夢の中で
2021年、お世話になりました!
「あれ? 早いね~今日は配達屋さん~?」
静かな扉の開閉音に振り返ると、案の定ただいま、と返したのはユータだった。ドアノブに掴まるように入って来るなり、小さな歩幅でとたとた走ってベッドに突っ込んだ。
「寒~い! 今日、すっごく寒くて帰ってきちゃった」
重いだろうに、二人羽織のようにシロの下へ潜り込んで困惑させている。
「シロは毛布じゃないよ~」
「だって、あったかいから。お布団も冷たいんだもの」
渋々抜け出してきたユータに歩み寄ると、ラキは羽織っていた上着を被せた。ユータ、縮んだんじゃないだろうか? こんなに僕の服が大きいなんて。そう思ったものの、口に出すほど野暮ではない。
「あったか~い」
ほわりと緩んだユータの頬に、ラキはにこっとひとつ頷いて再び机に向かった。
その背中を慌てて追いかけたユータは、集中しようとするラキの裾を引いた。
「ラキが寒くなるでしょう? ええと……じゃあオレ、抱っこしてもいいよ!」
……そうなるんだ。
どうぞ、と上げられた両手に吹き出すのを必死に堪え、ラキはにっこり微笑んだ。
「まだちょっと作業があるからね~。いくらユータが小……小さくなってくれたって、膝に乗っけたら前が見えないよ~」
「そっか!」
こくっと頷いたユータが、よいしょとばかりにラキの椅子へ乗り上げた。
ぱふ、と軽い衝撃と重みを背中に感じる。
「これでどう? これならオレもよく見えていいね!」
背中越しにユータが笑う気配がする。手元を覗き込もうと乗り上げたせいで、ほやほやと柔らかなほっぺがラキの首筋に触れた。
「それでいいの~? ほっぺがまだ冷たいね~」
「いいよ! これならオレもあったかいから、すぐにぬくぬくになるよ!」
少々重いけれど、確かに温かい。触れた頬が徐々にぬくもりを帯びていくのを感じ、ラキはそっと口元をほころばせた。
――ぐら、と意思と関係なく動いた手元に、ラキはハッと我に返って咄嗟に背中を押さえた。
「……ユータ? あぁ~しまった。集中しちゃってた~」
いつの間にかずっしりと重くなっていた柔らかな重りは、耳元で健やかな寝息をたてていた。かくり、かくりと膝は頼りなく揺れ、今にも滑り落ちてしまいそう。
「ユータ、危ないよ~起きて~?」
ゆさゆさ、と揺すってみるけれど、そのくらいで起きるユータではないことは重々承知している。むしろ、落ちても寝ているかもしれない。
「寒~~! ただいま!」
派手な音をたてて開閉した扉に、ラキはほっと安堵の息を吐いた。
「タクト、助けて~。ユータがこんなところで寝ちゃって~」
「器用なヤツだな……」
ひょい、と抱え上げられたユータから、ラキの上着が滑り落ちる。途端に眉間に皺が寄り、幼い顔が思い切り不機嫌を表した。少しでも暖を取ろうとタクトにすり寄る小さな口元からは、きゅう、なんて動物じみた声が漏れる。
「はいはい、寒いんだろ。」
タクトは、当たり前のようにユータを腹に乗せたまま寝転がると、布団をかぶった。
もぞもぞと身じろぎしたユータの深かった眉間の皺が徐々に薄れ、へろりと緩んだ表情に二人してくすくす笑う。
「タクト、お父さんみたいだね~」
「お父さんじゃねえよ、カロルス様なんだよ」
ふふん、と得意げな顔をしたタクトに、ラキはなるほどと吹き出した。
「こいつ、寝るとあったかいよな。乗っけてると俺も寝そう……」
あふ、とあくびを零したタクトが、荒っぽく黒髪をかき混ぜる。
「夕食は~? 二人をみてたら僕も眠くなって困るよ~」
「腹減ったら起きるんじゃねえ? もう寝ようぜ!」
「そんなこと言って~起きたのが深夜だったらどうするの~」
とは言うものの、うつらうつらするタクトと心地よさそうなユータを目の前に、ラキのまぶたも重くなってくる。
「じゃあ、起こしてやるよ。俺、絶対腹減って起きるもん」
「ん~でも寝てるなら起こされたくない~」
「どっちだよ?!」
騒ぐタクトに、半分も目を開けていないユータが頭を起こした。
「お、起きた?」
「…………」
妙に真剣な顔で、しいっと唇に指を当てる。
「……かねが。じょやの……かね。おそば、食べなきゃ」
ぱたり。
厳かな顔でそれだけ言って再びタクトの胸元に伏せたユータに、二人は顔を見合わせて笑ったのだった。
――今年もお世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
2022年もどうぞよろしくお願いいたします。
ツギクル様にてもふしらの企画がありますのでお見逃し無く~!!




