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第01話 出会いはモーニングセットから


 午前8時、凪 凪(なぎ なぎ)は駅の向かいにある喫茶店から通勤通学で人が溢れかえるその場所をうんざりした表情で眺めている。


 「人がゴミの様だ」


 周りに聞こえないよう小さな声で呟くと頼んでいたアイスコーヒー(税込み480円)にガムシロッップを2つ入れゆっくりとかき混ぜる。


 開店してすぐのこの時間、店内には(なぎ)以外の客は居ない、小洒落たBGMと(なぎ)が混ぜている氷の音だけが響いている。


 「仕事をさぼって通勤ラッシュを高みの見物、これは癖になりそうだ」


 悪趣味に目覚めかける(なぎ)は言葉にした通り、現在サボタージュを満喫している。

 中小企業で働く普通のサラリーマン、会社では真面目に勤め結果もそこそこ残している、期待の若手と言ったところだろう。


 普段真面目に努めている凪が体調御不良を訴えても誰も疑うことはない、むしろしかっりと休んでくれとまで言われる程だ。


 小言の一つや二つ言われることを覚悟していた凪はあっさりと休日が手に入ったことに始めこそ歓喜したが、時間が経つにつれ少しながら罪悪感を覚えた。


 しかし、目の前の人込みを目にするとそんな気持ちは遥か彼方へ消えていた。


 その後も駅へ吸い込まれていく老若男女を眺めながら今日の予定を考える。

 

 そもそもなぜさぼったのか、理由は『変化』が欲しかったからだ。

 毎日同じ時間に起き、同じ場所で同じ人達と仕事をする、家に帰れば疲れて必要最低限の事だけ済ませ床に就く、休みの日は予定だけ立ててはみるが結局だらだらして終わる、そしてまた仕事が始まる。


 凪はこれが普通だと、みんな同じだと言い聞かせてきたが頭の中ではそれを否定していることを理解している。若さゆえの焦燥感、現在22歳の凪はここ最近生きていく中で『何かしなければ』『自分の本当にやりたいことを探すんだ』そう考え、日々を悶々と過ごしていた。


 そして今日、凪は『変化』を求めた。

 しかし、何をすれば『変化』と言えるのか分からず考えた結果が『ズル休み』だった。


 休みを取ったものの特に『やりたい事』を考えていたわけではなく、とりあえず家に居てはだらだらしてしまうので外に出て、たまたま目に入ったこの喫茶店に入り現在に至る。



 

 店に入ってからちょうど一時間が過ぎ、4杯目のコーヒーを飲み終えたところで店を出るため席を立つ。


 結局、今日の予定は『ぶらぶら』するに決まった。要するにノープラン。


 「ありがとうございました」


 店員の言葉を背に店を出ると日差しと暑さに凪の表情が歪む。


 「…………もう少しゆっくりするか」


 夏の突き刺すような日差しと気温に凪はたまらず店内に引き返す。

 店に入り先ほどまで座っていた席に戻ると、会計をしてくれた店員のお姉さんが机を拭いている最中だった。


 凪に気が付くと状況を察したお姉さんは笑顔で椅子を引いてくれた。


 「外はお暑いですからね、どうぞゆっくりなさってください」


 「……ありがとうございます」


 若干の申し訳なさを感じ、ぎこちなくなる感謝の言葉。

 せめてお店に貢献しようと今度はモーニングセットを注文した。

 

 「はあ、俺は何をやっているんだ」


 モーニングセットが来るまでの時間、ぼーっと窓の外を眺めていると不意に焦燥感に襲われる。今の状況に何の意味があるのか、今日の1日で何かきっかけを掴む事ができるのか、答えの見えない問いをただ頭の中で繰り返す。


 「お待たせ致しました、こちらモーニングセットでございます」

 

 ごちゃごちゃと考えていると頼んでいたメニューが運ばれて来た。目を向けると、木材でできたトレイと食器の上にトーストと目玉焼き、ほんのり焦げ目の付いたウインナーが2つそしてアイスコーヒーといったシンプルなセットが並んでいた。


 凪は一旦考える事をやめ、良い香りのする朝食を堪能する事にする。


 「いただきまぁ‥‥」


 早速トーストを口に入れようとしたが凪はそれを皿の上に戻した。


 急に食欲が無くなっただとか、トーストに何か付いていたわけではない。

 凪は少し間を置き、ため息を吐きながら駅が見える窓に顔を向ける。


 「……何、この子」


 困惑した目線を向ける先、ガラス張りの窓の向こう側にぴったりとくっつき凪の目の前にあるモーニングセットを凝視する少女の姿があった。


 「何か用かい?」


 ガラス越しに会話を試みたが少女は全く反応を示さない。ただずっとモーニングセットを見ている。


 困った凪は試しにトーストを手に取りゆっくりと左右に動かす、するとそれに釣られる形で少女も動いた。


 トーストを右にやれば少女も右に、左にやれば少女も左に。


 「犬みたいだな」


 尻尾があれば激しく左右に振っているんだろうと考えながら、凪は少女に店に入ってくるようジェスチャーで伝える。


 流石にこれ以上外で動かれると余計な人目を集めてしまう。


 少女は二回コクコクと頷くと早歩きで凪の前にやってくる。


 「お腹すいた」


 少女は開口一番、挨拶をする訳でも自己紹介をするわけでなくただ自分の欲求を伝えてきた。


 「それはさっきので分かった、でも見ず知らずの俺に君の空腹を満たすのは少し難易度が高いと思う、世間的な意味でね」


 「ん?」


 少女は凪の言っていることが理解出来ていない様子で首を傾げる。


 「まあ呼んでおいて小言だけって言うのも情けない、ほらこれ全部君にあげるから席に座りなよ」


 そう言いながらモーニングセットを机の向かい側へとずらす。

 

 「いいの?」


 「もちろん、さあ、冷めない内に」


 少女は席に着くと直ぐに食べ始める事はなく、ただじっと凪を見ている。


 「どうしたの? もしかして嫌いな物でも入ってた?」


 あれだけ空腹そうにしていた少女が自分を見ているだけで一向に食べようとしない、そんな少女を見て凪はできるだけ優しく話しかける。


 「別にこれを食べてからって君に何かを要求したりしないよ、正直今あまりお腹が空いていないんだ、むしろ君が来てくれて助かってる」


 凪は正直に告げる、そうすると少女は少しだけ目を見開く、そしてやっと口を開いた。 


 「……名前、教えて欲しい」


 唐突に名前を聞かれ少し驚く凪。


 「そう言えば自己紹介がまだだったね、俺は凪、姓も名前も凪で凪凪って言うんだ、変な名前だろ?」


 笑いながら自虐気味にそう言うと少女はブンブンと首を横にふる。


 「そんな事ない、ナギ、素敵な名前、気に入った」


 まさか少女から自分の名前を『素敵』だと言われるとは思わず驚く凪。しかし嬉しかったのか少し照れ臭そうに指で頬をかく。


 「君は優しいね、初めて誰かに名前を褒められたよ。ありがとう、すごく嬉しいよ」


 そう告げると少女はまた凪の顔をじっと見ていた。


 「……ナギも優しい、ヌヌも嬉しい」


 これまであまり表情を変えなかった少女が初めて笑った、その笑顔は年相応で可愛らしく少女にとても似合っていた。


 「それはよかった、ヌヌちゃん、でいいのかな?」


 「ちゃんはいらない、ヌヌでいい」


 「分かったよヌヌ、それにしても可愛い名前だね、海外から来たのかな?」


 率直に凪は聞いた。当然だろう日本で『ヌヌ』という名前は珍しい、最近ではキラキラネームというのが流行だそうだがヌヌの容姿から察するに『海外』からやって来たと考えるのが妥当だろう。

 

 「ヌヌは『京東(きょうとう)』から来た」


 きょとんとした顔でヌヌは言う。


 凪が想像していたより斜め上の回答が来たため少し困る。

 『キョウトウ』、きっと『京都』のことだろうと決めつける。凪は想像していたより近くから来ているのだと拍子抜けする。


 「ご両親と来たの?」


 「ヌヌだけ」


 「えっ」


 これには凪は驚いた。目の前の少女は京都から東京まで1人で来たのだと言う。凪自身、幼い頃に1人で県を跨ぐような移動をしたことが無い、最近の子供は1人で京都から東京まで移動できるのかと関心する。


 「すごいな……いや失礼、話すぎだね、さっ食べなよ」


 「ん、いただきます」


 ヌヌは早速トーストを口に入れる、頬を膨らませながら食べる仕草はハムスターの様だ。


 「おいひい」


 凪に少しは心を許したのか表情を崩さなかったヌヌはニコニコしながらトーストを頬張っている。


 「それはよかった」

 

 その後も手を休める事なくヌヌは食事を続ける、途中でヌヌのためにオレンジジュースを注文し彼女に差し出す、ヌヌはまた嬉しそうにそれを飲み干した。


 ヌヌの可愛らしい食事姿に癒されながら凪もアイスコーヒーを堪能する。


 

 「ごちそうさま」


 しばらくすると料理を食べ終えたヌヌが満足そうに言う。


 「空腹は満たされたかい?」


 「ん、とっても」


 「それはよかった」


 凪は残っているアイスコーヒーを飲み干す。


 「ヌヌはこの後予定はあるのかい?」


 何となく口にした凪の言葉に先程まで幸せそうな顔を見せていたヌヌの表情が少し曇った。凪はそれを見て迂闊な質問をしてしまったと悟る。


 「ご、ごめん、いきなりこんな事を聞いて、別に他意はないんだ。ただ気になってしまって……」


 「大丈夫、ナギは悪くない」


 そう言うとヌヌは俯いてしまう。


 凪は何か声をかけようとするが何を言ったらいいのか分からない、一人であたふたしているとヌヌは顔を上げた、

 

 「……ナギはヌヌが迷惑?」


 「え?」


 いきなりの質問に凪はポカンと口を開けたままヌヌと目を合わせる。


 「答えてほしい、本当はヌヌにどこかへ行ってほしい?」


 弱々しい言葉が次第に強くなる、ヌヌは凪から目を離さず、答えを待っていた。

 彼女の表情には不安と恐怖が入り混ざった様に曇っている。


 「さっきも言ったけどヌヌが来てくれて助かった、ヌヌが来てくれなかったら今頃朝早くからお腹一杯になって夜まで寝ちゃうところだったよ」


 笑って答える凪をヌヌはずっと見つめていた。

 しかし表情は若干明るくなっている。


 「……本当に?」


 「嘘じゃないよ、それに朝からラッキーだった」


 「……ラッキー? どうして?」


 「本当なら一人寂しく過ごすはずの時間に可愛くて素敵な女の子と一緒に過ごすことができたから」


 これは取って付けた内容ではなく凪の本心だ、しかし本心と言うものは他人に伝わるものではない、だから凪は少しでも気持ちが伝わる様に笑顔で言って見せた。


 「…………」


 ヌヌは黙って凪を見つめている。

 そして何かを確信した様に頷いた後、口を開く。


 「ナギは本当を言ってくれる、嫌な気持ちがない、いい人」


 「え、えっと、ありがとう? でいいのかな?」


 どういうわけか突然ヌヌに褒められ戸惑う凪、しかしそんな事はお構いなしにヌヌは続ける。


 「ヌヌはね、人の気持ちがほんの少しわかる、その人が今どんな気持ちなのか何を考えているのか、ヌヌに伝わってくるの」


 またしても凪はポカンと口を開いたままヌヌを見た。それもそうだろう目の前のギリギリ中学生といったところの少女が『人の気持ちがわかる』なんて口にしたのだ、普通なら『人の気持ちがわかるなんて君は良い子だね』で、済む話だろう、しかしヌヌの雰囲気からそう言う事ではないとわかる。


 「だからここに来て、ナギがヌヌに言ってくれた言葉は『安全』だって分かってた、だからヌヌはご飯食べた」


 「……本当に、わかるのか?」


 「ん、わかる。けど詳しくは分からない、後その人から意識を外しても分からなくなる」


 にわかに信じ難い話だ、けれど凪は。


 「なるほど……その話、信じるよ」


 そう言うとヌヌは直ぐに顔をしかめる。


 「ナギ、今の嘘ついた。それも私を試す為の嘘、そう言うの好きじゃない」


 ヌヌは不機嫌そうに頬を膨らます。


 「本当にわかるのか……いや、試す様な事をしてごめん」


 ヌヌに指摘された通り、凪は『本当に相手の考えがわかるのか』試した、その結果、彼女は直ぐにそれを見抜いた。


 「もうしない?」


 上目遣いで言うヌヌに少し照れながらも今度こそ本心で凪は答える。


 「絶対にしない、約束する」


 その言葉を聞いたヌヌは納得した様に笑顔で喜んだ。


 「なら約束」


 そう言うとヌヌは机に身を乗り出し小さな両手で凪の頬を包む。


 「凪はヌヌに嘘つかない、はい復唱」


 「あの、ヌヌさん、これは一体」


 「人は約束をする時、こうやって目を見て行う、本にそう書いてあった」


 「いや、普通は指切りだと思うんですが」


 なぜか敬語になってしまう凪、一回り小さい女の子に動揺してしまうのは残念極まりない。


 「いいから、凪もヌヌに触って」


 そう言うと『んっ』っと顔を近づけてくる。


 「それじゃあ失礼するよ」


 凪は恐る恐るヌヌの頬を両手で包む。


 「ふふ、ナギの手は冷たい」


 嬉しそうにするヌヌを見て凪はほっとする。


 「それは良かった、で? これからどうするんだっけ?」


 「ヌヌに嘘付かない、言って?」


 「分かったよ、俺はヌヌに嘘を付かない……これでいいか?」


 「ん、よくできました」


 満足そうにヌヌは凪から離れ、自分の頬を触りながら『えへへ』と凪に聞こえる声でわかりやすく喜んでいる。


 凪はしばらく目の前の可愛い生き物を微笑ましく思いながら観察していた。


 堪能し終えたヌヌは改めて凪を見る。


 「ん、決めた」


 ヌヌは席を立ち凪の元へ歩きよる。


 「ナギ、手を出して」


 「こうでいいかい?」


 言われた通り凪はヌヌに右手を差し出す、それをヌヌは両手で包みギュッと力を込める。


 「ヌヌはナギ、気に入った」


 「それは嬉しい」


 「単刀直入に言う、ナギ、ヌヌの弟子になってほしい」


 「…………はい?」


 「はい、つまりイエス。ヌヌは嬉しい」


 ヌヌはぴょこぴょことその場で小さく跳ねて喜ぶ、その姿を見て直ぐに訂正しようとした言葉をぐっと堪えた。


 「ヌヌ、一つ聞いてもいいかな?」


 「何? 何でも聞いて」


 ヌヌは食い気味に身を乗り出す。


 「お、おう。その弟子って言うのは何をする弟子なんだ?」


 ヌヌの勢いに負け弟子入りを承諾したとは言え一体何をするのか、そこを明確にしてもらう必要がある。とは言え子供が言う弟子入りなんてたかが知れている、差し詰めショッピングの荷物持ち程度だろう。


 「んーヌヌのお手伝い?」

 

 「何で疑問形なんだ、まあ今日は時間あるしお手伝いでも荷物持ちでも何でもやるよ」


 「本当⁉︎ なら早速行こう!」


 ヌヌは今日一番のテンションで凪の腕を引く。


 「分かった分かった、ちょっと待ってて会計を済ましてくるから」

 

 「分かった!」


 そう言うとヌヌは店の出入り口までトテトテと小走りで向かった、その間に会計を済ませ凪はヌヌの元へ向かう。


 「よし、準備できた」


 「会計終わったぞーって、何やってんだヌヌ⁉︎」


 扉の前に立っていたヌヌに近づいた凪はヌヌの行動に目を疑った。


 「何って、帰る準備」


 「いやいやいやどう見ても扉に落書きしてるだけじゃん⁉︎」


 凪が指摘する様にあろう事かヌヌは店の扉に白いチョークの様なもので絵を描いていた。


 「む、これは落書きじゃない」


 自分が描いたものを落書きと言われ頬を膨らませるヌヌ。


 「百歩譲って落書きじゃなくてもお店の扉にそんなことしたらダメだから」


 周りを見渡し店員にまだ気付かれていない事を確認した凪はポケットからハンカチを取り出しそれを消そうと扉に手を伸ばす。


 「リンク、京東、ヌヌの家」


 隣に立つヌヌが呟く、凪は一度目線をヌヌに向けるが直ぐに落書きの方へ目線を戻す。


 「え?」


 扉に手を伸ばしていた凪は目の前の光景に固まてしまった。

 

 消そうとしていた落書きが強い光を放ちながら浮かび上がっていたからだ。


 そして扉はゆっくりと開いていく。


 「ナギ、行くよ」


 ヌヌは凪の手を掴むと開かれた扉に入っていく。


 「えっ? ちょ、まっ⁉︎」


 状況が理解出来ずにいた凪はヌヌのなすがままに扉の向こうへと引っ張られていく。


 凪が完全に扉を通り過ぎたと同時にバタンと扉は閉じられ、店から二人の姿は完全に消えた。


 

 「到着」


 「いきなり引っ張らないでくれよ、それよりさっきのって…………は?」


 

 凪は光の文字についてヌヌに問いただそうとしたがそれは目の前に映る光景に妨げられ唖然とするのだった。


 店の外に出たのにそこには駅や炎天下の人通りはなく本という本がぎっしりと詰まった棚が視界一面中に広がる広い部屋に凪は立っていた。


 「……なにこれ、俺は夢でも見てるのか」


 ありえない光景に何度も目を擦るが景色は変わることはない。


 「夢なんかじゃない、ナギはおかしな事を言う」

 

 あまりの衝撃でヌヌの存在をすっかり忘れていた凪は声のする方に目を向ける。


 そこにはやけに目につく大学帽のようなものを被り黒いマントを装着したヌヌがドヤ顔で腕組みをしていた。


 「ようこそ、ここがヌヌの家、魔逆界(マギカ)京東学園第四の塔最上階」

 

 色々と状況の整理が追いつかずパンク寸前の凪。


 「……ここがヌヌの家だと言うことしか分からない、えっと、マギカ? とか第四の塔? とか、それとここが最上階?」


 ヌヌの言葉をかき集める様に聞き取れた言葉を並べる凪、しかし口にしたところで理解できるわけもなくそれどころか余計に混乱を招いた。


 「ナギ、困ってる」


 「ちょっと、いや、かなり現状が把握できなくてね」


 「その割に、落ち着いてる」


 「いや、何から考えていいのか分からなくて何も考えてないだけだ、何を言っているんだ俺」


 「焦らなくていい、ヌヌがゆっくり教えてあげるから」


 そう言いながら凪に近づくと小さな両手で凪の手を取り笑顔で言った。


 「何たって、ヌヌ、ナギの師匠だから」


 ほんのり赤みを帯びたマシュマロの様なほっぺた、綺麗な青い瞳、腰まで伸びた栗色の髪の毛、そしてこの笑顔だ。何度見てもよく似合っている、そしてこう思ってしまう『この子の笑顔が見れるなら後のことは些末な事だ』


 「……それは心強い」


 凪はそう言って包み込む様にヌヌの手を取る。

 

 ヌヌは一気に顔を真っ赤に染め上げわなわなと口を震わせる。


 照れ臭さと嬉しさで頬が緩むのを堪えながらヌヌは握った手に力を込める。


 「これから、よろしく、ナギ」


 とても幸せそうにヌヌは言った。


 


 

 

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