表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キオクノカケラ  作者: 新楽岡高
第七章 サツイトマラズ
168/239

第五話 君のいない夜を超えて⑤

◆◇◆




「畜生が……どうなってやがるんだ今の状況は? ルクス様たちは無事なんだろうな」


「分からん。この場所からでは見えるものも見えない以上、我らにはどうしようもない」


「とは言え、本当にここから撤退なのかー? タナトス様やルクス様が居るなら、あっさり撃退とかできそうなもんだけど」


 旅装を身に纏い、長距離移動をする上で支障がない程度に荷物を負った三人の男達は、戦塵の上る方角を見て話し合う。


 距離にして見れば然程遠くは無いのだが、この辺りにまで戦闘の余波が及んでいない事もあり、まだ倒壊していない宮殿の影に隠れて戦闘の詳細は見えなかった。


「案外大丈夫だったりするんなら、地下施設の被検体共を暴走させた意味ねえんじゃねえか? 無駄に施設と宮殿を壊すだけだ」


「かもな。しかしそう言う指示が下されていた以上、私達に否も無い」


「勿体無いよなー」


 エクバソス、ペイラス、エピダウロスの三名は、まだ少しばかり迷っていた。


 まさか自分達が、それも最高戦力が複数揃っていながらも二度目の研究所放棄をさせられるとは思っても居なかったのである。


「あの忌々しい白儿(エトルスキ)のガキが……今度会ったらぶち殺してやる!」


「だがあの化け物染みた実力、一体どうして手に入ったと言うのか……」


「ああ、急に強くなったんだって? お前らのその話、俺もちょっと興味あるぞー?」


 既に、彼ら三人以外の神饗構成員は、相当の実力者を除いてこの宮殿内からは退避を完了している。


 今頃はウィンドボナ市街から外を目指すか、足の速い者はもう市外へ出ている事だろう。


 しかしそれでも、彼ら三人はまだまだ宮殿からすら離脱しようと言う気にはなれなかった。


 何故なら、彼らの上司である者達がこの場で負けるとは到底思えなかったからである。


 だから未だにこの場に留まって断続的に立ち昇る土煙を眺めて居たのだが。


「何だ貴様ら、まだ居たのかね?」


「……ド、主人(ドミヌス)様!? 貴方こそ何故こんな場所に!?」


「おや、私がここ所に居るのがそんなに悪い事かな?」


「い、いえ、決してそのような事は……!」


 黒地の仮面を身に着け、暗褐色の外套を纏う屈強な人物が、いつの間にやら正面に現れ、その事実にエクバソスらは狼狽する。


 それもその筈で、主人(ドミヌス)と呼ばれた彼は神饗(デウス)に於いて最強の実力者であり、同時に最高位の存在なのである。


 彼ら三人からすれば至高の存在と言っても過言ではない人物の登場に、恐縮しない訳が無かった。


「まあ良い、私がここに来たのは逃げ遅れた身内が居ないかどうかの確認だ。貴様ら、何故まだこの場残っている?」


「は……申し訳ありません、どうしても貴方様方が敗けるとは思えず……!」


 一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべたペイラスだったが、すぐに意味を理解した彼は他二人の頭を無理矢理下げさせる。


 エクバソスとエピダウロスも最初こそそれに就いて行けずに目を白黒させていたが、抵抗する事は無くペイラスに従っていた。


 そんな三人の様子を無言で眺めて居た主人(ドミヌス)は、しかし彼らを咎める事はせずに言う。


「私や他の者を信頼してくれるのは結構な事だが、指示は指示だ、従ってくれねば困る。良いかね?」


「はい、大変失礼いたしました!」


「ああ、分かれば良い。私としても、優秀な君達を失いたくはないのでね。大至急、ハットゥシャを目指してくれ」


 鷹揚に再度指示が下されれば、ペイラスらは力強く返事をして素早く立ち去って行く。


 その背中を見送りながら、主人(ドミヌス)は顔面を覆う仮面の下で笑っていたのだった。


「……私の目的を達する為にも、君達に今死なれては困るのでね。手駒は大いに越した事は無いのだ」


 そう呟く頃には、立ち去って行く三人の背中に対する興味を失っていた彼は、土煙が上がり続ける方角に顔を向けた。


 先程、主人(ドミヌス)はルクスに後事を任せて立ち去ったのだが、そのルクスが思いのほか手間取っているらしい。


 マルスら邪魔な精霊達が参加したのだろうと予想をつけつつ、彼はそちらへと足を向ける。


「相手は相応の時を生きて来た精霊達……だとすれば、腕鳴らしには丁度良いのかもしれんな」


 無人となった宮殿の廊下を、彼は一人歩く。


 時折、交戦の衝撃で天井から埃などが舞い落ちて来るし、石材などの軋む音まで聞こえて来るのだが、構いはしない。


 どうせ、天井や壁が崩落した程度では己がどうなる筈もないと、彼は強い自負を持っていたのである。


「……見せつけねばな、物分かりの悪い者共に。この世は誰が支配するべきか、どちらが支配されるべきか、誰が相応しいか」


 誰に言うでもなく、彼は独り()ちる。


 それは当たり前だが口に出したところで大して意味があるものでは無くて、彼の口から漏れだした笑い声のように、感情が(たかぶ)った結果として漏れた呟きであった。


「待っていろラルス、メル。私の夢はもうすぐそこだ。そうすれば、お前達も……!」


 確固たる足取りで、意志で、彼は歩く。真っ直ぐに向かう。


 全ては己が思想こそ、正しいと信じて。





◆◇◆





 (あおぐろ)い髪を持つ、好青年。


 浅黒い肌を持つ頑丈な体型をした髭面の男性。


 それぞれ名前をメルクリウス、ウルカヌスと呼ばれる精霊である。


 どちらとも俺は話した事があって、その際の印象としては悪事を働きそうな性格には見えないと言う事だった。


 もっとも、あった当初は自分が人間不信であった点も相俟って碌に信用も信頼もして居なかったのだが。


 何はともあれ、多少なりは他者を信じる事が出来る様になった最近は、必要以上に警戒をする必要はないと判断していた。


「気を付けろラウレウス、今の奴らには理性その他諸々が働いてない。完全に操り人形状態だから、手加減なんぞしてくれない」


「分かってますよ、無理はしません。けどあの二人の魔法って何なんですか? 特にメルクリウスさんは……」


 今も、四方八方から仕掛けられる魔法攻撃を、どういう原理か知らないが完全に無効化していた。精霊達もメルクリウスの能力を警戒してか迂闊に間合いに入り込めないらしい。


 押し込めてはいるものの、決め手に掛けていた。


 だから何か事情があるのだろうと弓で援護をして居るミネルワに訊ねてみれば、彼女は一度首肯していた。


「奴の魔法と言うか……能力は少し特殊だ。対象物質を同等の重さを持つ別の物質へと変えられる。当たり前だがそれは生き物にも、精霊にも適用される訳だ」


「以前、ちょっとだけその能力を見せて貰った事はありましたけど、それってあの手に触れるとそうなるって事ですか」


「ああ。だから迂闊に近寄れない。遠距離攻撃は結局あのざまだ」


 憎々し気に舌打ちをしたミネルワの視線の先では、翳されたメルクリウスの手によって、迫っていた魔法攻撃が(ことごと)く無効化されていた。


 それを擦り抜けた魔法攻撃なども、ウルカヌスが巨大な鎚を振り回して叩き落としてしまう。


 魔法攻撃を潰しているのだから、あの樽よりも大きな鎚には何か特殊な能力が付与されているのだろう。


「とは言え、こちらの方が数は多いから手数もあの二柱を上回っている。時間をかければいずれ撃破できそうだが……長引くと不測の事態が起こる可能性も増える。早めに決着したいんだが、出来るか?」


「出来るだけの事はやってみますよ。ま、所詮は人間なんで期待しないで貰えると助かりますけど」


「……期待しているぞ、何せお前は白儿(エトルスキ)だ。その潜在能力の高さは千年も前から知っている」


 冗談か本気か分からないがそんな言葉をかけてくれるミネルワに、曖昧に微笑み返してこの場を誤魔化そうと顔を向ければ、そこには真剣そのものの横顔があった。


 どうやら彼女は大真面目に今言った事を信じているらしい。


 この状況でそれに水を差すのは流石に憚られて、仕方なく頷くと気合を入れ直す。


「それじゃあ俺は、どうすれば良いんです?」


「私達が援護する。まずはウルカヌスから解放するために、コイツを奴に突き刺せ」


「刺す? 幾ら精霊でも大丈夫なんですか、それ? 場所によっては危ないんじゃ」


「問題ない、精霊を生物と一緒にするな。どこを指してもその程度の刃渡りではウルカヌスを殺せはしない」


 渡されたのは、一見何の変哲もない短剣だった。


 しかし、試しに鞘から抜いてみると刀身には何やら文様が彫られ、どういう訳か刃の部分が黒く染められていた。


 その状態で柄を持っていると、何やら正体不明の力の様な物が感じ取れ、薄気味悪さを覚えたので慌てて鞘にしまっていたのだった。


「何ですか、コレ」


「精霊を契約の枷から解き放つ。現状、強制的に契約を結ばされている奴らの体内には、異質な魔力と術式が入り込んでいるから、それを破壊し取り除くのに必要なんだ」


「……良く分かりませんけど、悪い血を抜くみたいなもんですかね。でも俺、上手く懐に(はい)れる自信が……」


「かと言ってお前に上手い援護魔法が使えるとも思えない。ここで一々他の奴にこの短剣を渡すのも面倒だから、お前に任せた。頼んだぞ」


 反対する間などある筈もなく、早々にその役目を押し付けられた俺は困惑する。


 幾ら自分の能力が跳ね上がっているからと言っても、彼ら精霊に比べたらまだまだ劣るのだ。


 正直、失敗する確率の方が高いのではないかとすら思ってしまう。もっとも、それを言ったところでミネルワが真面(まとも)に取り合ってもくれないのだが。


「分かりましたよ、やれば良いんでしょ」


「ああ、その意気だ。ラルスもそう言って私達を導いてくれた。お前にだってそれが出来ない筈はない。期待しているぞ」


「ラルス……?」


 ほんの少しだけ厳しかった表情を崩したミネルワの表情の美しさに一瞬だけ見惚れつつ、聞こえてきた人名らしいものに首を傾げる。


 どこかで聞いた事のある名前だと記憶を軽く漁ってみるものの、余り印象づいている訳では無いらしく、簡単には見つからなかった。


 こんな状況で悠長に考え事に耽る余裕がある筈もなく、分からないものは仕方ないと見切りをつけると改めてウルカヌスの様子を窺う。


 多数対少数であるというのに、俺の目から見ても非常に巧く立ち回っていて、隙が少ない。精霊達も、下手に強力な攻撃をしてしまうとウルカヌスやメルクリウスそのものを殺しかねない為に、攻めあぐねている様だった。


「取り敢えず、いつまでも眺めてないで行ってこい。ここに居るだけじゃいつまで経っても事態は動かないぞ」


「はいはい、じゃあ援護お願いしますよ。死んだら恨みます」


「安心しろ、私達がお前を死なせる訳が無いだろ。大船に乗ったつもりで玉砕して来い」


「それ死んでませんか?」


 冗談めかして言われた言葉に、思わず体の力が抜けていた。


 その時に思っていた以上に肩の力が入っていた事を知覚して、程良く余計な力が抜けた事に気付く。


「……ありがとうございます」


「それは全部終わってからで良い。まあ、その頃には礼を言うのは私達になって居そうだが」


 ミネルワがそう言ったと共に、何射目とも知れない矢が放たれる。


 それを鏑矢(かぶらや)にして、俺もまた地面を蹴るのだった。


 一気にウルカヌスとの距離を詰めて行くが、当然それに彼は気付いて赤い眼をこちらに巡らせていた。


 それはただ単に俺を認識しただけなのかもしれないが、だと言うのに一瞬で背中が粟立つ。


 このまま真っ直ぐに突っ込んでしまえば間違いなく殺されると、本能が告げていたのである。


「――ッ!」


「…………」


 咄嗟に足で制動を掛けて横っ飛びに(かわ)した瞬間、一瞬前まで居た場所を巨鎚が襲う。


 餅つきのように叩き付けられたそれは、地面を円形に陥没させていたのだった。


 もしもほんの少しでも判断が遅れて居れば、間違いなくそれに巻き込まれてペシャンコになっていた事だろう。


「あぶねえ……!」


「迂闊な事をするな! 場合によっては援護しきれないぞ!?」


「分かってますよ!」


 後方からミネルワの注意が飛んで来るが、今の一瞬の出来事で痛いほど分かっている。下手な事は尚更行う訳に行かなかった。


 それでも足は止めず、隙を見せずに寧ろ隙を窺う。


 針のような隙でも、そこを射抜く事が出来れば良いのだ。ミネルワを始めとして多くの精霊を相手にして居るのだから、幾らウルカヌスとは言え少しも隙が生じない訳が無かった。


 だからそこを――。


「…………」


「うおっ!?」


 ハッとした時には、目の前にメルクリウスが立っていた。


 何も感情が感じられない(あおぐろ)い眼がこちらを捉えて離さず、無造作に右手を向けて来ていたのである。


 このままでは彼にやられる――そう思った瞬間、メルクリウス目掛けて火炎が襲い掛かっていたのだった。


「危ない。油断するな」


「す、すみません……」


 炎を身に纏う赤い髪をした少女に、口数も少なく注意を受けて恐縮する。


 彼女もまた精霊で、見かけによらず俺よりも長く生きて来た存在なのだろう。その素っ気なく感じられる態度に、自分が足を引っ張ってしまったようで居た(たま)れなくなっていた。


 しかしそれを取り成す様に割って入る声が、一つ。


「ウェスタは元々口数が少ないのである。気にするな」


「貴方は……」


「ヤヌスである。援護は任せよ。期待しているぞ、少年」


「あ、ども」


 言いたい事だけ言うとヤヌスはメルクリウスを相手に俺から引き離してしていく。


 そんな彼に対して礼を述べはしたものの、果たして聞こえて居るのかは分からない。それくらい、ヤヌスとメルクリウスの戦闘は激しいものだったのである。


 だけどそれはつまり、ウルカヌスとの戦闘に注力する事が出来ると言う事でもあった。


「いい加減、目を覚まして貰うぞ……!」


 彼には短槍を貰った恩がある。その恩人が自我を失って傀儡とされているのを見て居るのは、忍びなかった。


 幸いにも俺は、短剣を使った戦い方を知らない訳では無い。これまでに培った技術と照らし合わせて、他の精霊の援護があるのなら目的を遂行するのも不可能ではないと見ている。


「行くの? なら援護する」


「頼みます」


 一瞬だけ、ウェスタと呼ばれた精霊と交錯する。ほんの刹那の間だけだったけど、それだけでこちらの意図を読んだのだろう。


 青い炎の塊を幾つも発生させ、魔弾(テルム)としてウルカヌス目掛けて撃ち放っていた。


 ここぞとばかりにミネルワも正確な射撃を行い、ウルカヌスの注意と手を割かせれば、自然とそこから隙が生じていたのだった。


 この好機を逃すまいと一気に彼我の距離を詰めて行けば、しかしそれでもウルカヌスは気付いたらしい。


 異常なまでの反応速度を見せて応戦する気配を見せるが、距離的にも時間的にも彼が取り得る手段は非常に限られていた。


 だから何が来るかは予想しやすくて、反応しやすくて、この瞬間だけは必然的にこちらが非常に有利な状況となっていたのである。


「…………」


「幾ら威力が高かろうとッ!」


 ウルカヌスの体勢と鎚を持っている位置からして、横薙ぎはまずあり得ない。無理をすれば振れるだろうが、その頃には俺が懐に入ってしまうだろう。


 故に、彼は馬鹿正直に真っ直ぐ振り下ろすか、或いは少し角度をつけて斜めに振るうくらいしかなかった。


 つまるところ上からの攻撃にだけ注意していれば良かったのである。


 果たして、案の定攻撃は頭上から襲い掛かって来たので、分かり切っていたからこそ(かわ)すのは余裕だった。


 どれだけ速くても、見切って居れば怖くも何も無いのだ。


 振り下ろされた巨鎚は無人の地面を叩いて終わり、そしてその巨大さ故にもう一度振り回す事は間に合わない。


 俺が懐にまで飛び込んでしまえば、取り回しが劣悪な鎚には最早何も出来る事は存在していなかった。


 しかし、そこで勝負が決したかというとそうでも無くて。


 これ以上鎚の間合いで戦うことが困難と判断したウルカヌスは、素早く柄から手を放し、両の拳を握り締めていたのである。


 頑丈そうな体格をした彼の腕は見ただけでも筋肉の塊に覆われていて、常人なら一発殴られただけでも行動不能になってしまいそうだった。


 何より、彼の格闘戦における実力は未知数である。だが少なくとも、自分より遥かに長い間存在してきた精霊である事を考えると、組手で勝てる確率は余り高くなさそうである。


「……だからと言ってここは押し込まなくちゃ意味がねえな」


 下手に後退しようものなら、また彼に巨鎚を握らせてしまう事になる。


 それに、彼を前にして馬鹿正直に組手だけで勝負をしてやる必要はないのだ。


 素早く白弾(テルム)を生成し、牽制の為に一気に撃ち込んでしまえば、それを(かわ)す為にウルカヌスの反撃手段がまたも限定される。


 それでも彼はその剛腕で凄まじい威力を秘めているであろうパンチを放つのだが、俺はそれを紙一重で()なすと腕を掴む。


 間髪入れず足を払い、思い切り地面へと投げ飛ばしていたのだった。


「……!」


「これで、終いだ!」


 投げ飛ばされて背中から地面に叩き付けられ、ほんの一瞬だけ生じた無防備な彼に、トドメとして渡されていた短剣を突き立てる。


 それにも驚異的な反応速度で対応して来たウルカヌスだったが、僅かに間に合わず腹へと短剣が突き刺さっていた。


 すると一拍置いて彼の体がびくりと跳ね、一気に弛緩していく。


 何かがウルカヌスの体から抜けていくのを知覚しながらその様子を眺めて居ると、背後からウェヌスに声を掛けられるのだった。


「……良くやった。そしたらそれを抜いて、今度はメルクリウス」


「え、これ放置して大丈夫なんですか?」


「大丈夫。ミネルワも居るし、ウェヌスも居る。だから早く、戦う」


 そう言われてしまえば否と言える筈もなく、気絶しているらしいウルカヌスに一応謝りながら短剣を引き抜くと、メルクリウスの方に目を向ける。


 ウルカヌスが倒れた事で完全に相互支援が無くなり、且つ戦力が集中した事で急速に追い詰められているのだろう。


 無効化しきれなかった攻撃が時折メルクリウスの体に直撃していた。


「あのまま撃破しても強制契約は解除できるけど、そうすると精霊の力が減る。だからその前に剣で、終わらせる。分かった?」


「……了解です。また援護お願いしますよ」


「任せて」


 抜身の短剣を逆手に持ち、一気にメルクリウス目掛けて接近する。


 背後からはウェスタの援護まで加わり、彼は俺の接近に気付いて居ながらもどうする事が出来ないと言った様子だった。


「…………」


「アンタも、いつまで黙りこくってるつもりだ?」


 そんな彼へ確実に短剣を突き立てるべく、追い討ちを掛けるように白弾(テルム)を撃ちながら、俺は躍り掛かっていた――。





◆◇◆






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ