魔女2
「どうして弟子を取らないと決めているのですか?」
食料運びの商人が町へ戻って行ったころ、幼女はロザンサの家へとちゃっかり上がり込んでいた。
「理由を話せば、諦めて帰ってくれるかい?」
「場合によっては」
「じゃあ、やめようか。ほら、すぐに帰りな」
ロザンサは扉を開けて帰宅を促す。
「いいんですか?」
「いいとも」
「私が町で、ここの場所を告げても」
幼女の真剣な眼差しに、ロザンサは吹き出す。
「あっはっは! ああ、愉快な子だねぇ! この私を脅そうってのかい?」
「だって、さっきあの人に『追放しない』って……」
ロザンサは転がりそうな勢いで笑い続けている。
「あ~あ、おかしな子だこと! 言いたければ言えばいいさ。ただし、アンタの言うことをどのくらいの人が信用してくれるかだけどね」
ヒーヒー言いながらロザンサは目元を拭う。
いくら扉を開けていても、幼女は出ていかない。それどころか、微動だもしていなくて──ロザンサは呆れるようなため息を吐く。
「アンタは頑固だね」
返事はない。椅子に座っている幼女は、一点を見ているかのようでロザンサはまた一息吐いて扉を閉めた。
「帰れる場所がないのかい」
悟るように言うと、幼女はこくりとうなずいた。
あ~、そうかい、そうかい──なんて言いながら、ロザンサは独り言を続ける。
「でも、それは、アンタの都合だからね。私の知ったことじゃない」
幼女の顔が上がる。今にも洪水を起こしそうな瞳に、ロザンサは笑顔を向けた。
「私は弟子を取らない。ずっと前からそう決めている。理由を言ったら、諦めるかい?」
幼女の志願理由も聞かずに、ロザンサはやさしく、それはやさしく言った。
諦めろということだ──幼女に伝わったのだろうか。幼女は絶望に飛び込むように首肯した。
「私は……あんな思いをもうしたくないんだよ」