キャンディ
「人間が魔法を使うには、命を削る」
ジョンがポツリと言う。
メイは疑うようにジョンを見た。
「言い伝えだよ。魔女に子どもを近づけないための言い伝え……だと思っていたんだけど、魔女狩りの理由より、こっちは本当だったのかもしれないね」
「ロザンサは……若そうに見えていたし、魔女だから勝手に長生きするものだと思っていたけれど……」
ロザリオと名乗ってから、老いていくのがはやかった。ジョンもそれを感じていたのか。
「元々が人なら、人並みよりはやいお迎えだったのかもね」
「もしかして、見た目にも……魔法を使っていたのかしら?」
「そうかもしれないね。僕が配達をするようになってしばらくしてから、民族の出身だったと言っていた。民族は移住したと言っていたけど、かつての仲間に見つかりたくなかったのかもしれない。先代を亡くして行く場所を失ったロザンサは、生まれ育った家に戻って来たって……そんな話もしてくれたっけ」
「そんなこと、私には一言も……」
「メイにはずっと、憧れの存在でいたかったんじゃないかな」
悲し気な表情を浮かべたジョンに対し、メイはふふ……と笑う。
「ロザンサって……意外と見栄っ張りな乙女だったのね」
意外な言葉にジョンは拭き出す。
「似合いませんね」
「ええ、イメージじゃないわ」
「これからどうしますか。町へ来ますか?」
「どうしようかしら」
「魔女秘伝キャンディだと売り出せば、大繁盛するかもしれませんよ」
「あら、魔女狩りに遭わないかしら?」
「ええ、メイはまったく魔女には見えませんし、魔法も使えませんから」
「失礼ね、私だってひとつくらい魔法を使えるのよ?」
「おや、それは失礼しました。魔女ロザンサは、魔法を教えてくれなかったのでは?」
「はい、あげるわ」
「これは……」
「ええ、召し上がって」
得意げなメイに、ジョンは目を丸くする。
ジョンの手に転げたのは、丸くて星のように輝くもの。魔法とは程遠いそれを、ジョンは疑心半疑のまま口へ運ぶ。
「相変わらず、おいしいですね」
そうでしょう? とメイは自慢げに微笑む。
「私が魔女ロザンサから唯一教えてもらった魔法は……誰かを幸せにする魔法なの」
これは魔女ロザンサが考案した特別な魔法なのだと、メイは口に放り込んだ。




