告知
コルテオが言っていたように、二日後にはその秘密を町中の誰もが知ることになった。それどころか祭りの日まで人々はことあるごとにその秘密を話題にし、
「これはどうだ」
「いや、俺の方が良いよ」と、思い思いの考えを言い合った。
リックとヤンはカエルに硝子細工を運び入れた帰り道、通り抜けようと広場に出ると町場の前に人垣が出来ているのを見つけた。彼らは立て札に貼られた一枚の紙を不思議そうな興奮したような困惑したようなそれぞれの表情で見上げ、周りの人たちと言葉を交わしあっていた。
「何だろう?」
そう思ったふたりも同じように人だかりに加わり、背伸びをして先の張り紙に目を向けた。右端に告知と書かれ、その後に文章が続いていた。
告知
この町は永い間、『町』と呼ばれてきました。
この世界において未だ他の町の存在は確認されておらず、たとえこの町が町とだけ呼称されていても、何一つ不都合はありませんでした。
しかし、たとえ何の問題もないとしても、この町は私たちに集う広場を、子供たちが育つ学び舎を、食卓を囲む家々を私たちに与えてくれます。
その感謝を伝え、さらなる栄盛への祈りをこめて、今年の雪雛おくりに際しこの町に名前をつけようと思います。つきましては…
リヒト・ローレンス
「コルテオの話していた面白いことって、このことだったんだね。町に名前をつけるなんて考えたこともなかった」
告知書を見上げ、ヤンが感心した声をもらす。その横でリックはひとり、周りの人たちとは違う嬉しさを感じていた。
『この町の名前は、なんて言うのですか』
初めて町に下りてきた初夏の日。
境界線に立つ二本の木を通り町場へと向かうその途中、リックが何気なく口にしたひと言をコルテオが憶えてくれていたからだ。自分が何かをしたわけではなかった。けれど初めてコルテオの役に立てた気がして、リックは気恥ずかしくも誇らしかった。
ふたりが戻ると既に知れ渡っているらしく、工房もこの話で持ち切りになっていた。普段は黙々と作業に励み、無駄口をたたくことも少ないのに、手を動かしながらも誰かが名前を思いつく度に口を開いた。一度始まると途切れることなく、各々の意見を言いあっていた。




