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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた 【閑話・小話集】  作者: ひつじのはね


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限定公開小話 ③

カクヨムさんのサポーターさん向け限定公開SS、リクエスト小話分4話溜まりましたのでTwitterアンケート取りました!

今回はこちら!


薄曇りに冷たい風が吹き、足下をカラカラに乾いた葉っぱが音をたてて転がって行った。

自然と後ずさろうとする身体を叱咤し、意を決してその建物を見上げた。

「……本当に、ここに行くの?」

大きな背中に小さく声をかけて繋いだ手を引くと、訝しげに振り返って首を傾げた。

「行かねえのか? お前がここに用事があるんだろ?」

「……そうなんだけど」

オレはため息を吐いて静かな洋館を見上げる。

この館2階に安置されている小さな像を持って帰ってくること。それが今回課せられたミッションだ。

「そんなに嫌なら行かなきゃいいだろ?」

頑として動かなくなったオレに苦笑して、カロルス様はぽんと頭に手を置いた。

「だって……みんなちゃんと行ったんだもの」


オレひとり理不尽な目に遭うのが嫌で、ラキとタクトを誘った。そして、2人は難なくクリアしてしまった。セデス兄さんだって。それも、各々一人で行ってケロリとした様子で帰ってきている。マリーさんとエリーシャ様は、逆に被害が出ると危険なのでやめておいた。

オレだけ、目を閉じて抱っこで行くわけにはいかない。それだと、行ったという判定にはならないだろう。

「ただの遊びだろ? 嫌ならサッと行って帰って来りゃあいいだろ」

散歩から帰る犬状態のオレに眉を下げ、カロルス様は不思議そうだ。

「まだ何も起こってねえのに、何で既に恐がれるんだ? そもそもお前、何が出てきても問題ねえだろうに」

ドラゴンからだって生還できんだろ、なんて笑う。

「ドラゴンは怖くな……ええと、怖いけど、そういう怖いじゃないの! 為す術のない怖さというか!!」

むしろ、なぜ分からないの! この世界のひとは!!


『ただのお化け屋敷じゃない……攻撃してくるわけでなし』

分かってるけど!

――そう、今回挑戦する羽目になったのは、このお化け屋敷。オレ、昔からこういうのは苦手なんだもの! ドラゴンみたいなのはちゃんとこの世に存在してるじゃないか。オバケは実体がないんだよ?!

『主、精霊はいいけどオバケはダメなのか? 妖精は?』

……うん? そう言えば精霊も実体がないようなもの。でも別に怖くない。ヴァンパイアだってエルベル様だもの、怖くない。

おや、そう思えば大丈夫だろうか。


そろり、と目の前の館を見上げる。

薄汚れて蔦の絡む外壁、濁った窓ガラスに張り付く蜘蛛の巣、うっすら見える分厚いカーテン。枯れた庭木が手招くように揺れて……。

「やっぱり無理ぃ! むしろみんな、なんで怖くないの?!」

半泣きで傍の大きな体に顔を押し付ける。


「やめとくか? 無理ならしょうがねえだろ」

半ば呆れた声に回れ右させられ、内心ホッと安堵してしまう。

――このお家があるからダメなの? じゃあラピスが吹っ飛ばしてあげるの! 安心するといいの!

オレの様子を見たラピスが、フンス! と張り切ってくるくる回った。

――総員、戦闘配置につくの! 目標、汚いお家なの!!

「きゅーっ!!」

ぽぼぽっ! と次々現れる管狐部隊が、みなぎるやる気を迸らせながら館を見据えた。

渦巻く魔力で、ビリビリと周囲が震え始める。


「だ、ダメーーっ! 待って、ストップ! 行くから! オレ行くからぁー!!」

サッと顔色を変え、オレはかろうじてカロルス様の腕を引っ掴み、おどろおどろしい館へ夢中で飛び込んだのだった。



「……なあ、ずっとここにいる方が嫌じゃねえのか?」

多分そんなことを言いながら、カロルス様は無惨に引き裂かれたソファーで寛いでいる。

勢いで入ったはいいものの、オレの足はピタリと止まって根が生えてしまった。早く通り抜けた方がいいに決まってる。だけど、動けない。

カロルス様の方を向けば、嫌でも目に入ってくるその乾いた血糊。見えないんだろうか、ベッタリと無数についた手形が。


目を閉じ耳を塞いで小さく蹲ること……どのくらいだろう? オレは何も見ないし聞こえない!!

ひたすら『オバケなんてないさ』の歌詞前半(後半はダメだ。怖いなんて口にしてはいけない)を呟いていると、何かが両腕を掴み上げてびくりと肩を揺らす。心臓が止まるかと思ったけど、その手の温かさにホッと力が抜ける。

「お前、暗くても見えるんだろ? なら怖くねえだろう。ここに住むつもりかよ」

夜目がきくことと、暗いのが怖いことは両立するの! だって見えるけど暗いのは分かるんだもの。


「でも、だって、だって怖いよ。怖くないようにして!」

潤んだ瞳に困り顔のカロルス様が映る。

「そう言われても、何が怖えのか全然分からん……。とりあえず、ここにお前より強いやつはいねえだろが」

う……少なくともラピスがいるから、確かにそう。

「だけど、オバケだよ? 何があるか分からないよ?」

ふうん、と気のない返事を寄越し、カロルス様はいつもの顔でにやっと笑った。

それだけで、少し……息がしやすくなった気がする。


片手でオレの頬を潰して、ブルーの瞳が間近くオレを覗き込む。

「お前、俺がいてもそう思うのか?」

ん? と片眉を上げて首を傾げる美丈夫は、お日様の光を背負っているみたい。自信に満ちた輝きが、暗い部屋を照らした気がする。

そうか、カロルス様が一緒……。

ずっと震動していたオレのバイブ機能が、スンとオフになった。

「俺がいる。何も怖くねえだろう」

にやりと髪をかき上げた仕草に、ついオレも笑みが漏れた。

「カロルス様がいたって、絶対、怖いのは怖いよ!」

反発してみせるけれど、力の抜けた顔を、身体を見れば一目瞭然だろう。

「ほう? なら試してみろよ。ほら来い、俺のそばだ」

歩き出したカロルス様に慌て、オレは磁石のようにビタリと貼り付いた。両手でカロルス様の右手をがっちりと捕まえ、絶対に離れないようにする。身体はしっかり長い脚に寄せ、最大限接触面積を増やそうと試みた。


「お、おぅ……歩きづれぇ……」

鴨の雛状態のオレを可笑しそうに笑って、大きな手はぐっと小さな手を握り返してくれた。

あったかい。触れている部分が、確かに温かい。

よし、と顔を引き締め、オレはようやっとオバケ屋敷の中へ踏み込んだのだった。


……やがて限界を迎え、最大光量のライトをぶちかまして盛大に怒られる羽目になったのはその後の話。



お題16:カロルス様はユータとお化け屋敷に行きましょう。

ほぼ入る前で終わりましたね!!

ちなみに私もお化け屋敷ダメです。非常にダメです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ユータかわいい。 カルロス様とのやり取り、ほのぼのする~ [一言] ユータと作者様の気持ちに激しく同意します! 私もお化け屋敷の存在意義(?)が理解できない派ですっ
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