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キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第九章 オモイブツカル
210/239

第二話 Starrrrrrr②


◆◇◆



 激しく何かがぶつかる音が、山から町全体にまで響き渡る。


 その音は断続的で、そしてどこか街の人達の不安と注目を煽るもので、自然と街を歩く市民達は音のする方へ視線を向け続けていた。


「……なんだ、何が起こってるんだ?」


「山が爆発したと思ったら、さっきからずっとこの調子だ。けど距離もあるし、山の方に行ってみない事には何が何だか分からなねえな」


「兵士や狩猟者(ウェナトル)は何やってんだか……こういう時こそ出番だろうに」


 ハッティ王国が首都であり、製鉄都市、迷宮都市とも呼ばれるハットゥシャ。


 この都市に住む住人は一万二万ではきかず、当然王国側からみてもその重要度は言うに及ばない。


 だから多くの兵士も詰めているのだが、市内を駆け回る兵士達は何やら騒いでいるだけで一向に音の鳴る方へ向かおうとしなかった。


 勿論、市民もその理由はある程度理解出来る。


 何故なら今も土煙を上げている山が、いきなり爆発したのである。それも町全域に轟く程の規模で、だ。


 そんな所に緊急事態とは言え軽装で突っ込む様な愚を強制する訳にも行かず、さりとて不安が解消されない事に市民達は不満を募らせていく。


「逃げた方が良いのかな……」


「馬鹿言え、都市から出たら妖魎(モンストラ)に遭遇しないとも限らないんだ。ここにいた方がまだ安全だろうよ」


「けどさ、じゃあこの音は何なんだよ?」


「知らねえって。誰かが戦ってるような気もするけど、俺ら別に戦闘経験とかねーし、何の音かも分かる訳ねえだろ」


 時に顔を見合わせ、市民達はそんな遣り取りをしていた――そんな時。





 一際大きな爆発が、山から少し離れた上空で巻き起こる。





 最初の、山を吹き飛ばした爆発よりは数段劣るものだったが、それを差し引いても距離的に近かったのだろう。


 それが市民の不安をより煽り、人々の口から悲鳴が漏れる。


 そして。


 何かが上空から弾丸のように飛来し、数ある建物の内の一つに直撃した。


「うわっ!?」


「何だ、どうしたってんだ!?」


「家が! 俺の家が!?」


 途端に辺りは騒然となり、運悪く、そしてある意味運良くその場に居合わせた家主の悲鳴も狂騒の中に消えていく。


 市民達は怯え、畏れつつも好奇心を刺激されてかすぐには逃げず、何かが飛来して壊れた家を囲う様に距離を取って、何が起こるのかを眺め続けていた。


 すると瓦礫が崩れる音と共に、立ち上がる者が一人。


 その人物は多少ふらつきながらも側頭部を摩り、憎々し気に上空を見上げる。


(いて)ぇ……あの野郎め」


「に、人間? それも子供じゃないか!?」


「大丈夫なのか? ってかどういう事だコレ?」


 人々は飛来して建物を壊した物が人間だった事に驚愕し、そしてその姿形が露わになった事で更に驚倒する。


 しかし片手に短槍を持つ少年は周囲の騒めきなどまるで耳に入っていないかのように、尚も上空を睨み付けていた。


 だが、そんな少年の態度に関わらず、市民達の騒めきは増して行く。


「何であれだけの勢いで落ちて来て、血が流れないんだ……?」


「それだけじゃない。あの子供の髪と眼の色を見てみろ!」


「白と、(あか)? それに肌の色も……!」


「冗談きついぜ。もしかしなくても白儿(エトルスキ)だって言いたいのか? 御伽話の見過ぎだよ」


「けど、他にあの髪や眼の色を説明できる話を、俺達は知らねえぞ? ひょっとして本当に……」


 騒めきは段々と大きくなり、少年の(もと)へと向けられる奇異の視線もその強さを増して行く。


 流石にそこまでくれば少年もそれらに気付かない訳が無いし、無視する訳にも行かなくなったのか、ようやく視線を彼らに向けていた。


 だが、そんな彼が浮かべる表情は面倒事を更に抱え込んでしまった人間のものであり、実際に疲れた様な溜息を漏らしていた。


「参ったな……街? ハットゥシャまでふっ飛ばされたのかよ俺は」


「君、怪我は……?」


「ああ、気にしないで。それよりも早くここから離れた方が良い」


「え?」


「もしかしたら死ぬよ。早く!」


 キョトンとした顔を晒す男性にそれだけ言うと、少年は市民達から視線を外し、そしてその手に持つ武器を構える。


 何かを警戒している様だが、人々はそれが何なのか全く理解出来ず、中には少年の気が狂っているのではないかと思い始める者までいた――その時。


『見ツけたァァァァァ――!』


「そりゃこっちの台詞でもあるんだ。これ以上調子にゃ乗らせねえよ!」


 上空から、(おぞ)ましい悲鳴のような声質が聞こえたかと思えば、更にもう一人がその場に降り立つ。


 だが、それは人の姿を取っているだけで、顔かたちはとても人間とは言い難く、一目見て人外だと分かるだけのものだった。


 そしてその人外は、周囲をぐるりと人間らしからぬ動きで見回した後、耳までぱっくり裂けた大口で、不気味に笑うのだ。


『あれ、こンなニ餌が居る……最高、ダ!』


 たったそれだけの動きでも、市民がその怪物がどれだけ危険なものかを察するのに十分な材料だった。


 ここに至ってこの場に留まる事がどれだけ危険な事かに気付いた人々は、蜘蛛の子を散らす様に逃げ始める。だが、それを怪物は逃がす気など無かったらしく。


『駄目。逃がさ、なイ』


「ひっ!?」


 手頃な位置に居た女性の(もと)まで瞬時に跳躍して彼女の腕を掴み、蛙のような大口を広げ――。


「呑気に捕食行動するなんて、間抜けだな」


『ア?』


 女性が丸のみにされるよりも早く、白髪の少年の拳が怪物の頭部を殴り飛ばしていた。


 それによって拘束から解放された女性は、少年に対して礼も言わず、悲鳴を上げて一目散に逃げていく。


 他の者も似た様なもので、その場に留まった者は一人としておらず、後には少年と殴り飛ばされた怪物だけが残った。


『何、スル……?』


「隙だらけのお前が悪いんだ。悔しかったら俺をどうにかしてみるんだな」


 悲鳴が、まだ辺りに響く。


 恐れ、混乱して逃げ回っている市民達の狂乱が周囲にも伝播(でんぱ)しているのだろうか。


 次第に都市全体が狂騒に包まれていく中、少年は槍を持つ手を一層強く握りしめていたのだった。





◆◇◆





「こんな所で戦わなくちゃいけないのかよ……」


 周囲を見回しても、建物と露店が辺りを埋め尽くし、されど人っ子一人居ない。


 先程、怪物が危険度の片鱗を見せた事で、この場にさっきまでいたハットゥシャの市民達は一斉に逃げ出したのである。


 もっとも、その方が色々と変な気を回さずに済むので有難いが――と思いながら、俺は自分の頭髪を撫でる。


 つい今しがた気付いたのだが、今の自分は白髪を染める染料が落ちている為、地毛の色が惜しみなく日に照らされている状況なのだ。


 当たり前だが、こんな身形(みなり)で人前に出れば白儿(エトルスキ)がどうのと騒がれるのは目に見えている。


 もしかするとこの都市の兵士や貴族は今目の前にいる怪物よりも優先して俺の方の確保に向かって来るかもしれないが……その時はその時である。


 そうなったら早々に怪物との戦闘を放棄して、トンズラをこくしかないだろう。その後で怪物がこの都市内を暴れ回ろうとも、もう知った事ではない。


『お前……許さナい。食ウ。食っテやる』


「……そうなる前に、俺がお前を(たお)す。丁度、今の俺がどこまでやれるのか、試してみたかったのもあるんでね」


 怒りも露わに、そして大口を広げて向かって来る怪物を、迎撃する。


 とは言え基本的に奴の間合いへは入らない。


 近接戦闘では、あの変幻自在の体が何を繰り出してくるのか分からないし、反応が間に合わない事だってあり得るのだ。


 現に今も、人間でいう尾骶骨(びていこつ)の辺りから尾を新たに生やし、攻撃に組み入れて来るのだ。


 どれだけの手練れだろうと人間なら絶対に使って来られない攻撃手段を持っている相手を前に、迂闊な近接戦闘を挑むほど浅慮では生き残れない。


 だから基本的に白弾(テルム)を使った遠中距離からの攻撃が主となる訳だが、それでもこちらがすぐに優位に立てるようになったとは、中々言い難かった。


「魔力の質も、量も……冗談じゃねえぞ!?」


『逃がサない……食べる、お前ヲ、絶対!』


 人間を含む数多の生物をその身に取り込んで来たからか、その能力はあらゆる方面で常人を遥かに凌駕していた。


 異常なまでの堅牢さ、(ようや)く傷を付けても高い自己再生能力がすぐに傷を塞いでしまう。


 それに加えて強大な攻撃力である。遂には知恵までつけて、少し稚拙さはあってもそこには技や駆け引きの意図が見え隠れしていた。


「……けど」


『エ?』


「それだけじゃ俺には勝てない。あの人に比べたら何もかも……!」


 技も駆け引きも、威力も、判断力も、反応も、何もかもがリュウには及ばない。仮に身体能力単体では勝る点があったとしても、彼に比べたら怖くないのだ。


 端的に言って、リュウよりは格落ち。つまりは弱かった。


 厄介さの八割くらいは純粋な能力そのものが担っていて、それ以外は大した問題になり得ないのである。


『ガッ!?』


 こちらが誘えば簡単に釣られ。


『グ!?』


 ()(せん)を取れば、奴は簡単に地面へ叩き付けられる。


『こノ……!』


 こちらを警戒して迂闊に飛び込んでこなくなれば、先制して翻弄し、圧倒する。


 既に場は、こちらの手中にあった。


 どれだけこの怪物の純粋な能力が強かろうと、稚拙な駆け引き能力では時間が経てばそのうち慣れ、先読みされる。その事に気付けないのか、怪物はいきりたち、更に行動は単調で短絡的なものになって行くのだ。


『お前ガ……!』


「戦い方はすぐには身につかない。だからお前じゃ俺に勝てないんだ」


 こう来るだろうから、こうしよう。


 相手が及び腰で仕掛けて来ないのなら、揺さぶりをかけて誘う。構えを崩させる。


 常にこちらは考える側で、場を掌握して、相手を後手に。


 相手に考えさせ、対応させる側に回し続ければ、碌な反撃が飛んで来る事も無かった。


 よって、恐れる事も無かった。


 だが、この一見絶対的優位に見える状況下でも、勝ちを確信するにはまだ早い。未だ、怪物の傷が治る速度は一向に衰えが見えないのである。


 このまま消耗が続けば、流石に魔力もこちらが先に尽きてしまうし、それは体力や集中力も同様だった。


 そして更に言えば、この状況で更に悪い事が重ねて起こる。


「……――、―――! ――ッ!」


「何だ……ッ!?」


 不意に聞こえて来たのは、理解出来ない言語。恐らくは剛儿語(ネシリ)と思しきものを耳にして、思わず一瞬だけ視線をそちらに向ければ、目を剥かずにはいられなかった。


 何故なら、不意に俺目掛けて十本ほどの矢が飛来して来たのだから。


「こいつは……おい、何の真似だ!?」


白儿(エトルスキ)、大人しく投降しろ! お前は包囲されている!」


「馬鹿言え、こんな状況で投降できるか! 大体、この怪物はどうするんだ!?」


 通訳と思しき兵士の一人が共通語(マグナ・リングア)で降伏勧告を居丈高(いたけだか)に行ってくれるが、当然そんなものを受け入れる訳にはいかない。


 不安定とは言え怪物相手に手に入れた優位を崩さない為にも、手を休める訳には絶対行かなかったのだ――が。


 通訳の兵士は、嘲笑を浮かべて言っていた。


「心配は無用だ。残りはこちらで引き受ける、とシュッピルリウマ様は(おっしゃ)っている。我らで叩けば、そこの得体の知れないヤツなど……」


「そんな生半可な奴じゃねえよ! お前ら、そんな事言ってるとホントに死ぬぞ!?」


「自分が助かりたいからとゴチャゴチャ御託(ごたく)を並べるな。ま、大人しく従わぬのなら仕方ない。素材が取れれば生死は問わぬとの(おお)せなのでな……」


「ああそうかよ。馬鹿馬鹿しい。後はテメエらで何とかしやがれ!」


 状況も理解せず、挙句傲慢で勝手な理由で攻撃を受けては堪ったものではない。


 もう相手にするのも馬鹿しくて、この場に怪物を置いて逃げようと思った、が。


『逃がさなィ……食う、オ前は食うンだ!』


「冗談じゃねえ!?」


 散々良い様にしてきたせいか、怪物は完全にこちらをロックオンしてしまい、簡単に離脱が出来そうにないのだ。


 そしてその上で迫って来るのが、ハットゥシャの兵士だ。いや、先程の通訳の話には王国の話では無く、個人の名が出ていた。


 だとすれば、ここにいる者達は貴族かそれに準ずる身分に居る者の私兵である可能性もあった。もっとも、王国兵であれ私兵であれ面倒な事に変わりはない。


「やっぱりとっとと逃げるべきだったか……」


 ここですぐに逃げたら市民に被害が及ぶ可能性を考えて、その情に引き摺られて残ってしまったが、結果的に判断ミスだったと言えるかもしれない。


 少なくとも俺は、こちらを攻撃してくる奴を守ってやろうと思える程、お人好しでは無いのだから。


 繰り出される怪物からの魔法攻撃と、兵士達からの弓による斉射。しかしその軌道を見切るのはそれほど難しいものでは無くて、建物なども利用して防ぎ掻い潜る。


「いつまで逃げるつもりだ、早く投降したらどうかね?」


「出来る訳ねえって言ってるだろうが! お前らいい加減にしやがれ!」


 出来る事なら、鬱陶しい兵士連中を真っ先に掃討してしまいたいが、生憎怪物がそれを邪魔する。


 先程までの優位はもう欠片もなくなっていて、とにかく防戦と回避に徹する以外にどうする事も出来なくなっていたのである。


 隙を見て一気に離脱を図ろうとしても、それをさせじと怪物が先回りを掛け、大口を開く。それを寸前のところで躱し、反撃に徹しようにも飛来する矢が邪魔をする。


 彼らにすれば連携している気など毛頭ないのだろうが、大した連携だと声を大にして皮肉ってやりたい気分だった。


 おまけに、だ。


 こうして戦闘が続けば続くだけ辺りの建築物は倒壊していき、身を隠せる場所は減って行くし、攻撃一つ回避するにも手間が増す。状況は悪化の一途を辿り、更にこうして激しい音が続いていれば目印としてもこの上ない役割を果たすもので。


「……増援? 来ない訳ないとは思ってたけど!」


 最初に駆け付けた部隊とは所属も違うのだろう。掲げている旗に違いが見られ、且つ両部隊はどこか険悪な空気を放っていた。


 もしかしたらこちらを助けてくれるかもしれないと仄かな期待を抱きかけたが、彼らも先の部隊と競う様に俺目掛けて矢を射かけて来るのだった。


 更に言えば魔法攻撃も加わっていて、戦況は完全にこちら一人に対して圧倒的多数が仕掛けて来ているという不本意極まりないものになっていた。


 泣きっ面に八と言っても過言ではない状況に、思わず舌打ちが漏れると言うものである。


「コイツら……纏めてふっ飛ばしてやろうか!?」


『出来ルの、今のお前ニ?』


「うっせえ! お前の好きな餌ならあっちに沢山あるんだぞ!?」


 そう言って向こうに展開する兵士らを指してやるが、怪物の反応は芳しくない。相も変わらず俺だけを狙って攻撃を仕掛けてくるのである。


 だが、そんな中で不意に、射かけられていた矢や魔法攻撃が止む。


 不審に思わずにはいられないし、それどころか警戒心も掻き立てられるが、目の前の怪物に反撃するのに、この隙を逃す訳にはいかなかった。


「調子乗ってんじゃねえぞ、このバケモノがッ!」


『――――ッ!?』


 身体強化術(フォルティオル)を施した右拳で、それの顔面を思い切り殴り飛ばす。


 その一撃は、殴った後で思わず感嘆の声が漏れるくらいには会心の一撃で、実際に殴られた怪物は勢いよく吹き飛ばされるのだった。


「まだだ、このまま一気に……ッ!?」


 流れが引き戻せている感覚を強く確信して笑みが漏れた、その直後。


 居並ぶ建物を突き破り、何かが迫る。


 それを感じ取って即座にその方向へ目を向けた瞬間。



 ――岩魔法による攻撃が、俺を襲った。




◆◇◆




「……ふ、はははははは! どうだ、私の魔法は!?」


「はい、流石はシュッピルリウマ様でございます。恐らく今の一撃で、あの白儿(エトルスキ)も怪物も倒れた事かと」


「そうだろう? そう思うだろう?」


 派手に倒壊した建物群を前に、恰幅の良い体を震わせて中年の男は呵々大笑していた。


 彼の名はシュッピルリウマ。ハッティ王国にてそれ相応の権力を誇る貴族の一人であり、王に対しても小さくない影響力を持っている存在だ。


 そんな彼は、自身が魔法を行使した事で壊れた建物に対して何の配慮を見せる事も無かった。しかしそこへ水を差す様に、神経質そうな声が割って入る。


「これはシュッピルリウマ殿、このように強力な魔法を街で使うなど、何をお考えか!?」


「おやおや、アシュムニカル殿か。強力も何も、敵は白儿(エトルスキ)と正体不明の怪物です。このくらいの攻撃をしても何ら問題はありますまい? それとも、私ほど強力な魔法を使えないからと言って(ひが)んでいるので?」


「……!」


 睨みあう両者は、それぞれに兵士――私兵を連れていて、見るからに仲は険悪そのものと言った様子であった。


 だが、それでも流石にこの場で同士討ち染みた真似をする訳にはいかないと分かっているからか、それ以上の事に発展する様子は見られない。


 先に睨み合いから視線を外したシュッピルリウマは、己の手柄を誇示するように笑い出すのだ。


「さて、これで今回の件については私の大手柄と言ったところでしょうかね。王都を襲撃した白儿(エトルスキ)と怪物を自発的に討伐したのです。これが軽い功績と見做される筈もない」


「…………」


「悔しいですかな? 羨ましいですかな? ですがこれは私の手柄。譲る訳にはいきませんなぁ……」


 挑発するように、そして誇示するように言葉を続けるシュッピルリウマに対し、アシュムニカルはその拳を白くなるほど強く握りしめていた。


 しかしそんな時、不意に瓦礫の向こうで音がする。


 それを聞きつけ、そちらへ素早く視線を向けたアシュムニカルは、途端に笑みを浮かべるのだ。


「これは……どうやら、貴方の手柄とするにはまだ早かったみたいですね?」


「……ふん、どうせ死に掛けです。私の魔法を食らって無事でいられる筈はない」


 先程までとは打って変わって不機嫌そうに鼻を鳴らすシュッピルリウマは、腹立たしさを前面位押し出しながら、瓦礫の向こうを睨み付けていた。


 何故ならそこには、短槍を握った白髪紅眼の少年が立っていたのだから。


 彼は先程の攻撃で傷を負ったのか、頭から血を流しており、それを手で触れて確認して顔を(しか)めていた。


 しかし、ふらついた様子も何ら大怪我を負った様子も見られず、彼は徐に視線を二人の方へ向け返すのである。


 そして少年は何かを言っているらしいが、生粋の剛儿(ドウェルグ)であり貴族であるシュッピルリウマとアシュムニカルは、共通語(マグナ・リングア)を理解する事が出来ない。


「何か言っている様だが……」


「そんなものは関係ありますまい。それよりも割と元気な様子。まだ貴方が捕縛したと主張するにはまだ無理がありそうですね?」


「……言ってろ、すぐに私があの者を捕らえて見せる」


 自分達が敗けるとは微塵も思っていない。


 そんな考えが透けて見える、余裕綽々と言った様子で、彼らは最近噂の白儿(エトルスキ)を捕えにかかるのだった。





◆◇◆





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