プロローグ
第三章始まります。
誤字脱字や変な表現などがあったら教えて頂けると幸いです。
昔々、この世界にはとても邪悪な民族と、それに協力する精霊が居ました。
彼らは不遜にも近くに住む人々を攻撃し、神にも従いません。
しかし、白儿と呼ばれて恐れられた彼らには、やがて天罰が下りました。
神の加護を受けた英雄プロクルス・クロディウス・コクレスと、彼に率いられた軍隊が邪悪なる彼らを追い込んだのです。
だが、その中にあっても敵の首魁たるラルス・ウェリムナは頑強に抵抗し、英雄の味方達を多く殺して居ました。
けれどもコクレスの前にはどうする事も出来ず、次第に配下の将を討ち取られて、とうとうタルクナという本拠都市にまで迫ります。
だというのにしぶとく抵抗し、そこで英雄の軍を相手に大暴れしたのが、かの有名な大悪魔・ユピテル。
それは多くの兵士達を殺し、市民の生活を脅かしました。
当然コクレスはそれを許さず、ユピテルの討伐に向かいます。
『人よ、何故にして我々を害す? 何故にして白儿を害す?』
多くの味方が斃れる激しく厳しい戦いの中で、ユピテルはコクレスに問い掛けました。
するとコクレスは仲間を討ち取られた怒りを乗せて叫び返しました。
『それは貴様らが我々を害すからだ。神に従わぬ、不遜な者共には裁きの鉄槌を下さなくてはならない』
その言葉に、コクレスの配下に居た兵士達は奮起しました。
恐怖で押されかけていた勢いを巻き返し、白儿の軍隊を散々に打ち破り、ユピテルを追い込みます。
そしてとうとう、大悪魔ユピテルを倒す事に成功するのです。
しかしそれは強大で、打ち倒す事は出来ても消滅させることが出来ませんでした。
なのでコクレスは最初から封印石を用意し、弱った隙を衝いて封印する事にしたのです。
『二度と出て来ぬように碑と建物を立て、夜には篝火を絶やさず永世見守る様にせよ』
タルクナ市の近郊であるその場所に、彼はそう命令して更なる戦いに身を投じました。
戦いは尚も続きます。
コクレスは己の宿敵で、かつ人類の敵であるラルス・ウェリムナを討ち滅ぼす為に剣を振るい続けるのでした――。
古びて碌に修理もされていない、薄汚い小屋の中で、男の子はその話に聞き入っていた。
次の話を早くして欲しいと、言葉で言わずとも分かる程に、表情だけでそれをせがんでいたのだ。
しかし、長々と話を聞かせていた母親らしき女性は嬉しそうに顔を綻ばせるだけでそれ以上の話をしてくれなかった。
「それでそれで? その後どうなったの!?」
我慢が出来なくなったように声に出して顔を寄せる男の子に、女性は優しく頭を撫でてやりながら言う。
「ごめんなさい、今日はここまでよ。そろそろ陽も落ちるし、明日も仕事があるのだから寝ましょう」
「ええっ、もっとお話聞きたかったのに!」
残念そうに頬を膨らませる男の子を抱え上げながら、女性は壁の隙間から入り込む陽の光を確認する。
既にその色は赤く、そして薄暗い。
日没まで、そう時間は無かった。
「明日、また夕飯を食べ終えたら話すわ。それまでの辛抱。いい子にしないと話してあげないからね?」
「うんっ、僕もお手伝い頑張る!」
「あらあら、じゃあ明日も頼りにして居るわよ」
喜色を浮かべる男の子を藁のベッドに寝かし、その頬を撫でる。
男の子は心地よさそうに目を閉じ、先程までとは打って変わって大人しくなっていた。
大きな欠伸を一つする男の子を見て大丈夫そうだと思ったのか、女性は立ち上がると寝る前に最後の家事に入る。
だが、すぐに振り返って藁のベッドに寝転がる複数の人影を見た。
一人は壮年にはまだもう少しかかりそうな、精悍な男性。他には、三歳から十歳程度の子供が四人。
皆、鼾もかかず静かに眠りこけている。
正確に言えばまだここに居る男の子が一人、寝入ってはいないけれど、それも時間の問題だろう。
幸せそうに眺めていた彼女は改めて仕事へ取り掛かろうとして、そこで眠そうな声が一つ。
「お休み、お母さん……」
微かに聞こえて来た声に口端を緩ませながら、女性は声の主に対して優しく応えていた。
「お休みなさい、ラウ」
それきり振り返る事も足を止める事もなく、彼女は家事に取り掛かっていたのだった。
 




