最終話
今日も今日とて。
窓から朝日の眩しくけれど優しい日差しが王さまとお妃が眠る寝台に降り注ぎました。
「おはよう」
起きた王さまは未だ寝ぼけまなこなお妃に挨拶し、頬にキスを――
「お父様、おはようございます! あら、お義母様、御髪が爆発してましてよ」
お妃は白雪姫を再度滅多打ちすることに決めました。
前回といい二度にわたり至福の時を妨害しやがったのですから。
今回はどうしてやろうかしら。
とりあえずまた料理長に言いつけて白雪姫の朝食を、人参のポタージュと人参パン、そして人参ケーキを焼いてもらってその上に人参のグラッセをのせてもらうことはもう決定しています。
ふつふつと怒りをくすぶらせて、あれやこれや白雪姫を懲らしめる方法を頭のなかで立てているお妃の横で、王さまはのほほんと白雪姫に尋ねました。
「おや、白雪。こんな朝からどうしたんだい?」
白雪姫は喚き散らすように言いました。
「お父様、お父様。そうなのです。こんな朝からなのです。あの男が窓の下にいたのです」
いつも寝坊助な白雪姫が朝早くから起きていることなど、お妃への嫌がらせをする時ぐらいです。
けれど、まだ寝衣のままの白雪姫を見るに今日は違うようでした。
窓を開けて下を見てみると、どうやらあの王子がいたらしいのでした。
「日の昇るのと同時に活動するなんて。あの男は鶏かしら。結婚してくれ結婚してくれと馬鹿の一つ覚えのようにコケコケと鳴くなんて鶏に違いないわ。お父様、卵も産めぬ鶏は絞めて丸焼きにいたしましょう。ディナーはそれに決まりね!」
はしたなくもドレスをたくし上げ、どかどかと慌ただしく足音を立てて去っていく白雪姫。
控えていた下僕たちにさりげなく「肉切り包丁をすぐに用意して!」なんて命令するのも忘れません。
もはや大好きな父親の前で素を露としているところから、白雪姫はほんとうに手を焼いているようでした。
そういえば、とお妃はふと思い出しました。
あの異母弟は気に入った猫をこれでもかとかまい倒し、なつかれるどころか嫌われて、身体中引っかかれてもむしろ殊更嬉しそうにして(むしろ従者達の方が怒り狂って)いた姿を見て、ドン引いた記憶を。
あの王子を知っている身のお妃としては白雪姫をちょこっとくらい同情はすれど、しかし助けてやるつもりは毛頭もありません。
むしろ二人が結婚してしまえば、白雪姫に王さまとの時間を妨害されなくてすみますし、王さまと二人で隠居生活をおくれるので、ねがったりかなったりです。
ようやく静かになった寝室。ぱぱぱっと手梳で髪を整えたお妃は、えいやと王さまの頬めがけて唇をくっつけました。
「あの、あ、あああい、あい、愛しております」
そしてチャンスとばかりに、お妃は思い切って伝えました。
――噛み噛みでしたが。どもりましたが。そこはご愛嬌というものです。
すると王さまは一瞬目を見開ひらいて、次いで垂れた目じりをさらに溶け落ちてしまうのではないかというほど下げて穏やかに微笑みました。
「ぼくも愛しておりますよ」
それからお妃の口元にひとつキスを落としました。
ぼんっと音をたてて耳まで林檎のように真っ赤になったお妃は、どさくさに紛れて王さまに抱き着くのでした。