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「花火は嫌いです。」
ざらついた、小さな声だった。
顔は戻さず、視線だけをやると、彼は中身のないグラスをぼんやりと見つめていた。
ふーん、と相槌を打って、自分のグラスから水を一口飲む。
「理由なんて無いですけど。」
「そ。」
「花火大会なんて物好きなもの、よくやるな、て思います。」
「その人たちは好きなんだよ。『いつも通り』を特別にするものが花火だった、それだけなんだよ。」
花火が数発上がる。暑さを逃れるために入ったファミレスは、花火大会のせいか人影が無かった。
「あんなの、ただの火薬じゃ無いですか。起こってるのも、金属の炎色反応だけだし。」
「言うねー。綺麗だもん。美しいものが見たいのは人間の性質でしょ。」
暑い中、わざわざ人混みに突っ込んでまで見る価値があるかは疑問だが。
「ルイさんだって興味ないくせに。」
「あはは、まあね。」
ルイ、というのは私が彼に指示した呼び名だ。初めて会った時、持っていた本に因んだ。
「飲み物いいの?」
空のガラスを見て尋ねる。
少しだけ目を泳がせた後、少年は席を立った。
ドリンクバーでファミレスに居座る、なんて手法、自分が使う日が来るとは思わなかった。
ファミレスはファミレスでも、レストランであることに変わりはなく、レストランはあくまで食事する場所でしか無かった。
空は暗くなっていた。
相変わらず時折光っては、煙を残していく。
ぼんやりとした白い影が漂ったまま消えない。
退屈だった。自分の常識が世間のそれと少々ズレていたことには、前から気づいていた。
しばらくして、ジンジャエールを抱えて戻ってきた少年に私は微笑んだ。
「それで、今日はどうしよっか。」