第二話 Who are you? Who is this?③
◆◇◆
「どう?」
「ええ、やはり間違いないかと思われます」
天色の髪を揺らす少女の問い掛けに、槍を持った旅人風の青年が畏まった口調で頷く。
その答えに、「そっか」と呟いた少女は、椅子に腰掛けたまま窓の外へと視線を向けた。
珍しく、そして希少な小さいガラスの窓の先には、ビュザンティオンの心臓部――巨大な建物が広がっている。
片や大きなドーム型が特徴的である“大聖堂”、片や広大な範囲を誇る“大宮殿”。
ビュザンティオン総主教座と、ビュザンティオンの宮殿が並んで聳え立っているのだ。
遠くから見ても尚、それら建築物の壮麗さは目を瞠るものがある程で、建物に阻まれて屋根しか見えない五つのドームは、いずれも金色に輝いていた。
普通であれば中々目にする事は無いであろう巨大かつ壮麗な物に、しかし彼女らは一切驚きの色を見せる事は無い。
「それで、場所は?」
「……流石にそこまでは。ただ間違いなく、あそこに居るものかと」
「分かった。じゃあ、乗り込む準備よろしく」
「承知しました……しかしお嬢、本当に宜しいので?」
不安げな視線を、青年――ラドルス・アグリッパが向ける。
それに対し、お嬢と呼ばれた少女――シグは静かに右拳を握り締めた。
「ここで諦めたら、こんな場所にまで来た意味がないでしょ。ラドルスだって、そう思ったからここまでついて来てくれたんじゃないの?」
「そうですけど……些か危険が過ぎると言いますか、果たしてそれをあの人が望んでいるのかと考えると」
「そう思うなら私一人でやる。別に貴方がそこまで私に構う必要も無いしね」
「いえ、そうは行きません! お嬢を守ると言う使命があるんです……こうなったら俺だって、動くしかないじゃないですか」
諦めた様に息を吐きだしたラドルスは、自身の髪を乱暴に掻く。
それを見てクスリと笑ったシグは、既に纏めてあった荷物を手に持ち、椅子から立ち上がる。
「どちらへ?」
「偵察。まずは良く知らなくては、何も出来ないでしょ?」
「お嬢、待って下さい。下町じゃあ、ついこの前も奴隷商が殺されてるし、滅茶苦茶物騒なんです。しかも下手に目に付く危険だってあるのに……」
「大丈夫、ちゃんとフードも被るし顔も隠すから」
「それで済む問題じゃ無い気もするんですがね」
襲われるときは襲われるのだ。
例え浮浪者でも、屈強な男でも、兵士でも、それこそ昨日殺されたと言う奴隷商は数十人の奴隷を雇っていたのに殺された。
気にし出したら限が無いものの、ラドルスからすればシグにはこの状況下で絶対に街へ出て欲しくない。
娘を思う父親の気持ちになりながら苦言を呈すも、彼女は全く耳を貸す様子が無かった。
「お出かけで?」
「ああ、少ししたら戻る」
愛想の良い受付へ鍵を預け、ラドルス達は宿を出る。
この辺りは裕福な人が住む場所であり、浮浪者は見当たらず、下町に比べて匂いも抑えられている様だ。
敷き詰められた石畳、石と煉瓦と木が組み合わされた、所狭しと並ぶ家々。
その景色をぐるっと見渡したシグは、ラドルスへ振り返った。
「随分不安がってるけど、このすぐ辺で殺人事件があった訳じゃ無いんでしょ?」
「そりゃそうですけど……でも、現場は下町とこの辺の境ですよ? 殺人犯がここに足を運んでいる可能性だってあるのに」
しかしそんな彼の懸念は、あっさりと笑われてしまう。
気にしすぎだと、指摘されたのだ。
「その殺人犯がピンポイントで私達を狙う危険はどれほどだと思う? ビュザンティオンにはかなりの人が住んでるのに」
「まぁそうですけど……噂じゃ犯人が“視殺”かもしれないって話もあるんですよ? お嬢も聞いた事はあったでしょう、あの殺し屋の話」
見たら、見られたら死ぬ。
その正体は、素顔は分からない。
何故なら姿を仮に見たとしても、殺されているから。
その殺されようはいずれも、体に風穴を開けられて死んでいるのだとか。
実際に見た訳ではないが、一体どのような魔法を使ったらそんな事が出来るのかと、ラドルス自身も薄ら寒い物を覚えた記憶がある。
「じゃあラドルス、その“視殺”が私達を狙って居るかもしれないと?」
「その危険が無いとは言えないでしょう? 奴は最近名を上げつつある、正体不明の殺し屋です。雇い主次第では……」
「そんな事を言ったら他にも殺し屋なんて居るし。彼らは皆、仇名があるばかりで正体も不明。裏社会の人間だから当然だけど、姿の分からない脅威に怯えていたら何も出来ないでしょ」
人を見て一瞬で殺し屋であると見抜けるか、と言外に問われて彼は口籠った。
当たり前だが無理なのである。
暗殺者などは絶対的に目立つ訳にはいかない。姿を知られては警戒されてしまうし、逆に襲撃されてしまう危険も高まる。
だから大体は旅人であったり、その辺の平凡な市民を装うのであるが。
……そう考えると、あの紅髪紅眼の短槍遣いの少年が刺客である可能性は低かったのだろう。
刺客であるならばもう少し疑われないように立ち回るのが当然で、何か事情がありそうな魔法を使う事も絶対になければ、一緒に行動する事も断固避けた筈だから。
少し早まったかなと先日の己が行いを省みつつ、シグの後をついて行く。
彼女の背後に控えながら、常に周囲への警戒は怠らない。
だからだろうか、いち早く彼は騒がしい気配に気付いた。
「お嬢、待って下さい」
「何? まだ説教するつもり?」
「いえ、そう言う訳では無くて……」
不機嫌そうに振り返って柳眉を歪ませる主人に対し、思わず苦笑が漏れる。
だがそれもすぐに打ち消すと、彼は真剣な顔で訳を告げようとしたところで、邪魔が入った。
いきなり、本当に何の前触れもなく大通りの建物の壁が爆発したのである。
『――!!?』
幸いその威力は大した事もなく、頭上から降り注ぐ瓦礫も大きな物は無かったのだが、それでも人々を驚愕させるには十分だった。
途端に悲鳴が上がり、ある程度規則性の見られた人の流れは一気に乱れる。
まさに右往左往、老若男女の悲鳴が入り乱れ、露店に並んでいた商品が路上へ投げ出されて踏みつけられていく。
「ラドルス!」
「お嬢、こちらへ!」
何が起きているのかは分からない。
だが、この狂乱の中でじっとしているのは得策ではない。
即座にシグの手を取り、ラドルスは人の間を縫うように速足で行く。
そんな中で聞こえて来る、誰かの怒声。
最初はこの混乱で誰かが怒り出したのかと思ったのだが、それにしては異質だった。
一体何であろうかと、微かに聞こえるその方へ目を向ければ、少し遠くに家屋の屋根を跳ね回る人影が。
どうやら追われているらしいその一つの影は、時折後方から飛んで来る攻撃を躱している様だ。
その髪は紅く、短槍を持っている様にも見える。
「……まさか」
狂騒状態となった市民達は音のする方から離れようと、小さな路地などあちこちに散って行った。
シグの手を引いた姿勢のまま固まったラドルスは、逃げ遅れた疎らな市民達に目もくれず、ただ一点を見つめる。
「ねえラドルス、あれって……」
「嘘だろオイ」
「……その反応、私の見間違いでも無いのね」
遅れてそちらを見遣ったシグは二度見、三度見を繰り返した後、彼の様子を見て長い息を吐きだした。
その間にも、追われている彼と追っている者達の会話が十分に聞こえる程、距離が詰まって来ていた。
「ええい止れ貴様! 巡回の兵士に対する暴行罪で拘束する! 大人しく縛につけ!」
「断るッ! 元はと言えばそっちの兵が碌でもない事をしようとしたからだろ!?」
東ラウィニウム帝国、特にビュザンティオンやウィンドボナと言った大都市は精鋭が多い。
例えば身体能力であったり、魔法能力であったり。
屋根から屋根へと渡り、或いは走りながら魔法を幾つも放つ。
「囲めェ! 逃がすな!!」
騎乗し、人の居ない大通りを疾走する指揮官の指示の下、無数の影が動き出す。
その速さは驚嘆に値するものであったが、ラドルス達はそっちに気を取られる事が無かった。
寧ろ追われている方にしか目が行かないのである。
「――チっ!!」
伏兵に足元から攻撃された少年は、苦しい声を漏らしながら姿勢を崩して落下し――ラドルス達と程近い露店へと突っ込んだ。
相当な勢いがあったのだろう、瓦礫と埃が舞い、ラドルスはシグを背に庇う。
そんな二人の目の前で、すぐに短槍を持つ影が咳き込みながら立ち上がった。
「痛ててて、ふざけんなよこのっ……っと?」
「よお、昨日ぶりだな?」
「……何で居るんだよお前」
「いやその前に何で追われてるんだよお前?」
ケイジ・ナガサキ――もとい、ラウレウスと名乗っている顔見知りが、そこには居たのだった。
◆◇◆
まさか、この状況で再開すると言うのは想定外だった。
そう思いながら、ラドルスとシグを見遣る。
もしや彼らもいきなり攻撃してくるのかと思ったが、ラドルスの様子を見るにそれは杞憂らしい。
昨日はあれだけの警戒心を向けて来た筈の彼が、寧ろ呆れた様な顔をしているのだ。
今更敵意を叩きつけて来るようには、到底思えなかった。
「お前も苦労してるんだな……深くは訊かねえが」
「訊いてくれなくて良いから助けてくれ」
「断る。俺とお嬢には関係ない事だからな」
「俺はそんなお前らに巻き込まれた事があるんだが?」
救援要請を早速断られ、彼らはそそくさと距離を取り始める。
それを見て思い切り舌打ちをしてやりながら、周囲を見渡した。
数は恐らく二十人以上。
魔法か、或いは身体能力に秀でている者ばかりだ。
まさか、たった二人の兵士を叩きのめしただけでこれ程の大騒ぎになるとは誰が想像できただろう。
余りにも理不尽な展開に、自然と乾いた笑いが漏れてしまった。
「じゃ、俺らはそう言う事でっ!」
「あっ、おい待ちやがれッ!!?」
腹立たしい事に、ウィンクをしながらラドルス達が駆け去って行く。
もっとも、残って貰って巻き込むのも違う気がしたので仕方ないだろう。
出来れば濡れ衣でも着せて責任転嫁まで待って行きたかったのだが、仕方ないものは仕方ない。
「ここまでくれば逃げ場もあるまい。包囲されたんだ、大人しくしろ」
「…………」
俺以外には興味も無いのだろう、ラドルス達の逃走をあっさり許した兵士らは、大通りや屋根の上に至るまで、あちこちから包囲していた。
ここまで来てしまえば、勝ち誇るのも無理はない。
普通ならばどうしようもないのだから。
しかしまだ、こちらには伏せていた手札がある。
余り使いたくないが、白弾があるのだ。
素早く頭上で無数の白弾を生成し、息つく暇もなく地面へと叩きつける。
途端に石畳が派手に破壊され、砂埃がもくもくと立ち込めるのだ。
「くっ!」
「煙幕だ! 気を緩めるな!」
「総員、周囲を警戒しろ!」
逃げる際に取る、いつもの常套手段。
視界が悪くなる事が分かっているのと居ないのとでは、次の行動に僅かながら確実な差が出るのである。
一気に地面を蹴り、大通りから外れる小道に立ち塞がる兵の隙間を抜けて行く。
しかし、やはり彼らは只者ではないらしい。
「させるかっ!」
「!?」
剣の軌跡が頭髪を掠め、紅く染めた幾らかが持っていかれる。
視界不良の中であっても反応してくるその練度に、内心では肝を冷やさずに居られなかった。
だが、それも程々に煙幕を抜けて一気に駆けて行く。
後ろではすぐに追撃を掛けて来る気配がしたものの、それに振り返らず裏路地をジグザグに走る。
しかしそれでも、たった一人だけが食らいついて来るのだった。
「逃げられると思うな!?」
「しつこいんだよっ!」
このまま逃げていても限が無いと判断し、反転して斬り結ぶ。
片や短槍、片や剣。
増援が来る気配がない所を見るに、他の兵士はまだ追い付けないか、完全に見失ったのだろう。
もっともだからと言って、悠長にしている訳にはいかないのだが。
横薙ぎの剣撃を、斜めにした槍の柄で往なす。
そのまま石突部分で薙ぎ返せば、それを真面に受けた兵士は悶絶しながら石畳に倒れる。
感覚からして骨が折れたか、ともすれば内臓にも損傷を負わせたかもしれない。
何にせよ戦闘不能に陥った事は間違いなかった。
幾ら腕が立つとは言え、やはりエクバソスやラドルスなどに比べると見劣りがするもの。
攻撃速度も普通の身体能力の範疇を越えず、恐らく純粋な鍛錬でここまでの技量を獲得したのだろう。
そんな兵士は、あっさりと一撃を入れられた事が悔しかったのか、恨めしそうに睨み付けて来る。
「ガキが……一丁前に身体強化術なんざ使いやがって! 魔法使えるからって調子乗ってんじゃねえぞ!」
「好き勝手言うな。俺はこの魔法が使えるせいで碌な目に遭ってないんだっての」
隣の芝生は青く見えるとはよく言ったものだ。
こんな魔力が無ければと思うのに、それを恨めしそうに見て来る者が居る。
普通でいる事、そして平穏な生活を送る事が出来ない人に向かって、恨み言を言ってくる。
「……どんな類の魔法を使うか知らねえが、ずるいよな、魔法」
俺にはほんの少しの魔力しかないのにと悔しそうに呟いた兵士は、腰に下げた袋から赤い妖石らしきものを取り出していた。
一体何をするつもりだろう。
そう思って用心深く兵士の様子を見ていたら、彼はそれを口に含み、噛み砕いた。
直後、瞬く間にそこを中心として爆発が起こるのである。
「んなッ――――!?」
咄嗟に全身へ魔力を巡らせて強化を掛けたものの、それ以上の事は出来ず、呆気なく吹き飛ばされるのだった。
「――おい、聞いたか? 中心市街の近くで爆発があったって」
「ああ、兵士の一人が狼藉者を取り押さえる為に戦って、自決したんだろ? 犯人は逃げたらしいが……」
そんな会話を耳にしながら、薄暗い裏路地で壁に凭れ掛かる。
ボロ衣の様に焦げた外套は現場に捨てて来た。
しかし、その下に来ていた衣服も全く無事という訳では無くて、所々が焦げて居る。
最悪の事態を想像して人目を避け、極力裏路地だけを取って宿を目指していたが、事ここに至って不味い状態になってしまった。
宿へ戻るのに、今目の前にある大通りを横切らなければならないのだ。
先程の兵士が爆発で自死した事もあり、巡回の兵は増加し、噂も一気に広まってしまっている。
もう少し暗くなるまで待つしかないと溜息を吐いたその時。
「おい」
「ん?」
裏路地に立っていて、その横合いから掛けられた声で首を巡らせた。
そしてその時、煌めく鈍色の軌跡を目にして、瞬間的に槍を翳す。
「…………」
「ッ!!?」
キン、と鉄の振動する音が聞こえ、槍の柄で受け止められた短剣が視界に映っていた。
それを握る手は褐色で、どろりとしたような黒い眼が印象的だった。
おまけに、力も強い。押し切られそうになって、慌てて身体強化術を施して持ち直す有様だった。
「……お前」
思わず「いきなり何だよ」と言い掛けたところで、外套を纏ったその人物の姿がある記憶と一致する。
昨日奴隷商の男を襲い、そして俺まで撃って来た、銃らしき物を持つ者。
外套とフードで隠れてその容貌ははっきりと分からないが、その膂力はやはり驚くほど強い。
こうして至近距離で押し合っていると、先程も思ったが素の力ではまず勝てない。
咄嗟に槍で大きく薙ぎ払い互いに距離を取ると、試しに声を掛けた。
「……昨日ぶりで良いんだよな?」
「…………」
彼は、反応を示さない。
無言で短い銃らしきものを取り出し――。
「止めとけよ。ここで銃なんて撃ったら余計なのを呼び寄せちまうぞ」
「ここでお前を殺さないとそれ以上に面倒な事になる。悪く思うな」
目深にフードを被っていたとしても分かるほど、その少年は無表情だった。
年の頃は恐らく大して変わらないか、もしくは一緒。
俺以上に世界に対して絶望している様な、暗い雰囲気をしていた。
気を抜けば話の途中でも躊躇なく殺されると肌で感じながら、尚も質問を続ける。
「そこまでして俺を狙う理由は? 昨日もすぐ狙って来たしな」
「下手に姿を知られると生きて行けない稼業をしてるんだ。不安の芽は早く潰しておくに限る」
「つまりアンタは、俺を探してたって訳だ。下手に騒ぎ起こしたせいで増々面倒な事になったな……」
突き付けられた銃口から目を背けずに、わざとらしい溜息を吐く。
しかし少年の眼は相変わらず離れず、感情の揺れも見当たらない。
もう少し揺さぶりが必要か。
いや、揺さぶる必要もない。少し訊いておきたい事があるのだから。
「なぁ、じゃあ俺を殺す前に一つだけ教えてくれ」
「……何だ?」
「お前の持ってる拳銃、それに昨日使ってたライフル。それは何処から持って来た?」
「……?」
怪訝そうに眉を顰める気配が、微かに伝わって来る。
どうやら困惑しているらしい。
結果的には揺さぶりも成功している事を安堵しつつ、尚も質問を続ける。
「ひょっとして、それは自分で作ったのか? だとしたらどうやって? この世界だと銃は出回ってるように見えない。何処からその知識を仕入れた?」
「……お前、何で“銃”って言葉を知ってる? お前こそ何なんだ?」
頭痛でもするのだろうか。問い返してくる少年の口元が苦しそうに歪められ、開いていた左手が額へと添えられる。
銃口も微かに揺れていて、正確に狙いを付ける事は難しいだろう。
確かな手応えを感じながら、少年の問い掛けに答える。
「俺は以前、長崎 慶司だった。お前は? この世界の前は、何て言う名前だった?」
「名前? そんなの、俺はシャリクシュで……」
遂に、銃を握る手を下ろした。
図らずも少年の名を知ったが、本人は自分が呟いた事に大した意識も裂けていない様だった。
「う、うっ……!?」
相当頭痛が酷くなったらしい。
とうとう拳銃を落とし、両手で頭を抱えるとその場に屈みこんでしまった。
その只ならぬ様子に傍観している訳にもいかず、慌てて駆け寄りながら声を掛ける。
「おい、大丈夫か!? おい! ……しょうがねえ、一先ず宿へ行こう」
ついでに彼の纏う外套へ入れて貰い、介抱する体で行けば巡回する兵士達の目も誤魔化しやすくなる。
色々訊きたい事もあるし、一石二鳥にも三鳥にもなるこの手を採らない訳が無かった。
「……思ってたより重いな」
肩を貸しながら大通りを歩くが、背丈は大して変わらないのに相当筋肉があるらしい。身体強化術でも使った方が良いのだろうが、それだと何となく負けた気がするので敢えて使わなかった。
その結果として情けない事だがあっちへヨロヨロ、こっちへヨロヨロしながら、宿屋を目指すのだった。




