魔女1
「弟子にして下さい!」
「ダメだ」
開いてすぐに飛び込んできた幼女の懇願を退け、即刻扉を閉める。
食料運びの商人かと思って扉を開けたのが間違いだった。けれど、後悔先に立たず。背にした扉の向こうでは、幼女の懇願が幾多も聞こえてくる。
うるさい。
また相手にしたら最後だと、空かせた腹をさすりながらキッチンへと進む。鍋を開けてみるが、虚しい。空なのは承知しているのだ。
「あれ? お嬢ちゃん、どうしたの?」
厄介なことになった。
今頃、食料運びの商人がやってきたのだ。
「魔女ロザンサ。迷子がいますよ。助けてあげてください」
はあ。ため息がもれる。
出るしかないのだ。食料が必要なのだから。飢え死にはごめんだ。
「君に助けてくれと言われたら、こうして助けてもらっている私は断れないじゃないか」
「助けてもらっているって……大袈裟な。僕はただの仕事ですよ。ほら、こうして賃金をもらっているじゃないですか」
「『ただの仕事』ね。私を魔女と知っても怖がらず、騒がず、追放せず、こんな山奥まで食料を届けてくれるのが?」
食料運びの商人は苦い笑いをする。
「いけませんか」
「私は助かっているけどね」
「では、彼女も……僕と同じように助けてあげて下さいよ」
言われるがままに視線を落とせば、叫んでいたのが嘘かのように大人しい。色が真っ白な肌に、真っ青な瞳が湖畔を連想させる。
「生憎、弟子は取らないと決めていてね。ほら、お帰りよ」
ロザンサは極力やさしい口調で言った──が、それが悪かったのか。
「森林のような緑の髪の毛に、燃えるような真っ赤な瞳! 本当に実在したのですね、魔女ロザンサ!」
幼女は水面のように瞳をキラキラと輝かせ興奮気味に口をはやく動かすと、ロザンサの深い緑のスカートに飛び込む。
「懐かれましたね」
食料運びの商人が楽しそうに笑う。
「私はね、弟子は取らないって……決めているんだけどねぇ……」