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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた 【閑話・小話集】  作者: ひつじのはね


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ロクサレンの日!

6月30日はロクサレンの日!

ということで、皆さまへのお礼も込めて長めの閑話投稿!



「6月30日はね、ロクサレンの日! ね、ピッタリでしょう」

――ユータ、頭いいの! すごいの!

「ふふっ! オレが考えたわけじゃないんだけどね」

『それで? 『ロクサレンの日』ってどんな日なのかしら?』

ぽーんと跳ねたモモが、プリメラの頭に乗った。

「う、うん……それなんだよね。何がいいんだろうね」

ひとまずロクサレンのお部屋に帰っては来たものの、オレはうーんと腕を組んでベッドにひっくり返った。


「ロクサレンの日だもの、何か……ロクサレンにとっていいことだといいんだけど。母の日とか父の日はお礼をするでしょう、じゃあロクサレンにお礼……?」

オレを、最初に受け入れてくれた土地。そして人。

オレができることって、何があるんだろう。

『俺様が思うに、主はだいぶここに貢献してると思うぜ!』

『あえはも! あえはも思うらぜ!』


チュー助にぽんぽんされてお布団に寝転がっていたのに、アゲハは目を輝かせて起き上がってしまった。

「そう? オレ、何かできているかなぁ」

くすっと笑ってアゲハの目が閉じるよう、そうっと頭を撫でる。

『カニ! ほかにも、美味しいものがいっぱいになったよ!』

シロがぺろりと口の周りを舐めてしっぽを振った。

『それに天使教だろ、あと主ってばヴァンパイアだって呼んじゃったし、人をいっぱい集めてるぜ!』

そ、それはむしろやらかしたって言うべきなのかもしれないけど。

だけど、領地に人が増えるのはいいことだって聞いた。ロクサレンみたいに土地だけならいくらでもある場所なら、特に。


『食のロクサレン、に勝る名前はない』

蘇芳が重々しく頷きつつそんなことを言う。

そうだね、食に恵まれているっていうのは、人生に恵まれているってことだ。それはとても、とても大切なこと。

『土地改革だって、してるだろ』

ゴロゴロ鳴っていた音が途切れ、オレの脇の下から声がする。

「土地改革? そんなことしてないよ?」

フィット感がちょうどいいらしく、チャトが脇の下に密着していて、暑いし身動きがとれないんだけど。

『してる。お前がいるだけで変わるし、あのでかい像がある』

「像……? あっ、天使像? そっか、生命の魔素のことかぁ」


それは、まあ……オレが存在する副産物? みたいなものだもの。

なんか、良かったよ……まき散らしていても歓迎されるようなもので。

「じゃあ、生命の魔素をもっとたくさん撒いたら……うーん、だけどあからさまに他と違うと、敏感な人に怪しまれちゃうかもしれないし……」

結局、いい案が浮かばないままごろごろする羽目になっている。

その時、ノックと同時にがばりと部屋の扉が開いた。

うん、これはマリーさんだね。


「ユータ様! マリーはユータ様がここに存在するだけで、これこのように足取りも軽く! 心が浮きたつようです!」

マリーさんは、まるでバレリーナのようにメイド服をたなびかせながら、文字通りふわりと飛んできた。

相変わらず素晴らしい跳躍力だ。

「ユータちゃ~ん! 今日は夜まで一緒なのよね? ジフがおやつを用意してくれたわよ!」

今日はエリーシャ様も一緒に来たらしい。おやつと聞いて、だらけきった身体がぴょんと反応した。

「おやつ! 行くー!」

ベッドから飛び降りると、地面にたどり着く前にすくい上げられてしまった。


「柔らかいわぁ……これこれ、これよ!!」

うふっ、と嬉しげに頬ずりされてしまえば、下ろしてとは言いづらい。

もう、仕方ないなあ。ちょっと恥ずかしいけれど、そう、ロクサレンの日の一環だもの。

すべすべと柔らかなほっぺなのは、エリーシャ様だって同じだと思うのに。

「次、マリーもお願い致します!」

一見頼りなげな二人の腕は、ふわふわ温かくて、泣きたくなるくらいに優しい。

切ないような、懐かしいような、オレの胸をきゅっとする優しい記憶。


二人の間を行ったり来たりしながら、随分時間を掛けていつものお部屋まで下りてくると、既に席に着いたカロルス様とセデス兄さんがいた。

「おう、遅いぞ!」

「今日は特別なおやつらしいんだけど、なんでだろうね?」

ふふ、だって明日がロクサレンの日だって、ジフには言ってあるからね! 今日はロクサレンイヴなんだ!


「そうなの! だから、執事さんもちゃんと座って!」

いつも通り壁際で控えていた執事さんと、席に着こうとしないマリーさんも呼んで、全員でおやつを堪能しよう。

みんなが席に着いたのを見計らって、ジフがガラガラとカートを押してきた。

勿体ぶって銀の丸い蓋がかぶせられているそれは、随分とわくわくを加速させる。


「んんんっ、明日はめでたい日、つうことで。一足早いですが、こいつ……ええと、坊ちゃんの国の習わしに沿って飾り付けたケーキです。坊ちゃんの国みてえに色んな道具がねえから、そこまで豪勢なモンじゃねえんですけど」

ちょっと肩をすくめ、みんなの視線が痛いほどに注がれているのを確認してから、その大きな銀のドームをサッと開けた。


「「「おおおおお!!」」」

オレも含めて全員がぐっと身を乗り出し、瞳を輝かせた。

デコレーションケーキ!! ジフが再現してくれたスポンジケーキにたっぷりとクリームをまとって、色とりどりのフルーツが宝石みたいに輝いている。きらきらする飾りは、飴だろうか。

この山賊みたいな男から生み出されるとはとても思えない、繊細で美しい造形物。かわいいもの、美しいもの好きのエリーシャ様やマリーさんが頬を染めて瞳を輝かせていた。


「なんて美しいケーキなの! 食べちゃうなんて勿体ない……だけど、食べないともっと勿体ないわ……!!」

「そんな……何と罪なケーキなんでしょう。マリーは、マリーは……ああ、こんな残酷な選択を迫られるなんて!」

さて包丁を入れようとするジフを止めようか止めまいか、マリーさんが悶えている。かわいいもの好きも大変だね。

「なんと美しい……ユータ様の国は、本当に不思議なところですね。ユータ様が育った国であると、ひしひしと感じます」

優しく目を細めた執事さんに言われると、なんだか無性に嬉しくてにこっと笑った。


「ところで、めでたい日ってどういうこと?」

よだれを垂らしそうだったセデス兄さんが、ふと視線をこちらに向けた。

「あのね、明日はロクサレンの日なんだよ! オレの国では、語呂合わせっていうものがあって――ええと、6月30日はロクサレン、って読めるんだ!」

「ほう? つまりお前が決めた新しい記念日か。聖人の日も、お前のところでは前日から祝うんだっけか」

視線はケーキに釘付のまま、カロルス様の口元がほころんだ。

「うん! だけどね、ロクサレンの日って何をすればいいと思う?」


ちょっと眉を下げてみんなに視線を合わせると、一様にうーんと首を捻ってしまった。

「さ、どうぞ」

その間に、きれいに切り分けられたケーキが各々の前へと差し出される。ケーキは結婚式で出てくるようなサイズ感だったけれど、ちらりと残った分に視線を走らせた面々からすると、今日のおやつで食べきってしまう算段かもしれない。


「うわぁ……!」

ケーキだ。本当の、オレが知るケーキだ。

ジフがスポンジケーキを再現してくれてから、時折出してはくれるんだけど、こんな風にきちんと余所行きのデコレーションを施されたものは初めてだ。

お砂糖がベージュ色なので、真っ白のクリームとは言い難いけれど、これは間違いなく地球で食べていたショートケーキだ。

右から眺め、左から眺め、お皿を回してぐるりと360度観察する。

層になった断面も美しく、完璧な造形をしたケーキがそこにある。


だらしなくにまにましながら眺め回しているうちに、どうやら周囲ではお代わり戦争が勃発しているらしい。オレは一切れでいいから、ゆっくりじっくり楽しむんだ。

ケーキのほんの端っこへそっとフォークをあてがうと、新雪みたいに滑らかなクリームにフォークの跡がついた。

惜しいと思いつつ、そのままゆっくりフォークを下ろしていけば、ケーキは一瞬お辞儀するようにこちらへ傾いて、さほどの抵抗もなくカツンとお皿まで到達した。


フォークの銀色さえも、ケーキのための彩りのよう。

オレは小さなお口で、小さな一切れを、大切に口内へいざなった。

ちょっぴり気が急いて早めに閉じてしまった唇には、クリームがついてしまったろう。だけど、それよりもこの感触を堪能する方が先決だ……!


「やわらかい……」

そもそも、柔らかい食べ物が少ないこの世界。口の中でほどけていくような柔らかさ、そして舌の上に広がっていく上品な甘み。それは他の何からも得がたいものだ。

歯を立てる必要もないほど柔らかなそれに、咀嚼してはじめて混じるほのかな酸味と香り。きちんと計算され、調整されたフルーツが、濃厚なクリームの後味を鮮やかに変えていく。


「……お前は虫かっつうんだよ。どんだけチビチビ食うんだ」

至福の顔でケーキに全部の神経を集中させていたオレは、呆れた視線を寄越すカロルス様の声でハッと我に返った。

虫って! せめてリスとかさ、管狐とかさ、色々あるでしょう!

カロルス様のそれは、一体何切れ目なんだろう。幾分落ち着いた速度で食べているところを見るに、3切れ以上は堅いだろう。


「ケーキはじっくり楽しんで食べるものなの! 頬ばるものじゃないの!」

小さなフォークがじれったくて、手づかみで食べそうになっていたのをちゃんと見ていたんだからね!

再びケーキに向き直って、にまにまチビチビやっていると、ジフがすすっと背後へやってきた。

「で、どうだよ? お前の国のショオトケーキと、似てるか?」

ほんのりと感じる不安と、それ以上に感じる自信は、さすがジフだ。

オレは皿に残ったスポンジの一欠片も残すまいと丁寧にクリームごとこそげ取って、にっこり満足の笑みを浮かべた。


「……完璧。そう、オレの国のケーキは、こんな風だったよ」

ほら、このぴかぴかの顔を見て。

「フン、そうか」

山賊顔でにいっと笑ったジフが、慌てて視線を逸らした。照れてはにかむ山賊は、そそくさと厨房に戻ってしまう。

「ユータ様、さきほどの話ですが……皆の感想や要望を聞くのはどうでしょう」

思いついたように執事さんがそう言って、小首を傾げた。


「あ、ロクサレンの日のこと? 何の感想?」

オレも首を傾げると、エリーシャ様がパンと手の平を合わせた。

「なるほど、いい案ね! ロクサレンの日だから、ロクサレンに住んでどうなのか、これからどうしたいか、なんてインタビューするのもアリじゃないかしら? 今後のロクサレンを、より良くする日ってことよ!」

そっか! ロクサレンをより良くするための日なら、いいかもしれない。何なら、ロクサレンの日に何がしたいか聞くのも一興だ。


「だけど、僕らが聞いたら悪い感想は言いづらいと思うよ?」

「いいのではないでしょうか? この良き日に悪い感想を述べようとする輩は排除しましょう!」

マリーさん、それこそこの良き日に暴力沙汰はやめておこう?

「じゃあ、字が書ける人も多いし、投票箱みたいにして紙で集めて村長さんにまとめてもらうとか」

字の書けない人や子どもは、書ける人に手伝ってもらおう。

予め項目を決めておくといいかもしれない。そもそも意見を聞くこと自体が悪手なのかどうかも、項目に盛り込んでしまえばいい。


「よしっ! じゃあさっそく項目を考えるよ! 一緒に考えてね」

だけど、まずはこの紅茶を飲んでからね!

オレは逸る気持ちを落ち着けるよう、熱い紅茶をふうふう冷ましてすすったのだった。




――『ロクサレンイヴ』。

その日に村を訪れた者は、呪いにかかるらしい。


それは公にされない祭り。

村が楽しむための祭り。

数ある村の祭りの中でも、それはそれはかぐわしい香りが村を覆う日。

住民らが領主と共に美味い物を持ち寄り、王都のレストラン顔負けの品々が並ぶとか。

食のロクサレンにおける、食の祭り。

一体いつ催されるのか、村人は頑なに明らかにしようとしない。

もし、その村で祭りの食事を口にしてしまえば、もう手遅れだ。

それは、一生村から離れられない呪いだという。

運良くその場を逃れても、いずれ必ず村へと引き寄せられる。


幸運なる呪い……祝福に、魅入られてしまう者が跡を絶たないそうな。




「やっぱり、ロクサレンだね」

皆の意見を募ったところ、目立った美味しいもの、お祭り、の文字。

結局、こうなった。

いかにも、ロクサレンらしいお祭りだ。

そして、初回以降も意見回収は続いている。これもまた、風物詩になった。

イヴを楽しんだ翌日、子どもたちが回収箱を持って各家庭をまわり、ついでにお菓子をもらう。

「ハロウィンみたいになっちゃった」

くすくす笑って、今年も着々と進められるお祭り準備を眺める。


毎年、最もたくさん寄せられる意見がお祭りのことなんだもの。次はこうしたい、ああしたい、村の人たちの輝く顔が浮かぶような意見の数々に、ロクサレンのお祭りや行事は着々と増えて行っている気がする。

どこまで残っていくか分からないけれど、不思議な気持ちだ。

「オレが生きている今が、次の伝統を生むんだなぁ」

ちゃんと、オレの足跡も歴史に刻まれているんだな。

『主の足跡なんて、超巨大に刻まれてると、俺様は思うぜ!』

『足跡だといいわねえ。爪痕にならないことを祈るわ』


こそこそと肩でささやくチュー助とモモの碌でもない台詞に、オレの頬をつうっと汗がひとしずく滑っていった。




皆さんにもアンケート配りたい!ロクサレンの日、何したらいいと思います?!


ちなみに「#ロクサレンの日」でキャラのこととか何でも、もふしらのことをこっそりツイートとかしてもらったらめちゃくちゃ嬉しいです……(>_<。)

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