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キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第五章 ココロトジテモ
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第二話 Adventure②

◆◇◆





「……な、何、これ?」


「うっひゃー……これはまた随分と派手にやってんなぁ」


 がやがやと多くの人で賑わっているのはノストゥルム海沿岸に面する、東ラウィニウム帝国グラエキア地方の一都市ペライエウス。


 そこにある狩猟者組合(ギルダ・ウェナトルム)の掲示板には、貼り付けられた幾つもの羊皮紙にびっしりと情報が乗せられていた。


 『ビュザンティオンにて暴れた大罪人』と銘打って書かれたそれらには、非常に事細かく並べ立てられ、二人の少年少女は食い入るようにそれを読んでいた。

「白儿(エトルスキ)であるラウレウスは、皇太子殿下に多大なる無礼を働き、また不遜にも脱獄した。白儿の時点でもその存在が許されないと言うのに、これ以上の横暴は阻止しなければならない……」


「大聖堂(メガレ・エクレシア)と大宮殿(メガ・パラティオン)を荒らす為に元皇女の謀反人シグルティアらと共謀。教皇ザカリアス三世を弑(しい)し、聖女クラウディア・セルトリオスを誘拐。多くの者を死傷させ、市民にまでも損害を与えた、って」


 金髪金眼の靈儿(アルヴ)の少年と、緑髪緑眼の庸儿(フマナ)の少女は順々に目がチカチカする程の文章を読んで良くが、途中で止まった。


 何故なら、その記事の内容が余りにも想定外過ぎたから。二人揃って、信じられない気持ちで一杯だったのである。


「どうしたらこんな事が……私達が話を聞いた時は、捕縛されたってだけだったのに」


「全くだ。いつの間に脱走して……それどころか凶悪犯罪者も霞む様な所業をやってのけやがって」


 呆れてそれ以上の言葉も出ないみたいに、少年は額に手を当てていた。


 おまけに、理解が追い付かない文字の羅列はそれだけでは無かった。


 ラウレウスの他にも、白儿(エトルスキ)とされる人物が手配書には記されていたのである。その名はリュウ。仮面を身に着けた、やや異様な風体で、その装いから異国の人間である可能性が示唆されていた。


 勿論、二人からすれば面識などあろう筈も無い。一体何処でラウレウスとリュウとか言う旅人が出会ったのか、全く謎であった。


 その他、東帝国に謀反を働いたと言う元第三皇女とも行動しているらしいと言う内容には目眩を覚える程だ。手配書を読む限り、国家に対して謀反を行おうとする様な人間と手を組んでいた事実は明らか。


 けれどその意図が全く読めず、二人からすればラウレウスが面倒事に自分から首を突っ込んだ気がしてならなかった。


 出来る事なら、どうしてこのような状況になり、どうしてその様な事をしでかしたのかについて、今すぐたっぷりとお話を聞かせて欲しい所である。


 しかしながら、現実的にはそうも行かない。


 何故ならこの後、彼とその仲間の消息は不明。手配書も情報提供を求めると言う内容だった。つまり、自分達で探そうにも情報は集まる訳が無いのである。


「どうする、スヴェン君?」


「何度も言うけど、スヴェンで良いよ。互いに歳は近いんだろ? レメディアは気にし過ぎだ」


「……まぁ、そこまで言うなら」


 レメディアと、スヴェン。


 この二人は、とある目的を同じくしており、出会ってからと言うもの行動を共にしていた。


 決して男女の仲という訳ではなく、あくまでも共に旅をする仲間と言う位置付けだ。


「取り敢えず、何処から探すべきだと思う? ビュザンティオンの周辺かな?」


「いや、その辺にはまず居ないだろ。俺がアイツなら一目散に逃げだすぜ。自分がやらかした場所のお膝元には居たくねえだろ」


「じゃあ、どうする? やっぱビュザンティオンから距離の近いハットゥシャに向かった?」


 レメディアのその推理は、アナトリコン半島の地形を地図上だけでも知っているのなら、至極当然のものだった。


 ハッティ王国の首都であるハットゥシャは、現在東帝国と仲が良い訳ではなく、また雑多な民族や人種が集う場所である。


 身を隠すには困らないし、帝国もおいそれと手を出す事が出来ない。無論、治安が悪い訳ではないが、開放的な気風を持つ剛儿(ドウェルグ)国家ならば来る者は基本拒まない。


 瑕疵(かし)――例えば凶悪な犯罪歴などや白儿(エトルスキ)の様に忌避されるような存在である事が気付かれなければ、万事問題が無い訳だ。要するに変装すれば問題はない。


 レメディアの推理に、スヴェンもそれを一つ一つ確認する様に利点などを吟味していく。だが、彼が下す結論は、その利点を加味しても可能性が低いと判断していた。


「……ハッティ王国に逃げる可能性は確かに高い。ビュザンティオンから最も近い位置にある異国だ。けど、それは当然、東帝国の人間も予測して厳重に警戒すると思う」


「だとすると海に? それとも……南?」


「港を経由して海に出るのは確かにありだ。出た後の足跡を辿り難いからな。その一方で港は大体人の出入りが多いって事を考えると、ラウは寄り付かないだろうな」


 それで一旦言葉を切り、今まで自分の言った事、考えた事を纏める様にスヴェンは顎に手を当てて思案する。


 時間にして十秒も満たないだろうか。


 纏め終わった合図の様に足元へ落としていた視線を上げると、結論付ける。


「アイツは南だな。多分、人目を避けて動く筈だ。例え一緒に暴れた仲間と行動していようと、見つかり難さを考えたらそこに行くしかない」


「ビュザンティオンの南って……でもそこは帝国の版図内だね。でも、もたもたしてると更に先へ行かれるかもしれないって訳だ」


「その通り。俺らがちんたらビュザンティオンに向かってたら間に合わない。早い内にここから船で出て、トラキア地方の港湾都市……マロネア辺りに向かった方が良い!」


 地図を開きながら、互いに真剣な表情で意見交換と確認などを進めて行く。


 とは言え、その実質は旅慣れしたスヴェンの方が握っていたのだが。


「流石に旅をして来た人は違うね。私じゃ余りその辺は役に立てないや」


「そりゃ仕方ねえって。レメディアもその内出来る様になるから、焦んなくても平気だ」


 地図をしまい、二人は掲示板を後にする。建物内では多くの武装した男達が、椅子に座って情報交換などをしていた。


 当然その中には、最近出来たばかりのホカホカな話題について触れている者も居る訳で。


「聞いたか? あの大罪人連中、掛けられた懸賞金が上がるらしい。具体的に幾ら、とかはまだ聞いてねえけどな」


「へえ、そりゃまた帝国貴族も太っ腹な事だぜ。そうまでして捕らえたいかねえ? 面子もあるんだろうが、現状でも一人捕らえただけで数年は遊んで暮らせる金が入るんだろ?」


「白儿(エトルスキ)とか元皇女に至っては二千万T(タレト)だろ? これ以上上がったらどうなっちまうんだろうな?」


「そりゃ一生遊べる金が手に入るに決まってんじゃねえか。こいつぁ、捕まえに行かねえなんて選択肢は端(はな)からあり得んな」


 愉快そうに笑いながら、彼らは談笑を続けて行く。捕らぬ狸の皮算用とでも言うのか、彼らはそれぞれ大金が入ったらどうしたいのかについて、その妄想で大いに盛り上がっていたのである。


「……あんまり余裕、無いかもね。ここまで乗って来た船が出るまでまだ掛かりそうなのに」


「分かってる。こうなれば乗り継ぎで行くしかねえ。多少割高でも構うな、とにかく商船とかに声を掛けまくるぞ」


 ただでさえ、ラウレウスらに掛けられた懸賞金は高額なものである。それが更に上昇するとなれば、金に目の眩んだ者達が依頼に殺到するのは目に見えていた。


 帝国の影響が及ぶ様な土地であれば、全土で一獲千金を夢見る者が血眼になってあちこちを探し回るだろう。


 当然そうなれば、追われる側も焦り、見つかり難い所で立ち往生するか、多少無理してでも足早に他の場所へと言ってしまう。


 その結果どんな問題が起きるかと言うと、スヴェン達が彼らを探すのは尚更難しくなってしまうのである。


 もはや二人にゆっくりしている余裕は、無かった。





◆◇◆





 秋晴れ。


 色が移ろいつつある枝葉の隙間からは木漏れ日が注ぎ、ささやかながらも地面を温めていた。


 夏には繁栄を誇ったであろう昆虫はその役目を終えた様にその屍を晒し、それを蟻が運んで行く。


 餌の少なくなる冬にでも備えているのだろうか。


 荒い呼吸で地面に仰向けとなって倒れていた俺は、目だけを動かして小さな世界の生活をボーっと眺めて居た。


 そこへ近付いて来る、一人の足音。


「うん……うん。ここ数日で少しは実力を上げて来ているね。僕が言った注意点もどんどん改善されていくし。後、もう少し腰を落とした方が良い」


「それはどうも。世辞でも嬉しいですよ」


「別にお世辞じゃあないんだけどな。まぁいいや、ほら立って、ラウ君」


 耳元で足音が止まったと思ったら、仮面に覆われた顔が覗き込んで来る。口元以外は仮面のせいで窺い知ることは出来ず、しかし彼の白い髪と紅い眼がその正体を如実に語っていた。


 彼も、リュウもまた俺と同じ白儿(エトルスキ)なのである。


 だが、同じ人種だからと言って彼が優遇してくれる事は無い。寧ろ鬼だった。


「いつまで休んでいるつもりだい?」


「……も、も少し休憩を」


「戦場ではそんな事を言って居られないよ? 心が折れかけても動けなくちゃあこれから困る事が沢山出てくると思うし」


 そんな事態は早々無いと言ってやりたいが、生憎と思い当たる節が多い。何故自分は毎度毎度追い込まれなければいけないのかと、運命とやらの胸倉を掴んで殴り飛ばしてやりたい気持ちで一杯だ。


「楽に強くなりたい……」


「そんな世界だったら、努力した人はもっと強くなっちゃうでしょ。それでも楽をしたいって言うのなら、ちゃんと自分の欠点を練習の度に直して行かないと」


「そりゃここ数日、リュウさんのお陰で戦いの幅も広がった自覚はありますけど。でもアンタ強すぎるんですよ!」


 そのせいで自分が本当に強くなれたのか、とんと自覚が湧かない。原因はこの人物だ。仮面とその中性的な声のせいで性別は判然としないが、何はともあれこの野郎のせいである。


 稽古をつけてくれると言うので願ったり叶ったりと思いお願いしたが、身に着けられた技術が実戦で効果があるのか分からない。


「贅沢言わないでよ。まだ稽古をつけ始めてから一週間も経っていないんだから。その程度の研鑽で僕に勝てる訳ないだろう?」


「……何て傲慢ちきな」


「どうとでも言いなよ。僕は事実を述べたまでだ。それに僕としても、まだ十四歳そこらの子に負けてしまう訳にはいかないからね」


「それ、爺が言うセリフですよ」


 少なくともリュウくらいの年齢の者が言う言葉ではない。仮面を着けていても分かるくらいには、彼の佇まいには若々しさがあるのだから。


 しかしそんな俺の指摘にリュウが答える事は無く、小突くように頭を蹴ってくる。


「ほら、もう十分休んだでしょ。早く起きなよ」


「……分かりましたよ」


 渋々と言った感情が滲んでしまったが、起き上がっただけ有難いと思って欲しい。彼は稽古の中で毎度圧倒的な実力を見せて来るので、モチベーションが中々上がら無いのである。


 立ち上がって周囲を見回せば、すぐ近くの木に背を預けて座り込む少女の姿があった。


 木漏れ日が斑状にその天(あま)色の髪や体を照らしている様は、彼女の容姿もあって中々風情のあるものだった。


 しかし、今はそんな事になど大して興味も湧かない。無言でそちらへと足を向けると、声を掛ける。


「おいシグ、もう一回だ。やるぞ。何でそんなに息乱れてんだよ」


「……逆にアンタ、何で平気なんだ? 私、そろそろ魔力に余裕もないんだけど」


「何を甘えた事言ってんだ。弱いままだとラドルスやオッサンと再会出来てもまた離れ離れになるかもしれねえぞ」


 事実、今はあの二人の捜索をしているのは俺でも無ければ彼女でもない。リュウと契約を結んでいるらしい精霊の后羿(コウゲイ)だ。


 俺達では荷が重すぎると実力不足を指摘され、リュウから捜索に向かう事を良しとされなかったのである。


 それにしても、「弱い」と直球で言われたのは結構衝撃的だった。それが悔しくて、今こうしてリュウから稽古をつけて貰っている訳だが。


「シグ君は身体強化術(フォルティオル)が使えないんだったかな? だとしたら引き続きその練習をしてくれ。失敗しても僕がカバーするから問題ないよ」


「そうは言ってくれますけど……私の魔法系統知ってますよね?」


「ああ、造成魔法(クレアティワ)でしょ? 基本的に体外へ魔力を放出するから、確かに体内で循環させるのはそもそも難しいよね」


 身体強化術(フォルティオル)は、そもそも体内の魔力が元々少ない人が、戦う術として編み出したものである。少ない魔力で効率よく体の強化を図る為、修得自体が難しい。


 緻密な操作を要求されるので、魔力量が多い者――普通に魔法が使える者は、尚更修得が困難となる。


 特に何が難しいかと言えば、強化の加減だ。腕だけを強化するにしろ、骨や筋肉、血管など様々なものを同程度強化しなくてはいけない。


 筋肉だけを強化し過ぎれば骨が持たず、骨だけ強化してしまえば筋肉に損傷が生じてしまう。


 実際、俺もエクバソスと戦った時に経験がある。非常に調整が難しく、仮に怪我しなかったとしても強化部位を後々倦怠感が襲う。


 分かりやすく言えば筋肉痛みたいなもので、要は反動だった。


「リュウさんの指摘は確かに戦い方などの参考になりますけど、そもそも私とは魔法属性も系統も違うと思います」


「その通り。だけど、造成魔法の使い手である君が近接戦闘にも対応出来れば幅は広がる筈だ。要するに戦う上での死角が無くなる訳だからね」


「ですが造成魔法を使う私は、近接戦闘に遭遇する機会はそもそも多くない筈です。私にもラウレウスの様な複雑な戦術を……」


 俺とシグ。その教え方に違いがある事に、彼女は異議を唱えたいらしい。恐らく、早く強くなるべく気も急いているのだろう。


 しかしリュウは特に気を悪くした様子もなく、一方できっぱりと言っていた。


「シグ君、それは戦う上での死角を無くしてからだね。今の君には魔法を遠中距離から放つ以外の使い道は碌に無い。だから弱い。戦術の幅を広げられる下地を作ってから文句を言ってくれ」


「……分かりました」


「素直で宜しい。分からない事や困った事があったらいつでも呼んでね。人に教えるのはそんなに嫌いじゃあないから」


 論破されても尚、少し納得の行かない顔で返事をする彼女に、リュウは変わらず柔らかい口調で言葉を続けていた。


 まるで仏の様だが、何処となくそれが怒らせたら危険な雰囲気を醸し出している様だった。


「さてラウ君。さっきシグ君にも言ったけれど、君も弱い。遠中近距離の戦闘はそれなりに熟せるけど、素人に毛が生えた程度。それらを組み合わせた戦闘で上手く戦って来たみたいだけれど、分野ごとに見たら貧弱も良いところだ」


「……何か、シグより言葉強くないですか? 滅茶苦茶胸に突き刺さるんですけど」


「シグ君が僕に注意されているのを見て、馬鹿にした様な表情してたでしょ。君も同類……いや寧ろそれ以下だと伝えたかったのさ」


「だから言葉が強いんですってば……」


 心を折りに来ているとしか思えない。自分としては、中学時代に剣道をやっていたのだ。多少なりは近接戦闘に自信もあったのに、それもひっくるめて全部弱いと言う。


「戦闘術とかを学ぶ機会が無かったんだろうね。大体我流でしょ? だから粗削りで隙も目立つ。間合いも読み合いも雑に処理しているから、反応も間に合わない」


「それは貴方から見ればそうでしょうね」


 あれだけ強いのだ、自分に劣っているところなど碌に無い。いや、全く無いと言っても過言ではあるまい。


 身体強化術(フォルティオル)一つとっても彼の実力は圧倒的だった。


 こちらの攻撃は当たるどころか掠りもしない。全て読まれて、躱されて、逆に刀を突きつけられて地稽古は終わる。


「唯一褒められる事は、自分の力でそれなりに魔法を使いこなし、身体強化術(フォルティオル)も修得している事かな?」


 それは誇っていい、とリュウからは一転してお褒めの言葉を頂く。いきなり流れが変わった事について行けず、返事を忘れている間にも、彼は話を続けていた。


 曰く、白魔法(アルバ・マギア)は意外とその制御が難しく、感情一つで暴走してしまう事もある。


 それについては自分も二度ほど心当たりがあるのだが、暴発は隙が大きく魔力の消費量も馬鹿にならないので制御出来た方が良いらしい。


「実は二回、僕は君のだと思しき白い魔力の柱を見ているんだよね。でもそれっきりって事は、君はちゃんと魔力を制御出来ている証だ」


「どうも……」


「それに白魔法(アルバ・マギア)はそもそも魔力量も多くて、だから魔素が体に沈着しやすいらしい。それだけ量が多いと制御も難しくてね。ラウ君ぐらいの歳でそれだけで出来れば上出来と言えば上出来さ」


 客観的に見れば弱いけれどね、と最後に釘を刺すのを忘れないリュウ。そうやって褒めて落とすところ、俺は絶対許さないからな。


 だが内心の呪詛など知る由もない彼は、尚も話を続ける。


「僕達の魔法って起源が随分と古いみたいでさ。学者の話だと古い形が残っているんだって。だから時代的に新しく出て来た魔法系統より専門性や効率で劣る」


 彼が掌に浮かべるのは、魔力の塊。そのまま撃ち出せば白弾(テルム)として使う事が出来るだろう。


 だがその用途でやる気はなかったのか、変形させると今度は窓ガラスの様に薄い板にしていた。


「僕達の魔法は直接火を熾せる訳でも、水を造れる訳でも無いし、体を属性に作り変える事も出来ない。原始的で、試験的だからね。その代わり出来る事の幅は広いんだ」


 こんな風に、と今度は盾が幾つもの小さな魔力の塊に分割され、時が止まった様に静止していた。それはまるで降り注ぐ雪を撮影して、時を切り取った様だった。


 とても幻想的で、少し離れた所に立っていたシグですらも、その手を止めてこちらに目を奪われていたほどである。


「やろうと思えば、例えば土人形を作る事も出来るし、倒木を持ち上げる事だって出来る。緻密な魔力操作や集中が必要だけどね。魔力の消費も隙も大きいから、僕も余り戦闘とかじゃあ使わない」


「……え?」


 魔力の塊たちが霧散したかと思えば、出し抜けに地面から土人形が飛び出し、近くの倒木が不自然に起き上がった。


 白魔法(アルバ・マギア)は土魔法でも無ければ植物魔法でも無いと言うのに、リュウはそれらを見事にやって見せたのである。


 夢でも見ているのかと思ってしまったくらいだ。


「どう? 思っていたよりも自由度の高い魔法でしょ? 使いこなせればだけど、こういう欲張りなものなんだよね。それが危険視されて、僕らの御先祖様は迫害されたのかもしれないね」


 直後、リュウは魔法の行使を止めたらしい。土人形も、独りでに持ち上げられた倒木も地面へと倒れ、もう動き出す気配は無かった。


 以前会った際にはリュウから魔法について詳しい話も聞けなかった分、今日の話もまた衝撃的だった。


 どうせなら稽古をつけ始めた初日にでも教えてくれれば良いものをと思わずには居られない。


「不満そうな顔をしているけれど、いきなりこんな話をしたらラウ君ならそっちにしか注意が向かなそうな気がしてね」


「……否定はしません」


「自覚があるのは良い事だ。今教えたのはある程度喋っても良いかなって思ったからだし」


 君の能力も色々測れた、と言うリュウはその口元が笑っていた。何やら考えがあるらしい。


 そこはかとなく嫌な予感がして、引き攣った顔をしながら後退ってしまうが、それを逃すまいとするように距離を詰めて来る。


「あれ、どうして下がるの?」


「貴方から邪悪な気配がするからですよ!」


「嫌だな、君の為なのに。魔力の制御について学んでほしいんだよ。そうだね、毎日十時間ずつくらい」


「何やらせる心算(つもり)か知りませんけど、そんな長時間やらせようとしている時点で俺の勘は的中したみたいですね!」


 咄嗟に、踵を返す。


 そのまま脚部に強化術を施して逃走を図ろうとするが、そんな事は最初から見抜かれていたらしい。


 嘲笑うかのように彼は先回りをして、前に立ちはだかっていたのだった。


「逃がさないよ。折角知り合った縁なんだから、ついでに強くなれば良いんだ」


「いやついでって言いますけど、どう考えても今は追手から逃げる事よりも鍛える事の方に重きが置かれてません!?」


「だって、あちこちで指名手配されてしまっているから、迂闊に身動きが取れないんだよ。何か知らぬ間に僕達の懸賞金も跳ね上がっているし、その辺の山でも山賊みたいなのが血眼になって探し回っていたからね」


「だったら尚更ここを突破すべきなのでは……」


 抵抗はするだけ無駄。あっさりと彼の小脇に抱えられ、リュウによって連行されていくのだった。


 ダメもとでシグに視線だけで救援を求めるけれど、彼女も勝負になる訳ないと分かっているのだろう。あっさりと視線が外され、早々に助けが来ない事は確定していた。


 果たしてこの修業は、この旅は、いつまでの続くのだろう。


 自分の精神と体力が持ち堪える事は出来るのか、甚だ不安だった。





◆◇◆




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