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2.地下街


大学の構内には色とりどりの紅葉が降り注ぐ。構内のいたるところに植えられている大きなポプラからは大きな葉が、ニレの木からは小さな黄色い丸い葉が散る。校舎の白い大理石の建物と紅く色づいた木々の美しい景色を見上げながら、少女は朝の空気を吸い込む。

今日もミンクは一時間も鏡の前でファッションショーを繰り広げた結果、判断してくれるシンカが視察で出かけているので、不安ながらも紹介されたスタイリストに選ばれた服を着ている。

このルール・ス・ウェッス大学は太陽帝国の特権階級の、いわゆるセレブリティが通う。ミンクの安全を考えればそうならざるをえない。大学側も皇帝自らの頼みを快く引き受けてくれた。密かに静かに、この特別な少女を見守っている。

そんな暖かい手に包まれていることも気付かずに、少女は大きく伸びをする。


「おはよう!」


アレクトラだ。

ブルネットの髪を美しく巻き、細身で背の高い彼女は、ミンクにとってはちょっとうらやましい容姿をしていた。小柄で背の低いミンクは昔から背の高い女性に憧れを持っている。


「おはよう!」

「ミンク、その服。」


え?可笑しかったかな、と自分を眺め、それからミンクはアレクトラを見上げた。


「今年の秋のコレクションで見たわ!ファン・ジ・ニートの新作ワンピじゃない!」

「ええと。そうなの?人に選んでもらったから、よく分からないんだけど。」

「やっぱり素敵ねー。」


ミンクの体格に合わせて選ばれる服は、たいていこのブランドらしい。自分で服を買いにいけないミンクにとっては他の少女が見につけているような服も着てみたいと思っているのだが。

「あたしチビだから、これしか似合わないって言われたの。」

「そんなことないわよ!だってこれ、お直ししてもらってるんでしょ。すごいな!いいな。私のうちはそこまで余裕ないからなぁ。」

「アレクトラのほうがとってもきれいよ。」

無邪気に笑う、銀色の髪の少女を見つめながら、アレクトラは思う。


(こんな、高価な服をここまでお直しするって、ほとんどオーダーメイドよね。ファン・ジ・ニートのオーダーメイドって言ったらパパのお給料の一か月分はかかっちゃうのに。ミンクはおんなじ政府ビルにお父さまがお勤めしていると言ってたけど、大臣クラスとかなのかな?いいなあ。私もお金持ちに生まれたかった。)


自分自身も十分恵まれているということに、気付いていない。


「あ!見て、皇帝陛下よ!」

「え?」


ミンクは意味もなく慌てた。周囲を見回し、「あれよ、あれ!」と笑われて初めてアレクトラの指差すほうを見る。カフェテラスの店頭のスクリーンに朝のニュースが放映されていた。

今日は視察だと言っていた。

取材もあったんだな。


「すてきねぇ!」

既に、学生が集まって眺めている。ほとんどが女性だ。

「ふうん。」

ミンクはどういう表情をしていいか分からない。照れるような、恥ずかしいような。

スクリーンのシンカが、記者の質問に微笑む。

「キャー。」

「かわいいのよね。あの笑顔が。」

少女たちにどよめきが広がる。


かわいい?シンカが?

……私そんなこと考えたこともなかったな。


ミンクはボーっといつものシンカではないような彼を見つめる。さすがに部屋であくびしてたりする姿とは違う。きっちり正装しているので少し大人びて見えるな。


「ミンク?顔赤いわよ。」

アレクトラのブルーの瞳が笑う。


「え、そうかな?」

「ミンクもファンなの?」

「えっと、大好きなの。」

少女の表現に噴出すアレクトラ。

「ミンク、かわいい!あのね、お父様がね、この間、庁舎内でお会いしたんだって!」

「えー、いいなあ!」

アレクトラの言葉に周りの少女が振り向く。

「あ、もう、終わっちゃった。」


ニュースが新しい惑星の環境説明などになると少女たちの興味も移っていく。


「ミンクのお父様って、どの課にいらっしゃるの?」

アレクトラはミンクを見つめるとき、どうしても見下ろす感じになる。そのしぐさが少し流し目みたいで綺麗だとミンクは思う。


「えと、よく分からないんだけど、軍務官の部下なの。」

「本当?」

「うん。」


それは友人シキのことだ。早くこの話題から開放されたい。

小さくため息をつく。シンカにちょうどいい仮の家族を設定してもらおう。私じゃ、政府の組織はよく分からないし。


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