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おやしきプリンセス

「玲のお友達を紹介してあげる」


 次の休みの日、筧菜翠はルームメイトの筑波玲に連れられて隣の市までプチ旅行に出かけた。移動は電車で、星花女子学園の最寄りにある空の宮中央駅から二駅となりの西海谷にしうみがや駅で降りるというものであったが、その間、菜翠と玲は周りからの視線をかっさらっていた。事情を知れば、彼女たちが注目を集めるのは当然のことである。何せ、二人はあまりにも人目を引くような格好をしていたのだから。


 プリンセスに憧れている菜翠は、ホワイトロリータのドレスに桃色のウィッグという格好で、レースの手袋をはめた手にはフリルたっぷりの日傘が握られていた。眉毛が黒いままなのがやや奇異に映るが、たいていの人は菜翠の服装にしか注意がいかぬもので、加えて菜翠の顔立ちが整っているため、異質であっても目の毒ということは決してない。


 その彼女の隣を歩いている玲は、菜翠と違って現実的な服装を服装をしていたが、それでもじゅうぶんに注目に値するものであった。薄手のタートルネックに丈の短いジャンパースカートを合わせ、長い脚にボーダー模様のニーソックスを履いている。まだ始まったばかりの女子校生活の中で、すっかりおデコの少女として定着しつつあった玲であるが、今それが目立っていないのはフェイクファーのキャスケット帽を目深に被っていたからだ。肩にバッグをかけており、両腕にはテディベアのアンを抱えており、ときおり毛づくろいしている。玲の言った『お友達』も人間ではなく、寮に持ち込めなかったアンの同類であることは菜翠もすでに聞かされていた。


「……………………」

 

 日傘をくるくる回しながら、菜翠はなんとも複雑な表情で隣のルームメイトを見たものだ。


(このコ、フリフリの格好を着せたら、ボクよりずっとお姫サマっぽくなるんじゃ……)


 この数日、菜翠は玲の容姿を丹念に観察していた。共同浴場では、胸のぷるるんばいんぶりで内心勝ち誇るも、肌の白さときめ細やかさに口をつぐみ、ほっそりと引き締まった肢体を見て、無意識に眉間がキュッとなってしまった。

 加えて、キリッとした瞳に引き結ばれた可憐なくちびる。つるりと濡れた前髪がおデコにかかるサマは見る相手にハッとさせるような印象をもたらし、しとやかさが付随された玲のかんばせに菜翠の心臓はしゃっくりを上げたものである。


 自信家の菜翠であるが、いちど劣等感を意識しだすと、どこまでもそれを引きずってしまうたちであり、玲のヒトクセ以上あるぬいぐるみ愛玩趣味も、実はロリータ服を身につけるものとしてふさわしいんじゃないかと思い始めてきて、そもそもロリータ服って胸がそこそこのコのほうが似合うのではと考えてしまうと、胸を張った生き方が虚栄じみたように感じてしまう。


 もっとも、今の菜翠はそれ以上に気がかりなことがあったのだが……。


「ねえ、レイ……」

「何?」

「なんで、おうち帰るのにそんなイヤそうな顔するのさ?」

「……………………」


 無言だが、言葉以上の表現が菜翠にも読み取れた。キャスケット帽の陰にある両眼が苛立ちの火花を生成しているようであり、抱えられていたアンが絞め殺されるのではないかと危惧するくらい両腕に力が入っている。


「……もしかして、メイドのアユさんのせい?」

「…………」


 宇海愛結うかいあゆは筑波家のメイドということらしいが、玲は彼女の話題になると途端に不機嫌になってしまう。『おんなのこどうしのれんあい』という妙ちくりんなコトを吹き込まれたそうだが、少なくともそのことで怒っているわけではなさそうだ。玲は今でも、女の子のぬいぐるみに過剰な愛情表現をしているのだから。


 女の子らしいふて腐れっぷりで玲は言う。


「別に家に帰りたいわけじゃないの。寮に入るとき、玲の家族の知り合いを連れてこれなかったせいで、こんな目に遭ったんだから。愛結なんて、おいしいフルーツタルトを作ってくれればそれで用はないんだから」


 それだけ聞くと、玲のほうがワガママ娘のように聞こえるが、いさめるのはそのアユさんを見てからでも遅くはないと思い、甘ロリ少女は沈黙していた。


 玲が何を思おうとも、彼女の家は刻一刻と迫っている。そして、キャスケットのぬいぐるみ少女が足を止めたとき、菜翠はあんぐりと口を開け、目の前の光景に釘付けになっていた。


(うわわわ……! これがホントにレイのおうちなの……?)


 それは『おうち』というより『おやしき』と呼ぶべき建物だった。広大な敷地を漆喰塗りの土塀どべいで囲い、歴史のある純和風の木製の門扉がいかめしげに立ちふさがっている。そのような扉、菜翠はメディアに映った有名な寺か神社かでしかお目にかかったことがなかった。


 思わず、玲のほうを見て叫んでいた。


「ビックリ! レイって、ホンモノのお姫サマなんだ……!?」

「興味ない。いま門を開けるからここで待ってて」


 門柱にはごく普通のインターフォンがついていて、それを押すと重々しく門が開かれた。そして、重厚な音が止まると同時に、一人の女性が大慌てのようすで駆けつけた。


「玲お嬢様あんっ! あぁんっ、学校生活が寂しくて愛結のもとへもどってきてくださったのですねっ❤」


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