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転生少年の異世界成長日記  作者: 猫燵尾
プロローグ『はじまりのもり』
2/2

0-01『転生特典とその代償』

 ――とてつもなく面倒な男だった。

 

 とある洞窟の中、石で作られた椅子に座り、同じく石で作られた器から水を啜りながら、少年――レノが考えているのはそれだけであった。

 というのも、二体のグルガを風魔法で殺した後、それはもう大変な質問攻めに遭ったのだ。

 

 それの一部を並べると、

 ・どうして俺を助けてくれたのか

 ・魔法すごいな俺にも教えてくれ

 ・他にどんなすごい魔法が使えるんだ

 

 それに対するレノの解答は、

 ・食料とってたら爆発音がしたから

 ・は?

 ・は?

 

 だ。

 グルガを殺してすぐに立ち去ればよかったと何度も後悔したレノだが、それを考えた頃には男が正気に返ってしまっていた。

 隙をついて逃げるのが可能であったか不可能であったかを問われれば、レノは間違いなく、可能だったと答える。

 だが、それをすれば、この男はレノの住処まで追ってきていただろう。直感でそう判断したため、レノは途中で逃げることはしなかった。

 

 その長い長い質問攻めに遭っている間に、この男は相当に頭がアレなのだとレノは理解した。

 なんと、グルガの処理に火の魔石を使ったらしい。それも手持ちのもの全て(・・・・・・・・)を。

 全て使ったのは焦っていたからと男は言っていたが、そもそもあれに魔石を投げるという時点でとてつもなく頭が悪い。

 そもそも、グルガの殺害は『叫ばせない』というのが基本。それをわざわざ叫ばせるような殺し方をするなんて愚の骨頂である。

 

 「って言っても、俺も何も知らなかったら(・・・・・・・・・)ああしてたんだろうな」

 

 そう呟きながら、自分の首に掛けられた小さな魔石を小さな手で包み込むレノ。

 これこそが、所謂転生特典(チートボーナス)の、"情報"である。

 

 

 

 

 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 ■■■■は、日本に生を受け、日本でその生を終えた男である。


 彼の人生をかなり簡略化して説明した文章があるとするならば、上記の一文がそれだ。

 それに幾つか補足をするならば、『生を受け、終えるまでの期間がたった十六年』や、『外出は週に一度のコンビニのみ』などといったものが加わるだろうか。

 

 死因は、コンビニへと自転車を走らせている途中、強烈な眠気に襲われ転倒、そのまま自転車を地面に置き去りに、近くの川に単身ダイブをかましたことによる溺死。

 ■■■■の落ちた川はそこまで深くはなかったが、二徹後という脳が溶けている状態で正常な判断が出来るはずもなく、暫くもがいた後、意識を落とした。

 その後、この森で目覚め、

 

 「グルガに殺されかけたのはいい思い出……なのか?」

 

 何も持っていない状態で森に放り出されるというだけで危険だというのに、そこで遭遇したのはグルガという厄介な魔獣。

 当時の■■■■は何も知らなかったが、それでも、この魔獣が危険なことだけは本能的に理解できて――、

 

 ――そこで、首に何かが掛けられていることに気がついた。

 

 彼の首に掛けられた魔石。

 その外見にこの世界に存在する一般的なそれとの大きな違いはないが、中に入っているのは魔力ではなく、この世界の全ての情報である――否。

 であった(・・・)といった方が正しいだろう。

 

 何故なら、それはたった一度の使用で、どこにでもあるただの石と化したからだ。

 ただ、そのたった一度の使用で■■■■は命を救われた。彼が普段からそれを首にかけているのは、それが理由である。


 ――いわゆる、お守りみたいなもの、というわけだ。

 

 溺死した後に森で目覚め、そのまま危険な魔獣と遭遇するという不幸続きな状況。その中での唯一の幸いは、彼がその石に気づいたことだ。

 頭が一切回らない中、本能でそれに手を触れた■■■■。すると、そこから様々な色の光が溢れ始め――、

 

 「――気づいたら目の前からグルガが消え去ってて、この世界についての基礎知識、魔法の知識、その他諸々の知識を得て、自分……というかこの体の名前が"レノ"だということもわかった」

 

 その時の感覚を説明しろと言われても、■■■■はそれを説明できないだろう。今までに感じたことのないほどの強烈な頭痛と吐き気を伴い、大量の情報――それも、違う世界のものだ――が脳に入り込んでくる。

 そして、一番気持ちが悪かったのは、自分のものではない体を操る感覚だ。

 手の長さが違えば、足の長さも違い、勿論声も違う。動けばそれらの違和感からくる気持ち悪さが伝わってくるし、動かなかったとしてもどこか気持ちが悪い。

 

 「最初はほんと何回転んだりしたか分からないな」

 

 この歳になって歩くことすらままならなくなるというのは、実際堪えるものがあった。

 ■■■■の年齢はともかく、この体の見た目は十歳前後なわけで特別おかしくはないのだが。

 そして、なんやかんやあって――、

 

 「――この洞窟で、魔法の研究をしながら生活をしている、と」

 

 研究とは言うが、実際はただ魔法で遊んでいるだけだ。

 魔石から得た魔法の知識と元々ある現代知識を組み合わせて、新しい魔法を生み出したりすることもあるが、それが成功する確率はかなり低く、殆どが不発に終わっている。

 ただ、不発に終わったとしても、今まで想像することしかできなかった"魔法"を自分で自由に使えるということの嬉しさの方が大きく、一週間経った今でも飽きることはない。

 

 「遊びついでに魔獣を倒せばそれで食料の確保はできるし、喉が渇いても近くの川に行けば綺麗……だと思う水が飲み放題。ここは天国なのか?」

 

 前世で『魔獣の肉は不味い』や、『魔獣の肉を食べると死ぬ』などというのをよく見たが、腹が減って死にかけていた時に意を決して食べてみたら意外にも美味しかった。

 その時の衝撃と言ったら、今後何が起きようとも忘れることはないだろう。衝撃が過ぎて、まだしっかりと火が通っていないものまで食べてしまったほどである。

 勿論、しっかりとその日の夜に腹を壊して死にかけたのだが。

 魔法での解毒法を知っていなければ、人生二度目の死を迎えるところであった。流石の■■■■も、二度死ぬのは勘弁である。いや本当に。

 

 「天国みたいな生活の代償に名前を忘れたわけだけど……だからと言って何かデメリットがあるわけではないし」

 

 転生特典(チートボーナス)に"情報"を与えられた■■■■だが、その情報が入ってくる際に、前世での名前を完全に忘れてしまった。

 不思議な感覚だ。自分の名前という絶対忘れるはずのないものを、何かをど忘れするかのように忘れている。

 

 ――何をしても思い出すことがないというのが、ど忘れのそれとは大きく異なるが。

 

 ただ、■■■■は、それについて特に思うところはない。

 

 「まあ前世の名前を忘れても、この世界で生きていく上で何か問題があるわけじゃないしな」

 

 と適当に話を纏め、■■■■――否レノは、近くの、石の上に葉が大量に載せられているだけの簡易的なベッドに寝転がり、目を瞑り、すっと眠りに落ちた。




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