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キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第九章 オモイブツカル
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第一話 The Way Back①



 仄暗(ほのぐら)く光る結晶がこの場のあちこちに生え、洞窟――迷宮(ラビュリントゥス)の中を照らす。


 だけどそこは穏やかなその光とは対照的に、激しい魔法攻撃が飛び交い、そして妖魎(モンストラ)の断末魔の悲鳴が間断なく響き渡る場所となってしまっていた。


「…………」


 戦いは、まだ終わらない。


 先程まで戦っていた二人の敵は物言わぬ亡骸となり、それらに一瞥をくれた後、俺とシグは周囲に視線を向ける。


 そこでは全く衰える気配のない妖魎(モンストラ)の奔流が精霊達を、そして仲間達を飲み込まんと襲い掛かり続けていたのだ。


「遅いぞ、ラウ!」


「悪い、手間取った! 援護する!」


「私も手伝う。レメディア、どこを相手にすれば良い?」


「じゃあ、こっち! そこは任せたよ!」


 幸いにして、妖魎(モンストラ)はその一体一体がそこまで強い個体ではないし、それに加えて味方の精霊達は文字通り人外の強さを発揮している。


 終わりが見えないとは言え、まだまだ当分戦力に余裕があると見ても問題なさそうだった。


(コウ)! リュウさん達はどうなってる?」


「安心しろ、まだまだ健在だ。とは言え、相手が相手だから……いつまでも安心しろとは言えねえな」


 俺の問いに、精悍な顔立ちの青年の姿をした精霊――后羿(コウゲイ)は矢を(つが)えながらそう言っていた。


 直後にその彼が放った矢はたった一射で妖魎(モンストラ)の命を奪い取ったらしく、眉間を射抜かれたそれは呆気なく脱力して地面に伏すのだった。


「ラウ、あの死体を吹っ飛ばしてくれ。さもないと……」


「分かったよ。ま、言ってる傍から動いてるけど」


 呆れ混じりに視線を向けた先には、先程后が仕留めたばかりの妖魎(モンストラ)の死体が独りでに、そして幽鬼の様に動き始めていて、それはさながらゾンビみたいであった。


 そして実際、それは俗にいうアンデットの様なものである。


「タナトス改めオルクスとか言ったっけ? ……厄介な魔法だよ、ホントに!」


「全くだ。俺みたいな奴とじゃ相性が悪過ぎる」


 動く屍と化した妖魎(モンストラ)の死体を白弾(テルム)で吹き飛ばしながら、俺は(コウ)共々呆れの溜息を漏らす。


 だがそれもほんの僅かな瞬間の事で、次の瞬間には新たな妖魎(モンストラ)を標的にして交戦を再開する――が。


「……ッ!?」


「何だ!?」


 不意に迷宮(ラビュリントゥス)全体を駆け巡る揺れが発生した事で、注意を他の場所へと向けざるを得なくなってしまうのだった。


 何故ならその衝撃の震源地では、今まさに――。


「リュウさん!?」


「……おいおい、ヤバいんじゃねえかコレ」


 圧倒的な猛者である筈の精霊達が、紙吹雪のように吹き飛ばされている姿が目に映る。


 ユピテルも、マルスも、誰も彼も後退して体勢を立て直す事を余儀なくされていた。


 彼ら一柱(ひとはしら)一柱はそのどれもが常人を、そして俺すらも遥かに凌ぐ実力の持ち主であると知っているだけに、その光景は酷く非現実的で、受け入れがたいものだった。


 勿論、まだ誰も脱落しそうな様子は見られないけれど、だからといってそれはとても優勢とは言い難い。


 実際、その事を強調するように、彼らを吹き飛ばした張本人――サトゥルヌスは、高笑いをしていた。


「情けないな、所詮は人に与する軟弱な精霊連中と、元は人間の精霊達だったと言う事かね。……ああ、一つ半端者も混じっていたな? 失礼」


「……随分と得意気だね。君が努力した訳でも無い、他者から強引に奪った力を振り(かざ)すのがそんなに楽しいのかい?」


 多少侮蔑の色を含んだ視線をサトゥルヌスから向けられたリュウは、しかし顔面の鼻から上を覆う仮面のせいで表情の程は窺えない。


 だがそれでも十二分な嫌悪感を声に乗せて反論してみれば、サトゥルヌスは口端を緩めながら言っていた。


「楽しいさ。こうして今実際に貴様らを蠅でも払う様に吹き飛ばしたのだ。これを人間相手に使えたらと思うと今からでも気が(たかぶ)って仕方ない」


「悪趣味な……!」


「それは貴様らの方だろう? 何を未だに人間の味方をする? 貴様らは一体どうしてそこまで人を守ろうとする? 私にはそちらの(こだわ)りの方が全く理解出来ないのだがね」


 サトゥルヌスはそれが心底理解出来ないと言った様子で、そして己に楯突いた者を嘲笑う様に、彼はこちらを睥睨する。


 金髪金眼をした精悍な青年の姿で、逞しい体つきが衣服の上からでも容易に想像がつくその出で立ち。


 右手には巨大な鎌を持ち、全てにおいて最上位者であるかのようなその振舞いは、まるで自分が神であるとでも言いたげなものだった。


「やはりどこまで行っても情けないのだな、貴様らは?」


「んだとサトゥルヌス!? テメエ、いつからそんな傲慢野郎に成り下がりやがった!? お前はそんな奴じゃ無かった筈だ!」


「そうだな、確かに千年前はそうだった。だが、貴様が呑気に封印されている間に、私がどれだけ人間どもの愚かで醜い行いを目の当たりにして来たと思う?」


 どこまでも他者を馬鹿にした様な態度が許せないのか、精霊の一柱――ユピテルが声を荒げても、立て板に水。


 全くサトゥルヌスの心には何も響いていないらしく、彼は軽く鼻を鳴らすと話を続けていた。


「逆に問おう。何故貴様らはそちら側(・・・・)にいる? この中に人間によって辛酸を舐めさせられた者がどれだけ居るか、私は知っているぞ。なあ、マルス? ……いや、この場合はラランとでも言った方が良いかね?」


「……確かにその通りだが、それはもう千年昔の事だ。少なくとも、今を生きる人間はそんな事など碌に覚えても居ない。今更それを彼らに言ったところでどうすると言うんだ?」


「随分と諦めの良い事を言うのだね。綺麗ごととも言うか。なら千年前、身勝手な理由で滅ぼされた貴様らの民族は、あの時の人間どもに何か悪い事でもしたかな?」


「…………」


 そのサトゥルヌスの問い掛けに、マルスだけでなく幾つかの精霊達が視線を下げる。


 中には拳を握り締め、或いは歯を噛み締める者も居て、彼らの心に何かしらの無念が燻ぶっている事を如実に表していた。


 その様子を見て彼は益々勢いを得たらしく、更に話を続ける。


「あの時、千年前の貴様らは何も悪くはなかった。ただそこに住み、生活し、周囲の民族と協調して生きていたからな。私も知っているぞ、実際に見ていたからな」


「…………」


「何も悪い事などしていないのに、理不尽な理由と言い掛かりでいきなり街を焼かれ、友や家族を踏み躙られ、殺され、奪われ、失い……そうやって繁栄を享受している者共に、何も思わない筈がなかろう? 君とてその仲間なのだぞ、ラウレウス?」


「藪から棒に、何で俺へ話を振る?」


 いきなり水を向けられて面食らいながらも、それでも平静を装って俺はサトゥルヌスを睨み付ける。


 それに加えて、今問い返した通り彼の意図が読めなかった。


 さっきまで話していたのはマルスら精霊の筈で、そこで俺が関係してくる理由が、繋がりがはっきりとしないのだから当然だろう。


 すると、彼はその疑問を当然のものと最初から理解していたのか、鷹揚(おうよう)に一度頷くとマルスと俺へ交互に目を向ける。


「何だ。結局、君はマルス達から話を聞かされていないのか。……全く、横着でもしたのか貴様らは?」


「話す理由がないと思っただけだ。大体、こんな話をこの少年に聞かせて何になるって言うんだい?」


「笑止。そんな事だから悲劇が繰り返されるのだよ。獣とは違い、人間は教訓を本能単位で覚える事は出来ないのだからな」


「お前、さっきからマルスさんと何の話を……!?」


「まあまあ、そう()くな。今から話してやるさ」


 まるでこの場は、たった一人の俳優(サトゥルヌス)が演技を行う劇場の様だった。


 誰もが戦う事を止めてサトゥルヌスを直視しており、妖魎(モンストラ)たちは不自然にも物音一つ立てずにその場に留まっている。


 たった一人の俳優と、それ以外の観客。


 彼の語る言葉が、その続きを楽しみにしているかのように、誰も彼も黙ってその続きを待っていた。そして、その期待に応える様にサトゥルヌス話始める。


「君は、この場に居る精霊の幾らかが元は人間であるという話は知っているのだろう?」


「……まあ、それは」


「なら、彼らがかつてどの様な民族だったか、考えた事はあるかね?」


「いや、別に。庸儿(フマナ)じゃねえの?」


 正直、そんな事を考えた事も無かった。


 考える必要を感じなかったというのが正しいが、そもそも彼らの過去を詮索するのは何となく憚られたのである。


 だからとってつけた様な答えしか出す事は出来ないけれど、案の定サトゥルヌスは首を横に振った。


 仕方なしに少し考えを纏め、知っている手掛かりを元にもう一度答えるのだった。


「じゃあ靈儿(アルヴ)とか剛儿(ドウェルグ)みたいな? 少なくともミネルワさんとかウルカヌスさんはそうだと思うんだけど」


「正解。確かにそいつらはその通りだ。マルスらと同時代を生きていた、元人間だからな。だがマルスとメルクリウス、ウェヌス、ミネルワ辺りは別だ。さて、分かるかな?」


「…………」


 まだ全問正解とはいかないと、サトゥルヌスは更に問うてくるけれど、俺は答えを見付ける事に行き詰っていた。


 何せ、他に思い付く種族や民族が無いのだ。


 所属国家によって○○人と呼ぶやり方もあるかもしれないけれど、今さっきまでの遣り取りの限りではサトゥルヌスはその答え方を望んではいなさそうだった。


「分からないかね?」


「……勝手に決めるな。腹が立つ」


 またも馬鹿にされた気がして、それが気に入らなくて睨み付けてやれば、彼は肩を竦めながら苦笑を浮かべていた。


「仕方ないな、なら手掛かりをやろう。これで分からなければ君は猿以下だ。……ヒントは、千年前に滅ぼされた民族だ。そして、場所はラティウム半島」


「それって……!」


(ようや)く分かったのかね? なら答え合わせと行こう。言ってみ(たま)え」


「え、白儿(エトルスキ)……なのかよ?」


 彼に急かされるまま、思い浮かんだ最もあり得る答えを口にするけれど、それでも信じられない気持ちが一杯で。驚きの表情を浮かべたのは、俺だけでは無かった。


 少なくとも事情を知らない者――リュウもスヴェンもレメディアもシグも后羿(コウゲイ)も驚愕していたし、それはこの場に居合わせた幾らかの神饗(デウス)の構成員すら例外では無かった。


「初耳だな。白儿(エトルスキ)があの千年前のラスナ戦争から生き残り、しかも精霊となっていたとは。エクバソス、お前は知っていたか?」


「馬鹿、訊かなくても分かる事を訊くな。俺が知る訳ねえだろが」


 敵であるペイラスもエクバソスも、周囲の警戒はしつつ驚きが隠せないようだ。


 それを視界の隅で捉えつつ、俺は自分の導き出した答えが間違いで無い事を確認するために、マルスの方に視線を向ける。


「マルス、さん……本当ですか?」


「ああ、奴の言う通り本当だ。千年前、俺達はラウィニウムとの戦争末期に瀕死の重傷を負って、ユピテルやサトゥルヌス達に助けられた。多くの街や友や家族を失って、俺達だけ情けなくこうして生き延びたんだ」


「まさか……!」


 思い出したくない事を、沢山思い出しているのだろう。


 震える声で俯きがちに肯定されて、もうそれ以上言葉が出て来ない。


 それもそうだろう。ラスナ戦争と言えば千年ほど前に白儿(エトルスキ)と共和制ラウィニウム――ラウィニウム帝国の前身となった都市国家との間で勃発した戦争だ。


 その多くは御伽話や、或いは天神教関連の書物に記入されており、西界(オクキデンス)に住むのであれば誰もが知っている。


 そしてその結末は、共和制ラウィニウムの勝利。つまり白儿(エトルスキ)の敗北と滅亡を以って幕を下ろすのである。


 非常に徹底した殲滅掃討が行われたらしく、それ以降は白儿(エトルスキ)が記録の中から姿を消し、絶滅したとされて来た。


 しかし、先祖にその血を引いた者が混じっていると極稀に先祖返りを起こす場合があるらしく、実際に俺は白儿(エトルスキ)として散々追い回されて来た。


「じゃあ、マルスさん達は……俺の先祖にも等しいって事に?」


「血縁関係は無いだろうけどね。民族としての形質は良く受け継いでるし、繋がり自体はあって間違いではないと思う」


 そう答えてくれたマルスは、すぐにサトゥルヌスへ視線を向けると、そこに殺気を乗せながら言っていた。


「こんな所でこんな下らない事を暴露して、それで満足か? お前、何が目的だ?」


「勿論理由はあるさ、だからそう睨むな。早い話が、そこまでされて貴様らはまだ人間の味方をするのかという事を確認したいのだよ」


「分かり切った事を……今更無関係な連中に復讐して何になると思ってる? そんなもの、現実的じゃないんだよ」


 何度も言わせるなと、マルスは嘲笑を向け返す。


 だけど、それでもサトゥルヌスの泰然自若とした姿は揺るがなくて。


「勘違いして貰っては困る。私は別に人間を滅ぼそうという訳では無いのだがね。むしろ生かすさ、私の支配下に置いてな」


「支配する? ……サトゥルヌス、お前は王にでもなるつもりなのかよ?」


「王? そんな陳腐なものになりはしない。私は更なる位階を登り、神へと至りてこの世の全てを統べるのだ」


 臆面もなく、むしろ自信に満ちた態度と声で、彼は荒唐無稽な事をはっきりと言い切って見せる。


 それは状況や発言した者次第では失笑を買いかねない発言だったが、今のサトゥルヌスはそんな間抜けさを微塵も感じさせない。


 相変わらず自信に満ちた態度で、俺達に言うのだ。


「貴様らも私と共に来るが良い。今度こそ、この世から理不尽で身勝手な出来事を撲滅するために。あのような悲劇を繰り返さぬ為に……これが私の復讐だ!」


「サトゥルヌス……!」


「さあ、こちらへ来い! 所詮、定命の者達に自律は不可能。圧倒的な力と存在感を放つ絶対的な最上位者、支配者が、人間には必要なのだよ!」


 仲間になれ、とサトゥルヌスは再度言う。


 その言葉にマルスらは少し心を揺さぶられているのだろう。歩み寄る様子はないけれど、しかし何かを悩むみたく顔に皺を刻んでいた。


 そんな中、俺は一歩踏み出す。


「…………」


「ラウ君!?」


「ラウレウス!?」


 いきなり俺が動き出した事に、リュウもマルスも驚きを露わにしつつも、反応が追い付かない。


 彼らも色々と考える事が多く、咄嗟に他者の事にまで気が回らなかったのだろう。


 その呼び掛けを無視して、俺は真っ直ぐにサトゥルヌスを見据える。


 それを全く避けもせずに受け止める彼は、口端を緩めると言っていた。


「君は、私の方に来てくれると言うのかね? なら歓迎しようではないか、ラウレウス」


「馬鹿かお前は?」


「……ほう? その言葉はつまりどういう事かね?」


 俺が差し出した手を拒絶し、その上で罵倒されたと言う事実に、サトゥルヌスの眉がほんの僅かばかり跳ねた。


 どうやら普段から見下している人間から馬鹿にされるのが本当に酷く自尊心を傷つけられるらしいとこれまでの様子からもアタリをつけた俺は、更に言葉を続ける。


「サトゥルヌス、アンタには考える脳味噌がないのかと言ってるんだ」


「……拒絶か。良いだろう。大人しく従わぬなら、君だけは無理にでも我が手に収めさせて貰う!」


「冗談じゃねえよ。お前の目的は分かった。()っすらだけど根底にある理由もな。けど、だからって俺はお前に賛同する訳無いし、出来る訳がねえんだ」


 当然だろう。サトゥルヌスの、彼の背後には、幾つもの無念と死体の山が幻視出来るのだ。


 それらは全て、彼が彼の目的を果たす為にこれまで積み上げて来た理不尽な犠牲の山であり、その中には前世の俺や親友たちすらも含まれているのだから。


「理不尽が何だと言っておきながら俺達を自分勝手に殺しておいて……今更自分の主張が正しいと抜かしてんじゃねえよッ!」


「必要な犠牲だったのだよ、君達はね。魔力という不純物の存在しない純粋な魂は、私が神への位階へ至る上で非常に効率の良い素材だったのだ。無理矢理そちらの世界へ行った甲斐があったと言うものさ」


「……じゃあ、どの口が理不尽を撲滅とか抜かしやがってんだ? 元々俺達はそれこそアンタらと関係ないし、この世界の人達だってそうだ! 周りを勝手な理屈と理由で巻き込むな!」


 己が神になる、たったそれだけの為に自分達は殺されたのかと聞かされるのは、やはり怒りが湧き上がるけれど、その一方で呆れにも似た感情も沸いて来る。


 こんな奴に、こんな理由の為に殺されたのかと、名状し難い笑いが漏れそうにもなっていた。


 いや、もう漏れていたのだろう。その瞬間、殺気を伴ったサトゥルヌスの視線が俺に注がれる。


「何を笑っているのかね?」


「……呆れて笑う以外の表情が出て来ないんだよ。何度でも言ってやるけど、アンタ本当にしょうもない奴だな」


「それを人の身の分際である貴様が言うか!?」


 その瞬間、彼の大鎌(ファルクス)が振るわれる。


 見るからに絶大な威力を誇るであろうそれは、今にもその刃で俺を斬り裂かんとして――。


「させない!」


「……ほう? 貴様らも私の手を取らぬか」


 鎌が振るわれるよりも早く、マルスたちはサトゥルヌスに飛び掛かっていた。


 それは俺を庇う為だけでは無くて、彼らがサトゥルヌスの提案を拒絶した事を証明する上でもこの上ないものだった。


「貴様らは分かっているのかね、これは私の為だけでなく、この世界そのものにとって有益な話である筈だが」


「いいや、お前のその話は有害だ! その矛盾を抱えた主張はいずれ積もり積もって崩壊する。無理な犠牲を強いて造るそれに、俺達は一分(いちぶ)たりともを魅力を見出す事が出来ない!」


「……そうか。残念だよ」


 再び大鎌(ファルクス)が、振るわれる。


 直撃した者は居なかったけれど、たったそれだけでまたもマルスらは振り払われ、距離を取らされる。


 やはりサトゥルヌスの力は絶大で、何よりも脅威だった。


 そんな彼は、自分の優位を誇示するように左掌(ひだりてのひら)を頭上に向けつつ、言う。


「ならもう貴様らは要らない。必要最低限を除いて、殲滅だ」


 その言葉を合図にして、戦闘が再開される――。





◆◇◆




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