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キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第五章 ココロトジテモ
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第二話 Adventure④



 賞金首、それも結構な金額のとなると、当たり前だが一獲千金を夢見る者達が多く群がって来る。


 その辺りの感覚は、多分前世で博打、宝くじなどに近いのだろう。ただし、賭けるのは己の体であり、運だけでなく実力も必要となる点は違って居るかもしれない。


 妖魎(モンストラ)を狩る狩猟者(ウェナトル)と同じ様な者だ。狩猟対象は人間なのだが、命の安いこの殺伐とした世界では殺人に徹底的な忌避感を覚える人は少ないらしい。


「……行った?」


「ああ。もう大丈夫だ」


 木々の生い茂る森の中を、十人ほどの団体が背を向けて遠ざかって行く。


 彼らは一様に周囲を見渡し、何かを探している様だが、今のところ探しものを見付けられている様子はなかった。


 すっかり姿の見えなくなったところで、横で同じく屈んでいるシグを見遣る。


 ここ最近、碌に身嗜みに気を遣う余裕もないせいか、彼女の装いもそろそろ草臥(くたび)れて来ていた。


 恐らく自分も、染髪し切っていない白髪に汚れが付き、多少なりは白さを誤魔化せる様になっている事だろう。擦り減った前世の感性が不衛生だと告げるものの、利点を鑑みれば現状清潔さを求める道理は無かった。


「こんな頻繁に人が森の中を(ある)ってるなんて……」


「全員武装しているところを見るに、狩猟者(ウェナトル)か傭兵か……ま、あの辺に厳密な違いなんて無いけど」


 彼らに常時仕事がある訳ではない。純粋にその職業一本で食っていけるのは一握りであり、多くは日雇い労働もしくは盗賊をして生計を立てている者が多いのだ。


「もしかすると、その辺の農民も懸賞金に目が眩んで来たのかもね」


「落ち武者狩りじゃねーか」


「オチムシャ……? 何それ?」


「ああ、気にしないで。こっちの話だから」


 この世界においては馴染みが薄いのだろう。いや、恐らく似た様な概念が存在しているが、その言い回しが存在しないと言うべきか。


 何にせよ、自分の元居た世界で通じる言葉では、ここの世界の人間が理解出来る訳が無かった。


 余りしつこく訊かれて説明するのも面倒だったので、話題を逸らす。


「アイツらがこの辺ウロウロしているせいでホントに進まねえよな」


「進んでると言えば進んでるけどね。普通に歩いた場合よりは遥かに遅いけど」


「ただでさえ森の中だし、おまけに人も多いとなればそうもなるか……」


 下手に街道でも歩こうものなら、手入れされている箇所や人通りの多い箇所で見つかってしまう可能性が当然高くなる。


 巡回している兵士もいる事だろうし、何より関所もある。絶対にそんなところを逃走経路として選ぶ事は出来なかった。


 仮に関所を通して貰えたとしても、その通行料は兵士がピンハネして値が吊り上がっている事すらあるのだ。以前それを体験した事のある身としては、前提条件が無くとも通りたくなかった。


「どこまで行っても森、森、森……嫌になって来る」


「この大雑把な地図じゃ正確な位置も分かんねえしな。まだまだトラキアから抜け出せた訳じゃなさそうだが」


 以前持っていた、ガイウス・ミヌキウスの地図は彼に返却してしまった。現在持っているのはビュザンティオンに来るまでに購入して置いた安っぽい地図。


 大雑把な陸地と国などが掛かれた、余りにもお粗末な、そして子供の落書きの様な代物だった。


 それでも地図そのものがこの世界では貴重と見做されているらしく、値段が張った。散々値段交渉をしたが、未だにぼったくられたと思う事もあるくらいだ。


 ただ、他の地図を見てもどれも似た様なもので、ミヌキウスの持っていた地図の方がどうやら特殊らしい。


 あれも結構適当な点は多かったが、それは前世の世界から見た視点での話であり、模写して売り出せばそれなりに良い値段が付いたかもしれなかった。


「勿体無い事したなぁ……」


「今度は何?」


「前持ってた地図、結構いい奴だったんだなって改めて実感しただけ」


 小さく木の幹に付けて置いた目印を頼りに、元来た道を二人で戻って行く。


 それからしばらく歩いて行けば、そこには気を背凭(せもた)れにして座り込む仮面の人物の姿があった。


 旅装の為に外套を纏っているのは分かるのだが、仮面と言い、その下に着る服と言い、とにかく普通の恰好とは一線を画していた。


 装飾は少なく、呼吸のしやすさなどを考慮うしてか口元を露出させた仮面。薄鈍(うすにび)色の外套の下から覗く服装は西界(オクキデンス)では見慣れない、白っぽくゆったりとしたものだった。


「あ、戻って来たか。どうだった?」


「どうもこうも、相変わらず人は多いですよ。本当に今日移動するんですか?」


「そんな事言っても、昨日からここでほぼ足止め状態だ。多少無茶をしてでも突破しないと、囲まれる危険だってあるんだよ。君達も、いい加減森は見飽きたでしょ?」


 彼の名はリュウ。その一風変わった装いについて聞きたい気持ちはあるものの、状況が状況だけに訊ねる機会を(いっ)し続けて今に至る。


 ただ、別に知らなくても問題は無いので、余程暇にでもなった時に訊ねてみようと思う程度だ。


「森は見つかり難いから良いけれど、どうにも進みが遅くなっていけないよね。僕だけならまだしも、君達も居る訳だし、しかも追われる身。出来る事なら早急にこの国の領土から抜け出さないと」


「抜け出して、どこ行くんです? もしかして東へ?」


 このまま森を抜けて東へ行けば、すぐに帝国領土の外となる。ただし、地図には何も記載されておらず、というか見切れていて情報は皆無。


 多分、陸地だろうと推測する程度の道の土地である。その代わり、帝国も追っては来られないこと間違いないだろう。


 しかし、彼はそれを笑い飛ばす。


「あんな何も無いただっぴろい草原に行って何をするのさ? 遮蔽物も碌に無いし、人も疎ら。遊牧民が割拠する世界だよ。都市なんて飛び飛びだし、下手すると君達が餓え死ぬ」


「……そう、ですか」


 この西界(オクキデンス)の地図を見ていて最近気付いた事が一つある。それは、地理が地球のそれと酷似している事だ。


 ただし、東西はそのままに南北が逆転している。この事のせいでハッキリとそれに気付くのは今頃になった訳だが、縮尺も何かもぐちゃぐちゃな地図で分かる方が難しいと言うもの。


 もしも宇宙からこの星を眺めたら、この辺の疑問もはっきりと解決するのだろうが、今はそれを気にするだけ無駄だった。


「僕達がまず目指すべきは僕の目的地でもあるゲルマニアか、スカーディナウィアだね。あっちの方の森に入れば、帝国もおいそれと手が出せなくなる筈だ」


「待って、そこって完全に異民族が支配する森だから、秩序も何も無いって聞いた事があるんだけど」


「良く知っているね、シグ君。あの辺は靈儿(アルヴ)化儿(アニマリア)の支配下だから、庸儿(フマナ)の常識は通用しないんだよ」


 領域に入ったらいきなり矢とか魔法とか使って攻撃してくるかもね、とリュウは宣っていた。


 しかも平然と、何も危ない事は無いとでも言わんばかりである。


 その非常識さにはシグ共々、(しばら)く言葉が出なかったほどだ。


「他に真面(まとも)な逃げ道は無いんですか……?」


「無いよ、ある訳無いじゃあないか。既に僕達は懸賞金を掛けられた犯罪者なんだから、真面(まとも)な身分じゃない人に真面な手段が残されていると思っちゃあいけないよ」


 彼の言う事も御尤(ごもっと)もだった。馬鹿正直に街道を歩く訳にも行かない以上、それ以外に取り得る手段も無いのだから。


 止む無くそれに同意せざるを得ないでいると、リュウは間髪入れず更に話を続ける。


「あと、ここでのろのろして居られるのもいい加減限界だ。僕にも僕の用事がある訳だからね。君達の修行も兼ねて、ここからは一気にトラキアから抜け出す。冗談じゃあないからね?」


「一気にって……一気に?」


「勿論。僕は君達を後ろから監督するよ。何かあったら助けに入るから、極力見つからない様にして、全速前進だ」


 もはやそれは彼の中では決定事項であるらしい。もはや何を言っても首を縦には振ってくれず、撤回してくれる事もなかった。


「流石に無茶ですって! 何の為に今まで街道を避けて、人目を避けて来たと思ってるんですか!? ここで見つかったら全部が水の泡ですよ!?」


「捕まったらそれこそ水の泡だよ。さっきも言ったけれど、僕にも予定がある。本当なら君達を放って先に向かっても良いのだけれど、そんな中途半端はしたくない。懸賞金に目を眩ませた人も多いみたいだし、季節的にも手遅れになる前に動いた方が良いんだよ」


 さあ、準備をしてくれとリュウは軽く手を叩くが、そもそも全員身軽である。準備も何も、このままいつでも戦闘が出来る程度の旅装なのだ。


 多分、この恰好で冬を迎えたら凍死する。


 彼の言う事に対して、これ以上の反論は見出せなかった。


「……分かりましたよ。少し気持ちの準備をさせて下さい」


「そんな時間は無いよ。実戦じゃあ敵は悠長に待つ筈も無いし、君と示し合わせて襲撃を始めてもくれない。気持ちは瞬時に作るんだ」


「そんな横暴な!?」


「横暴で結構。君達は敵に負けた時もそんな事が言える程に、御目出度(おめでた)い脳味噌をしているのかい?」


 どこか挑発しているような気がするその物言いに、腹が立ったのは言うまでも無かった。


 それはシグもそうであったらしく、結局二人揃って腹を括った、直後。


 リュウが何の脈絡もないのに、俺の肩を強引に引っ張った。


 意味も分からず、スローモーションの様な一瞬の中で呆然としていると……間一髪で寄り掛かっていた木の幹に突き刺さる、一本の矢。


「「……え?」」


「あら、君達が騒ぐから気付かれたらしいね。まあ、危なくなったら今みたいに助けてあげるから、頑張ってね」


「ちょ、ちょっと!?」


 状況の判断も追いつかない中で、一方的に喋りたい事だけ喋ったリュウは姿を消した。


 引き留めようと伸ばした手は空しく空を切り、彼の姿はもうどこにも見当たらない。何と言う足の速さだろう。薄情者、と叫んでやりたい気持ちだったが、そんな暇もあればこそ。


 あれよと言う間に木の隙間を射抜いた二本目の矢が飛来し、すぐ近くの別の木に直撃していた。


「ふざけんなっ! あの人、覚えてろよ……!」


「ラウ、そっちは防御に専念して!」


「何で!?」


「アンタの魔弾(テルム)、命中したら爆発するタイプの筈だ! そんなのここで使われたら目立って仕方無い!」


 こちらもまた納得のできる指摘だった。


 身体強化術(フォルティオル)などを使えば戦えなくもないが、今は何者かが弓を撃ってきている状況。その正体も、数も分からないのに肉弾戦を挑もうと言う気にはなれなかかった。


「全部防いでやる……シグ、お前ちゃんと仕留めろよ!」


「当たり前! これまで散々あの人にボコボコにされて来たんだ! その成果を出せなくちゃ意味が無いからさ!」


 飛来してくる矢を、展開した魔力の盾が受け止める。宙に浮かぶ、薄く白い魔力の塊に鏃が刺さる事は無く、乾いた音を立てて地面へと落下していた。


 それに対し、反撃と言わんばかりにシグが氷柱(つらら)状の氷弾(テルム)を数十個生み出し、射出。


 射線上にあった小さな枝葉などはもはや存在していないかのように突抜けながら、矢の飛んで来る方向へ殺到していた。


「当たった?」


「そんなの見えるかッ! 私に千里眼とか無いから!」


 木の影に隠れて、人の姿は見当たらない。当然、仕留められたかも分からない。


 もう暫く様子を見る為に、息を潜めて様子を窺っていた時だった。


 いつの間に近付いて来ていたのか、三人ほどの男が剣を片手にすぐそこの木の影から飛び出して来たのである。


「こいつ――!」


 想定外だった。そもそもリュウから教えられていたのは一対一での戦い方と、魔法制御の向上。集団戦での手口などは一切教えて貰っていない。


 もしやそれはわざとだったのか、と思っても遅い。リュウに恨み言を言ってやりたいが、襲撃を受けているにも関わらず尚も受け身に回ろうとした自分達が愚かだったのだ。


 攻撃が命中したかの確認をしている悠長な時間があるなら次の一手を考え、一先ず行動する。


 それが出来ていないと言う事はつまり、油断でもあった。


 上質とは言えない身形(みなり)に上質とは言えない皮鎧と身に着けた三人の男達は、馬鹿にした笑みを浮かべながら極力無駄な事は喋らない。


 一気に駆け寄って来る身のこなしからして戦い慣れている、人を殺し慣れている様だった。


 だけれど、戦い慣れているからと言って強い訳ではない。負けるとは限らなかった。


 振り下ろされる剣を槍の柄で受け流し、右足で前蹴り。身体強化術(フォルティオル)の施された足は過たず男の胸を捉え、仰向けにふっ飛ばしていた。


「ラウ!?」


「大丈夫だ! お前は射手をやれ!」


 伏兵にようやく気付いたらしいシグがハッとした様子で声を掛けて来るが、それだけ言うと二人の目の剣を受け止める。


 男は子供の俺に、槍の柄で受け止められた事に吃驚していたが、それもそこそこに剣に掛ける力を増していった。


「その髪と眼の色……薄汚ねえけど、間違いない。お前、手配書のラウレウスだろ?」


「……さあ?」


 ニヤニヤと笑みを貼り付けた男は、剣に更なる力を込めて行くけれど、身体強化を施した筋力の前では大した差もありはしなかった。


 そんな余裕のある内心を態度から感じ取ったのか、男の顔に深い皺が刻まれた。


「このクソガキが……やっちまえ!」


「そんな悪口はもう聞き飽きたんだよ」


 槍で剣を受け止めているのが隙と判断したのだろう。三人目が空かさず剣を横から突き刺そうと構えているのが見えた。


 彼らからすればこれは絶好の機会。ここで仕留められると判断しているのだろう。その顔には笑みが浮かんでいたのだった。


 ――しかし、この程度で出し抜かれる程、リュウから(ぬる)い稽古は受けていない。


 予め準備していた白弾(テルム)を五発、三人目に向けて撃つ。


「――なっ!?」


 剣を突き刺す気満々であった男には反応が間に合わず、あえなく昏倒するのだった。


 呆気なく戦闘不能になった仲間に目を剥く二人目だったが、その隙を衝いて彼の剣を()なすと、回し蹴りを見舞う。


 鍛えてさせられていた体幹の成果もあり、綺麗に側頭部へ直撃した蹴りによって、男は糸の切れた人形の様に地面へと倒れるのだった。


「どうなってやがる……」


「お前らが掛かって来なけりゃ、こんな事にはならないんだぞ」


 先程蹴り飛ばした一人目の男が立ち上がり、半ば信じられないと言った顔で俺を見ている。


 しかし自分自身、平静を取り繕いながらも驚きで心の中は一杯だった。


 何せ、戦いの中で見えて来るものが今までとは段違いなのである。これまで気付けなかった視点や、読めなかった相手の行動、心理。


 流れる様に動く体。無理な体勢の格闘技ともならず、発動速度も威力も上がっている。


 魔力の操作もより容易となり、下手をすれば後出しでも対応が出来てしまいそうなくらいだった。


 リュウから稽古をつけて貰わなくとも、この男達に勝つ事は出来ただろう。だが、その後の余力や、戦いの過程において歴然たる差が生じている事は、主観的に見ても明らかであった。


 目の前に立ち、剣を構える男もそれを察しているのか、厳しい顔をしながら言っていた。


「皇太子の名の下に指名手配される訳だ……化けモンだな、お前」


「俺が化けモンなら、世の中どうなっちまうんだよ」


 まだまだ勝てない奴はごまんといる。下手をすれば命からがら逃げ延びる――事すらも出来ない様な連中だ。


 例えばエクバソス、ペイラス。どうすれば勝てたのかと考える事もあるけれど、未だに勝ち筋の見えてこない者達だ。


 敵対者でない者なら、ガイウス・ミヌキウスやその仲間二人、ラドルスやタグウィオス、リュウなども入って来る。


「死にやがれっ!」


「……てめえに殺されてやる義理はねえっ!」


 やけっぱちになったのか、剣を振り上げ飛び込んで来る男だが、その単調な動きは余りにも隙だらけで不用心にしか見えなかった。


 長く持った槍の穂先で彼の足元を振り払い、あっさりと転倒したところで石突を腹に叩き落とす。


 蛙の潰れた様な声を漏らしたと思ったら、それだけで男は気絶してしまうのだった。


 殺そうと言う気も起きない程呆気なく、勝負はついた。三人の男は全員白目を剥き、暫くは失神から回復する気配もない。


 振り返ってシグの方を見れば、彼女も敵の射手を撃破したらしい。彼女の指差す先には倒れ伏す人影があった。


「殺した?」


「さあ? 確かめに行くのも面倒だし。って言うか、アンタの方こそ酷いな。この男達、生きてる?」


「知らん。殺す気も起きなかったけど、死んでるかも」


 もしくは致命傷を負わせてしまったかもしれない。放置すれば内出血か何かで死んでいてもおかしくはないくらいの攻撃はしてやった。


 けれど、そんなものに対して興味は無かった。


 初めて人を殺した時はその場で嘔吐して、何度も夢にまで見たのに、やはりもう気にしてやる神経は何処かへ行っていた。


 磨り潰して、何処かに消えてしまったのかもしれない。


 今となってはもう、どうでも良い事だが。


「止めは刺してく?」


「やらなくて良いんじゃない? もうとっととトラキアから抜けたいってリュウさんも行ってた訳だし」


「……それもそうか」


 ここで戦闘をしてしまったのだ。誰かがそれを聞きつけて来ないとも限らなかった。


 その事を考慮するのなら、一刻も早くこの場から離脱を計るのは当然と言えば当然である。


「これで終わりかな?」


「あ、はい。それで、俺達はどうすれば……?」


「僕は監督するだけだ。余程の事が無い限りは介入しないよ、ついでに君達の鍛錬の成果を見ている訳だしね」


 だからどうするかは自分で決めろと言われ、俺はシグと顔を見合わせた。


 いきなりそんな話を振られても困ると言うものなのである。出来る事なら、もう少し話し合いをする時間と場を設けたいくらいだった。


「悩んでいるね? けど、そんなゆっくりしていて良いのかな?」


「……しょうがねえ、取り敢えずこっちだ!」


「ラウ、本当にそれで良いの!?」


「方向さえあってれば取り敢えず問題ないだろ! なあ、リュウさん!?」


「まあ確かに、その通りだよね」


 思わずリュウに話を振れば、丁寧な事に口元を緩めながら同調してくれる。


 もう少し考えようと主張するシグだが、リュウにも言われた通りのんびりして居られる暇は少ないのである。


 生死不明の男達もそのままに、すぐさまこの場を後にする。


 しかしこの時、何処か含みがあるようなリュウの物言いに違和感を覚えられなかった俺達は、その後地獄を見る事になる――。





◆◇◆



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