おとどけもの
2020/12/25 クリスマス閑話
時系列的にハイカリクにいる頃で。王都編まで行くと人が増えすぎて…
めちゃくちゃ急いで書いてるので粗いのはご容赦下さい…
「お届け物でーす!」
「はーい、ありが……まあぁ!」
扉を開けたおばさんが頬に手を当てて目を輝かせた。
「聖人様の衣装ね、なんてかわいいの!」
えへっと笑うと、ぐいと抱き上げて頬ずりされた。サンタさん……いや、聖人様の衣装はどこへ行っても大人気だ。
聖人の日は学校もお休みだったけど、配達の依頼がとても多いんだ。白犬の配達屋さん、ことオレとシロも頼み込まれてお手伝いをしている。
『ゆーた、大人気だね!』
「うん、みんな聖人様の衣装が好きみたい」
せっかくだからと着せられた赤と白の衣装は、少し大きかったけれど会う人会う人に喜ばれた。こちらでは聖人様の衣装なので、とても縁起がいいらしい。確かに紅白だしね!
「ふう、配達全部終わりました~」
ギルドの扉を開けると、厳つい男性達の視線が集まった。今日は女性の冒険者さんが少ない気がする。この視線にも慣れたものだ。特に気にも留めずにカウンターへと向かう。
配達自体はシロの足をもってすればすぐに終わるのだけど、オレが毎回毎回抱っこされたり撫でられたりするもんで、倍時間がかかったし少々よれよれしている。
シロから下りてぽてぽてと歩くと、くたりと垂れたぼうしのポンポンが右に左に揺れた。
と、いきなり視界がぐるんと激しく動いた。
「うわぁっ?!」
「あああ! まずい、まずいわ!! これはダメよ」
どこからともなく飛び出してきたジョージさんが、カウンターに向かうオレをかっ攫ったみたいだ。一体何がまずいのか……多分、きっと、おそらく、凄く……どうでもいいことだと思う。
「………」
「……えっと? ジョージさん?」
ぐっとオレを抱きしめたまま静止したジョージさん。恐る恐る声をかけると、ピクッと反応があった。
「…………じゃ、私今日はこれで帰るわね! また明日!」
何事もなかったように顔を上げたジョージさんは、爽やかな笑顔を浮かべて踵を返した。
待って待って、オレは置いて行ってあげてね?! じたばたしてはみるものの、サブギルドマスターの細い豪腕が解けるはずもない。
「ソレはお持ち帰り厳禁だ!!」
むんずと太い腕に襟首を掴まれ、今にもギルドの扉を出ようとしたジョージさんの足が浮いた。
「「「ギルドマスター!!!」」」
どうやら、ジョージさんを止めようとする意思だけはあったらしい。へっぴり腰で立ち上がった冒険者さんたちから歓喜の声が上がった。
「どうしてぇ~~?! だってここに置いてあったのよ! テイクフリーよ! お願い!」
「んなワケあるか! 帰るならてめえだけで帰れ!」
「嫌よ! だって見てよ! これはまずいわ……ダメ、辛抱なんてできるハズないじゃない?!」
「じゃない?! じゃねえぇ! 同意を求めんな!!」
猛獣同士のぶつかり合いに呆気にとられていると、ギルドスタッフさんがちょいちょいと手招きした。
「ほら、今のうちに裏から出て! ただ、シロちゃんに乗って帰った方がいいとお姉さんは思うわ」
ついでのようにぎゅっとされ、お姉さんはんふっと嬉しそうな吐息を漏らした。
「うん、ありがとう!」
今日はまだ用事があるんだもの、かっ攫われている場合ではない。
ミトンみたいな手袋をはめた手を振ってギルドを出ると、一気に秘密基地までシロと駆け抜けた。
「さあ、あとは飾り付け!」
準備しておいた土台は、なかなかの出来栄えだ。作り方も材料も知っているけど、残念ながら分量を覚えていなくて作れなかったスポンジケーキ。だけど、ジフにオレの知り得た知識を伝授すればこの通り。料理人さんたちの試行錯誤の結果がこの見事なスポンジケーキだ。
手間だし、焼くのも繊細なので本当にイベントの時くらいしか作らないけど、ケーキと言えばやっぱりこれ!
大小様々なケーキを前に、せっせとデコレーションを施していく。パティシエさんみたいに上手じゃないけれど、この世界に比較する対象はないから大丈夫!
「うん、きれい!」
1歩……いや5歩下がって眺めれば、もう立派にショーウインドウに飾られているケーキみたいだ!
オレは満足して頷くと、再びサンタ衣装を身につけた。
「お届け物でーす!」
オレの部屋に集まっていた2人が、ばーんと開けた扉にビクッと肩をすくませた。
「ユー……なんだよその格好!」
「わあ、聖人様だね! かわいいよ~」
「いいでしょ、サン……聖人様の衣装だから縁起がいいんだよ! 2人にお届け物にきたよ!」
戸惑う2人にニコニコ顔で小さな箱を渡し、じゃあね、と手を振った。
「あ。おい、どこ行くんだ?! その、さんきゅな!」
「あ、ありがとう~? これなに~?」
「プレゼント! あ、タクト、振ったらダメだよ!」
オレ、今日は忙しいの。引き留める2人を振り切って飛び出すと、次の目的地へ。
「えーと、ギルドマスターたちにも幻獣店のシーリアさんたちにも渡したし、鍋底亭のキルフェさんたちにも渡したし……よし、次!」
学校の先生は作りきれなかったのでクッキーで誤魔化すんだ。
「サンタが来たよ~!」
ばふっと飛び込むと、柔らかなたてがみがオレを受け止めた。
「何の用だ」
素っ気ない台詞でそっぽを向いたけれど、尻尾はぱたりぱたり、鼻はピスピスしている。甘い香り、分かったかな?
「ルーにもプレゼント! 美味しいんだよ」
ぐりぐりと顔を擦りつけると、ごくりと喉が鳴ったのを感じた。くすくす笑って体を離すと、何が出てくるかと金の瞳がじっとオレの手を見つめている。
「はい、どうぞ! じゃあオレ、他にも行く所があるから」
一口で食べないでほしいので、さりげなくフォークを沿えてケーキを置いた。人型で食べた方がきっと満足するよ!
よし、ケーキに気を取られている間に転移して……。
無事にサイア爺とマーガレットの元を訪れ、あとは――。
「どーーん!」
「っ?! ……久方ぶりに来たと思えばまたこれか……」
がちっと抱きとめられて、足がぶらんぶらんと揺れた。転移して背中に飛び込もうと思ったのに、作戦は失敗だ。
「エルベル様、久し振り! お届け物だよ」
「届け物……? なんだ? それにお前、その派手な格好はなんだ」
「サン……聖人様の衣装だよ! 知らない?」
「それは知ってるが……なんでそれを着てここに来たんだ」
なんでって……クリスマスだから?
「エルベル様も、これ似合いそうだね!」
「そんなものが似合ってたまるか」
ハン、と小馬鹿にして笑うけれど、きれいな白銀の髪は、きっと似合うんじゃないかな。あ、そう言えばエルベル様も紅白だね! 言ったら怒りそうな気がするから言わないけど。オレは紅玉の瞳を見つめ、にこっと笑った。
「それでね、これプレゼント!」
さっと取り出したきれいな箱に、エルベル様の目が釘付けになった。
「あのね、たくさん作れなかったからお城のみんなにはナイショ! こそっと食べてね?」
こそこそと囁くと、エルベル様がにまっと笑った。
「フン、俺だけか」
「そう、俺だけ」
抑えきれないにまにま笑いに、オレもくすくす笑った。喜んでくれて良かった!
「じゃあ、オレ急ぐからまたね!」
「――また来い」
ぼそっと呟かれた声に振り返ると、満面の笑みで手を振った。
よし、残るは――。
「カロルス様! メリークリスマス!!」
「おうっ?! いきなりだな。なんだ、めりーくりすます? はは、衣装着て来たのか! 似合ってるぞ」
真上に転移したオレを危なげなく受け止めて、カロルス様が破顔した。
メリークリスマス! ケーキと、オレをお届けに来たよ!!
バタバタと方々からこちらへ駆けてくる足音を感じながら、今年もきっと楽しいクリスマスだとにっこり笑った。




