表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第一章 コノヨニウマレ
19/239

エピローグ



 “|新暦(CN)671年 六月(セクスティリス)の九日目”。

 この日、エウローペ地方の西ガリア地域、サリ王国の片隅に存在するグラヌム子爵(ウィケコメス・グラヌニ)にて、とある事件が発生した。

 しがない貧農の少年が、ある日突然白儿(エトルスキ)となったのだ。

 白髪紅眼、白肌。そして特徴的な“白い魔力の発露”。

 その噂は次第に各地を巡り、そして多くの人々の耳に触れる事となる。

 最初こそ半信半疑で聞いていた人々も、詳細な特徴が明らかになるにつれて段々と信じるようになり、よって爆発的に情報は拡散した。

 だが、情報はそれだけに留まらない。

 実際に事が起こったグラヌム村では更にもう一人、白儿(エトルスキ)が確認されていたのだ。

 その噂を聞きつけた人々、特に周辺領主などの権力者はそれら噂の真偽をはかり、あわよくば手に入れんと様々な手段を講じていく。

 【天神教】の教典には白儿(エトルスキ)は悪である、恐るべき存在であるとされているが、所詮今も昔も“生ける資源”でしかなかったのだ。

 しかもその価値は天井知らずと来れば権力者たちも垂涎するほど求め、憧れた。

 無論、白儿(エトルスキ)そのものではなく、骨や血液などの素材に、だ。

 とは言え、そもそもその情報量と出回る速度、質は地球のそれと比べれば遥かに粗悪でかつ遅く、打てる手は限られていた。


『無茶などの泣き言は要らん! 必ず見つけろ!』


 結果として彼らの涙ぐましいとも言える努力はいずれも空振り、それと比例するように噂も根も葉もないものが加わって行く。

 だからだろう、噂はどんどん現実性を失ってゆき、一向に足取りがつかめない事も相俟って捜索熱はすぐ下火となった。

 つまり、周辺の国々へ噂が拡散する頃には、もうすっかり信じるに足りない与太話でしかないという認識となっていくのだ。

 代わりに人々が話の種とするのは、どこそこの国で政争が起きているだとか、ある国は少し不穏な動きを見せているという、より現実的なモノ。

 もっとも、大多数を占める農村の人々はそんな事に興味を示している余裕なんて無いし、ただ自分達が今日を、明日を生きる為に齷齪(あくせく)働くのみ。

 白儿の噂を含め、世間話に花を咲かせるのは、この世界で比較的真面と言える生活を出来る一般市民以上の人間に限られているのだ。

 だから、いや寧ろ当然と言うべきか、村を出る事を余儀なくされた一人の少年の事を気に留める者は非常に少ない。

 彼の胸中を考え、もしくは知る者など殆ど皆無だった。




『そんな事よりも』




 人々は日々の暮らしへと埋没し、取るに足らないと判断された噂は記憶という情報の深海へと沈んでいく。

 けれど、全員が全員、気にしないという訳でも無くて。


「……こりゃ、酷ぇやられようだな。俺がほんの少し目を離した隙に、一体何がどうなってんだ」


 全く人気の無い、そもそも生命の気配が感じられない枯れ果てた森の一部で、一人の人物が心底困った様に頭を掻いていた。

 フードの伴った外套を纏っているせいで正確な体格も顔立ちも分からないが、少なくとも袖から覗く右腕は鍛え抜かれ、引き締まっている。

 そんな彼の視線の先にあるのは、見事に根元を吹き飛ばされた、巨大な蔓の姿。

 所々焦げ、しかしもう既に時間が経っているせいか触れても冷たいだけ。


「炎魔法……? や、それにしちゃ焦げが少ねえ。だとすりゃどうやって?」


 顎に手を当て考えて見るも、どうしても答えは出ない。

 分からない、とすぐに結論付けたらしい彼は難しい事を考えるのに飽きたのか、大きな伸びを一つ。


「ちょっと一回、街に出て情報を集めるしかねえなぁ。じゃなきゃ、おちおち実験も出来やしねえ。……お前もそう思うだろ?」


 そう言う彼は、自身の隣で大人しく鎮座している、巨大な存在へと笑いかけていたのだった。





◆◇◆





 “白儿(エトルスキ)の少年が、現れた”

 ――果たして、大変貴重な資源が出現しただけとされたこの話が、これから先どの様な事を引き起こし、どの様な結果を生み出すのか。

 世界も、少年も、まだ誰も、何も知らない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ