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無名  作者: 東メリ
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2

「花火は嫌いです。」

ざらついた、小さな声だった。

顔は戻さず、視線だけをやると、彼は中身のないグラスをぼんやりと見つめていた。


ふーん、と相槌を打って、自分のグラスから水を一口飲む。

「理由なんて無いですけど。」

「そ。」

「花火大会なんて物好きなもの、よくやるな、て思います。」

「その人たちは好きなんだよ。『いつも通り』を特別にするものが花火だった、それだけなんだよ。」


花火が数発上がる。暑さを逃れるために入ったファミレスは、花火大会のせいか人影が無かった。



「あんなの、ただの火薬じゃ無いですか。起こってるのも、金属の炎色反応だけだし。」

「言うねー。綺麗だもん。美しいものが見たいのは人間の性質でしょ。」

暑い中、わざわざ人混みに突っ込んでまで見る価値があるかは疑問だが。


「ルイさんだって興味ないくせに。」

「あはは、まあね。」


ルイ、というのは私が彼に指示した呼び名だ。初めて会った時、持っていた本に因んだ。


「飲み物いいの?」

空のガラスを見て尋ねる。

少しだけ目を泳がせた後、少年は席を立った。


ドリンクバーでファミレスに居座る、なんて手法、自分が使う日が来るとは思わなかった。

ファミレスはファミレスでも、レストランであることに変わりはなく、レストランはあくまで食事する場所でしか無かった。


空は暗くなっていた。

相変わらず時折光っては、煙を残していく。

ぼんやりとした白い影が漂ったまま消えない。


退屈だった。自分の常識が世間のそれと少々ズレていたことには、前から気づいていた。


しばらくして、ジンジャエールを抱えて戻ってきた少年に私は微笑んだ。


「それで、今日はどうしよっか。」

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