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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた 【閑話・小話集】  作者: ひつじのはね


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28/66

花畑

2020/5/3

閑話・小話集にたくさんブックマーク・評価いただいたお礼に。

今日はロクサレン家に帰ってゆっくりする日。そう決めてお部屋でごろごろしていた時のこと。

ゴンガンゴン!!

部屋の扉がすごい音で鳴らされ、ベッドの上で飛び上がった。何事かと思ったけど、もしかしてこれはノックの音だろうか。

「ど、どうぞ?」

カロルス様でももう少し静かにノックできるよ……一体誰かと見つめた先で、思いの外そっと開かれた扉の向こうにいたのは……

「ジフ? どうしたの?」

料理長として忙しいジフが、オレの部屋に来る事なんてまずない。厨房に行ったら捕まってしまうことは多いけど。

「お前が帰ってきてるって聞いてな。ちょっとツラぁ貸せよ」

もう、言い方……どうせお料理のことでしょ? 荒っぽい割に繊細な気遣いのできるジフは、オレが出ていくまで部屋に入ろうとはしなかった。ジフって見た目と言動で損をしてるよね……。

『主ぃ、それってほぼ全部だぜ!』

チュー助のツッコミに、確かにと頷きながら駆け寄った。

「今日は何のお料理のこと?」

「……花だ」

……花? どことなく気恥ずかしそうなひげ面に、オレは心底首を傾げた。



「そっか、ジフは姪っ子ちゃんがいるんだね! それで花?」

「おう……あいつぁ花が好きだからよ、花の食い物がありゃあ、ちっとでも喜ぶんじゃねえかってな」

ジフは気まずそうにガリガリと頭をかいた。どうやら明日、違う町に住む姪っ子ちゃん一家が遊びに来るんだそう。概ねジフの料理を食べたいという下心だなんて言うけれど、それにしたって少し浮き足立っているジフに、くすくす笑った。

オレたちは珍しく、連れ立って村内の林を歩いている。食用の花が植えてある花畑があるっていうんで、大喜びでついてきた次第だ。

「お花を使ったお料理ね……でも、お花を綺麗に見せるなら、スイーツの方がいいかもしれないよ?」

「なるほどな。火を通した花はむしろ嫌がるかもしれねえ。料理だとサラダと添え物ぐらいか」

うーん酢の物とか……? でも、まだ8歳らしいから、お菓子の方が喜ぶんじゃないかな? お料理には、飾り付けに使う方が見た目がいいかもしれないね。


「ほら、あそこだ」

「ほんとだ! 花がいっぱい!」

ぶっとい指で指された一画は、きれいに拓かれた場所いっぱいに色とりどりの花が並び、陽光を浴びてきらきらと輝くようだった。

「すごい……これ、全部食べられる花?」

「そうだ。ただ、食えるっつうだけで特に美味くもないモンが多いけどな」

「そうなの? でも、とってもいい香りだよ!」

オレは魔素も香りとして感じてしまうことがあるけど、これはちゃんと花の香りだと思う!

「使えそうなものは持って帰るぞ。お前もいるなら、好きなだけ採れ。今がちょうど収穫時だからな」

無愛想な山賊顔で、バスケット片手にお花を摘むジフに、必死に吹き出すのを堪えて、オレもたくさん摘ませてもらった。


「さて、こっからはお前、分かってんだろうな?」

「うん、ジフだって、分かってるよね?」

オレはアイディアを出すけど、うまくできるかどうかは、ジフの腕にかかってるからね! オレとジフは顔を見合わせてニッと笑うと、倍以上大きさの違う手をがっしりと握り合った。


厨房でお花をサッと洗って種類分けしたら、まずはどんなものか試食。うーん、確かに味はあんまりしない……ただ、香りはとてもいいし、苦みもない。これならやっぱりスイーツにしたいな。

「……どうだ?」

「うん、いけると思う。海人のアガーラを使ったスイーツにしようと思うよ!」

オレはジフを見上げてにっこり笑った。


「ふむ、うまくいったな。多少色も出るが……」

「最高! 色も出る方がいいよ」

――きれいなの! これ、美味しいの?

色とりどりに抽出された花のエキスに、ラピスが目をきらきらさせて飛び回った。

「ふふ、まだ美味しくはないんだよ。香りと色だけなんだ」

『素敵ね! どんな仕上がりか楽しみだわ!』

モモが嬉しげにふよんと揺れた。

今回作るのは、お花のパンナコッタ! しっかり泡立ててムースにしてもいいね。あま~い濃厚なミルクの風味と、お花の爽やかな香りが相まって、とても素敵に仕上がると思うんだ!


「……どうだ?」

「美味し~!! さすがジフ! ばっちりだよ!」

「そうか。ならこれで……」

ホッと息をついたジフに、チッチッと指を振った。

「分かってないなぁ……スイーツは――見た目だよ!!」

びしりとあらぬ方を指さし、どーんと大波を背負って宣言する。スイーツは、見た目が9割!!……かもしれない。

「お……おう……」

オレの熱意に、ジフは若干引き気味に頷いた。

よし、まず透明なアガーラに花のエキス少々、そして同じ花のエキスを混ぜた生地を用意します。あとはその花の花弁を少々。

「ほう……なるほどな……」

半球の型にそれぞれ流し込み、固まったものを取り出すと……

『まあ! きれいだわ!』

『きれい。スオーもほしい』

『これ、食べ物ー? 甘くてお花の香りがするね!』 

オレの手のひらより小さな半球は、ほのかに花の色に染まって、上部に花びらを散らしたアガーラが煌めく、宝石のような仕上がりになった。

――すごいの! お花畑なの!

『おおー! 主すごい!』

『きらきらーきえいね!』

小さな花はそのままアガーラに閉じ込めて、まさに花畑だ。色よく並べた大皿に花を敷き詰めれば、これはもう誰が見てもテンションが上がること請け合いだ。

オレは仕上がりに満足して頷いた。

「すげーな、こりゃ見事だ。これなら絶対に喜ぶぜ」

にやけたジフに、こっそりともう一つ、とっておきを耳打ちしておいた。


『ねえ、さっき何て言ってたの?』

「ふふ、スイーツはあれで十分、あとはね……」


翌日、幼女と連れ立って花畑ではしゃぐ、山賊の目撃情報が相次いだとかなんとか……。

もちろん、姪っ子ちゃんに大好評だったことはいうまでもない。




一時の輝きではありますが、なんと異世界転生/転移の日間5位になっていました!

ありがとうございます!ささやかなお礼の閑話です。


ちなみに閑話題材は、自分の小説ネタのためだけに作った診断メーカーで「ユータとジフが登場するきれいなお話」とのことで……ジフの登場するきれいなお話って何?!ってなりながら書きました(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 前世ユータ男の知識で何故食用花のアレンジが出来るのか? 姪っ子ちゃんの関心を引くためには京和菓子の花型系を作って上げられなかったか、と思います。和食にこだわっていたのに、残念。+飴細工とか。…
[一言] 見た目+言動=全て、はウケましたw
2020/09/26 09:30 退会済み
管理
[一言] お疲れ様ですm(*_ _)m お花のゼリー綺麗ですよね~
感想一覧
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