第一話 The Way Back③
◆◇◆
「良い流れになったな。つーかなんだあの別嬪な精霊は? 馬鹿みてえに強いじゃねえか」
「そんなの味方である事には変わりないんだし、全部終わってから聞けば良いだろ」
「それもそうだけどよー、やっぱ気になるじゃん?」
「良いから後にしろ!」
緊張感の欠片もない態度で次々と妖魎を屠って行く后羿に辟易としながら、俺は魔法を放つ。
特にどこを狙ったと言うものでも無かったけれど、密集している妖魎の群れはそれを避ける事が出来ず、幾つかの個体が派手に吹き飛ばされる。
しかしその数は、ほんの少し前に比べて明らかに影を減らしていて、戦局が一気にこちら優位に傾いた事を物語っている様だった。
その原因の一つである精霊の一柱が偶々近くにやって来たのを見て取った俺は、手を休めず話しかける。
「確か……ユースティティアさんとか呼ばれてましたよね。感謝しますよ。メルクリウスさん達の仲間なんでしょう?」
「まあ、貴様ら人間から見ればそうだろうな。もっとも、我らはユノー様の仲間というのが正しいが」
「少なくともこの状況下で敵ではないのなら十分です。すぐに御礼できるものがないというのは残念ですが」
「案ずるな。人間に見返りを求める程、我々は落ちぶれてはおらなんだ。それにこれは本来、我ら精霊達の間で解決すべき事。関係のない種族を巻き込んでしまって申し訳ないと思うのはこちらの方だぞ」
そう語るユースティティアの声色は、実際にその事を気に病んでいる様だった。
しかし、先程サトゥルヌスから話を聞いた限りでは、どうも人間とて全く無関係ではない気がしてならない。
確かに巻き込まれた側と言えなくもないけれど、巻き込んだ側とも言えなくはないのである。
「ま、ここで責任の所在について話し合っても仕方ないんで、皆さん頼りにさせて貰いますよ。俺もいい加減消耗が激しくて……」
「ああ、任せて置け。……リベラ、フォルトゥーナ、スアデラ! このまま一気に畳みかけるぞ!」
『おう!』
全員、その姿も声も女性そのものなのだか、飛ばされる指示も応答も、攻撃の態度まで剛毅な気性が見て取れて、その勇猛果敢さにはどんな戦闘民族も顔を引き攣らせるだろうと思わずにはいられない。
実際、すぐ近くで戦っているスヴェンも派手に吹き飛ばされる妖魎を目の当たりにして、明らかに引いた顔をしている。
「巻き込まれやしないか冷や冷やするんだけど……」
「うん、否定は出来ない」
こちらへ逃げる様に駆け寄って来たスヴェンが戦々恐々としているのも無理はない。先程、彼の鼻先を味方である筈の精霊が放った魔法が通り抜けたのだから。
もし直撃して居たらスヴェンの頭部は跡形も無く吹っ飛んでいた事だろう。
「ああ、済まない。危うく殺してしまう所だったな。気を付けよう」
「軽くない……?」
「止めとけ、多分言うだけ無駄だ」
危ない目に遭って、その犯人に対して怒ってやろうという気も沸かないらしいスヴェンの怯えた心を宥めながら、改めて周囲を見渡す。
やはり、先程よりも敵はその数を大きく減らしており、無限に湧き出て来るみたいにいた妖魎はその出現がいよいよ打ち止めになったらしい。
自由に動ける場所が段々と増え始め、同時に踏みつける肉塊の数も増して行く。
このまま押し切れるのは時間の問題と、その確信をより一層強く持つ――その時だった。
「……っ!?」
「くそ、地震? こんなタイミングで」
「……いや、音がおかしい。下手すりゃそれより悪い可能性もあるぞ」
危うくバランスを崩して転倒しかける中、足元に視線を落とした后羿が妖魎の一体にとどめを刺しながら顔を顰めた瞬間。
『――――ッ!!』
地面を突き破り飛び出したのは、四足歩行の巨大な生命体。
それが一体何に分類できるかは分からないけれど、はっきり言ってそれは異形以外の何物でも無かった。
「何だこりゃ!?」
「うわ……」
「これはまた悪趣味な……」
后羿ですら嫌悪感を隠そうともしない表情を露わにするのも無理は無いだろう。
何故ならそれは、体の各所に人間の体――その一部が、不自然に生えていたのだから。
しかもそれらはまるで別個の意思を持つかのようにバラバラに動き、顔があるものは何かを喚き立てているのである。
もっとも、それが意味のあるものなのかは騒音の中にあってハッキリと聞き取る事は出来そうになかった。
「記念すべき、俺の実験体百号だ。一つの生命体の中に複数の命を取り込ませる事に成功した、稀有な結果を示してくれたんだぜー?」
「これ……お前がやったのか?」
「そう言う事―。迷宮って別に頼んでも無いのに狩猟者とかが勇んで飛び込んで来るだろ? 材料の調達には事欠かねえんだよねー」
「……最近の行方不明者続出は、やっぱお前らの仕業って訳か」
エピダウロス、と言った名前を持つ小柄な男は、己が持つ貴重なものを見せびらかす様な調子だった。
そこに良心の呵責などと言うものは一切見られなくて、面識もない筈の被害者の事を思うと何故か怒りが湧いて来る。
やはりそれは、どこまでも命を軽視する連中の事が許せないからだろう。かつて自分自身が、似た様に殺されたから。
そして今も、白儿として人格や生きると言う事すら否定されて来たからか。
今でこそ受け入れてくれる仲間は居るけれど、だからといってこれまでに受けて来た仕打ち、見て来た物がなかったことになる訳では無いのである。
「お前ら、そろそろいい加減にしろよ……!」
「何、怒ってんのー? そもそも、ここは迷宮。死ぬも生きるも自己責任だし、それを認識した上でここに潜って来てる連中に、配慮する事なんてないだろ?」
「自殺目的でここに入る奴なんて殆どいない筈だ。生きる為に、その金を稼ぐ為に、危険を承知でここに入ってるのが大多数だっての」
だと言うのに、神饗は勝手な理屈で人を材料扱いして、現にこうして尊厳も何もかもを踏み躙る様な真似をして、すっとぼけた顔をしている。
その事が、どうしようもなく俺の神経を逆撫でしていた。
「そんな強く睨むなよー。捕まる奴が悪いんだ。旅に出るのだってそう。夜盗に遭遇したりするのも旅に出るのが悪い。自分の身は自分で守れなきゃ、この世界は生き抜けないんだぞー?」
「それは自分らにとって都合がいい話だからだろ。勝手な理屈を捏ね繰り回してさも自分が正しいとか気取ってんじゃねえ!」
「おやおや、受け入れては貰えないかー。残念。でも君らが幾らそう言おうとも、既に賽は投げられた。俺がコイツを作り、そして今解き放たれたんだ。そんじゃ、巻き込まれない様に俺はこの辺で失礼するぜー」
「……お前ッ!」
気付けば、エピダウロスだけではなく多くの神饗構成員がこの場から姿を消していた。
それは先程までレメディア達が戦っていたエクバソスやペイラスも例外では無くて、残っているのは多くの妖魎とサトゥルヌス、オルクスとアウローラだけだった。
その中で、ユノーは声を荒げる。
「貴様……あの悍ましい怪物は何だ!? 一体何をした!?」
「実験の産物だよ。私が神になる上で必要な素材である魂とは、本質的に一体どのような存在なのか。そして実験を担当したエピダウロス自身がそう言う研究結果を欲していたのでね」
「禁忌にも等しいものに、貴様らは触れたんだぞ!? それを分かっているのか?」
一目見ただけも分かるくらいには、四足歩行の異形は強烈な存在感と狂暴性を秘めている様だった。
それを瞬時に察しているからか、先程までサトゥルヌスと激しく攻撃を撃ち合っていたユノーですら、強い怒りを抱えながらも怪物に対する警戒を怠っていないらしかった。
しかしサトゥルヌスは彼女からの糾弾を柳に風と受け流しながら、笑っていた。
「だから何だというのだね? 私はこの迷宮の侵入者を捕らえていたに過ぎない。そうやって捕らえた者をどうしようが我らの勝手だろう?」
「迷宮を占有? ……もしや貴様ら、ここの核に小細工でもして、基地のように運用していたと言うのか?」
「基地のように、ではない。基地だ。全く、貴様らには困ったものだよ。勝手に人の場所を荒らしてくれて」
「勝手に荒らすも何も、迷宮はそもそも人間たちにとって公共財にも等しい。それを勝手に私物化したんだろう? 自分本位も大概にしたらどうだ?」
噴き出そうになる憤怒を堪える様なユノーの態度に、ここに至ってサトゥルヌスの表情にようやく反応が出る。
しかしそれは口煩い身内に辟易としたようなもので、やはり反省や思うところがあるという訳では無いらしかった。
「……さて、私達はここで失礼しよう。貴様らにいつまでも感けて居られるほど暇ではないのでね」
「逃がすかと言った……!」
「結構。だが、私の相手をしながらそれを相手にするのは、幾ら貴様とは言え厳しいのではないかね?」
余裕たっぷりにサトゥルヌスが言い放った言葉から間髪入れず、先程地中から飛び出して来た異形は動き出す。
それは、聞くに堪えない幾つもの悲鳴を咆哮の様に上げながら、だ。
「来る! 身構えて!」
「身構えるって言っても……!」
リュウが即座に俺達へ向けて警告を飛ばしてくるけれど、迷宮という閉じ切られた空間の中では逃げる場所も限られている。
かと言って、目の前にいる巨大な異形と対峙してその場に留まっているだけでは、間違いなく死ぬ。
取り敢えず限られた時間の中で出来るだけ多くの魔力を使った盾を生成して、そこに仲間共々身を隠す――が。
『――――』
凄まじい、衝撃。
気まぐれに伸ばされた異形の前脚が偶々(たまたま)、俺の展開した魔力盾に少しだけ触れたのである。ただそれだけで、盾の維持にかかる魔力消費が増大し、背を嫌な汗がなぞった。
では、果たして異形の伸ばした前脚の先にあったものはと言えば、それは妖魎たちだった。
異形が伸ばした前脚は、蜥蜴の様な爪と人の様な指を備えていて、それでもって無数のそれらを鷲掴みにしていたのである。
「何をする気なんだ……?」
「おい見ろ、ラウ」
「……っ!」
為す術など有る筈もなく、誰もが呆然として事の成り行きを見守っていると、その異形は掴んだ妖魎たちを広げた自身の大口へ運び、そして捕食した。
ボリボリという耳障りな音がその蛙のような口から聞こえ、異形の口の中をほんの少し想像して自分の顔が引き攣るのが分かった。
「何つー化けモンだよ。ヤバすぎるなんてもんじゃ無いぞ」
「こんなの、迷宮の外に出してみろ。下手すれば都市単位で滅びかねない」
「神饗め……随分な置き土産を残してくれたものだな」
巨大な、余りにも巨大なその異形を前にして、歴戦の精霊達ですら気が抜けないと判断したのか、各々身構えている。
だが、その足元は徐々にだが距離を取ろうとしている様で、それだけでもこの異形の危険度が窺い知れると言うものだった。
「ユノー、悪いけどサトゥルヌスよりこっちを優先して手伝って欲しい。何としてでも、外に出られる前にここで仕留めたい」
「いいや、許可できない」
「何故? また変な理屈でも取り出すつもりか?」
提案を拒否され、煩わしそうな表情を露骨に向けるマルスに対し、彼女は一度首を横に振って理由を説明する。
「そうではない。この場で戦ってみろ、幾ら頑丈な迷宮最下層とは言え、崩落は免れない。こうなっては一度、外に出してそこで仕留めるしかあるまい」
「……なるほど。ここには人も居る以上、そうせざるを得ないか。分かった、それで行こう」
「僕も援護します。外には出しても、街には行かせる訳にはいきませんしね」
マルスがユノーの説明に納得した事に続き、リュウもそこに反対する事は無く、助力を申し出る。
そうなれば当然俺達も彼らと一緒になって戦う事になるが、俺達がそれに異を唱える事は無かった。
これ以上被害を増やす訳にはいかないと、誰もが分かっていたのだから。
しかしそんな流れの中で、一人だけがそこに与する事は無かった。
「悪いけど、俺はそれに協力できそうにない」
「……シャリクシュ?」
「まだイッシュが見つかってない。俺はもう少しここに残ってアイツを探す。邪魔をする気は無いから、皆はそっちに行っててくれ」
他の事には目もくれず、異形は只管この場にいる妖魎たちを貪り食っている中、剛儿の少年――シャリクシュは銃の手入れをしつつ言っていた。
その黒目に滲む意志は固く、そこだけは頑として譲らないという決意を覗かせていて。
それを見て取ったリュウは口端を緩めると、特に彼を睨み付けるというような事も無く、言う。
「……分かった、僕としては君に反対する理由は無いかな。けど、もしかしたらイシュタパリヤ君も、あの中にいるかもしれない」
「承知しています。でも、神饗の連中はイッシュを前々から狙ってた。なのにそれを、易々実験材料として実験体に用いるとは思えない。何か他に、利用価値があるみたいな気がしてならなくて」
「ま、あの子の能力って千里眼だもんね。確かにあの巨大な生物にそれを取り込ませても、上手く活かせるとは思えないし」
未だ、異形は貪食を止めずに逃げ回る妖魎たちを捕まえては口へと放り込んでいく。
幾らかは逃げ延びられている様だけれど、大多数は今頃、異形の腹の中に納まってしまっている事だろう。
一体どれだけ貪れば気が済むのかと思わなくもないけれど、一心不乱に捕食するその姿は、少なくとも理性があるとは思えなかった。
だけど、そんな時間がいつまでも続く筈はなくて、異形が他の事へ意識を向ける前にと、シャリクシュは銃を担いで立ち上がる。
「じゃ、俺はここで失礼。皆も無事でいる事を祈ってるよ」
「待て、ならそれには儂も同行しよう。剛儿の誼でな」
「……あなたは」
今にもこの場を離れようとするシャリクシュに対して引き留めたのは、筋肉質でずんぐりとした体を持つ、髭面の精霊。
その浅黒い肌を持つ堀の深い顔にはどこか親し気な笑みが浮かべられていて、彼はシャリクシュに向けて手を差し出していた。
「ウルカヌスだ。お前は見たところ、余り近接戦闘は特では無かろう? 盾役は儂に任せて置け。良いだろ、マルス?」
「……仕方ない、イシュタパリヤが攫われた際、俺達は何もしてやることが出来なかったんだ。それくらいはしてやらないとな」
「うむ、では行こうか。ココは最深部。恐らくそう遠くない所に連中の拠点だった場所はある筈だ。まだ逃げ遅れた神饗の者が居ないとも限らん。気を抜くな」
「分かってるよ」
元々が同じ儿種と言う事もあってか、両者の仲は比較的簡単に詰まり易いものだったらしい。
さしたる衝突の気配も見せず、彼ら二人は先程異形の生物が開けたばかりの大穴に飛び込んでいた。
その様子を、止める間もなく見ている事しか出来なかった俺達は暫し呆然としていたが、メルクリウスが頭を抱えながら溜息を吐く。
「無警戒かつ大胆な事を……」
「まあ、ウルカヌスが居るなら大丈夫だ。サトゥルヌス達も今頃撤退しているとなれば、仮に残存勢力が居ても問題ないさ」
「そうだけども……ま、もう良いや」
ここでこれ以上心配するだけ無用と見切りをつけたか、メルクリウスは溜息を吐くのを止めた。
他の者もそれと時を同じくして意識を切り替え、異形の怪物の方へと視線を向ける。
一方、その視線を感じ取ったのか、はたまた手頃な場所に居た妖魎たちを全て食べ終えて手持無沙汰になったのか、怪物もまたこちらを視認する。
その頭部にあるのは、二対の眼。
合わせて四つのそれはそれぞれ瞳の色が異なり、その上バラバラに動いていた。
顔面そのものは凹凸が少なく、蛙のものの様な印象を受けるけれど、その表面は両生類とは違って湿ってはいない。
さりとて鱗が生えている訳でも無く、見た目的に色はともかく肌触りだけは人間のものと似ているだろうか。
体色は部位によってまちまちで、場所によっては色が目まぐるしく変化すらしていて、一体体内でどのような反応が起きているのか皆目見当もつかない。
とにかく、見ているだけでその異常さが際立って、気分が悪くなるようなものだった。
「サトゥルヌス程、強力では無いが……あの巨体ではまた違う厄介さがある。消耗している者は一旦下がれ。比較的元気な者だけで引き付け、外へ誘導しつつ様子を見る。無理はするなよ」
「了解。ディアナ、容易にこの辺が崩落しないよう、魔法で木の根を張り巡らせておいてくれ」
「……良いだろう。だがこの辺一帯となると、少し骨が折れるな。ミネルワも手伝え」
「やむを得んか、承知した。その代わりそっちはちゃんと安全に、あの怪物を外まで誘導するんだぞ」
「言われなくてもやるさ。折角ユノーまで呼んだんだ、こんな所で不覚は晒せない」
そう言って不敵に笑うのは、マルス。
彼も先程までサトゥルヌスと交戦していて相応に消耗しているものかと思ったのだが、意外にもそうではないらしい。
精霊の底知れなさに感心と畏怖を抱きつつ彼らの遣り取りを眺めて居ると、不意にユノーの視線が俺に向けられる。
「おい、そこの小僧」
「……な、何です?」
「そんな畏まるな。ユピテルやメルクリウス、マルスだけでなく、サトゥルヌスまで注目する人間の子供がどの様な奴か、多少なり興味があったのでな」
「は、はぁ……」
そう言われても、いまいち判然としなくて、どうしたものかと考えると返事以外の事が出来ない。
そうして反応に窮していると、不意に彼女は微笑んで言った。
「白儿の身でありながら、お前はこの世界を憎んではいないようだな。……面白い、この戦いが終わったらお前の話を私に聞かせろ」
「え? ま、まぁ良いですけど……」
「決まりだ。ではそうと決まったら、目の前の問題は早々に片付けねば行かんな」
そう言って再び視線を怪物へ戻すユノーの背中は、どうしてかとても頼もしく見える。
勿論それは他の精霊達も同様で、一分の隙も油断も見えない張り詰めた空気の中、彼らは怪物と睨み合うのである。
「……やるぞ。まずは崩落を起こさない程度に加減を怠るなよ。特にユピテル! お前馬鹿だからな」
「や、喧しい! 久し振りに会ったのに正面切って馬鹿呼ばわりするんじゃねえ! ……ここにいる人の命も掛かってるんだ、もうこの前みたいなヘマはしねえさ」
ユノーとユピテルとの間で交わされる、どこか気心の知れたその遣り取りに、精霊達の間でほんの僅かばかりの笑いが巻き起こる。
それによって張り詰め過ぎて切れそうにすらなっていた緊張の糸が適度に緩み、それを目撃していた俺達も肩から余計な力が抜けていく。
そして時を同じくして、異形の怪物も動いていた。
『――――!』
準備は、覚悟は良いか?
まるでそう告げる様に、俺達と対峙する怪物は耳障りな咆哮を上げていたのだった。
◆◇◆
 




