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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた 【閑話・小話集】  作者: ひつじのはね


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聖人祭 

2022/12/24 クリスマス閑話


皆さまよいクリスマスを!

「……ふふっ」

オレは軽快に走るシロの背で、ともすれば飛んでいきそうな帽子を押さえた。

『ゆーた、どうかした?』

零れた笑みを感じ取ったシロが振り返って、水色の瞳を楽しげに輝かせる。

「ううん。なんだかオレたち、本当にサンタさんみたいだなって思って」

『じゃあ、ぼくはトナカイさん?』

途端に駆ける足取りがリズミカルに弾み、しっぽが大きく振れだした。シロの帽子はすぐに飛んでいってしまうので、しっかりと顎下にリボンで結んである。

「こ、こらシロ! それ無理! 俺が死ぬ!」

揺れるシロ車に慌てたタクトが、赤い衣装の懐からムゥちゃんの葉っぱを取りだした。

「トナカイ~? 何の話~?」

小首を傾げたラキの肩では、帽子についた白いポンポンが揺れる。


こんなにどこからどう見てもサンタさんなのに、みんなが知らないなんてね。

「なんでもないよ! オレの国のお話!」

くすくす笑ってシロ車に積み込んだ荷物を眺めた。

今日は聖人の日。

ロクサレンでは聖人の木まで行進してろうそくを灯したりしたけれど、ハイカリクほどの規模になってしまえば、その年選出された子による奉納みたいな形で行われるらしい。もちろんオレは応募なんてしない。だから、一般の多くの人にとってはただの大きなお祭りだ。

聖人様の儀式には関係ないけれど、その代わりオレは冒険者として大活躍中だ。この日はとっても配達が多いから、ラキとタクトも一緒に手伝ってくれている。


「見てー! シロちゃん聖人様の格好してる!」

「かわいいー!」

ロクサレン特製のサンタ衣装……ならぬ聖人様衣装はちゃんとシロの分も用意されていて、行き交う人に大人気のちょっとしたイベントみたいになっている。

『みんな、かわいいって言うね! えへへ、ぼく、大きいのにね!』

シロのしっぽはさっきからMAXビートを刻んで留まることを知らない。煌びやかに飾り付けられた町並みが、その瞳に星のように映っては流れていた。


『かわいいっていうのは俺様みたいなキュートなねずみのことを言うんだぜ!』

『あえはも、きゅうろ?』

『あーーっ! 違った! キュートって言うのはアゲハのことを指す言葉だったぜ! 俺様間違った!!』

お揃いのサンタ衣装でデレデレに笑み崩れてアゲハに頬ずりするチュー助は、まるでマリーさんみたいだ。キュートが何かも分かっていないのに、嬉しそうにはにかむアゲハも大変可愛い。

もちろん、他のみんなにもそれぞれ衣装が用意されていて、勢揃いしたもふサンタたちにマリーさんやエリーシャ様が悶絶したのは言うまでもない。ちなみに、この時ばっかりはオレも彼女たちの中に加わって悶絶する羽目になっていたけれど。


「「「「「きゅ?」」」」」

「うん、ケリス・コリス・サリス・シリス・スリスも、みんなかわいいよ!」

ちっちゃなサンタ帽とケープを着けた姿は、文句なしにかわいいとは思う。また現われた管狐たちに同じように答えては微笑んだ。嬉しげにくるくる回った管狐たちは、しばらく衣装とこちらの雰囲気を楽しんでから帰るらしい。

そう、さすがに管狐部隊全員は無理だったけれど(そもそも何匹いるか伝えていないし)、さすがはロクサレン。部隊にも5着の衣装が渡され、こうしてみんな代わる代わる着ては見せに来てくれる事態となっている。

「全部、同じに見えるけど~」

「同じじゃないよ、みんな違うんだよ」

そうしてようやっと管狐部隊が一巡した頃には、配達も残り少なくなっていた。


――良い日なの! 毎日こういう日だったらいいの!

きっちり自分用の聖人衣装を確保しているラピスは、お菓子に埋もれてご満悦だ。

行く先々でお菓子をもらって、これじゃあまるでハロウィンだな、と笑う。

「ユータは、今日どうすんの?」

「ロクサレンに帰るの~?」

集まった視線を受け、にっこり微笑んだ。

「ロクサレンにはね、昨日帰っておいたから大丈夫! 今日は、2人と一緒だよ!」

「お、初めてじゃねえ?」

「ホントだね~! いつも聖人の日は忙しそうだもんね~」


ぱっと明るくなった2人の表情が嬉しくて、冷たい空気の中で胸の内がふわりと熱を持つ。

良かった。他のみんなのところへは、昨日ちゃんとまわってきたんだ。あんまり日時にこだわらないヒトばっかりだから、先に行っておいて正解だ。むしろ、シャラやエルベル様なんて、先に行っておいた方が嬉しそうだったもの。

ルーだって、そうかもしれない。

今年の一番最初はロクサレンで。そして、昨日の最後はルーにしたんだ。

だから、朝まで一緒にいて、朝一番のメリークリスマスをルーにあげた。

ルーは『メリークリスマス』を知らないから不審げな顔をしていたけれど、満足そうだったのはケーキのせいばかりじゃないと思いたい。


昨日のみんなを一通り思い浮かべてふわりと笑みを浮かべ、そして2人に視線を戻した。

「だから、今日はいっぱい遊ぼうね! オレ、ハイカリクの『聖人祭』ちゃんとまわったことないんだもの!」

思わず弾んだオレの背中で、ポンポンも弾んだ。

きっと、すごく楽しいに違いない。こんなに煌びやかで、こんなにお店がいっぱいなんだもの! 

「おう! 俺のお勧め店巡りしようぜ!」

「この時期にしかない装飾があちこちにあるんだよ~! 見に行こうね~!」

それに――

オレの『楽しい』だけじゃない。2人と一緒だから、2人分の楽しいを知ることが出来る。

「オレの『楽しい』も入れて、3倍楽しいね!!」


わくわくと熱の上りだした頬を自覚しながら、堪えきれずに鼻歌が零れ出す。

「それでいくと~、ユータと僕、ユータとタクト、僕とタクト、ええと……何通りの楽しさがあるの~? 3倍じゃあないよね~?」

「すげえ! 100万倍だな!!」

「さすがに100万じゃあないよ!」

声を上げて笑う小さな3人のちびっこサンタ。

2人のぴかぴかの笑顔を見つめ返して、オレもきっと同じ顔で笑っているんだろうな、と思ったのだった。

いいですね、クリスマスは楽しそうな雰囲気があって!

お正月のどこか神聖な雰囲気も好きだし、イベントごとの雰囲気が確立されていていいなあって思います(*^-^*)

カクヨムさん限定閑話の方には、加えて続きかルーVer.どっちか投稿しようかなあ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖人様の衣裳を着た管狐部隊のハンドベルコンサートが観たい! きっとラピス隊長の指揮のもと、素晴らしい演奏を披露してくれるはず!!
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