そういう日
2020/5/10
滑り込み母の日!
「ねえ、エリーシャ様はなにがほしい?」
「ええ? 今日のランチのお話かしら? なんでも大歓迎よ?」
きょとりと首を傾げたエリーシャ様に、違うよ! ともどかしく説明した。
「あのね、明日はエリーシャ様のとくべつな日なの。だから、何かプレゼントしたいなって思って」
母の日、なんて言うのは恥ずかしくって、そういう日なの! と強調しておいた。
「まあ! 私はユータちゃんがいてくれたら、それだけで最高に嬉しいのだけど……」
それだけ? なんだかそれってプレゼントの気がしない。眉を下げたオレに、エリーシャ様がくすくすと笑った。
「じゃあ、一緒にお買い物に行かない? ちょうどハイカリクで買い物をしたかったの。一緒に来てくれると嬉しいのだけど」
「いいよ! いいものがないか、一緒に探そう!」
オレはにっこり笑ってハイタッチした。
「あー幸せ。こうして歩いてるだけで、とっても幸せ」
「そう……?」
本当に歩いているだけだけど……つないだ手をきゅっと握り返し、見上げた顔は本当に嬉しそうだ。
約束通り二人で大通りを歩いて、気の向くままにふらりとお店に立ち寄ってはあれこれと見て回った。
「ねえ! エリーシャ様あれは? とってもきれい!」
「本当ね! ユータちゃんに似合いそうだわ!」
「……オレには似合わないよ……」
エリーシャ様ったら、万事そんな感じで、ちっとも自分の物を選ぼうとしない。それどころか宝石も衣装も、あれもこれもとオレの所へ持ってきてはあてがって、きゃあきゃあ言っている。楽しそうではあるけれど……オレはプレゼントしたいんだけど。
「あー楽しい。ねえ、ユータちゃんあのお店でランチにしない?」
エリーシャ様に誘われるまま、随分と小洒落たかわいらしいお店に入った。
「ここ、来たことないよ」
「そう? じゃあ私がオススメを選んじゃうわね!」
メニュー表を見ても、長い名前が多くてなんだか分からない。すっかりお任せして、慣れた様子で店員さんを呼ぶエリーシャ様を眺めた。
メニュー表をなぞる、ほっそりした指に、アクセサリーのように美しい爪。さらりとかき上げた長い髪は、日の光を透かせて精霊さんみたいだなと思った。
店員さんが離れたところで、エメラルドの瞳とばちりと目が合って瞳を瞬かせた。
「なあに?」
そのままじいっとオレを見つめる瞳に、ことりと首を傾げると、すらりとした腕が伸びてオレの頬を撫でた。
「ユータちゃん、お日様が当たってとっても綺麗よ。瞳が透けるようね」
ふんわりと微笑んだエリーシャ様に、なんだか先を越されたようで頬を膨らませた。
「ちがうよ! オレが先にきれいだなって思ったんだよ! エリーシャ様、後ろからお日様が射してね、精霊さんみたいだねって!」
「まあ! 嬉しいわ~。ユータちゃんのほっぺ、最高ね」
エリーシャ様は、聞いているんだかいないんだか、両手でオレの頬を包み込むと、やわやわと揉みながら笑った。
「え、エリーシャ様、これ全部食べるの……?」
テーブルいっぱいに並んだご馳走に、オレはちょっぴり引きつっている。少なくともオレはこんなに食べられないよ?
「あら? 頼みすぎたかしら? でもいいじゃない、持ち帰ればいいのよ。さあ、好きなだけ食べてちょうだい」
そっか、収納に入れたら美味しいまま持ち帰れるもんね! オレはホッと安心すると、いただきますと手を合わせた。
「エリーシャ様! これ美味しい! 食べてみて!」
あーんと差し出せば、上品に髪を押さえてぱくりと食べてくれる。
「ホントね! ユータちゃんこれも美味しいのよ」
差し出されたフォークに、身を乗り出してぱくっと食いついた。ホントだ、美味しい! もぐもぐしながらにっこりすると、嬉しそうな顔をしたエリーシャ様が、ほらこれも、そらこれも、と次々と差し出してきた。待って待って、オレが食べる隙がないよ?!
「え、エリーシャ様、オレもうお腹いっぱい……」
結局ほとんど『あーん』で食べる羽目になって、ペース配分のままならなかったオレは既に限界だ。
「ユータちゃんのお腹は小さいものねぇ」
残念そうなエリーシャ様だけど、エリーシャ様のお腹だって見た目は小さいからね?! オレに食べさせながらも、まるで魔法のようにテーブルの上の料理が減っている。これもう持って帰るほどないよね。
結局しれっと頼んだ物を全部食べて、苦しいお腹を抱えて店を出た。
「ちょっと休憩しましょうか」
オレたちは街中の野原で腰を落ち着けると、のんびりと心地よい風に吹かれた。そよそよと風にあおられて、絹糸のような髪がオレのほっぺをくすぐった。
「今日はユータちゃんと過ごせて、とっても楽しかったわ」
誰にともなく呟いたエリーシャ様に、結局何もプレゼントしていないことに気がついた。
「ちょっと待ってね!」
慌てて立ち上がったオレは、ティアと一緒に野原を走った。
「はい! 何もなくてごめんね……いつも、ありがとう」
ちょっとしょんぼりして差し出したのは、一輪の赤い花。なんとかティアと一緒に見つけたきれいなお花。
「まあ……ユータちゃん、ありがとう!」
エリーシャ様は、それこそぱあっと花が開くように笑った。眩しい微笑みに、オレもはにかんで笑う。
「私こそ、いつもありがとう! あなたがいてくれて、本当に嬉しいわ」
ぎゅうっと抱きしめる柔らかな身体は、花のように優しい香りがした。
温かな身体に頬を寄せながら、なんだかお腹だけじゃなくて、あちこちがいっぱいに満たされた気がした。
すっかり忘れていて急いで書いたので色々おかしかったらすみません…




