日の出
ほう、と吐いた息が真っ白になって広がった。
今日は特別に寒い気がする。こんなんじゃ雪だって降るんじゃないだろうか。
オレはできるだけ手足を縮こめて、温かな背中に寄り添った。
「……あったかい」
「……ふーん。まあ、いいけどよ」
オレは可能な限りぬくもりとの接地面積を広くしようと試みる。肩越しに振り返ったタクトが、じっとオレを見て、ニッと笑った。
「なあに?」
「別にー?」
機嫌良さそうに再び前を向くと、タクトはオレを背負ってのしのしと歩いた。
あったかい……。冷えていた手先がじわじわと温まってくるのを感じる。体温の高いタクトは、寒い日にとても重宝する。目の前の首筋にぺたりと頬を寄せると、冷てえよ、と笑われた。
「この辺りでいいか?」
オレたちはささやかな木立を抜け、小高い丘で立ち止まった。ふーっと吐いた息が霧みたい。タクトの体からはほこほこと湯気が上がっているようだ。
「うん! いいと思う。テント準備しなきゃ!」
「お前、下りられんの?」
「……無理かもしれない」
タクトはひしっと背中にしがみつくオレに、呆れた視線を寄越した。
「でも! オレ魔法使いだもの、他のことをするよ」
テント設置場所を平らにならし、ラピス部隊と協力して火を起こした。そうだ、シールドを張ったら温かいかも知れない。
『寒がりねぇ。ほら、すぐに温かくなるわよ』
『これで温かい』
モモがしっかりとシールドを張り、蘇芳が肩車よろしくオレに乗った。ふわふわの足と尻尾が首筋を埋め、蘇芳の柔らかな毛に満たされる。
「うん! あったかい」
のしっと頭のてっぺんに蘇芳の顎がのっかり、ちょっぴり重いけど後頭部が幸せだ。
でもなんだか、親亀の上に子亀~ってやつみたい。蘇芳が孫亀かな?
「ラキ、遅いな」
「そうだね~」
オレたちはまだ真っ暗な空を見上げた。
「――あ!」
「来たな」
シロの温かな気配が近づいてくる。
「お待たせ~。あれ? ユータ寝ちゃったの?」
「お、起きてるよ!」
オレは慌ててタクトの背中から顔を上げた。モコモコの上着に半ば埋もれたオレを見て、ラキがくすくすと笑った。
「もう準備ばっちりだね~!」
『いっぱいお買い物したよ!』
シロに乗ったラキは、たくさん荷物を抱えている。
「わ、たくさん買ったね! それならやっぱりオレが行った方が良かったんじゃない?」
「でも、ユータが行くと途中で寝てるかも知れないでしょ~?」
そんなことない! ……とは言い切れない。だってこんな朝早いんだもの……徐々に温まってくると共に、じわじわと舞い戻ってきた眠気を追い払って顔を引き締めた。
だって、初日の出を見ようって言ったのはオレだもの、真っ先に寝るわけにはいかない。
今日は年の始まりの日。オレたちは街の外まで初日の出を見に来たんだ。オレが中々起きられなくて結構ぎりぎりになってしまった。
ちなみに、深夜0時からハッピーニューイヤーってわけではないらしい。日が昇ってからが新年というのが一般的な認識みたいだ。
「ほら、あったかいうちに食べよう~。ユータはいつまで甘えん坊してるの~?」
「ち、違うよ! 寒かったから……!!」
「いいぜー、兄ちゃんの背中はあったかいだろ」
生ぬるい笑顔に渋々タクトの背を滑り降りると、途端にぶるっと体が震えた。
「シロー!」
『いいよ! ぼくあったかいよ』
表面のサラサラした毛並みはひんやりと冷えていたけれど、ぐっと手を滑り込ませれば温かな肌を感じた。
「いいな! 俺も!」
「僕も入れて~」
両隣に2人が体を寄せて、ぎゅっと挟み込まれた。シロがぐっと体を丸めてオレたちを包み込む。
「ほら、ユータもあったまるよ」
差し出されたお椀を受け取ると、もうもうと白い湯気が上がった。とろりとした具だくさんのスープだ。
両手で椀を包んでふうふうすると、こくりと含んだ。あったかいね……。体の中にポッと火が灯り、隅々までぬくもりが広がっていく。包み込む両手があたたかくて椀を抱え込んでいると、まつげがしっとり湿った気がする。
「あ、見て~少し辺りが見えるようになってきた~!」
「そうか? んーそう言われて見れば?」
オレはそもそも暗くても見えるのだけど、暗闇の濃度が変わってきた気がする。
瞬きをする度に暗闇が薄くなっていく。まるで、ゆっくりと夢から覚めていくみたいだ。
しん、としていた周囲が、さわさわと音をたてはじめる。
「あ……」
地平線の向こうから、きらきらとお日様が顔を覗かせ始めた。思わず身を乗り出して、ふるっと体を震わせる。朝になったら温かいと思ったのに、むしろ寒いくらいの気がする。
「ユータ」
ふわりと何か柔らかなものがかぶせられ、ラキの長い腕がぐっとオレたちを引き寄せた。
「おお、あったけえ」
「うん、あったかい」
毛布とシロと蘇芳、それにラキとタクト。いろんなあったかいものに包まれて、オレが一番温かいね!
小刻みに震えていた体からほっと力が抜ける。
「きれい……」
「おー、思ったよりすげえ!」
「ほんとだね~」
ゆっくり、ゆっくり、だけど想像よりもずっと早く。一時のオレンジ色に、オレたちは一塊になって染まった。
「……あけまして、おめでとう」
オレは小さく小さく口の中で呟いた。
かみさま、そしてこの世界と、出会った人たち。みんな、みんないい年になりますように。
ささやかですが…
せめてと閑話更新!皆様にとって良い年になりますように!
ちなみに私は年末あたりから新年越えて連勤中……切ない。
大掃除すらしてないなぁ
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