ななつ夜のお祭り1
2020/7/6 本編に入れたかったけどちょっと無理矢理感出ちゃうので…
「ほら、見てラキ! きれいだよ!」
暗くなるのを待ちわび、窓に張り付いていたオレは、輝きだした6つの青い星を見て振り返った。
「ホントだね~」
おざなりな返事と視線を寄越して、再び手元に集中するラキに、ちょっと頬を膨らませる。でも、ラキにとっては毎年恒例のものだもんね。
カロルス様たちから預かった衣装は、ちゃんと枕元に置いてある。明日への準備は万端だ。願い札も書いたし、あとできることはなかったろうか。
「ねえ、屋台は何が出るのかな? 広場に旅芸人さん、来るのかな?」
ひょい、とラキのベッドへ飛びつくと、何やら加工中の手元をのぞき込んだ。
「それ、なあに? アクセサリー?」
小さな青い石がはめ込まれた、美しい銀色の細工。
こんなものかな、とつぶやいたラキが、ランプの明かりに透かして眺めた。真剣な表情は職人そのもので、まだ幼い顔立ちが、随分と大人に見える瞬間だ。
「うん、大丈夫だ。そう、これはアクセサリーでもあるね~。どうかな~?」
「とってもきれいだね!」
素直に言うと、にっこり笑ったラキが手招きした。ぐいっと乗り上げると、固いベッドがぎしりと音をたてる。
手に取ったアクセサリーの見事な細工に、鼻がくっつかんばかりの距離で眺めていると、ラキがくすりと笑った。
「気に入った~?」
そう言いながら、そっと手の中のアクセサリーを取り上げると、間近に寄ってオレの髪をかきあげた。くすぐったさに首をすくめると、ちょっとじっとしてねと釘を刺されてしまった。
「アクセサリーにもなるんだけど、ユータも持ってるでしょ~? これだよ」
されるがままに大人しく目の前の喉を見つめていると、ラキは髪から手を放し、オレの胸元のネックレスを指さした。
「これ? 居場所が分かるってやつ?」
「そう、これもね~その機能があるんだよ~」
そう言って、同じ青い石の指輪を見せてくれた。へえ、模様が同じになってるんだね! 確かオレのネックレスは執事さんがペアのリングを持っていたはずだ。
「へえ~こういうのも、加工師が作るんだね!」
「そうだよ~。 どう? 重くない? ズレたりしないかな?」
どうやら髪飾りだったらしいそれは、軽く頭を振ってみても、特に違和感はなかった。
「ばっちりだよ! もっと重いかと思った!」
「軽い甲殻を使ってみたんだ~! そこまで耐久力がいるわけじゃないから、アリでしょ~?」
「うん! 着けて重いよりずっといいよ」
多くは女性が身に着けるだろうし、きっと軽い方が喜ばれるだろう。
「じゃあ、それ着けていてね~」
満足したらしいラキが、ベッドの上に広げた道具を片付けた。
「えっ? これ、オレが着けるの?」
「うん、だってユータ、人ごみでいなくなっちゃいそうだから~」
ラキは、試作の使用試験も兼ねてるけど、と笑った。
「あ、ありがとう……?」
これ、プレゼントになるのかな? だって、お店で購入すれば、そこそこなお値段のはずだ。
「ふふ、ユータが必要なものじゃないでしょ~? 使用感を聞かせてほしいんだ~」
だから気にしないで、と言うラキに、それならしっかりと感想を伝えようと息巻いた。よし、後日レポートにして提出しよう。
「さあ、今日はたっぷり寝よう~! 明日ちょっと夜更かしできるようにね~」
「そうだね! 明日眠くなっちゃったらもったいないよ!」
髪飾りを外してもらうと、慌ててオレのベッドへ飛び込んだ。
でも、早く寝なきゃと焦るほどに、ドキドキして目が冴えてきてしまう。どうしよう、このまま眠れなかったら……。
「ピ……」
もう半分寝ているティアがぽすっと枕元に着地し、まん丸にうずくまってふるるっと尻尾を振った。こうやって寝るの、と言わんばかりに目を閉じると、まるで溶けていく雪だるまのように、だんだんとまん丸がへしゃげていった。
「おやすみ、ティア」
ふふっと笑うと、オレのまぶたも少し重くなった気がした。
『俺様が添い寝してやるぜ!』
――ラピスと一緒に寝るの! きっといい気持ちで眠れるの!
横になったオレの枕元にぽすぽすと歩み寄ると、ラピスはすりすりと首元にすり寄ってこてんと横になった。ふわふわの温かなしっぽが触れて心地いい。
「おやすみ……ラピス……」
『主も、俺様が寝かしつけてやる!』
チュー助も横になると、胸元に引き寄せていたオレの手を、ぺち……ぺち、とリズミカルに叩き始めた。どうやら寝かしつけてくれているらしい。反対の手でそっと撫でていると、徐々に不規則になったぺちぺちが、やがて止まった。
「……おやすみ、チュー助……」
ちょっぴり開いたお口に、すうすうと上下する柔らかそうなおなか。なんとも気持ちよさそうな寝顔に、ふわ、と小さなあくびをすると、オレのまぶたもとろりと落ちた。
『おやすみ、ゆうた』
くすりと笑ったモモの声に、おやすみ、と唇だけで答えた。
そわそわする半日を終え、夕方からオレたちは四苦八苦して衣装を着ていた。
「これ、ここに結ぶの? なんか長くない?」
「あ、違うよ~、それはあっちで~、ちょっと待ってて~」
「できたぞ! 早く行こうぜ!!」
「できてない~! タクト、めちゃくちゃだよ~」
うん、ラキが大変だ。衣装の着方は難しくはないんだけど、子どもが1人で着るには向いていない。着せあいっこすればいいのだけど、ちゃんと着付けられるのがラキだけなもので……。
「あれ? まだやってんの?」
「タクト、なんだそれは……」
帰ってきたアレックスさんとテンチョーさんが、オレたちを見てため息をついた。
「ん、ラキは着られそうじゃん、ユータおいで」
ほい、ほい、とまるで工場の流れ作業のように、あっちを向きこっちを向き、くるくる回されるうちに、衣装が完成していた。す、すごい!
「うん、俺って完璧! ユータかわいいじゃ~ん! 変なヒトに捕まんないように気をつけなよ? 暗いとこ行かないって約束!」
「えー! 夜の街なのに!」
「人通りのある所から外れちゃダメってこと! 何かくれるって言われても、着いていかないこと!」
そんなこと、ジョーシキですぅ!! 馬鹿にするアレックスさんに、思い切り頬を膨らませた。
「どう、ユータ、後ろおかしくない~?」
1人で着付けたラキが、くるりと回って見せた。長い袖がふわりと舞って、すらりとした体躯には、どこか和風な衣装がよく似合って涼やかだ。
「うん、大丈夫! ラキ似合ってるね!」
「そう~? ありがとう~! ユータ、おいで~」
ラキが手招きして、昨日の髪飾りをつけてくれた。効果を考えると、まるで迷子札をつけられたような気がするけど、試作品のモニターだもの、張り切って効果を実証しなきゃ。
「お前は~! こんな結び方するやつがあるか、それもこんなにはだけて……」
「着られたらそれで良いって! あー! せっかく着たのに!」
タクトは結局引っぺがされてやり直しだ。
「そら、これでそうそう着崩れもしないだろう」
きちっと着付けてもらって、タクトの男前度が上がった気がする。まだまだ幼いけれど、どうもカロルス様系統だなぁ。野性味のある伸びやかな肢体は、将来あんな風に男の色気を漂わせるだろうなと感じさせた。
オレは、以前のななつ夜衣装のカロルス様を思い出し、見下ろした自分のぽっこりしたお腹と、ちんまりした手足に、ちょっぴりため息をついた。
「やっぱり、お祭りって普段と違うね~」
「全然違うね! 大きな街だと、こんなに賑やかなんだね!」
街のそこここに取り付けられた飾りランタンやヒカリゴケのオブジェ、どこからか聞こえる陽気な音楽。そして、甘かったり、香ばしかったり、あちこちから漂う良い香り。街は体いっぱいでお祭りを楽しもうとしているようだった。
ひらひらとした長い袖の衣装は、浴衣のようで少し身動きは取りにくいけど、その分普段と違う気分を連れてきて、たまらなく胸が躍った。
実はこの話は4巻SSの後日談、みたいな時系列になってます。内容的にはそれぞれ独立してますので~! (ただ、ラキは髪飾りを作らせたかったので少し成長したラキになってます)
王都編に入れ込もうかと思ったんですが、さすがに無理矢理すぎるかなと諦めました…そして長くなったので前後編に……
『好きラノ』というライトノベルのランキング投票が、また開催されてるようです!お好きなラノベがある方はぜひ~!もふしらも一応3巻が対象になってます!




