序章
むかしむかし、とある少女がおりました。
陶器のように白い肌。血のように赤い唇。光り輝く艶やかな長い髪。少女は幼いながらも比類稀なる美貌の持ち主でありました。同時に、大国の王女でもありましたので、それはそれはたいそう皆に可愛がられておりました。
その愛らしい少女はもう齢九つ。周りから、ちやほやされるのもうっとうしく感じるお年頃でした。
それもそのはず。
王女が身じろぎすれば、これは人形ではなかったのかと周りは目を見開き凝視し、
ふうっと何気なしに息を吐けば、花の香りがするのだといわんばかりにめいいっぱい鼻の穴をあけて吸い込まれ、
城をしずしずと歩けば「王女さま、あなた様が今着ていらっしゃる、その、下の御召し物を……」と鼻息あらく声をかけられ(たのと同時にその男は兵士達に連れて行かれましたが)、
硝子のように繊細な心をもつ王女はそんな周りからの扱いにほとほと疲れきっていました。
そんなある日。
王女は見てしまったのです。
いつも身の回りの世話をする親しい侍女が、櫛についた王女の髪の毛や切った爪をあつめる姿を。
そしてそれらを可愛らしい小袋に詰めては周囲に売りさばき、小遣いを稼ぐその姿を。
その日からでしょうか。
王女は毎日のように敷地内に森に出かけ、動物たちと遊ぶようになりました。
もともと土で服や手足が汚れるのも運動するのも苦手でありましたが、それ以上に嫌いなものができてからはそのような事!
はしたなくとも、鼻で笑ってしまうほどかわいいものです。
たとえ絹の髪が絡まろうとも、転んで珠のような肌に傷がつこうとも。森でできた小さな友人たちとともにその柔らかな足に豆をこしらえるほど森を駆けずり、最後は、ああ疲れたとみんなで拓けた草原でお昼寝することがなによりも好きでした。
今では穴熊のおうちに這って遊びに行くことも、高い木にのぼって小鳥たちと歌うことも、お手の物です。
だから。
王女が森の中でひっそりと隠れるようにあるちいさなちいさな家を見つけることは必然だったのでしょう。