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キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第二章 イテツクココロ
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エピローグ

これで二章完結です。読み返して拙い文章だなと思いつつ投稿していますが、ここまで読まれた方には有難く思います。



 月夜に照らされた薄暗い街道を、五つの騎馬が驀進する。


 そしてそれらの後を追う、五十ほどの騎馬。


 両集団とも一切の言葉を漏らさず、只々黙々と馬を駆る。


 よく見れば先頭を走る五騎はいずれも身につけた鎧や衣服に汚れや傷が見られ、疲労の類すらも見受けられた。


 言うなればこれは、追撃戦にも見えた。


「全く……他国領内で私を襲うなんてっ、良い度胸だ!」


「無駄に体力を使いますぞ、お静かに」


 疾駆する騎馬の上で悪態を吐く少女に、傍らを走る者が苦言を呈す。


 彼女は他の四騎に護られる様にして中心を走っており、彼らの中で最後尾を走る騎馬が振り向きざまに一射を見舞っていた。


「ぐぁっ!?」


 薄暗いというのに恐ろしく正確なそれは、追撃を掛ける先頭騎兵の首を射抜き、落馬させる。


 よって追撃を掛ける隊の列に綻びが生じ、練度が余りよろしくないのか一気に隊列が乱れる。


 だが、巻き添えを食らって倒れる騎馬はほんの数騎。


 五十以上も居る騎馬隊の前には、大した損失でもなさそうであった。


 おまけに、そうこうしている間に乱れた隊列はゆっくりと立て直され、整えられている。


「センプロニオス様、こりゃ駄目ですわ。矢も尽きました」


「……馬も限界が近い。このままでは全滅だな」


 後尾から距離を詰め、矢玉が尽きた事を告げる彼に、センプロニオスと呼ばれた騎兵は歯噛みをする。


 流石に馬を酷使し過ぎた。この調子ではそう遠くない内に潰れてしまうだろう。それでは追撃から逃れる事など増々困難になってしまう。


「連中の狙いは明確だ、こうなれば我らで食い止めるのみ!」


「センプロニオス、駄目だ! そんなん許さないよ!」


「何を仰いますか! ここで守り切らねば、今まで死んでいった者たちに顔向けが出来ませぬ!」


 姫様と呼ばれた少女の反論を、彼は中年に差し掛かった野太い声で無理矢理潰す。


「ラドルス、お前は付いて行け。貴様の実力なら守り切れるだろ?」


「……はっ、承知致しました。この命を賭して、任を全う致します」


 先程騎射を行ったラドルスに指示を出し、センプロニオスは満足した様に頷く。


 それから幾つかの注意事項を伝えた彼は、他の二騎と共に馬首を取って返すと、元来た道を戻り始める。


 その先には当然、追撃を掛けて来る無数の騎馬が居る訳で。


 三騎と五十余騎。


 圧倒的な多勢に無勢だが、センプロニオス以下彼らに一切の恐怖は見受けられない。


「私の名はセンプロニオス! タグウィオス・センプロニオスだ! 狼藉者である貴様ら全員、地獄へ叩き落としてやろう!」


 己の馬上槍を構え、彼は、彼らは無数の敵の中へと突っ込んでいくのだ。


 しかし、現実は残酷だった。


「貴様に用はねえ! 行くぞテメエら!」


 指揮官らしい男がそう呟くと、追撃部隊の内の半数が分離したのだ。


 その結果、センプロニオスらが激突したのは二十数騎ほどの集団だけで。


 残るもう半分は先を行く二騎を追い駆けて行ってしまったのだ。慌ててそちらへ追い縋ろうにも、二十数騎を相手にしているだけで手一杯。


 練度は然程では無くとも、人数比では八倍にもなるのだから、そう簡単には抜け出せなかった。


 立ち塞がる騎兵を突き殺し、血路を拓こうとしてもそこをまた別の兵が埋める。それでも強硬に押し通ろうとすれば背後から攻撃が来る。


 これでは動こうにも動く事が出来なかった。


 そのもどかしさをぶつける様に彼は槍を振り回し、敵を次々屠っていく。


 当然、それに比例して傷の数も増え、体力も消耗して周りへと注意を配る余裕も無くなっていた。


 見えるのは、斬るべき敵のみ。


「邪魔だぁぁぁぁぁっ!」


 元々の疲労と傷に更なる蓄積をし、怯え切った敵兵を剣で斬り殺した時、馬上に存在していたのはセンプロニオスだけ。


 後には主を失った馬と、斃れ伏す人馬が死屍累々と言った様相を呈していた。


 当然、その死体の中には自身の部下たる二人も含まれていた訳で、彼らは敵と折り重なるようにして息絶えていた。


 どちらも武器を持つ手は離さず、最期の力を振り絞ったのか、敵兵の死体へと武器を突き立てたままの、壮絶な死に様であった。


 それを荒い呼吸と朦朧とする意識の中で確認して、ほんの少しの黙祷をささげた彼は、馬首を道の先へと向ける。


「急げ……」


 一刻も早く駆け付けねばと、馬の腹を強く蹴って駆け出そうとするが、不意に体が浮遊感に見舞われた。


 何事かと思いながら鐙から足を外して着地してみれば、自身の愛馬が泡を吹いて倒れてしまっていたのだった。


 だが、それに注意を向けている暇など無かった。


「行かなくては……っ!」


 少し前まで持っていた馬上槍は折れてしまって使い物にならない。剣も無理矢理叩き切る使い方をしたせいでボロボロ。


 センプロニオスは死体から使える武器を剥ぎ取ると、疲労困憊しきった体を引き摺りながら、先へと向かっていたのだった。





ここまでお付き合い頂き有り難うございます。

本文に誤字やおかしな点があればどうぞご指摘をよろしくお願いします。

次の更新はまた一章分を一息に投稿するので当分先になってしまうかと思いますが、今後とも本作を読んで頂けると幸いです。

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