ジョン
メイはごくりと息を飲む。
ジョンは憂いのある表情を浮かべ、空を見上げた。
「よくある話ですよ。幼少期に父が病で倒れましてね。医者に診てもらっても原因がわからず、藁にも縋る思いで魔女を信じ探したのです。ロザンサに出会えたときは感動しました。そして、懇願したのですよ」
「え……ロザンサは、ジョンの願いを叶えたの?」
「そうです。信じられないでしょう?」
「そうね……否定したいところだけれど、肯定しかできないわ」
「弟子を取らないと決めたのは、きっと僕のせいです」
すみませんとジョンは頭を下げる。
「やめて、ジョン。ここにいられたのは、あなたのお陰なのよ」
ははは──と力なく笑い、ジョンは頭を押さえる。
「何があったの?」
「ロザンサは万能薬をくれました。効果は抜群で、みるみるうちに父は元気になりました。うれしくて僕は『あそこに魔女がいた』と、大声で言ってしまったんです」
「え……」
「ロザンサは夜中に家を囲まれました。魔女狩りです。僕は翌朝それを知り、駆けつけました。……ロザンサは生きていました。無事でした。けれど……」
「先代が、亡くなった……のね」
ジョンがうなずく。
「僕を見たロザンサは別れの言葉を告げました。当たり前ですよね、僕のせいですから。でも、ロザンサは言いました。僕のせいではないと。ただ、同じ場所には住めないから、さようならだと」
「もしかして……」
「そうです。ロザンサは、それからここに。僕はずっと恩返しがしたくて、何ができるかと考え、探し回ってやっと……まぁ、さすがに僕と三回目に会ったときのロザンサは、とても驚いていましたけれど」
「そうだったの……」
「ロザンサが弟子を取らないと決めていると聞いたとき、僕は深い自責の念に駆られました。ロザンサは優秀な魔女です。それなのに……」
目元を手で覆うジョンから、メイは視線を外す。
「後継者を残さないなんて……人間を助けてくれた、やさしい……魔女なのに……」
「やさしい魔女だからよ、きっと」
メイは明るい声を出す。
「余計な苦労はしたくない、なんて私には言っていたわ。けれど……弟子に自分と同じ思いをさせたくなかったんじゃないかしら……はい、あげるわ」
ジョンが指の隙間から差し出された物を見る。
「唯一、ロザンサが教えてくれたものよ。口に入れれば、その人を幸せにするんですって」




