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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた 【閑話・小話集】  作者: ひつじのはね


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プレ企画特別SS 

こちらはTwitterでのプレゼント企画、【もふしら名言コンテスト】でのプレゼントとして書いたSSです!

当選者ねこめがね様のご希望に可能な限り沿って書かせていただきました! 詳細を一緒に詰めていただいて、とても楽しかったです! 皆様へも公開して下さるとのことで、皆様どうぞお楽しみ下さい~!!

「――っらああ!!」

 裂帛の気合いと共に、小柄な剣士が大柄な男へ猛攻を仕掛けている。

 右へ、左へ、上へ、下へ――目まぐるしく跳ね回る動作で周囲に汗が散った。

 全力……だね。よくもまあ、こんなに全身全霊で。

 力の最後のひとしずくまで使い切るような、見ているこっちの心拍まで上がってしまいそうな、まさに全力。 

「いいじゃねえか! がむしゃらに出来んのは、それも才能だ」

 そろそろぶっ倒れそうなタクトをあしらいつつ、カロルス様だけが楽しそうに笑っている。

 ……それって褒めてるの? ひとまず、集中しきっているタクトには聞こえてないんじゃないだろうか。


「見てるだけで疲れそう……」

 思わず呟いたオレに向け、木刀が閃いた。

「そう言うユータは、もうちょっと真面目にすべきじゃない?」

 一太刀躱し、返す刃を受け流す。

「真面目にやってるよ! だってセデス兄さんが本気じゃないんだもの」

「だって僕、別に稽古したくないもの」

 あっけらかんと言うけれど、セデス兄さんの剣は簡単に捌けるものじゃないんだから! オレだって十分真面目にやってるでしょう!

 ちら、と火が付きそうなほどの熱気漂うタクトたちを眺め、逆に周囲が冷え込みそうな反対側の一角に目をやった。

 

「――そうです。経験が少ないうちは、そのような輩もいますから」

「勉強になります~! 先制と鎌かけ……テクニックですね~」

 ――目が合った者は敵、いい言葉なの。勉強になるの。

 ……二人は何をやっているんだろう。そしてラピス、そっちに行っちゃダメだ。

 まったく、ラキは魔法の練習をするんじゃなかったの? さっきから休憩と称して、ずっと執事さんと二人で話し込んでないだろうか。徐々に周囲が冷え込んできている気がして、とても心配だ。


 そう、オレたちは今日、タクトのおねだりでロクサレンまでやって来ている。

 稽古のためにわざわざ……とは思ったけれど、ここまで熱の入った稽古を見せられてしまえば、不服も引っ込もうというもの。

「とは言え、オレそろそろお腹空いたんだけど……」

「あ、僕も僕も! あの二人は食事ができれば稽古なんてやめるでしょ、ジフに声かけてこよう!」

 セデス兄さんはそう言ってオレをほっぽり出し、そそくさと稽古場を後にしたのだった。



「はーっ、やっぱ動いた後は飯が美味い! 食が進むな!」

 満面の笑みで即おかわりするカロルス様だけど、その食欲は普段と何ら変わらないと思う。

 オレたちは午前いっぱい稽古をして、今ようやく昼食にありつけたところだ。

 まとわりつく気怠さと微かな爽快感が、なおさら空腹感を煽るよう。

 急ぐあまりカツカツ音が鳴るのも構わず、スプーンいっぱいに、口から溢れんばかりに頬張った。とろり、艶やかな白飯に馴染むカレーの美しいこと。

 ああ、幸せ。お腹が空ききった時のカレーって、どうしてこんなに幸福感を連れてくるんだろうか。

『最っ高だぜ主ぃ! やっぱ稽古後のカレーは違うなあ!』

『最高らぜ! けいごこは違うんらぜ!』

 ……うん、チュー助もアゲハも稽古には加わってなかったよね? まあ、つまりカレーはいつ食べても最高、そういうことだ。

 脇目もふらず貪っているタクトは、そのうち勢い余って器に顔を突っ込みそう。ちなみに、指一本動かせないくらい疲弊してぶっ倒れたので、回復は必須だったけれど。

「はあ~、美味しい~」

 つい溢れた、とありありと分かるラキの呟きに、テーブルについた全員が頷いていたのだった。



 お昼も食べたし、後はお昼寝とおやつだけ。そう思っていた時もありました。

「……これだから、下手にロクサレンに帰れないんだよね!」

 至福の腹心地でほどよい疲労感の中、いざ寝る気満々だったオレは、ブツクサ呟きながらクヌラをむしった。

 言いつかってしまったのだ。今ちょうどクヌラ採取にいい頃合いだから、暇なら行ってこいと。もちろん、そんなことを言うのはジフだけど。

「けどよ、採っていったら美味いおやつ作ってくれんだろ? それなら問題ねえ!」

「あればあるほど、ユータの取り分にもなるよね~! そうすればまた別の機会のおやつに~!」

 タクトとラキが俄然張り切っているから、オレはほどほどでいいだろうか。

「ピピッピ!」

 ……ダメらしい。こっちも尾羽をふりふり張り切っている。これを採れあれを採れと忙しいので、ちっとも休めない。

 クヌラはクルミのような、アーモンドのような汎用性のあるナッツなので、あって困ることはない。ありがたいと言えばありがたいのだけど……オレのお昼寝……。


 ふと、感じた気配に顔を上げた。

「ゴブリンがいるね」

 ここらは割と人が来る森だけれど、資源が豊富なもので、ゴブリンや小物類はたまにやってくる。向こうの木陰にちらちらのぞく緑の魔物も、オレたちみたいに採取をしているんじゃないかな。

 ただ、ゴブリンの近くに赤っぽい髪が見えたから、きっとお空の彼方に吹っ飛ばされてしまうだろう。

 ご愁傷様、とゴブリンの冥福を祈ったところで、ティアが何か言いたげにこちらを見た。

「ピッ?」

「え? これも?」

 これはいらない? と首を傾げるティアは、一見何の変哲もない植物を示している。ただの茎に見えるけど、ティアがそう言うからには食べられるのだろう。

 だったらひとまず収穫しておこう、と引っ張ってみると、案外長く蔓状になっている。

「なんだそれ? 食うのか?」

「うーん? ティアが食べられるって言うんだけど――あれ? タクト?」

「なんだよ?」

「向こうにいたんじゃ……?」

 おや? と茂みの向こうへ目をやると、向こうにも確かにちらちら見える赤い髪。比べてみればオレンジっぽい茶のタクトよりも、もっと鮮やかな赤。

「……ということは……?」

『別人ね』

『主ぃ、一般人なんじゃ?』

 呑気に答えるモモとチュー助のセリフを受け、血の気が引いた。


「ええええ?! だって、あっちにゴブリンが!」

 多分一匹しかいないと思うけど、何の用意もない一般人ならゴブリン1匹だってそれなりに脅威だ。

「は、早く助けに――!」

 そうタクトに告げる時間も惜しく走り出す。

 広げたレーダー上では、ゴブリンと一般人らしき人が既に鉢合わせている可能性が高く……まずい……!!

 どうしよう、凄惨な現場になっていたら……。

 いやいや、オレには回復があるんだから! そんな不吉なことを考えつつ、己を奮い立たせて飛び込んだ藪の先。果たして、ゴブリンと相対する一人の女性を見つけた。


「ギャギイィイ!」

 鋭い歯を軋らせて鳴き声をあげる醜悪な魔物。そして、女性の方はどう見ても一般人で……オレは、衝撃に思わず足を止めた。

 歯をむき出して鼻息も荒く、決して掴んだものを離すまいと引っ張るその汚れた手。引きずり出されたそれが、今にもぶちりと引きちぎれてしまいそう。頬へ乱れかかったウェーブ気味の髪は、見るも無惨なほどに土にまみれて。

「なんで……」

 つい、足を止めて呟いた。

「ふんぎぎぎぎ……!!」

 そこに居たのは、赤い髪を振り乱し、ずれた眼鏡もそのままに全身全霊で蔓を引っ張る女性。あまりの様相にゴブリンから若干の戸惑いが伝わってくる。

  

「……えっと。なんでそんなことに? 何やってるの?」

 見る限り、女性とゴブリンは蔓を引っ張り合って綱引きをしているみたいだけど。

 互いに歯を剥きうなり声をあげて威嚇し合いながら、全力を振り絞っているのが分かる。いや、まあ、ゴブリンの方は分かるけど……。

「あんたは何やってんだよ……」

 必死のあまりオレたちに気付かなかった二人(?)が、ハッとこちらを向いた。

 大きな眼鏡と大人しそうな茶色の瞳。豊かな赤髪にはカモフラージュかと思うほど泥汚れがこびりつき、草木が刺さっている。

 細身ではあるもののゴブリンよりは大分背が高いから、なんとか互角に引っ張り合えているみたいだ。

 あとは多分、その異様さにゴブリンがちょっぴり怯えているから。

『どっちも魔物の可能性……』

『それだ』

 ぽつりと呟いた蘇芳に、チャトの合いの手が入る。いやいや、それだじゃないから。ちゃんと、多分、きっと、おそらく一般人だから!

 

「そこの、少年! 加勢してぇ!! うんぬぬぬぬ……これは私が先に見つけたのよ!」

 ぐわっと目をひん剥いて奇声を上げた女性は、ゴブリンが怯んだ隙にさらに蔓をたぐった。

「まあ、とりあえず助ければいいのか……?」

 何の気負いもなく近付くタクトを見て、形勢不利と見たゴブリンが蔓から手を離した。悔しげに歯を鳴らしながら、そして微かに安堵した雰囲気も醸しながら、身を翻して逃げていく。

「のうっ?!」

 ゴブリンが向こうの茂みに姿を消し、激しく転がっていった女性が、こちらの茂みに姿を消した。

 そして、誰も居なくなった。


「……戻ろうか」

「……そうだな。ラキは何してんだよ」

 全てをなかったことにして藪を抜けようとした時、にゅっと伸びてきた腕が、オレの足を掴んだ。

「び! びっくりするよ! 何?!」

 思わず飛び上がったオレの前に、蓑虫のように森の付属物まみれになった人が立ち上がった。

「えと、お姉さんね、ちょっと道に迷っちゃって」

 ズレた大きな眼鏡を直し、お姉さんは視線を彷徨わせた。

「だ、だから。その、あの……あのぉ、道案内とか……」

 もじもじ頬を染め、しきりと眼鏡を上下させる。……オレ、恥らうポイントはそこじゃなかったと思うのだけど。

 


「――ねえ、拾ったところに返しておいで~?」

 ラキが、腰に手を当てオレたちを見下ろした。

 さすが、鋭い。ラキはひと目で彼女の本質を見抜いている。ちゃんと洗浄魔法をかけて、綺麗にしておいたのに。取り切れなかった小枝が、長い髪に刺さっているからだろうか。

「さ、さすがにね! 一般人だと思うし! ゴブリンいたし!」

「あのね、一般人っていうのは『普通の人々』ってことなんだよ~?」

 ラキの胡乱げな瞳が、ほくほく顔で蔓に頬ずりしている女性をちらりと見やった。

「何言ってんだよ、これ、素材見つけた時のお前と大差ね――ちょっ?!」

 確かに、と納得する横で、不用意なことを言ったタクトが必死に砲撃を躱している。

「ま、まあロクサレンに向かってたみたいだし! ついでだから! クヌラも十分採ったし、帰ろっか!」

 とりなすように宣言すると、彼女をシロ車に押し込んだのだった。

 

「……道に迷ったところでいいものを見つけて、余計に迷い込むとか~ちょっと不用心すぎると思うよ~」

『迷子になっちゃったの? もしおうちに帰れなくても大丈夫だよ、ぼくが探してあげるからね!』

ウチのやさしい犬のおまわりさんは優秀だ。きっと、彼女の匂いを辿って、ちゃんと元いた場所に返品だってできるだろう。

 キョロキョロシロ車を見回していた女性は、申し訳なさそうに首をすくめた。

「面目ない……。いい食材を見つけたら、つい我慢できなくて……すぐ夢中になってしまうみたい」

「「…………」」

 オレたちの無言の視線を受け流し、ラキは素知らぬ顔で明後日の方を向いた。

「食材って、その蔓? オレも採ったんだけど、これ何に使うの?」

 多分、同じものだろう。ティアに言われて採取した長い蔓を取り出してみせる。

「ウホッ?! 何それ、凄い品質?! やはり、あそこには最高級が――」

 ……変な鳴き声が聞こえた気がするけど、まあいい。眼鏡の奥がぎらついたのを見て、オレとタクトの手がさりげなく彼女を掴む。

「ちょっと私、用事を思い出し――っ」

「走行中だから」

「もう助けねえぞ」

 一気にシロ車を飛び降りようとした女性は、まんまとシロ車に引き戻されて項垂れたのだった。


「わ、わあ~! 領主様のお子様だったの?! 私っ、とんだ失礼をば……!」

 ロクサレンの館に到着した途端、仰天した女性がオレたちに平謝りしてきた。

 うん、まあ、とんだ失礼はしていたと思うけれど。

「ところで、ロクサレンに何の用だったの? お姉さんお名前は?」

「いえっ、決して怪しい者ではありませんから! 名前は、そのっ! お願いです、い、家に可愛いネコちゃんも待ってるんです……!!」

そういう意味で名前を聞いたんじゃないんだけど。確かに怪しい者でしかなかったけれど、ロクサレンにはそういう人多いから……許容範囲だろう。

 

 涙目でふるふるしているお姉さんが気の毒で、あと面倒になったので頷いた。

「じゃあ……ねこめがねさんって呼ぶね。ロクサレンの用事って何だったのかなって思っただけだよ」

「何でもお話しします! 私、実はカフェを営んでまして……ロクサレンには珍しい料理やお菓子があるって聞いて……それだけなんです」

「カフェ! いいなあ。それなら確かにロクサレンには色々あるよ! もしかして、カフェでその蔓も使うの? オレもどう使うかジフに聞いて……あ、そうだ! 早くクヌラ渡しに行かなきゃ!」

「そうだそうだ! もうおやつの時間になるぞ?!」

「どんなおやつか楽しみ~!」

 二人の期待に満ちた視線が痛い。オレも作れと、そういうことだろう。

 ひとまずジフに渡すべく厨房へ向かうと、背後に気配がする。

「あの……オレ、厨房に行くんだけど」

 振り返ると、思った通り、瞳をキラキラさせたねこめがねさんがそこにいた。

 領主館の厨房に入るのって、普通はダメだと思うよ。


「私、カフェをやってまして!」

 それは、さっき聞いた。

 ねこめがねさんは、さらにずいっと身を乗り出してくる。

「噂に聞く食のロクサレン! その心臓部と言える厨房(聖域)! 食事に携わるものとして、こんな目と鼻の先にあって行かずにおれるとでも?! ああ、見たい! 鍵穴からちょっとでも、扉のスキマから少しでも、はたまたゴミ箱の影でも! もはやシンクの中でもいい!」

 それ、段々侵入してるよね。ジフの前で不審な動きをしたら、それこそ鍋に入れられるかもしれないよ?

「別にいいけど……じゃあ、一緒におやつ作る?」

 人手はあって困ることはない。一応、現役のようだし。


「遅ぇわっ!! てめえ、一体どこまで採りに行ったっつうんだ!」

 間一髪、飛んできたお玉を弾いて憤慨した。

「結構早かったよ! 普通、行き帰りだけでもっとかかるからね?!」

「だからてめえに頼んだんだろうが! ――は? 誰だそいつは」

 やっと気付いたらしいジフが胡散臭そうにねこめがねさんを見て、『お』と表情を変える。

「それ、クグじゃねえか。いいサイズだな、売り込みか?」

「クグ?」

 もしかして、彼女がずっと握りしめて離さない、その蔓のことだろうか。途端に目を見開いたねこめがねさんの姿がブレた。

「分かるのですね?!さすがはロクサレン!私新メニューに悩んでまして、そんな折に出会ったのがコレ!そう、このクグを使って何かないか考えているところでして!ね、ないでしょう、これを使った新たなものって、ね、ね!?いいと思いませんか?!ところが誰に言ってもまずクグ自体の知名度が低くて話にならず悶々としていたところでロクサレンの噂を聞きまして土地柄クグの自生もあるでしょうしこれはと思いまして――」

 は、速い。一瞬で間合いを詰めたねこめがねさんに、ジフの顔が引きつっている。猛烈なマシンガントークは弾幕のよう。

「――なんと森の中の奇跡、こんな美しいクグに出会ってしまったのはまさに運命!さらに窮地からの合縁奇縁、このご縁も天使様の思し召し!つきましては何かいいアイディアなど――」

眼鏡の奥からぎらぎらした光が溢れている。華奢な身体が一歩、また一歩とジフとの隙間を埋め、じりじり下がるジフの大きな身体は、瞬く間にキッチン台へ追い詰められていく。

 

「分かったから! 離れろ! クグのメニューを考えりゃあいいんだろ?!」

 もはや後ろに反り返ったジフがそう怒鳴ると、ねこめがねさんがハッと我に返った。

「あ、あの、私、何もそこまで図々しいことは……ちょっと、その、少しヒントなんかもらえればなあって思っただけで……でも考えてくれるなら是非!!!」

 始めと終わりの表情が違いすぎる。ラキとはまた違ったタイプだな……。

「……らしいぜ。お前、やれよ」

 全てを丸ごとぶん投げる視線が、オレに向いている。

「ええ?! オレ、そもそもこれが何か知らないよ?!」

「クグだ。こいつ自体には大して味がねえんだが、薬になるくらい身体に良いっつうな。どろどろして透明な……液体っつうか、食い物つうか」

「全然分かんないよ……オレも持ってるから、まずどう食べるか見せて!」

 取り出したクグを見て、ねこめがねさんが悲鳴を上げた。

「いやっ! そんな上物を試験的に使うなんて! こっちを、こっちを使って!」

 断腸の思いなのだろう、差し出す手が震えている。何せ、命がけで入手したもんね。

「じゃあ、こっちをあげるから、交換ね! 作り方を教えて?」

 そう言った途端、また変な鳴き声がしてねこめがねさんの動きが止まったのだった。



「――なんて……美しい……」

 その口から、はう……と熱い吐息が漏れる。

 そんなに熱視線を送っていたら、そのうち溶けちゃうんじゃないだろうか。

「どう? 見た目はすごく綺麗だから、人気出るんじゃないかな?」

 味は、まあ……想像の範囲内というか。クグ自体に特別な味があるわけじゃないしね。

 あれから、調理法を教えてもらいつつジフと一緒に試作品を作ってみた。

 蔓から取り出した成分に水を加えて煮ると、透明な液体がのり状にねっとりしはじめ――おや? これを冷やして、どろりとした状態で食べるという――おやおや? 

「これってもしかして……葛? 多分、葛と似てるものだよね」

 だけど、それが分かったところで、葛の食べ方ってあんまりバリエーションを知らない。ゼリーと同じような使い方が精一杯かな。

 液状ではあまり工夫できなかったので、水分を減らしてゼリーに近い性質のアガーラを少し混ぜてみた。割とスムーズに混ざり合ったので、大発見じゃないだろうか。

「カフェスイーツと言えば……やっぱり見た目も必要だよね!」

 しかも、新たな看板商品となるようなメニューならなおさらだ。


「――そろそろ持って行かないと、みんなが突撃してきちゃうよ」

 いつまでもうっとり眺めているねこめがねさんに苦笑して、さあ、とできあがったスイーツに手を伸ばす。

 クヌラをたっぷり練り込んだクッキー生地を敷き込み、その上にレアチーズケーキの層を。その白いキャンバスの上へ、花のように美しく並べた果物。包み込むのは透明なクグの層。透明度の高いクグのおかげで、それはまるでガラスケースに収まった宝石のよう。これは、エリーシャ様たちも好きだろうな。

「でででも、それってこれに刃を入れるということ……?」

 泣きそうな顔で縋る彼女の前から、さっとクグのタルトを取り上げた。

 マリーさんみたいなこと言ってないで、行くよ!

 

「す、すげえ! なんだこれ、見たことねえ!」

「食べ物じゃないみたい~」

 タクトが身を乗り出し、ラキが目を輝かせている。

「宝石みたいね……」

「あまりにも美しいです……」

 案の定うっとりしているエリーシャ様とマリーさん。

 切り分けに対する方々からの抵抗が酷かったけれど、こうして三角にカットされた断面も綺麗でしょう?

「冷えているうちに食べる方が、美味しいよ!」

 くすっと笑うと、目の前の皿を眺めるばかりだった面々が慌ててフォークを手に取った。

 ゼリーよりもずっと弾力のある透明の層は、フォークを入れるのも楽しい。

 つぷ、と削り取った涼やかな宝玉をそっとフォークに載せて、上品に小さな一口を。

 むち、つるんとした独特の感覚が、やわらかな冷たさと共に口内に驚きを連れてくる。

 ああ、これは、味覚よりも食感を使って楽しむスイーツ……かな。

 ひんやりここちよい感覚を楽しみたくて、つい次を口へ入れてしまう。


「ね、これって、あなたのカフェで食べられるのかしら?」

 恍惚としていたねこめがねさんが、エリーシャ様からの問いかけに飛び上がった。

「え、え、いえ、そんな、我が物にしようなどとは、決して!!」

「いいじゃねえか、方々で食える方が助かる」

 他にないかと視線を彷徨わせながら、カロルス様が当たり前のように言った。多分、カロルス様はムースやゼリーより焼き菓子の方が好きだよね。エリーシャ様たちがカフェに食べに行く方が、ロクサレンの焼き菓子率が上がって助かるんだろう。

 領主夫婦にそう言われたねこめがねさんが奮起したのは言うまでもなく……。

「ありがとうございます……!! わ、私! ロクサレンの名に恥じないよう世界一のカフェを目指します!!」

 決意を秘めた茶色の瞳には、涙すら浮かんでいる。

「ん? ウチは関係ねえけどな?」

「そう、その意気よ! 美味しいスイーツ、期待しているわ!!」

 

 その後、オレたちは『ロクサレン直伝! 天使の宝石スイーツ!』などと謳う大人気カフェの噂を聞くことになるのだった。

 

3000文字程度のつもりがずいぶん長くなっちゃいました……

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[一言] ねこめがね様公開いただき有難うございます! クグのスイーツ食べたいなあ。
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