白黒もふもふ。〜愛犬の思い出〜
小学校卒業を間近に控えた2月、同級生から相談を受けた。
それは、飼っている犬が子供を5匹生んで、その引き取り手を探しているという内容だった。
私はそれまで動物を飼ったことがなかった。
母が言うには、私が生まれる前に「じゃじゃ丸」という茶色い中型犬を飼っていたらしい。名前の由来はご存知教育テレビの猫のキャラクター。犬のじゃじゃ丸は臆病で、おとなしい性格だったそうだ。幼い兄は「ママ」「パパ」の次に「じゃじゃ」と言い出したくらい、とても可愛がっていたという。
当時の兄とじゃじゃ丸の写真を見たり、両親から話を聞いていた私は、いつか愛犬と散歩することを夢見ていた。
物は試しにと、まずは休日友達の家へ遊びに行くことに。そこで私を待っていたのは……黒と白の毛玉たちだった。
5匹の子犬たちが箱の中でまるでおしくらまんじゅうのごとく、ぎゅむぎゅむつまっているではないか。
なにこれなにこれ、かーわーいーいーーーー!!!!
どの子も黒い毛色で、だけど鼻筋と、顎からおなかにかけてと、尻尾の先と、足の先が、白い! 説明が難しい! とにかくかわいい!
大興奮で狂喜乱舞の私は、どの子犬を見てみる? と友達の母親に促され、恐る恐る一匹の子犬を胸に抱いてみた。
ふわふわ、もこもこ、あったかい。
てしてし、と前足で私の手を叩いている。
クンクン、と鼻を鳴らしている。
ペロ、となめられた。ああ、生きているんだ。
12歳の私は嬉しさを越して、感動してしまった。涙ぐむ私が抱いていた子犬はオスで、生後一ヶ月も経っていなかった。本当に小さくて、とっても毛玉だった。
家族を説得し、家に迎えることとなったが、その時の父の言葉が忘れられない。
──犬の寿命は10歳から15歳くらい。いつかは必ず永遠の別れが訪れるんだよ。飼うと決めた今からしっかり覚悟しておきなさい。そして愛情を持って世話としつけをする。それが、飼い主の義務だから。命を預かるというのは、責任が伴うんだ。全部約束できる?
永遠の別れ。命の終わり。幸運なことにそれまで近しい人が亡くなったことのない私にとって、本やマンガやドラマの中の出来事のような、どこか遠くの世界の話で。
それでも父の真剣な顔を見て、気を引き締めて、力強く頷いた。
散歩コースはだいたい同じ。川沿いの遊歩道をのんびり歩き、大きな公園の小高い丘で夕陽を眺め、裏路地を通って帰宅するルートだ。
──桜並木がきれいだねぇ。
──まん丸の紫陽花、かわいいなぁ。
──金木犀の香り、どこからだろう。
──雪道に私たちの足跡残ってるよ。
巡る季節の情景を私は愛犬に囁く。聞いているのかいないのか、早く先に行こうよとリードをグイグイ引っ張る。そのふさりとした尻尾はブンブン左右に揺れていた。
黒白の毛玉だった子犬は、中型犬の大きさに成長した。性格はおだやかで甘えん坊。なのに顔つきは凛々しくて、近所の子供に「あの黒い犬、こわーい」と逃げられたこともある。人懐っこくて番犬にならないくらい優しい子なのにと、憤慨したものだ。全く、かっこいいと言ってほしい。
そして、毛並み。頭はポフポフ柔らかく、背中はサラサラなめらかで、おなかはモサモサ。ずっと撫でていたいくらい、気持ち良かった。
愛犬も撫でられるのが大好きで、近くにいくとすぐにすり寄ってくる。頭をグリグリと押し付けてねだるのだ。
かわいくて、甘え上手で、優しい子。
そして13歳の誕生日を無事に迎えてから急に食欲がなくなり、数日後、眠るように天に召された。
晩年は、耳も目も足腰も衰えたけれど、病気一つしないで最後まで散歩好きだった。白黒の毛並みは少しゴワゴワになったが、いつもお日様の匂いがして。おだやかな顔つきで、日がな一日うとうととまどろみながら過ごしていた。
もふもふというと、大好きだった白黒の毛色の愛犬を思い出す。