シロの街歩き
2020/6/2
シロ主体のおはなし。
ユータが忙しいとき、ぼくは1人でお散歩する。
前は他の人が怖がっちゃうからできなかったけど、配達屋さんをしているうちに、随分みんなと顔見知りになったから、大丈夫になったんだよ。みんな、このきれいな腕輪さえしていたら、ちゃんとぼくだって分かってくれるんだ。
しっぽをピンと上げ、耳はぴこぴこ、足取りも軽く街を歩く。固い石の道は、ぼくが歩くとチャッチャカと音がする。
チャッチャッチャッ……
耳を立ててリズミカルな音を聞いていると、心地よいリズムに心が弾んで、お口がにっこりと上がった。
「お、シロちゃん今日はひとりかい?」
「ウォウッ!」
おじさんかな? おばさんかな? いつもお肉のかけらをくれるお肉屋さん。
ゆーたが横に入りそうなぐらい立派な人だ。こんなに大きくなるのは大変だったろうなあ。
分厚い手でなでなでしてもらって、ぶんぶんと尻尾を振った。
「今日もかわいいなあ!ま、あんたんとこはご主人もかわいいけどさ」
そうでしょ! ゆーたはかわいいよ、それに優しくて、とっても好きなんだよ! えへっと笑うと、お肉屋さんも嬉しそうに笑った。きっと、お肉屋さんもゆーたが好きなんだね!
「あんたを見てると、心がきれいになる気がするよ。ほれ、おやつだ」
ひょいっと投げられたお肉のカケラを、ぱくっとキャッチすると、急いで飲み込んでお肉屋さんに突進した。
「え? シロちゃ……」
どん、と大きな身体をすくい上げるように背中に乗せると、素早くその場を離れた。ずっしり。ゆーたとタクトとラキを合わせたよりずっと重いね、でもぼくも強いから平気だよ!
バキバキ!ガラン!
その直後、すごい音がして棚が崩れると、お肉屋さんがいた場所に色んなものが落ちてきた。
ぼくの三角のお耳には、棚がミシミシと限界を告げる音がちゃんと聞こえていたよ。ほら、あんな大きなお肉を引っ掛けておくからだよ……。
そっとお肉屋さんを背中から下ろすと、さっきまでいた場所には、でっかい剣みたいな包丁がいっぱい刺さっていた。
ぎらりと鈍く光る刃物たちを見たお肉屋さんが、空気が漏れるようなへんな声を出して、へたりと地面に座り込んだ。
危なかったねえ、たぶん、ゆーたのおうちの人と違って、お肉屋さんは大きいけど普通の柔らかい体をしてるよね。だから、きっと刺さったら痛いだろうなと思って。でももう大丈夫だからね。
お肉屋さんの震える身体がかわいそうで、怖かったね、元気出して、と頬を舐めた。
「し、シロ……ちゃん……あんた……」
大きな音を聞いて、周りの人が集まってきた。もう大丈夫だね。
お肉のお礼にもう一度鳴いて、ぼくはチャッチャカ音を鳴らしながら歩き出した。
お肉、美味しかったな! よくしてくれる人たちに、ぼくもなにか恩返しができたらいいのになぁ。
できることがないか、今度モモに相談してみようかな。
街はお日様がぽかぽかして、色々なお店のおいしいニオイがして、ちょっと離れただけなのに、もうゆーたが恋しくなってきた。
チャチャチャチャ……
自然と早くなるリズムを感じながら、ぼくは足早にゆーたの元へと急いだ。
そうだ、お肉もらったことも教えてあげよう。ぼくが嬉しいから、きっと、ゆーたも喜ぶよ。
えへっと笑うと、しっぽがぶんぶんと揺れた。
ユータ:ねえシロ、お肉屋さんがいっぱいお肉くれたんだけど、何か知らない? シロちゃんにって言われたんだけど…?
シロ:知らないよ? 多分、ゆーたが好きだからじゃない?
ユータ:それはないかなぁ……
ピュアで無垢なシロのおはなし。
助けるのはごく当たり前なので、シロにとってはお肉をもらったことの方が特別なこと。
ただし、悪気がないからと言ってヒトが傷つかないとは限らない…お肉屋さん、言葉は通じない方がいいこともあるね…(笑)




