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2.地下街2

二日目の、視察を終え地球に戻ると、シンカはたまっていた書類をさっさと片付けて、ナンドゥへ向かうことにしていた。

時刻は二十時。急げば、今日中にナンドゥまでいける。

「ねえ、シンカ。」

執務室に、パジャマのまま現れたミンクは、そうっと覗き込む。

「どうした?」

あせりつつも、ミンクの顔色や表情を確認してしまう。昼間会う時間が減っているから、どんな短い時間でも、きちんと見つめていようと思う。

「お願いがあるの。私ね、大学で自分の家族のことどうお話していいか分からないの。成り行きでお父さんがレクトの部下ってことになっちゃったんだけど、それでよかったかな?」

「くす。」

ミンクにとっては、とても重要なことなんだな。

「じゃあ、いつもはここの百二十階にいる、軍務補佐官にしておけよ。レクトがミストレイアから引っ張ってきた人物なんだけど、政府の職員にはあまり知られていない人だし、普段はレクトと行動していて、職員同士の付き合いに参加するようなタイプでもないし。マイクレア・ロッシ補佐官だ。」

「いいの?」

「レクトに頼んでおくよ。」

「それからね、シンカのこと、いっちゃだめ?」

うつむいて、上目遣いで見上げるミンク。赤い瞳がくりりと瞬く。

「え?」

「男の子達が付き合っている人がいるのかって聞いてくるの。」

若い皇帝はほっとしたように笑顔になる。

「一緒に住んでるって言っとけよ。」

はっきりしておいたほうが、余計な虫がつかなくていい。

「えー。恥ずかしい!」

ミンクは頬を赤くしている。少し、シンカはむっとする。俺と一緒にいることが恥ずかしいことか?

「だから、いるとだけ言っておけば、うるさくなくていいと思うよ。どんな奴かは言わなくていいんだから。」

「別に、うるさいわけじゃないけど・・。」ブツブツ言っている。

ミンクが、この話題を出した意図をシンカは図りかねた。

「いいよ、お前の好きにしろよ。隠したければ隠せばいいし。」

少し冷たい言い方になる。

「俺、忙しいんだ。悪いけど、一人にしてくれないか。」

「もう。忙しすぎだよ!シンカ、体調崩しちゃうよ!」

頬を膨らます。

「ミンク。」

シンカは眉をよせて、恐い顔をする。

「そんな顔したって、平気だもん。シンカももっと自由にしたらいいのに!わたしね、大学行くようになって、自分が今まですごく自由じゃなかったことに気付いたの。いつどこにいてもよくて、何していてもいいの。そんなの、リュードではあたりまえだったけど、ここに来てからずっと、我慢してたの。私一人自由になっちゃって、シンカが可哀相なんだもん!シンカももっと、自由な時間を作るべきだよ!」

シンカは、視線をそらした。

(ミンクはやっぱり、窮屈な思いをしていたんだな。)

改めて、すまない気持ちになる。彼女は知らなかったが、俺が皇帝に即位したとき、ミンクをここではなく、友人のセイ・リンの家に預けるという案もあった。そのほうが、彼女によいのではと。それを、俺が、反対した。そばに、いて欲しかった。


シンカは、手元のコンピューターのスクリーンに視線を落とす。その金色の長いまつげが、ミンクはうらやましい。真剣に話しているのに、こちらをちゃんと見てくれない。そんなことにも苛立つ。

少女はその苛立ちの原因が、自分の体調不良にあることに気付かない。内臓の弱いミンクは、無理をすると熱が出る。微熱くらいでは自覚はないが、むずかる子供のように苛立つのだ。

「ミンク、俺は好きでやってるんだ。あんまり邪魔すると、本気で怒るぞ。」

「知らない!」

ミンクは怒って、執務室から飛び出していく。

青年は小さくため息をつく。ここに、いること自体が、彼女の負担になっているのか・・・。俺の姿を見ていると、心配になるんだろう。政府の職員にも気を使う。

セイ・リンに預けるべきか・・・。

一つ首を振って、青年は考えたくないことを隅に追いやった。

時間がない。



ナンドゥ、通称仏心街。

暗く、寂れた街は、人通りも少ない。

シンカは、乗ってきたバイクを地下に停めた。


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