぞ!!ノア!!」


自分よりも数倍の大きさに立ち向かう少年たちの姿はいささか勇敢であっただろう。

体が強張る感覚はあったが、それよりも大きな自信があった。毎日、毎日コツコツと稽古に励んできたからである。それを遺憾なく発揮する場は、他でも無い。この場である。


少年たちは、大きな叫び声を上げながら悪魔に向けて、力強い一歩を踏み出した。


そして今、長い時間をかけて培われてきた大きな自信は、一瞬にして崩れ落ちることになる。


「がッ・・・・あっ!?」


視界が一瞬、反対になった。

思考が追いつかない。断片的な意識の中、次に思考が追いついた時には、ノアは木造の家屋に叩きつけられたいた。


吹き飛ばされたのか・・・?


今まで体験した事の無い痛みに顔を歪めていると、やがて咳が止まらなくなった。口の中に血の味が広がってくる。呼吸がまともに出来ない。


が、しかし少年は思考は意外と冷静だった。


ヒロは!?


そう、もう1人の勇者の存在が気になったからである。



漆黒の不気味な悪魔の手が、地面に横たわるヒロを押さえつけていた。

もう一体、どこからともなく出現した黒い巨躯は、赤黒い瞳で静かにこちらを見つめた。どういう状況か、すぐに理解がついた。






ヒロを助けなきゃ。







「や、やめろぉぉぉぉぉぉーーーーーッッ!!!!!」







次の瞬間、大木が折れるような、大きな鈍い音が辺り一面に鳴り響いた。






俺は、その顔を一生忘れる事はないだろう。







恐怖に顔を歪めながら、涙を流し、助けを請い、こちらに手を伸ばすヒロの表情を。







小さな少年の体が、悪魔の手によって粉々に砕かれる姿を。







あ、ああぁ・・・・。

両目から涙が溢れた。


「そこを、退けろォォ!!」


ノアは、走り出す。

今、目の前の敵を討つ。剣を、血管から血が吹き出そうな程の力で握りしめた。今までの人生で感じたことの無いほどの激しい怒りを見に纏い、悪魔を睨みつける。


その瞬間、空気感が一変したのを感じた。


少年の何倍もの巨躯を持つ、悪魔が少年に背を向けて大きく飛んだ。何があったのか、理解できなかったが、一瞬、怯えたような。そんな雰囲気を感じた。


悪魔はもう一体のいる家屋の上まで逃げた。

少年の力では、そこまで攻撃を届かせる術がない。追おうとしたが、ノアの手がヒロの手によって掴まれた。


まだ、微かに息がある。


ノアは、ヒロを抱き抱えた。


「おい、ヒロ!大丈夫か!?」


「・・・・俺はもう、ダメ。・・・・みたいだ・・・・」


微かな希望が打ち砕かれた。

ポツポツ、とヒロの頬に雨が降り出すような水滴が落ちた。


「俺のせいだ・・・・、俺が逃げずに立ち向かおうって言ったから・・・ッ!!」


悔やんでも、悔やみ切れなかった・・・。

一刻前の自信に満ち溢れた少年たちの姿は何処にもない。村一番の勇者だろうが、関係ない。無垢な少年が、現実を思い知った瞬間だった。


井の中の蛙大海を知らず。


そして、不幸にも、少年の過ちは一生忘れることのないトラウマを脳裏に焼き付けることになるのである。





雨が降り出した。

泣き止まないノアを見たヒロは少し笑い、彼の手をぎゅっと握る。


「・・・・誓ってくれ」


ノアは啜り泣きを止めた。


「俺と、お前は・・・・・常に、一緒だ・・。だか、ら・・・、お前の夢は、俺の夢でもある・・・」


ヒロの目から涙が伝う。

それでも、表情は笑っていた。





「・・・・・約束だ。必ず、世界一の戦士になって、天使と悪魔のいない、平和な世界を作るんだ」




それが、最後の言葉だった。

ゆっくりとノアを握る手が、落ちていく。


やがて、抜け殻となったヒロの体が端から徐々に塵となり、崩れ始めた。僅かな時間と共に、彼の体は完全に塵となり、虚空へと何かに誘われるかのように、消えていった。



何もない静寂な空間を、雨が降り頻る音だけが連鎖的に続いていく。


ノアは、静かに剣を握った。

怒りに満ちた目で、再び二体の漆黒の巨躯を捉える。


「絶対に・・・・許さないッ!!」


自然と、力が湧き出てきた。

力強く剣を握りしめ、再び走り出した。


闇を討つために。

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