飴玉
それから数年が経ったころ、メイはロザンサから飴玉作りを教わっていた。キラキラ輝く飴玉を見て、メイの瞳も輝いた。
月日が流れ、メイは十五歳になっていた。家事をするのに苦労はするが、背丈や体格で不自由することはなくなっていた。
「こんにちは~!」
「あら、ジョン。こんにちは」
メイは食料運びの商人のジョンと、すっかり打ち解けていた。
「今日はいい野菜が入ってますよ……って、魔女ロザンサは?」
「それがね、近頃、眠ってばかりなの」
まだ真冬じゃないのに困ったわとメイが眉を下げて笑う。
「そう……ですか」
「どうかした?」
「いえ……また来ます。魔女ロザンサにもよろしく」
ジョンが背を向けて去っていく。
メイはチラリと眠るロザンサを見て、ジョンを追いかける。
「ねぇ、ジョン!」
「わぁ! ど、どうしましたか?」
驚くジョンにメイは一歩踏み込む。
「ロザンサったら、飴玉作りしか教えてくれないの! 他には何も教えてくれないのよ? 魔法もだけど、あなたとのことも」
「ぼ、僕とのこと……ですか?」
「あら、あなた、私に初めて会ったときに言っていたじゃない。『僕と同じように助けてあげて下さい』って!」
ジョンが一歩後退をする。
「そ、そうでしたっけ?」
「そうよ!」
メイがまた一歩踏み込む。のけ反るジョン。
「魔女ロザンサは、聞いても話さないのですよね?」
「そうよ! だから、あなたに聞いているんじゃない」
「では、やめた方が……」
「なぜ? ロザンサは眠っているわ。それはそれは冬眠している熊さんみたいに!」
「熊さんは怒ったらこわいですよ?」
「あら? 眠っているのに?」
「だから、ですよ」
ん? と前のめりをやめたメイが首を傾げる。
「魔女ロザンサですよ? 眠っていたって、会話は聞いているのでは?」
一瞬にして凍ったメイが、今度はぐるりと首を動かす。
扉には森林のような緑の髪の毛を携えた、ひとりの女性が微笑ましくメイを見ていた。